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杉田荘治
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はじめに
平成7年(1995年)2月頃、インターネットを利用して体罰問題をもう少し調べてみようと考
えた。 というのは今までも体罰問題の英文記事を少しは読んでいたが、最近普及し始め
たインターネットを利用して英文の資料を集めてみようと考えたからである。
そしてできるだけ体罰問題を客観的に眺めてみることにした。
そこでいろいろ、やっているうちにALTA VISTAが多く持っていることがわかった。 勿論、
YAHOOやCSJ,Japan SearchEngineも持っているが、こと体罰に関してはALTA
VISTAが豊富なように思われた。
とにかく流れている資料はすべて英語、眼はチカチカするし疲れる。勿論、画面は止める
ことはできるし印刷もできるが、関係の箇所を探さなければならない。 しかしとに角始めた。
1995年2月15日、corporal punishment + school と入力したら、約4000件ありと出てきた
のでビックリ。 school を抜いてみたら、5000件とあったので又ビックリ。それが3月6日に開い
てみたら約6000件、翌7日には、schoolを入れたら約7000件、これを抜いてみたら約6000件
と書かれてあった。 同じ方法でやってみたところ、3月29日には少し減っていた。 このように
その数は時々刻々、変化しているのには驚いたが、実際に画面に流れているのは約200
件ぐ
らいであるから検索するのにそれど心配しなくてもよい。それでは内容を見てみよう。
corporal punishment と検索したのであるから、教員による体罰ケ- スが出てくるであろうと
期待していたが全く違う。 どこか暗いバ−かキャバレ−の一室での"遊び感覚"としての鞭打
ちゲ−ムも含まれている。 なるほど、考えてみれば、それも確かに鞭で打つのであるから体
罰になるのであろう。囚人に対するもの、議会の法案、意見書等、教育委員会の規則、学校の
ハンドブックその他、雑多である。
次に、そのいくつかを紹介するが教育委員会の規則が多く、しかもその全文が載っている。
体罰についての検索であるから、なにも全文まで必要ではないのであるが事実はそうで、その
点、不便である。 しかし、これとても体罰以外の例えば、停学、退学などに関する規定や、い
や服装規定、財政、奨学金、入学案内その他すべてのものが含まれているのであるから、そ
れらのものを調べようとするときは極めて便利であるといえよう。 これを使って教育委員会
規則や規定の比較研究をされることもよいであろう。。
実は私は、体罰判例を、しかも最近のものを見たかったのであるが期待はづれであった。
それはやはり、Journal of Law & Education,Jefferson Law Book
Company などの文献から
検索するという正統的、古典的方法しかないのであろうか。
それとも体罰判例そのものが少なくなっているのであろうか。人権尊重の意識が深まってき
たためであろうか? あるいはO.J.シンプソンの事件に象徴されるように人種差別、性差別問
題に波及することを恐れるあまり、教員が生徒の躾けから逃避しようとする雰囲気からきてい
るのであろうか? 私がインタ−ネット上で体罰判例を見出そうとしたのも、そのためであるが、
どうもよくわからない。
それでは各ケ−スの順序はどうなっているか。
いちど見つけたケースの順序は、いつ開いてみても違っていて不便である。どうもそのわけは、
アクセスする数によって順位が上がったり下がったりするためで、テレビ番組の視聴率や人気
商品の順位と同様なのであろう。 したがって通し番号も付いていないので不便なのである。こ
れも、誰かによってコントロ−ルされることを嫌い、利用者ひとりひとりの自然な動きに任せよう
とするインタ−ネットがもつ性格から来ているのであろうが、とにかく検索する者にとっては不便
である。
このようにして、とにかく調べていくと、各ケ−スのoutline が書かれているので、教員による体
罰に関係のありそうなものを選び出し、それを逐次、開いて見ていく。 前に述べたように教育委
員会規則・規定が非常に多いし、また参考にもなるので、まずこれについて見よう。
○ Virginia州規程のなかの体罰関係規定 1995年 22.1-279.1
一般的には体罰禁止である。しかし、次の場合は認められる。すなわち、
・ 秩序を維持するための正当な理由があって、ちょっとした体罰を行う場合。
・ 他人や器物を傷つけようとしている生徒を排除したり、その混乱を静めるための正当な
理由がある場合
・ 自分などへの、正当防衛の場合。
・ 武器や危険物、ヘロイン袋などの制御物質を持ち歩くことを抑える場合。
因みに原文は;
No teacher,principal----shall subject a student to corporal punishment.
