175. 最近の統計にみる日米の教育比較


 杉田荘治


はじめに
   今年もこの11月にN国立大學で『わが国の教育のあり方ーアメリカと比較して(第2回)』

   について特別講義をした。 ここでは、そのうち教員給料の比較、男女教員の割合、地方予算
   における国または連邦の貢献度、そして私立学校生徒の割合と成績などについて、主として統
   計を中心にして述べることにする。

T アメリカの教員給料

   その平均年額給料は約559万円である。
   AFTが発表している2004年度の全米平均年額は46,597ドルであるが、1ドル=120円に
   換算すると、これは約559万円となる。 万円未満切捨て、以下同じ。

   しかし、州別平均をみると、次のようにその差は大きい

 上位3州   年額万円   年額ドル   下位3州      年額万円    年額ドル  
 Connecticut     678   56,516  South Dakota    398   33,236
 California     677   56,444  Oklahama    420   35,061
 New York     662   55,181  North Dakota    424   35,411

 【資料: AFT News Release 2004 Salary Survey State-by-State, Table 11-1
      Average Teacher Salary State Ranking】


 【註】 このように州別ランキングも見ることができるが、しかもConnecticutでも富裕な教育区
     はもっと多額であろうし、一方South Dakotaの貧しい教育区では、さらに低額であろうか
     ら、全米的にみれば、その差は非常に大きいことになる。
     

参考
   平均年額給料については連邦教育省統計センター:NCESの発表によれば、2002-03年度
   は全米平均 45,822ドル、すなわち約549万円である。

   その上位3州は、California 675万円(56,283ドル)、 Connecticut 652万円(54,362ドル)、
   Michigan 648万円(54,071ドル)であり、また下位3州はSouth Dakota 388万円(32,416ドル)

   North Dakota 398万円(33,210ドル)、 Okalahama 418万円(34,854ドル)であった。
   【資料: The Nation Report Card, expenditure teacher-ratio で州別一覧】


   またNEA発表(2003年度)については第161編を参照してください。 このようにAFT、NCES、
   NEAのいずれを見ても年度の違いはあるものの大差はない。 アメリカの教員給料について
   の公開性については評価すべきであろう。 なおAFT、NEAについては第51編を参照してくだ
   さい。


U わが国の教員給料

   年額は約662万円である。
   わが国では一般に公表されたものはない。 しかし朝日新聞 2005年(平成17)10月21日朝刊
   によれば、経済財政制度関係諮問会議が出処のようであるが、公立学校教員の平均月額は
   39万6712円
である。
   ところで、わが国では毎月の給料の他に、休職者、懲戒処分を受けた教員など、ごく僅かの者
   を除いて、ほぼ全員に約4.7月分のボーナス(期末手当、勤勉手当)が支給されるので、これも
   年額給料に加える必要があろう。     39万6712円 × 16.7月分 = 約 662万円

   従ってこれを前述Tのアメリカのそれと比較すると、第3位のNew York州ぐらいに相当する
   しかも、わが国では、それがほぼ全国一律に支給されるのである。
   何故ならば、国は小・中・幼稚園教諭等については俸給表(V)を定めているが、都道府県も
   これに準じて、その俸給表を制定している。 従って同一学歴、同一年齢、同一勤務年数の場
   合は同じような額になる。 学歴が違ったり、民間歴があったりする者については、その期間の
   換算率が100%や70%などと多少違ってくるが、いずれにせよ大差はなかろう。

  教職調整額
   わが国教員には月額 4%の教職調整額が支給されている。 これはその勤務の特殊性から超
   過勤務手当が支給されないので、それに相当すると考えることが妥当であろうが、しかし全員に
   支給され、また諸計算の上で「給料とみなす」とのことであるから、そのように考えられないことも
   ない。 前述の朝日新聞記載の39万6,712円には、この4%分は含まれていないように思われるか゛、
   そうだとすれば、教員の実質手取り金額は年間で増えることになる。

         別の資料から算出してみよう

   前述したように小・中・幼稚園教員(校長、教頭等を含む)の俸給表は下記の表のとおりである。
   2002年人事院勧告 http://www.tokyouso.jp/news/2002/020811.htmを利用する。

