杉田荘治
はじめに
前編の体罰と同様に、アメリカの生徒指導や懲戒に関する論文には、よく『ゴス』判決、
Goss v. Lopez (1975), Goss v. Lopez (419 U.S. 565)などと書かれている。 それは
これも今もって、連邦最高裁の停学についての唯一の判例であるからである。 そこで先
ずこれを取り読み、その後、服装検査などをみていこう。
T 連邦最高裁『ゴス』判決を取る
停学についての典型的なものであるが、前編と同様にFindlawを利用する。
Cases & Code-US Sup Ct. US Code, Federal, Slaと選んでいって、Supreme
Decisions:
by volume, by yearを利用する。by yearでは1975年判決であるから、そのなかから取れるし、
by volumeであれば、第419巻を探せばよい。
U 連邦最高裁『ゴス』判決を読む
U.S. Supreme Court
GOSS v. LOPEZ, 419 U.S. 565 (1975) 419 U.S. 565
GOSS ET AL. v. LOPEZ ET AL.
APPEAL FROM THE UNITED STATES DISTRICT COURT FOR THE SOUTHERN
DISTRICT OF OHIO. No. 73-898.
Argued October 16, 1974. Decided January 22, 1975.
連邦最高裁 ゴス 対 ロペッツ、 第419巻 最高裁分 565ページ (1975年判決) ゴスなど 対 ロペッツなど、 Ohio州南部地区連邦地裁からの上告 No. 73-898 1974年10月16日に論点を審議し、1975年1月22日に判決した。 【参考】 ゴスとは教委生徒問題担当部長、またロペッツは停学になった高校生である。 ロペッツが地裁へ訴えて出たのであるが、地裁はそれを認めたので教委側が これを不服として直接、最高裁へ上告した事件である。 |
Appellee Ohio public high school students, who had been suspended from school
for misconduct for up to 10 days without a hearing, brought a class action against
appellant school officials seeking a declaration that the Ohio statute permitting such
suspensions was unconstitutional and an order enjoining the officials
to remove the
references to the suspensions from the students' records. A three-judge District
Court declared that appellees were denied due process of law in violation of the
Fourteenth Amendment because they were "suspended without hearing prior to
suspension or within a reasonable time thereafter," and that the statute and
implementing regulations were unconstitutional, and granted the requested injunction.
Held:
オハイオ州の公立高校生たちが最大10日の停学になったが、その処分の前に事情聴取され る機会が与えられなかったので訴えて出た。 当時、州法はそのような権限を学校職員に 与えていたが、3人による連邦地裁は憲法修正第14条の『適法手続き』なしに処分を行なう 州法や規則を憲法違反である、とした。 【参考】前述のように3人の判事によるものであ るがそのうち一人は控訴裁判所判事であったので、直ちに最高裁へ上告することができた。 なお生徒たちの行為については第118編を参照されるとよいが、概要つぎのとおりである。 その一人は授業が行なわれていた講堂でデモ行動をしていたが、校長の退去命令を拒んだ ので直ちに停学になった。 またある生徒は彼を講堂から連れ出そうとする警察官に体当たり の攻撃を加えたので直ちに停学になった。 その他の4名についても同様な経過である。 また、ロペッツは学校のランチルームの器物が破壊された混乱に巻き込まれて停学になっ たが、彼は「自分は破壊行動には加わっておらず、全くの傍観者である」といっているが、この 事件の記録は残されていない。 その他、ある女子生徒は他の高校生のデモに参加し逮捕さ れたが、翌朝告訴されずに釈放された。しかし登校する前に10日間の停学になった旨の通知 を受け取った。 また9番目の生徒の停学についても記録は全く閉ざされたままである。 |
1. Students facing temporary suspension from a public school have property and
liberty interests that qualify for protection under the Due Process Clause of the
Fourteenth Amendment. Pp. 572-576. ..................................................
