15. 学校における服装検査[アメリカの例 3]

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杉田 荘治
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はじめに

    アメリカ(U.S.A.) における生徒の服装検査の基準となる判例は、1998年 10月現在にあって
   も、連邦最高裁のNew Jersey v. T.L.O. 判決(1985年)が唯一のものである。
 従って、その後
   の下級審判決や各種の教委規則の多くは、その T.L.O.判決を引用したり、また規則の中に取
   り入れたりしている。
<註> イリノイ州教育法( 関係要旨)  
  「わが州ではT.L.O.判決が重要要点である。 すなわち、生徒の
  服装検査の際には、〈犯罪の疑いが十分にある〉という Probable
   Cause は必要ではなく、生徒に〈校則違反の疑いが十分にある〉
  という Reasonable suspicion レベルを満たしておれば、実施す
  ることができる。」

    しかしながら、具体的な事件について、実際にその T.L.O. 基準を適用するとなると、多少の
   混乱や解釈の違いが出てきている。  ここでは、先回●14 [アメリカの例 2]で予告したように、
   生徒用ロッカーの検査、生徒用自動車の検査、下着を下げさせる検査、尿検査、犬を使って嗅
   ぐ検査、金属探知器による検査などに分類して、比較的最近の事例を概観することにする。

   資料としては、School Searches of Students and Seizure of their Property (Law Crawler )
   その他巻末に記載した文献、Journal of Law & Education ( Jefferson Law Book Company )
   および関係 U.S.A.公式判例集 である。

1.生徒用ロッカーの検査

a.
  生徒用ロッカーの検査については、あまり大きな問題はない。 と
 いうのは、生徒用ロッカーとはいうものの本来、学校の器財であり
、学校の管理下にもおかれるからである。しかし、一般的には、予告
 がなされ、しかも生徒の立ち会いがあることが望ましい。 しかし、
 学校当局が [有害な、安全を脅かす物]が、ロッカーの中に入って
 いるとの[合理的な疑いが十分にある] : Reasonable suspicion を
 持つにいたれば、予告なしに、また生徒の立ち会いなしに、その検
 査を実施することができる。
b.
  もっとも慎重な意見もある。 The Court TV Cradle-to Grave 合
 法ガイドによれば、[ある特定の生徒について、校則や犯罪の疑い
 が十分にあること、またその後、その生徒を一人に隔離して調べ
 てはならない。]と注意している。 もっとも、このガイドでも、[生徒の
 財布や背カバンと比べても、ロッカーは学校の器財であるので、生
 徒のプライバシィ侵害の程度は低い]としていることには変わりない。
c.
判例
(1) S.C. v. State 事件 ( 1991 )
  先回でも述べたように、予め生徒に対して、[必要に応じて、生徒
 のプライバシィは制限される]と予告してあり、T.L.O. 基準に照らし
 て、その検査は正当とされた。( S.C. v. State, 583 So 2d 188. Miss
 (1991))

(2) People v. Dukes ( 1992 ) も同様である。 そこでは既に、州規則
  や教委規則で定められており、また文書で生徒や親に告知され
  ていた。 ( People v. Dukes, 580 NY 2d 850, NY Crime Ct. (1992
  その他、既報のように [アメリカの例 2]の Zamora v. Pomeroy
  ( 639 F.2d. 665 ) も同様であり、このように、ロッカーの検査につ
  いては、あまり大きな問題はない。

  しかし、ロッカーの検査に関して、難しい問題が派生するのは、マ
  リファナなど麻薬の検査のために、犬を使ってロッカーの中をクン
  クンと嗅がせる場合である。これについては、後述するが、ここで
  も一部、触れておこう。 すなわち、


   (3) Commonwealth v. Case 事件 ( 1995 )
  1993年、ペンシルバニア州のある高校で、[生徒たちが、麻薬を
  使用したり、売買したりして、可成の銭が受け取りされ、またその
  ために公衆電話をよく利用している。]との情報が入ったので、校
  長は正式警察官の出動を要請して、全校生徒のロッカーを犬で
  嗅がせた。  その間、生徒たちはクラスで待機させられた。