   

    教諭の分は2級 その初任給(勧告)は、16万3,700円である。
   ○ 公立学校教員の平均年齢は、44才である。

     【註】 文部科学省統計 平成16年度中間報告、小学校 44.1才、 中学校 43.0才、
                                   高校  44.6才
   
   ○ 教職経験年数は22年とすれば、22号俸のアップとなり、その額は39万100円(24号勧告)

      となる。 前歴のある者、校長、教頭分、また高校教員はこれより少し高いので、それらを
     加味、加算すると朝日新聞の報じる39万6,712円とほぼ同額となる。


  【コメント】 これを高いとみるかどうかは難しい問題であるが、例えば今年11月14日の経済
        財政諮問会議では「総人件費改革基本指針」のなかで、(4)教職員の給与について
        「義務教育職員の人材確保の観点からの給与の優位性を定めた人材確保法について、
        廃止も含めた見直しを検討する」としている。

        一方、アメリカでは次の項で述べるように、男子教員の極端な不足、教員の資質の
        悪さなどに苦しむことにもなっている。


U 男子教員の比率

   アメリカでは男子教員が極端に不足している。 公立学校教員5人のうち、男子教員は1人しか
   いない。  【資料】Christian Science Monitor (3/15/2005)号
第161編

   NCES: 連邦教育省統計センター 2004年度発表のデータ-によっても男子は21%、女子は79%
   となっている。 【資料】NCES Digest of Education Statistics, 2004 Table 69

   NEA発表についても第161編を見てください。
 【コメント】アメリカでは低い給料、低い社会的地位、また男子教員にとって生徒指導の難しさ、
       子供の教育は女子の仕事であるとする既成概念等のためである。 このことは前に
       も述べたように「教職は他の職業と較べても極めて魅力の薄く、成績の悪い者が多い」
       とされることにもなる。
       その点、わが国の場合は次に述べるように、まず健全な男女別教員構成といえよう。

  わが国の公立学校男子教員    文部科学省 平成16年度学校教員統計中間報告

 種別  男子教員 %   小学校全体の教員数   内、男子教員数 
 小学校    38.0       383,466    146,198
 中学校    60.0       222,334    133,424
 高校    73.3       181,965    133,547

V わが国国庫補助金の地方教育予算に占める割合

   わが国で国庫補助金の地方教育予算に占める割合は、次のとおり18.0%にもなり、
   アメリカのそれ(後述)と較べて大きい。

    項目          その割合 %     金額      
 国庫補助金       18.0   3兆 533億円
 都道府県支出金     47.7   8兆 829億円
 市町村支出金    34.2   5兆7,987億円
   計   100  16兆9,349億円

 【資料】 文部科学省 各種統計情報 - 地方教育費調査  平成15年度

   しかも、これの小学校、中学校を取り上げてみると次のようにどちらも29%にもなる。
   またその中身は圧倒的に人件費(給料)である。 このことは次に述べるアメリカの場合
   と大きく異なる。

    項目           小学校     その割合%    中学校     その割合% 
  国庫補助金  1兆7,914億円     29    9,970億円    29
  都道府県支出金    2兆5,879億円    41  1兆4,374億円    41
  市町村支出金  1兆9,025億円    30  1兆 413億円    30
      計  6兆2,818億円   100  3兆4,757億円   100

   【参考】 全日制高校への国庫補助金 178億円、 同定時制へは11億円である。

W アメリカの連邦の教育予算の割合

   公立小・中等学校 2001-02年度 【資料: NCES, Digest of Education Statictics, 2004】

   次の表のとおり、その割合は7.9%に過ぎない。 それでも少しつづ増えてはきているが
   教員給料への直接的な支出はない。

     項目       その割合%     金額     
 連邦からの支出金      7.9    331億ドル
 州からの支出金   49.2   2,061億ドル
 地方の支出金   42.9   1,798億ドル
     計  100,0   4,190億ドル