This
- prohibition of corporal punishment shall not be deemed to prevent (1)the
use
- of incidental, minor or reasonable physical contact or other actions designed
to
- maintain order and control; (2) the use of reasonableand necessary force
to quell
- a disturbance or remove a student from the scene of a disturbance which
- threatens physical injury to persons or damage to property; (3) the use
of
- reasonable and necessary force to prevent a student from inflicting physical
harm
- on himself; (4) tbe use of reasonable and necesssry force for self-defense
or the
- defense of others; or (5) the use of reasonable and necessary force to
obtain
- possession of weapons of other dangerous objects or controlled substances
or
- parapherna-lia ----.
- ○ Pennsylvania州教育委員会規則にも同様な規定がある。
すなわち体罰は、
- 教師や教育担当官によって行われるべきこと。
- 教委のガイドラインに沿って行われるべきこと。
因みに原文は;12.5a
Corporal punishment ---may be administered by teachers and school official-s to
- discipline students when authorized by, and in accordance with policies
and
- guidelines eatablished by, the board of school directors.
更に"親がわり論"が述べられているのが特徴的である。すなわち、
教員、校長、副校長は生徒が学校にいる間(通学途上は含めて)、親や保護者になりか
- わって生徒の行為に対して、親と同様の権利がある。
すなわち、原文は;Section 1317.
Every teacher, vice principal and principal in the public shools shall have the right
- to exercise the same authority as to conduct and behavior over the pupils
attending
- his school, during the time they are in attendance, including the time
required in
- going to and from their homes, as the parents, guardians or persons in parental
- relation to such pupils may exercise over them.
この親がわり論は『現代のエスプリ 302』至文堂 P.144に紹介されている杉田の論文
- 「親の代行と教師の体罰」のとおり、親の教育権の委託を受けて教育が行われるのであ
- るから、懲戒権も委託されたとすることが条理であり、両者を同質的と考えたほうが自然
- である。 しかし同時に、血のつながりのない教員については制度的、合理的な制限条
- 項を厳密に検討すべきであると考える。 "熱血教師"は、この点を誤解している。
○ North Carolina州の規程も同様である。
公立学校人事管理規程 8章生徒との関係のなかに、"過度でない体罰は考慮されてもよ
- い"と書かれている。
原文は;
The local board may consider expansion of requirements to ensure that any
exercise
- of corporal punishment will not be excessive.
○ California州のある教育区の規則........ その後、改正されたと思われるので考慮しない
- ほうがよいが,次のような規程があった。 すなわち体罰は;
- 他の懲戒手段をとった後の最後の手段として、許される。
- 正当な理由があり、人道的であること。
- 頭を打ってはならない。
- デリケ−トな生徒や神経質な生徒に行ってはならない。
- 3年生以下の子供には、許されない。
- 立会人を置くことが必要である。
原文は;79.RSN1970 c346 s84
Teachers are permitted to administer corporl punishment in reason and with
- humanity, but they shall refrain from the use of it, until other means
of discipline
- have been tried, and strinking children on the head is forbidden, and corporal
- punishment shall not be administered to delicate or nervous children.
Teacher shall not administer corporal punishment to a pupil unless a
3rd person,
- not being a pupil, is present to witness the punishment.
以上のようにこ幾つか教育委員会などの規則を紹介したが、それによって体罰行使の
- の要件や留意点を知ることができよう。
また 面白いことには上院議員の議案さえ流れている(流しているとさえ言えよう)。
- 例えばEdward Houck上院議員の議案
- 秩序維持のため、または暴力行為をとめるためには、少しの痛みを伴う体罰は許される。
- 教師や教委の職員は、修正条文に沿っておれば、ちょっとした身体的接触や有形力を
- 行使したことで責任を問われることはない。
原文は; SB 942 Corporal punishment.