   その結果、ある生徒のロッカーから麻薬が発見され、その生徒
  も、それが自分の物であることを認めたので逮捕されたにもかか
  わらず、後になって [犬を使ってのロッカーの検査は違法である]
  として訴っえて出た。

   ペンシルバニア州控訴裁も生徒の主張を認めて、[その生徒の
  プライバシィは尊重されなければならず、明らかに不正売買が行
  われている、という合理的に十分な疑いがないにも拘わらず、安
  易に犬を使ってロッカーの検査をしたのは違法]である、として教
  委側の主張を退けた。( Commonwealth v. Cass,PICS Case
   No.95-4649, Pa. Supp. Oct. 4, 1995 )

○  わが国の常識から判断すると、奇妙な判決と考えるが、人権尊
  重の意識が強く、またこのような検査には、慎重の上にも慎重を
  期すとの趣旨であろう

2. 生徒用自動車の検査

a.
  生徒用のパーキングもロッカーと同様に学校の財産物であるか
 ら、学校の管理下におかれる。従って、ここでは余り、大きな問題
 はい。

  犬を使った麻薬の検査についても、判例は認めている。 先回で
 も 少し述べた、State v. Slatter 事件では、ワシントン州で、ある
 高校生が、マリファナを売買しているとの確実な情報が入ったので
、先生が、始め、その生徒のロッカーを調べたところ、230 ドルの
 現金と電話番号を書いた紙が出てきた。 そこで、強い 疑いを懐
 いて、学校側がパーキング・エリアに駐車してある その生徒の車
 を学校保安官が調べたところ、トランクの中の施錠されたブリーフ
 ケースの中から、80グラ ムのマリファナが見つかった事件である。

  州控訴裁判所も、[学校当局は、速やかに容疑事実を調べる合
 理的な理由があった] として、これを容認した。 ( 56 Wash. App.
  820, 787 P.2d 932, 1990 )
b.
 学校以外のパーキングの場合
  Student Searches and the Law ( National School Safety
  Center刊 1995) によれば、学校以外のパーキングに駐車した
  生徒用自動車については、学校教職員は調べることは出来ない。 
  正式の警察官によって、正式の手続きを踏んで為されることが
  必要である。

3. 下着を下げさせる検査

a.
  先回 3[アメリカの例]でも述べたように、今すぐ起こりうる危険
 性がある場合など、極めて例外的なものである。 もしそうでなけ
 れば、大きな論議を引き起こすに違いない。
 前述: Student Searches and the Law は、「危険な麻薬や武器
 を持っているという信頼すべき十分な証拠」に基づいて、殆ど連邦
 憲法修正第4条が求めるところの Probable Cause レベルの疑
 いがなければ、実施してはいけない、としている。
b.
判例
まず、違法とされた例を述べよう。
Galford 事件 ( 1993 )
  M. A. という中学 2年生が、先生のいない間に[ 100ドル盗んだ]疑いで
 最初はポケットを空にし、靴下を下げる検査を、次いで バスルームで、パ
 ンツを下げる検査をされ、その結果、生徒の下着の裏から、問題の100ドル
 が出てきた。
 しかし、州控訴審は、[直ちに下着を下げさせる検査をするほどの疑いや緊
 急性はなかった。] にも拘わらず、しかも令状もなしに実施した、そのような
 検査は、[著しく生徒のプライバシィを侵害し違法]であるとした。 ( State
 ex rel. Galford v. Mark Anthony B,   189, W. Va. 538, 433 S. E. 2d 41 )