372 F. Supp. 1279, affirmed.
生徒を停学にするさいは、修正憲法第14条の適法手続きが必要である。 そのことは572 ページに書いてある。 .......... 地裁判決は第372巻 連邦追加分 1279ページ、 それに同意 する。 【註】 このように州側が敗訴した。 そこで上告したが最終的に最高裁判所も地裁の 判決に同意して、州側の敗訴となったものである。 |
この後、英文は省略するが、1971年の出来事、9名の高校生が関係している。 ロペッツはラン チルームで騒ぎ器物を壊した。 しかし騒ぎには参加していないといっている。 またある女子 生徒は逮捕され警察へ連れていかれたが問題なしとして釈放された。 これに対して、この最 高裁判所は、 ○ 10日程度の停学は生徒の人生にとって重大なものである。 停学によって教育を受け利益 が一時的にせよ拒否され、また本人の評判という「自由」の利益も損なわれた。 ○ そこで基本的な要請としては停学以前の何らかの通知と何らかの事情聴取が必要である。 懲戒権者は、ほとんどの場合、信頼できる手段ににって職務を遂行しているが、それでも 時々、事実を確認しないままに他人の報告やアドバイスによって処理することがある。 その 際、誤りを犯す危険性がないとはいえない。 ○ しかしすへての停学について丹精こめた事情聴取の機会を与える必要はない。 生徒に違 反行為について反省させ、今後不正はしないことを誓わせながら本人の話しも聞いてやること も大切である。 そのような機会が全く与えられず両者の間にコミュニケーションがない、とい うのも奇妙なことで、つたない生徒指導のあり方であるといえよう。 ○ 従って10日間やそこらの停学処分についての『適法手続き』とは、生徒に口頭または文書 で違反の事実を示し、もし、それを生徒が否認すれば、当局のもっている証拠を示して説明 する必要があり、また生徒側に釈明の機会を与えるものでなければならない。 |
この判決も5: 4の多数判決であったが、最後にパウエル判事の反対意見として「司法による教育 への介入の道を開く惧れがあり、1日の停学といえども『適法手続き』を求める惧れが出てくるこ と等」を述べている。 【参考】事実そのような懸念もあろう。これについは第118編 過剰な『適法 手続き』は却って教育を損なをみてください。 |
V 連邦最高裁『T.L.O』判決を取り読む
生徒の服装(持ち物)検査についての典型的な判例は、New Jersey v. T.L.O, 469 U.S. 325
である。
U.S. Supreme Court
NEW JERSEY v. T. L. O., 469 U.S. 325 (1985) 469 U.S. 325
NEW JERSEY v. T. L. O.
CERTIORARI TO THE SUPREME COURT OF NEW JERSEY No. 83-712.
Argued March 28, 1984 Reargued October 2, 1984 Decided January
15, 1985
ニュージァージ-州政府 対 T.L.O. (女子高校生・匿名)、 第469巻 最高裁分 325ページ (1985 年判決)、New Jersey v. T.L.O., ニュージャージィ州の最高裁判所に対して事件移送命令が 出されていた事件である。 1984年3月28日に論争点審理し、1985年1月15日に判決した。 【註】 州最高裁でニュージァージィ政府が敗訴したので、ここでは上告人になっている。 |
A teacher at a New Jersey high school, upon discovering respondent, then a 14-year-old
freshman, and her companion smoking cigarettes in a school lavatory in violation of a school
rule, took them to the Principal's office, where they met with the Assistant
Vice Principal.
