95. ダラス市教委(テキサス州)の体罰問題その後    わが国の場合はどうするか


杉田 荘治

はじめに
   テキサス州のダラス市教委の体罰問題については、先に25. 体罰問題 その二[理由のある力の行使]は体罰
   ではない
のなかで、追記(2003. 6. 19) として述べたが、その後の動きについて州法なども述べながら、少し
   まとめてみよう。

T テキサス州法 − テキサス刑罰規程 
  Texas Penal Code Sec. 9.62 EDUCATOR - STUDENT 9.62節 教育者と生徒との関係において

  力の行使は重大なものでなければ(not deadly force)、正当である。
  1. その行為に注意を払い、権限があり、または特別な目的をもった人によって行使される場合
  2. その行為が特別な目的のためかグループ秩序を維持するための理由がある場合、適切な時と
   程度で行使される場合
  【参考】親子の関係でも、この9.62節と同じような規定がある。その他「子供を護り、福祉を促進するための
      躾」としても正当である旨の追加がある。

   テキサス州法では体罰は合法(Legal)であることはThe National Center for the Study of Corporal
   Punishment and Alternativesにも含まれている。『25. 体罰問題 その二[理由のある力の行使]は体
   罰ではない』の一覧表を参照のこと。

    さらにはまた、Dallas Morning News紙でも時々、そのことを報じている。 そのあと各地方教委に、その権
    限を委任している。このことについては既に上記の『25 体罰問題 そのニ 追記 』でも述べたが、その
    一部を再掲しておこう。
     もっとも地方教委で禁止している場合は違法である。また親の同意が必要なところは代替の懲戒を含めて
      それによらなければならない。例えばTexas州でも、Dallas, Lewisville, Mosquite教委では『合法』であるが、

      Duncanville, Grand Praira教委では『親の同意がある場合』であるし、Richardson教委では『禁止』 である。

   このように各地方教委によって体罰を生徒の懲戒に含めるか、含めないか取り扱いかたが異なる。
   Dallas Morning News (6/18/2003)号には、その分類でもう少し多くの例が書かれている。 すなわち、
   ○ 体罰禁止の地方教委 ...Arlington, Coppell, Richardson など
      体罰容認の地方教委.....Dallas, Grand Prairie, Lewisville, Mesquiiteなど その他下記の
                    La Porte
      親の選択によって認められる地方教委..... Duncanvi, Rockwall など   

U 体罰容認の地方教委規則  La Porte教委の例 ダラス市教委の場合もほぼ同じ

   Student Code of Conduct  次ぎを違反の程度によって一つまたはそれ以上、科す。
     ・口頭による注意・警告   ・座席を変更させること   ・教員やカウンセラー、管理職による
     カウンセリング   ・親と教員との面談     ・学校やクラスの仕事を割り当てること   
    ・課外活動に参加させないこと又は関係組織のメンバーシップを停止すること(いわゆる特権:
     Privelegesを停止したり制限すること)   
    ・通学バスを制限すること   ・体罰(Corporal punishment)
    ・放課後または土曜日の居残り   ・停学   ・校長室へ送る   
    ・校内停学(In-school suspensions)   ・オールタナティブ施設へ送致すること

V ダラス市教委の審議

   教育委員9名の意見は分かれている。
   しかし、事前にパドルで懲戒を受けることを望むならば、その旨の文書を親が提出する案に変
   更しようとしている。 その素案は7 : 2 の投票で通過したが正式には今後、審議されよう。 
   またそのなかには付帯事項として「コミュニティで奉仕すること」、「親が子供の授業を参観すること」、
   「親が家庭で子供の特権を制限すること」が含まれている。 このように懲戒に親を巻き込もう
   としている。
   【註】子供の特権(Priveledges)とは、お菓子を与えないとかゲームを制限するなど、子供の人権や福祉
      に関係のないことである。 

  ○ 現在の規則に賛成し、素案のような改正案に反対の委員は「体罰は校長の懲戒手段(toolbox)
    である。一旦これを開いてしまったら虫の入った缶を開くようなもので、取り返しのつかないもの
    になる」といっている。 また親を巻き込むことにも反対で、家庭で子供の特権を制限することにつ
    いても調べようがない、として反対している。
    しかし改正案に賛成の委員達は現在の教委規則は旧いタイプの懲戒規定である、といっている。
    なかには「80%以上の親が賛成ならば、現行のように学校でパドルで罰する方法を認める」との意見も
    あるし、体罰に代わる停学などが却って厳しいとの意見もあるが、いずれにせよ決定まで、もう少し時間
    がかかろう。

