杉田荘治
はじめに
昨年、実施されたアメリカの数学と読解力(リーディング)の統一テストの結果が最近
(2005年6月)発表された。 小学生は向上しているが、高校生は停滞気味である。
ところで、その統一テストはNAEP(National Assessment of Education Progress)と
呼ばれ、またその報告書を全米レポートカード(The Nation's Report Card)というが、
これについてWashington PostやEDUCATION WEEKなどが報じている。 ここでは
先ず、その原典である連邦教育省統計センターの資料からデータ-を中心にして述べ、
その後、前記各紙の論説その他を付記することにする。
T 全米レポートカードから
・ 2004年実施 ・ 数学とリーディング(読解力) ・ 9才児(小学生) 13才児(中学生) 17才児(高校生) それぞれ数学、読解力ともに11,000名(公立・私立)抽出 して実施。 【註】 読解力は1971年から実施され、数学は1973年 から、数年毎に行なわれている。 なお巻末で 補足説明する。 |
U 数学の成績
解説 ○ 500点満点 ○ 右端が2004年実施の平均点であるが、ご覧のとおり、9才児は241点である。 これは前回(1999年実施)の232点より、9点上がっている。 また1973年や1978 年と比べても非常に上昇してきている。 関係者はこのことを非常に喜んでいる。 ○ 13才児についても上昇傾向にあり、関係者はこれを評価している。 ○ しかし17才児(高校生)は前回より1点下がっているし、全体としての傾向も停滞 気味である。 従って高校生の学力を向上させることが今後の課題とされている。 このことについては別途、後述する。 |
V 読解力の成績
解説 ○ 500点満点 ○ 右端が2004年実施の平均点であるが、9才児は219点である。 これは前回の 212点より、7点上がっている。 また1971年以降、全体としては上昇傾向にある。 ○ 13才児は殆んど平行状態である。 ○ しかし17才児(高校生)は285点で、前回より下がっているし、全体としても下降 傾向にある。 従って、数学と同様に問題視されている。 この点についても後述 する。 |
W 人種/民族間の学力差
数学、読解力ともに白人生徒と黒人、またヒスパニックとの学力差は表グラフで示されてい
るが、ここでは省略する。 その要点だけ下記するが、いずれもその差は縮まってきている。
1. 数学 白人と黒人: White-Black Gap
○ 9才児平均点 白人(247点) 黒人(224点) その差は23点
その差は1978年以降、少しではあるが縮まる傾向にある。
○ 13才児平均点 白人(288点) 黒人(262点) その差は26点
これも少し縮まる傾向にある。
○ 17才児平均点 白人(313点) 黒人(285点) その差は28点
これも少しづつ縮まってきいてる。
2. 数学 白人とヒスパニック : White-Hispanic Gap
○ 9才児平均点 白人(247点) ヒスバニック(230点) その差は17点
またこれは1973年以降、縮まってきている。しかも、成績は
ともに上昇してきている。
○ 13才児平均点 白人(288点) ヒスバニック(265点) その差は23点
しかし、その差はここ20年以上、縮まっていない。
○ 17才児平均点 白人(313点) ヒスパニック(289点) その差は24点
その傾向も余り変化はないし、成績そのものも停滞気味である。
3. 読解力 白人と黒人: White-Black Gap
○ 9才児平均点 白人(247点) 黒人(224点) その差は23点
そしてこれは1973年以降、縮まる傾向にある。
○ 13才児平均点 白人(288点) 黒人(262点) その差は26点
これも縮まる傾向にある。
○ 17才児平均点 白人(313点) 黒人(285点) その差は28点
これまた、1973年以降、縮まる傾向にある。
4. 読解力 白人とヒスパニック : White-Hispanic Gap
○ 9才児平均点 白人(247点) ヒスパニック(230点) その差は17点
これは今までのうちで最小である。
○ 13才児平均点 白人(288点) ヒスパニック(265点) その差は23点
これも少しづつ縮まってきている。