Corporal punishment ----allowed action to maintain order and preventviolence.
Teachers and other school and school board employees are absolved from
civil
- liability relating to incidental, minor or reasonable physical contact
or other actions
- or the use of reasonable necessary force while acting in compliance with the
- provisions of the amended section.
次に、1961年に結成されたロンドンに本部のある、囚人の人権擁護を目的とする国際民
- 間団体のAmnesty International のものを紹介しよう。
○ Amnesty International の勧告
イギリス連邦内のトリダンド ドバコで、11歳の少年がコカインを持っていたために、激し
- く20回も鞭打たれ、しかも外部との接触を許されなかったケ−スについて、人権を犯して
- いるとし、裁判所の判決や刑務所内での体罰をやめるように勧告したものである。
原文は;
AMNESTY INTERNATIONAL CONDEMS CORPORAL PUNISHMENT OF 11-YEAR-OLD
- BOY
Amnesty International has expressed its grave concern to the government
of Trindad
- and Tobago about the case of and 11-year-old boy who was sentenced immediately
- carried out and the magistrate further ordered for the boy to be confined
until 30
- April and that he should receive no visitors.
The human right organization called on the government to introduce legistlation
to
- end the use of corporal punishment, both as a sentence of a court of justice and
- as a punishment for disciplinary offences in prison.
次に、インタ−ネット上では数の少ない判例を見てみよう。開いてみたところ、次の一例しか
- 載っていなかった。もっとも詳しく調べたわけではないので、その点あまり自信がないが、とに
- かく少ないことは事実である。 しかも公式判例集から取るように全文までは期待できないが、
- 要約としては、まず十分であろう。
○ Pennsylvania州の教員体罰解雇事例 1980.1.30 判決
- 原告はある教員。彼はひどい体罰を行ったために解雇されたので、教育委員会を相手
- どって起こした訴訟である。 事件の概要
- バレ−ボ−ルのゲ−ムの後、生徒達がロッカル−ムで騒いでいたらしい。両者の
- 言い分は多少違うが、いずれにせよ余り重要視されない点も参考になる。
- そのロッカル−ムで、教員は11歳の少年の襟をつかみ、胸を4−5回叩いた。そ
- れから生徒を壁に押しつけて眼を2回打った。さらに鼻をつかんだので、メガネが
- 飛び、生徒は床に倒れ頭と膝を打った。その少年以外にも数名、パドルで叩かれ
- た。校長はその教員に対して、前から、いかなる生徒に対しても、いかなる理由
- があろうとも体罰を行ってはならないと明示していた。
- 判決
- その体罰は暴行である。
- 服務規程に何回も違反している。
- 校長や教育長の何回にもわたる注意にも従わなかった。
以上のとおり、彼の行為は残酷で度重なる規則違反である。従ってその解雇処分は相当である。
なお原文は、
Benjamin BLASCOVICH, Petitioner, v. BOARD OF SCHOOL DIRECTORS OF SHAMOKIN
- AREA SCHOOL DISTRICT, Respondent.
Commonwealth Court of Pennsylvania. Decided Jan.30, 1980.
After a hearing, the board had found and concluded that: "3. By his
conduct in (a)
- assaulting seventh grade students on December 2, 1977; (b) continually
violating school
- regulations concerning school discipline,corporal punishment and professinal relationships
- with administrators and parents; and (c) disobeying numerous oral dirctions
and explicit
- writteninstructions from his principal and superintendent prohibiting
him from
- administering corporal punishment of any kind.Blascovich is guilty of cruelty,
persistent negligence
- and persistent and willful violation of school laws, rules, regulations and policy.
-----------
Paul, an elven year old seventh grade student, testified that, after gymclass,
in the
- locker room, petitioner grabbed him by the collar, punchedhim in the chest
four of
- five times, pushed him against the wall, twice punched him in the eye, nipping him
- in the nose and knocking his glassesoff. As a result of a final blow, he
fell to the
- floor striking his head and knees. Paul also was one of the students who
was paddled
- bypetitioner. ------ORDER dismissing petitioner's appeal is affirmed.