   【註】連邦教育費については第156編を参照してください。 なお参考までに教育関係分
     としては教育省以外のものとして、例えば下記のようなものがある。
    ○ 農業省関係分 Cild,nurition program, Special milk program, Forest service
    ○ 商業省関係分 Local public work program
    ○ 防衛省関係分 Junior R.O.T.C, 海外dependents schools, Domestic schools
    ○ その他 Head Start, Social Security student benefits 等


X 私立学校(小・中等)

  1. アメリカ   私立の生徒数と%
   アメリカでは、私立学校(小学校・中等学校)の生徒は全体の11.5%である。
    2005年秋現在  ○ 公立生徒数..... 4,830万4.000名
               ○  私立生徒数......  631万1000名 
                    計      5,461万5,000名  内私立 11.5%
    【資料: NCES, Digest of Education Statistics Tables and Fugures, Table 2】


  2. アメリカ  私学の生徒の成績
    公立と較べるとかなり良い。 例えば次の表を見てください。

    全米統一テストの報告書 NATION'S REPORT CARD-Nonpublic Schools and the
                    Nation's Report Card. Mathematics, Average mathematics
                    scale scores, by type of schools, grade 4 and 8,
                    1990-2003

   
   

  ○ 表でご覧のように、数学 8年生の2003年度の成績は、公立(Public)は276点であるが、
    私立全体(Nonpublic)では292点である。  500点満点   
  ○ 私立のなかではカトリック(Catholic)の289点よりは、それ以外の私立は294点と、少し
    高いことがわかる。今後、その得点分布を調べれば、さらに精査されよう。
  ○ 4年生についても同様に私立のほうが高い。
  【註】その他NEAPについては第169編も参照してください。 そこには公立、私立の区別なく
     アメリカ全体の状況について、2004年4月に実施された結果を記載した。

   次に私立学校の生徒の成績をSAT、すなわち大学入試適性テストのスコアから検討して
   みると、次の表のように、やはり高いことがわかる。


   SAT Test Scores 2005年度 【資料: The Council for American Private Education】

    種別       読解力・理解力(Verbal)      数学   
 全米で      508点   520点
 内、公立生徒       505点   515点
 内、宗教系私立生徒       539点   534点
 内、非宗教系私立生徒       553点   577点

 【註】 なおSATについては第152編第172編を参照してください。
    SATTテストとはアメリカ大學委員会が実施するテストであるが正式にはStanford
    Assessment Test
Tのことである。正確にはSAT Reasoning Testと呼ばれる。 
    すなわち、
Verbal(ことばの、語の)という分野と数学についての基礎的な表現力、理解力、
    論理的思考力を問うテストである。 
Verbalについては英語、アメリカにあっては国語と
    訳されているが、内容的には人文科学、社会学、自然科学、人間関係学なども含めて広範
    で基礎的なものである。
大学は、これを受けてくることを義務づけている。


  3. わが国の私立学校(小・中・高)
    わが国では私立生徒の割合は、小学校では1%弱であるが、中学校では6.7%、高校
    では30%弱もある。
   

      文部科学省 統計速報 平成17年度  生徒数

 小学校    私立生徒数   7万 950名   その割合  0.99%  全国生徒数 719万7,460名 
 中学校    私立生徒数  24万2,506名  その割合  6.7%  全国生徒数 362万6,416名
 高校   私立生徒数 106万8,921名  その割合 29.6%  全国生徒数 360万5,243名

  【コメント】 アメリカと比較しても、わが国の私立学校の占める割合は意外に大きいのではないか。
       しかも近年、少しつづ増えてきている。 例えば平成14年5月1日現在では小学校 0.9%
       中学校 6.0%、 高校 29.6%であった。

      なお、生徒の成績については、アメリカのようにいずれ全国統一テストが公立・私立とも
      に実施されれば、明かになるであろう。

コメント
   最近、論議が高まっている教員給料の在り方や地方教育費に対する国の貢献度などについて、
   アメリカのそれらと比較しながら論考した。 データ-の根拠も示したので関係者には、それなりに
   役立とう。 また、アメリカの私学の生徒の成績も記したので、これも参考になろう。 今後、より
   一層効果的な教育論議が進められることを期待したい。

 2005. 11. 28記          無断転載禁止