○  非常に厳しい判決といえよう。 そこでは、結果よりは、検査以前の周囲
  の状況の緊急性の少ないこと、安易な検査を問題視しているように思わ
  れる。
しかし、下着を下げさせる検査を容認する事例もある。
次が、その例である。
  Cornfield by Lewis 事件 ( 1993 )
  イリノイ州で、 ディーンを含む 三名の教職員が、ある生徒のズボンの
 間の処が、"異常に膨らんで"いると見た。また、その時の生徒の素振り
 からみても、十分なにかを隠し持っていると考えられた。
  そこでディーンは、その生徒を彼の職員室へ連れて行くと、生徒は非
 常に興奮して、先生たちを口汚く罵った。そこで、[下着を下げる検査を必
 要とする]と判断して、生徒の母親に、その旨、電話したところ、彼女は、
 それに反対し、来校することを拒否した。 そこで、教職員たちは、生徒を
 ロッカールームへ連れていき、面前で体育ユニフォームに着替えさせ、
 服を調べたが、麻薬などは発見されなかった。 生徒の身体検査はしてい
 ない 。

  この件について、連邦第 7巡回控訴裁は、その時の周囲の状況や生
 徒のとった行動を総合して、[犯罪や校則違反の疑いは十分あった。]
 として、その検査を容認した。( Janet Lewis v.
 Consolidated High School. Dist. No. 230, 991 F. 2d 1316,  7th Cir. 1993 )
 Jenkins v. Talladege 事件 ( 1997 ) 一部、先回の記事と重複
  Jenkins はアラバマ州の、ある小学校の二年生であったが、ある級友か
 ら、「私の財布から、7ドル盗んで、他の友達の背カバンに隠した」と告げ
 口された。
  そこで先生は、Jenkins とその友達を自分の部屋に連れて行き 、「ソッ
 クスと靴を脱ぐように」と指示し調べたが、銭は出てこなかった。そこで、先
 生はカウンセラと一緒に、彼らを女子便所に連れて行って、「下着をかがと
 の所まで下げて出てくるように」といい、調べたが、やはり銭は発見されな
 かった。 その後、校長室へ連れて行き、さらにバスルームでも調べたが、
 結局、銭は出てこなかった。

  そこで、Jenkinsとその母親たちが訴えて出たのである。
  その後の経過は省略するが、結論として連邦第 11巡回控訴裁は、その
 服装検査を容認した。
 その理由は、
 ○ 裁判所の役割は、[常識ある普通の人が、その措置が明らかに違憲か、
   違法か否か]を判断すれば足りるのである。
 ○ 連邦憲法修正第 4条に照らして、学校教職員が服装検査で採るべき具
   体的な規定が、まだ十分に定まってしにいない現状からいって、[今回
   の教職員の検査は免責である]
   なお、3名の判事は反対意見であった。( Jenkins v. Talladega City
    Bd. of Edu., 115 F. 3d 821, 11th Cir. 1997 )
このように、やはり難しい問題である。 控訴審の判断も消極的
容認論といえよう。
  McMinnvill 事件 ( 1998 )
  Chastity Pratt & Bill Graves の意見書・『自然体で下着を下げさせる
  検査』からの例
   オレゴン州の中等学校で、中学2年の女子生徒が、体育の授業から
  ロッカールームへ戻ると、約10個の持ち物が盗まれいた。ー 銭、化粧
  品、宝石、コンパクトディスク、ディスクプレーヤ などで、周囲の状況か
  らして、間違いなく犯人は、生徒である、と考えられた。
   そこで、学校当局は、教委が委嘱している婦人警察官を呼んでロッカー
  や生徒の背カバンを調べた後、容疑のある女子生徒に対して、ロッカー
  ルームで、「ブラウスをブラブラさせ、下着を下げて出てくるように」と指示
  した。 その結果、いくつかのCD と今まで盗んだ品物が出てきた。

   この件の裁判は未定であるが、父母の間でも大きな論議を引き起こ
  した。そして、「学校での盗みをそのままにしておいていいの ?」 「他の
  生徒の安全を確保するためには、ある程度、生徒のプライバシィは制
  限されてもよい」との意見も根強い。 その際、犯罪の疑いの程度、生
  徒の年齢、性別を慎重に考慮すべきであるとしている。
...................................,
  下着を下げさせる検査を、制定している州
  前述の意見書によれば、アラバマ、ニューヨーク、ミシガンの各州が規定してい
  る。 また、その際、親の来校を検査の前に求めている。
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