**補足**
確かに権威あるとされる教育法季刊誌"Journal of Law & Education",Jefferson Law
- Book Company に紹介されている体罰判例も少なくなっている。 例えば、1980 年頃以前
- には、どの号にも4-5 件は載っていたが、それが1994年度にはないし、1995年春、夏号と
- もに、やはりなかった。かわりに学校での事故の補償、それも生徒どうしの喧嘩によるもの、
- 他の生徒から性的暴力を受けたもの、通学バスの事故、ソフトボ−ル試合中の事故による
- ものなどの補償を巡って争われる訴訟が多い。
PL法に象徴されるように事故は怖い。躾けとしての体罰であったとしても、その証明が大
- 変だ。人権尊重の観念が浸透してしてきているだけではなく、触らぬ神に祟り無し、の一面
- も否定できまい。
- Alta Vista以外からの体罰検索
3月29日、世界最大の情報量を持つといわれるYAHOO を開いて、同じくCorporalPunishment+
- schoolと入力したら、それ以前には出てきていたのに"該当事項なし"と出てきたので驚いた。
- そしてLycos その他を紹介していたので、試みに、それらを開いて見た。Lycos のなかには、
- Middle School の懲戒ガイドラインがあり、居残り、退学、停学などとともに、体罰は禁止で、
- それに代わって清掃を課すと書かれていた。
その他 Web Crawlerには25件、Inktomi には20件、DejaNewsには25件でていたが、内容的
- には余り見るべきものがないように思われた。もっとも一瞥しただけなのであまり自信がない。
これらとは別に、昨年末、Net Searchを開いて見たら、二人の男の子の父親の意見として、
- 手紙形式で"体罰は親の承諾と最後の手段であれば"認める旨、書かれいた。 その他、古い
- 記録ではあるが、イギリスのある女学校で、1914-1918 年に少なくとも118 人の少女がケ−
- ンで打たれ、その記録が正確に残されている、と書かれている。 その他、親の承諾を条件に
- するものが多いし、また体罰行使のさいの手続きを重視している。
以上、いろいろ述べたが、皆さんもインタ−ネットを利用して体罰問題を検討されるとよい。
これは、いじめ・bullyingについても同様である。しかし、私が少し、開いて見たところ余り参
考にはならなかった。もっとも一瞥した程度なので余り自信はない。
"Spare the rod and spoil the child."なる諺は、今でも真理なのであろうか、それとも子供の
人権の前では死語になったのであろうか。どうも妥当な方法があるように思えてならない。
1995年(平成7年).6月記 無断転載禁止
追記(2005年12月末)
1. 最近のアメリカの体罰統計については第129編を参照してください。 その一部は次のとおり
である。
○ 連邦統計局の統計によれば、体罰は1970年代から大きく減少してきている。 それはこ
の頃から違法とされる州や地教委が増え始めたからであるが、しかし依然として、その数
はかなり多い。2000年度には全米で342,038名の公立学校生徒がパドルで打たれている。
もっとも1976年には150万人であったので減ってきている。
【註】この項の原資料はWashington Post 2004年2月21日号である。
○ 2000年度ではMississippi州が最も多く、毎年約10%の生徒が叩かれている。 次いで
Arkansas(9.1%)、 Alabama(5.4%)、 Tennessee(4.2%)
である。
○ 少数派民族や親一人や貧困の家庭の子供の率が高い。 例えば黒人については人口比で、
他の人種の約2倍といわれる。
2. なお、体罰問題については次ぎも参照してください。
第24編 体罰問題 その一 、第25編、第26編.
3. またアメリカ連邦最高裁『イングラハム』判決については第26-1編、英文については、第26-2編
4. さらに最近のアメリカの体罰事例については第124編を参照してください。
追記2 (2006年1月末) なお、この判例の取り方と読み方については第177編を見てください。