1 学校教育法第11条にいう「体罰」とは,懲戒の内容が身体的性質のもので ある場合を意味する。すなわち (1) 身体に対する侵害を内容とする懲戒−なぐる・けるの類−がこれに該当するこ とはいうまでもないが,さらに (2) 被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒もまたこれに該当する。たとえば端坐・ 直立等,特定の姿勢を長時間にわたって保持させるというような懲戒は体罰の 一種と解せられる。 2 しかし,特定の場合が右の(2)の意味の「体罰」に該当するかどうかは,機械的 に制定することはできない。たとえば,同じ時間直立させるにしても,教室内の場 合と炎天下または寒風中の場合とでは被罰者の身体に対する影響が全く違うからで ある。それ故に,当該児童の年齢,健康・場所的および時間的環境等,種々の条件 を考え合わせて肉体的苦痛の有無を制定しなければならない。 3 放課後教室に残留させることは通常「体罰」には該当しない。ただし,用便のた めにも室外に出ることを許さないとか,食事時間を過ぎて長く留めおくとかいうこ とがあれば,肉体的苦痛を生じさせるから,体罰に該当するであろう。 4 右の,教室に残留させる行為は,肉体的苦痛を生じさせない場合であっても合理 正当な懲戒権の行使であるが、合理的な限度をこえてこのような懲戒を行えば,監 禁罪の成立をまぬかれない。 つぎに,然らば右の合理的な限度とは具体的にどの程度についてはあらかじめ一 般的な標準を立てることは困難である。個々の具体的な場合に,当該の非行の性質, 非行者の性行および年齢,留め置いた時間の長さ等,一切の条件を綜合的に考察し て,通常の理性をそなえた者が懲戒権の合理的な行使と判断するであろうか否かを 標準として決定する外はない。
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前述の回答は高知県警察隊長からの照会に対しての回答(要旨)であるが、同様な通達
が文部省からも出されている。 しかし「義務教育では懲戒として授業を受けさせないことは
許されない」とするなど検討する必要な個所もあるように思われる。
なお次ぎの述べる『教務関係執務ハンドブック』は適当なものと考える。 しかし残念ながら
教育関係者には殆ど知られていない。
1996. 9.1 記
参考(2002. 3.6) 教育白書 平成12年度版より
追記(2006年1月) 『180. わが国の体罰判例を読む』を追加したので参照してください。
そのうち一部を下記しておこう。 すなわち、
ご覧のとおり東京高裁の判例や『ガイドライン』は体罰に関する妥当で有益な指針になると
考えている。 ところが最近益々、ちょっと生徒の身体に触れただけでも違法な体罰とする
ような風潮になってきている。 「先公、それは違法な体罰だぜ」といわれて、すくんでしまい、
その結果、荒れる学校、クラスの崩壊へとエスカレートしていくことにもなる。
したがって今後、次ぎの点をはっきりさせてから論議や施策をなされるよう期待したい。
○ 東京高裁や『ガイドライン』の示す「懲戒権の範囲内の“体罰”(有形力の行使)」を認め
るのか、それとも「身体に触れただけでも、それは違法な体罰か」をはっきりさせること。
○ 荒れる学校やクラス崩壊は教員の指導力不足に因るところもあろうが、前述のように
口頭による注意の繰り返しに因るかどうか。
○ クラスの騒ぎを静めるために「理由のある力の行使」をして、反抗する生徒をクラスから引き
ずりだすことは許されるはずであるが、それについてはどうか。 もしそれに反対するので
あれば、具体的にどのような方法があるのか。
なお、懲戒権の範囲内の“体罰”にさいしても歯止めは必要であると考えるが、それについて
は第24編の提言、第101編を参照してください。 また「理由のある力の行使」については
第25編を見てください。 アメリカの規則などは第26編を参考にしてください。