杉田荘治
はじめに
アメリカでは公立学校教員5人のうち、男子教員は1人しかいない。 これでは教育改革も覚束
ないであろう。小学校では11人に1人、中等学校でも3人に1人である。
このことについては既に、幾つかの論考でも述べたが、最近Christian Science
Monitorが論
説しているので、復習も兼ねて改めて纏めてみることにする。 そして最後に、新教育改革の効
果についての現状を概観する。
T Christian Science Monitor (3/15/2005)号から
Yという小学校の男子教員が「私は女子教員のために重い箱も運んでやらなければならないし、
昼食時の指導も余分に割り当てられる。その他のパトロールもしなければならない」とぼやいて
いる。 またある頭の良い女子教員は「クラス内のゴタゴタを解決するのは男子教員の仕事です」
と、さも当然のように語っている。 これでは男子教員は“番犬”のようなもので、またある種の
性差別ではないか。
これと同じようにB小学校で16年間、教えている男子のJ.Ledbetterさんも、5年生の生徒たちは
彼に誉められたくて一生懸命に勉強してくれているが、しかし彼もシロナガ鯨やユキ豹のように、
いずれ消えていく種のようなものであろう。
全米教育協会:NEA発表によっても、300万人いる公立学校教員の21%しか男子教員がいないし、
その数はここ20年間低下し続けている。 内訳としては小学校では9%、中等学校では約35%であ
るが、これは同じような職種のなかでは最低である。 このことは子供たちに“男子たるものは
教育以外の仕事につくべきである”との間違った考え方を植え付けることにもなっている。
男子教員不足の理由
○ 低い給料
○ 低い社会的地位
○ 生徒が悪い行ないをした場合でも「生徒を虐待した」と告発される惧れ
○ 子供を教育するのは女子の仕事であるとするステレオタイプのような考え方
また男女を問わず、教職にある者が5年以内に辞めていくという現実や男子は教室で授業
を担当するよりは管理職への道を目指すべきだとする考えからもきているだろう。
U NEAの主張
前述のように、全米教育協会:NEAは2002年の全米代議員大会で、とくに小学校と少数派の
教員が少ないことを問題視して「もっと男子教員が自分の存在を確認できるようにし、またそ
の採用を増やし、職を続けることができるように施策すべきである」と決議した。
そのためには、教職は女子の仕事であるとする考え方を改めること、サラリーが家族を養って
いける額にまで増やすこと、その社会的地位を向上させることなどを主張した。 また学校の
なかでも男子教員が教科を担当し、女子教員が養育・保育を担当するという仕事分けも改善
すること、男子教員が小学校を敬遠して中等学校に惹かれる原因と対策を図るべきであるとも
述べた。
次いで2004年5月4日の『教員の日』年次大会でReg Weaver委員長は「大學において男子学
生に対して授業料の補助、奨学金の援助、良い指導者を早めに充てること、また教員免許状
を取るさいのサポーターを配置すること」などを挙げた。
また給料との関係についても触れ、ミシガン州は全米で最もその平均給料額が高いが、これに
比例して、その男子教員の比率も高い。 これに反してミシシッピ-州は平均給料額が低く49位
であるが、その男子教員は僅かに18%にすぎないことも例示して、その改善を求めた。
【註】この給料と男子教員の相関については別途、表によって後述する。
州別平均教員給料(年額・ドル)と公立学校男子教員の充足率
2003年度分 NEA発表
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コメント 左の表によれば全米の男子教員 の充足率は約25%である。 給料との相関はそんなに高くはな いように思われる。 ○ 例えば給料第1位のカリフォル 二ア州の充足率は29%、第2位 のコネチカット州は26%、第3位 のニュージァージー州は24%で ある。 ○ しかし給料の低い州はさすが に男子の充足率も低い。 ミシシッピィー州は18%、 ルイジアナ州も18% ○ マサチュウセッツ州は比較的 相関している。 ○ またカンザス州は給料は低い が充足率は33.6%と第2位で あることは例外的である。研究 の必要があろう。 ○ なお本文で記載したように 「ミシガン州は給料が高く、これ に比例して男子教員の充足 率も高い」とNEAは発表してい るが何かの間違いであろう。 というのは、この表によれば 充足率は26%にすぎず、それは 全米では22位にしかすぎない からである。 【参考】 松原重利氏(イオンド大學) は『日米の公立学校教員の給与 制度の統計的比較論』でアメリカ の州の所得と教員給料との相関 を研究されている。 これを州別 の男子教員の充足率と置き換え てみると参考になるものが得ら れるかもしれない。 |
新教育改革法実施の効果は挙がっているか
このことについて最近、Education Week (3/23/2005)号が要約しているので、これによって
検証しておこう。 その報告書は教育政策センターが全米49州のうち39州からの報告と314
地方教委のうち72%の教委からの報告を要約した結果であるが、まだ結論を出すには早すぎ
るとしながらも、次ぎのように述べている。 すなわち、
○ 各州のテストの学力は少し向上している。
○ 白人生徒と少数派生徒の学力差は縮まってきている。
しかし、
○ 新教育改革法が目標としている2014年度までに「総ての生徒が数学と読解力で良好
:proficientの成績を取ることは到底、無理である」。
○ 特に低学力校対策が極めて不充分である。 それは財源不足と教職員の配置が講ぜ
られていないからである。
○ 学校選択についても極めて不充分である。 新教育改革法では「低学力校から生徒は
良い学校へ転校することができる」とされているが、実現したものは1%しかない。 それ
は受け入れ校が定員過剰などの理由をつけて受け入れないからである。
以上のとおりであるが、これについて連邦教育省は何らコメントしていない。
参考 わが国の公立学校における男子教員の充足率
平成15年(2003)度 学校教員統計調査 文部科学省
小学校...... 39.4% 中学校...... 60.5% 高校.....
74.8%
なお第145編 ゼロ・トレランス政策は修正する必要があろう、も参照してください。
コメント
今までアメリカの教育改革について論じられる際、このような男子教員の充足率という
観点に立った論考は少ないように思われるので、その根拠資料ととも、これは関係者
には参考になろう。
2005. 4. 4記