○ 17才児平均点 白人(313点) ヒスパニック(289点) その差は24点
これもまた、少しづつ縮まる傾向にある。
X Washington Post(6/15/2005)号から
9才児は数学、読解力ともに向上している。 最近の5ヶ年をとってみても同じである。
しかも、黒人、ヒスパニックの成績が向上してきているので、白人との学力差が縮まって
きている。
13才児は“まずまずの向上”であるが、17才児は向上していない。 長い間、同じような
レベルに停滞している。 これはアメリカの高校教育が弱いためであると、多くの人が考
えている。 大きな今後の課題である。
9才児が向上した理由
Spelling 連邦教育相は「1999年以降、われわれが努力してきた成果である」、「特に学
力差が縮まってきたのは新教育改革法:NCLBに負うところが大きい」と誇っている。
マスコミとのインタービュウでも、このことを強調して「私は母親でもあるので、子供が小さ
い時には、おむつを当て、病気の時は薬も処方するなど、いつも注意して育てているので、
教育については、よく知っているつもりです」と応えている。
しかし多くの評論家たちは「この成果は2003年度から実施された新教育改革法によるので
はなく、それよりも以前からアメリカ全体が努力してきたことによるものである」と分析してい
る。
【註】 EDUCATION WEEK(6/14/2005)号も、この統一テストの結果を報じているが、内容
的にはWashington Postと、ほぼ同じである。
高校教育の重視を!
このことについては、既に第159編や第158編で述べたので、それを参照してほしいが、そ
こでは次ぎのようなことを述べている。 すなわち、
アメリカの州知事が最近(2005年2月)26日と27日、首都ワシントンに集まって教育サミット
を開いた。またBill Gate財団など6財団が高校教育改善のために資金を提供することを
表明するなど積極的にこれに参与している。 さらに2006年度の教育予算総額は560億ドル
である。 これは2005年度より1%の減となる。しかしそのなかにあって新教育改革は高校
教育に振り向ける、などである。
しかし今回、高校教育の弱点が一段と明かになったので、連邦教育相もマスコミとのインター
ビュウでも、その改革を強調しているし、州知事もこの7月に再び会合して互いに連携し合い、
それぞれの参考意見を積極的に取り入れることに『合意』した。 議長:Virginia州知事 ただ
不思議なことに、この『合意』にはCalifornia, Texas, Floridaなど大きな州が参加していない。
【この項 : Washington Post (6/18/2005】
全米統一学力テスト委員会( The National Assessment Governing Board )
このNAGBは1988年に連邦議会によって設立され、全国統一テストを実施することになった。
○ 委員は26名 超党派的 州知事、州議員、州・地方教委、教育関係者、事業主、
一般人から連邦教育相が指名する。 しかし委員会としての独立性は尊重される。
またその氏名は役職などとともに公表されている。
○ この委員会が大綱を決め、そのもとに5つつの実行委員会が分担して調査、計画立案、
実行などを進めていく。
○ 2017年までのスケジュールが決められている。 科目は数学、読解力だけではなく、
年度によって理科、経済、公民、アメリカ史、世界史、高校転写研究、技芸などと異なる。
既に枠組みが決められたものもあれば、それは今後にとされるものもある。
【註】 その他第111編も参照してください。 なお第111編は、ご覧のとおり4年生と9年生とい
う学年別による結果であるが、今回は9才児、13才児、17才児と年齢別になっている。
アメリカでは無学年制のチャータースクールやホームスクールもあれば、地方によっては
入学年齢の違いなどから学年は同じでも、歳は違う場合もあろうから、今回のように年齢
別によるほうが、より実態を正確に反映することになろう。 従って今回の結果を重視する
ほうが、より妥当のように思われる。
コメント
アメリカでは、小学生の学力は向上してきているが、中学生、とくに高校生のそれは依然とし
て停滞気味であることが、今回のデータ-によって一段と明らかになった。 今後は高校教育
の充実に一層、力を注ぐものと考えられる。
2005. 7. 25記