When respondent, in response to the Assistant Vice Principal's questioning, denied that
she had been smoking and claimed that she did not smoke at all, the Assistant Vice Principal
demanded to see her purse. Upon opening the purse, he found a pack of
cigarettes and also
noticed a package of cigarette rolling papers that are commonly associated
with the use of
marihuana. He then proceeded to search the purse thoroughly and found some marihuana, a
pipe, plastic bags, a fairly substantial amount of money, an index card containing a list of
students who owed respondent money, and two letters that implicated
her in marihuana
dealing. Thereafter, the State brought delinquency charges against respondent in the
Juvenile Court, which, after denying respondent's motion to suppress
the evidence found
in her purse, held that the Fourth Amendment applied to searches by
school officials but
that the search in question was a reasonable one, and adjudged respondent to be a
delinquent. The Appellate Division of the New Jersey Superior Court affirmed the trial
court's finding that there had been no Fourth Amendment violation but
vacated the
adjudication of delinquency and remanded on other grounds. The New Jersey Supreme
Court reversed and ordered the suppression of the evidence found in respondent's purse,
holding that the search of the purse was unreasonable. Held:
ニュージャージー州のある高校の便所で、二名の女子生徒が喫煙しているのを 発見された。 そのうちの一人が T.L.O.で、彼女は一年生であった。便所で喫煙することは校則違反で あっ たので、先生は二人を校長室へ連れていき、そこで副校長のC先生が取り調べに当たった。 一人は、すぐ「自分は校則に違反していた。」と認めたが、T.L.O.は「自分は今までも便所で喫 煙したことはないし、今も全く喫っていなかった」と言い張った。 そこで、C先生は、自分の部屋へ連れていって「財布の中を見せるように」といいそれを開い たところ、 一包みの紙巻きタバコが見つかった。 さらに調べていくと、一箱の紙巻きタバコ の容器が見つかった。 そこで徹底的に財布の中を調べることにした。すると、 少量のマリファ ナとパイプ、空になったプラスチックの容器、1ドル紙幣で包れた相当のお金、T.L.Oに借金し ている者のリストカード、そして、Tがマリファナ売人であることを示唆するような二通の手紙 が出てきた。 その後、警察署で生徒は「学校でマリファナを 売っていた」と自白した。そこで、その自白と 証拠とにもとづいて、年少者犯罪として告発された。 しかし、彼女は「学校での、C先生による服装・持ち物検査は法律にもとづかない違法のもの で、それによって自分の事態が悪くさせられた」と主張し、それらの証拠は発表し適用するこ とを差し控えるべきであったと、反論した。 しかし、年少者裁判所は、それを否定し、、「学校教職員は、犯罪について正当な理由のある 疑いがある場合は、生徒指導上、学校の規則を実効的なものにするため、 生徒の服装検査 を実施することができる」と判断した。そして、今回の検査は、その[正当な理由のある疑い]が あったとして、これを正当として生徒を一年間の保護観察処分にした。 しかしながら、彼女は、これを不服として控訴し、その結果、ニュージャージ州最高裁は、その 不服を認めて、それまでの処分を破棄して、「正式の令状なしに、財布を開かせて得た証拠は、 これを証拠として採用することを禁止する」と判断した。すなわち、「学校教職員にも、捜査令状 を必要とする連邦憲法修正第4条は適用される」 とし、「かき回して探した証拠」は、始めから 憲法違反であるから、刑事事件の手続き上、証拠として認めることはできない、としたのである。 |
以上のように経過も含めて州の最高裁の判決も述べたが、
連邦最高裁判所に至ってようやくそれを破棄して正当なな服装(持ち物)検査であったと結論し
たのである。 関係の英文個所のみを簡潔に下記しておこう。
1. The Fourth Amendment's prohibition on unreasonable searches and seizures applies
to searches conducted by public school officials and is not limited
to searches carried
out by law enforcement officers.
And such a search will be permissible in its scope when the measures
adopted are
reasonably related to the objectives of the search and not excessively
intrusive in light
of the student's age and sex and the nature of the infraction. 2. 省略
3. Under the above standard, the search in this case was not unreasonable
for Fourth
Amendment purposes.
学校教職員は、服装検査について連邦憲法修正第4条を、そのまま適用する必要はない。 正式 な令状がなくても、生徒に非合法の疑いがあるレベルであればよい。 この服装検査は、いかなる 点から見ても不合理なものではない。 【註】 なお第14編を参照してください。 |
コメント
『ゴス』判決は、10日間程度の停学についても、学校側はよく説明し、生徒に釈明する機会を
与えることを義務づけたし、ましてや服装(持ち物)検査の判例である『T.L.O.』事件にあっては
連邦最高裁に至ってようやく正当な検査とされた。 このように生徒の処分には極めて慎重に
なっている。 判例を読んでいると、due processとかdue process clauseなどの言葉がよく出
てくるが、わが国にあっても参考にしてよかろう。 しかし同時に、行なうべき処分は確実に実施
することも必要である。
それでは次ぎに『白人学生による逆差別』の訴えと『学習クーポン券』のそれとについて見て
いこう。
2006. 1. 20記