  ○ ところで体罰ケースの数であるが、Moses教育長は「真偽のほどはわからないが申し立てによれば、
    2002-03 年度にかけて332件で、うち51件は申し立てによれば怪我をしたとのことである。 そのうち、
    12件は実証できる」と語っている。 (資料:Dallas Morning News 8/13/2003 と6/18/2003)
    【参考】なお州教育局の調査によれば、Texas州で1999年に、約390万人の生徒のうちで、約74,000名
       がパドルによる体罰を受けた。 男子83%   黒人生徒人口は14%であるが、体罰を受けた生徒で
       は24% になる。

コメント
   ご覧のとおりであるが、アメリカの最近の例として、まず州法....... これを受けて地方教委の規則...........さらに
   体罰容認の地方教委でも........ 親の同意書を必要とする......... また体罰に代わる停学など他の懲戒........など
   の流れを理解することができよう。 次ぎにわが国の場合はどうするか、について考察しよう。

               わが国の場合はどうするか

   1. 校内謹慎(校内停学)のルールを確立されること。
     わが国では小学生・中学生については、教委による『出席停止』(学校教育法26条など)はあっても、
     停学にすることはできない。 そこで1校だけの判断に任せず、保護者にも説明し教委も後押しして厳
     然たる姿勢を示したほうがよいように思われる。そのような児童・生徒の学習を保証する意味でも必要
     であろう。

   2. 『理由のある力の行使』は体罰ではない
     わが国では、学校教育法で禁じられている体罰と生徒の暴力行為を排除したり、騒ぎを静めて
     クラスの秩序を回復・維持したりするなど、合理的な理由のある場合、教職員が[力を行使]する
     正当な行為とを混同して、その行為を違法視するきらいがあるが、そうではない。
     25. 体罰問題 その二[理由のある力の行使]は体罰ではない を見て欲しい。
   
   3. クラブ活動に参加させないなどの生徒の特権を一時停止することも必要であろう。 
    このことも教委も認め、保護者にも事前に説明するなどして明確に示すこと。
    以上のように体罰に代わるべき懲戒をきっちりやる姿勢を日頃から明確に示す必要がある。 さらにそれ
    にも従わないような児童・生徒にはアメリカの例などを参考にして、さらに一つ以上の懲戒をしっかり実施す
    る必要がある。 アメリカでは不服従や教員に毒ずくような違反行為に対しては厳しい措置がとられる。
 
   4. 教員自身が研修を重ねることが必要である
    日進月歩する技術など、教員も大変であるが矢張り努力する姿勢は何よりの教訓になるし、自信にもな
    ろう。管理職自身も重要であるが、また学校や教育センターの研修だけではなく、外部の施設を教員自身
    が探して身につける必要があろう。 教委も予算や時間の確保について、より柔軟な措置が必要であろう。

   5. マスコミにも期待したい。
    教員の体罰事件などのさい、生徒がどの程度の違反行為をしたのか、それが、しばしばの行為なのか初
    めてのものなのか、どのように教員に反抗したのかについては殆ど触れられず、教員の悪質な行為だけが
    報道されることが多いように思われる。 「... それにしても、この教員のとった行為は酷過ぎる」と普通の人な
    らば理解できるような報道であることを期待したい。 それはひいては善良な教員にとって教育に対する自
    信にもなろう。

   6. “いじめ”に苦しむ児童・生徒に対する“学びの場。憩いの場”としてチァーター・スクールを創られ
    ること。

    これについては『93. 不登校児のためのチァーター・スクールを創られること』を見てください。

   最後に、杉田に対してE-mailで質問されることが多い。 そのことについいは『23 E-mail で質疑・応答』
   をみてほしいが、体罰に関するものを参考までに再掲しておこう。
     1. 校内暴力について......B県 中学一年学級委員とその父親から ........ 1999. 5月
      Q. はじめまして、僕は中学一年生です。 現在、校内暴力でくるしめられています。 そのため、
       ホームページを開いたら、杉田様のホームページを見つけまのたので、拝読させていただき
       ました。... 良い案があれば教えていただきたいと思います。

      杉田様へ、息子の不躾なメールで失礼します。..... 息子の訴える通り、以前より、数名の集団      
      による校内暴力 ( 器物破損、 対教師間暴力、 対生徒間暴力 ) によって授業が中断することは
      日常的で教師 1名および生徒 10数名の怪我人が出ており、加害者の保護者に対して ( 学校
       から )再三の注意をしても一向に改善の兆しが見えません。
      ガラス代や治療費を請求しても全く応じません。 先生方も、[ やられ放題 ]の状態です。さらに、
      これらの集団を管理するために先生方の労力がほとんど注ぎ込まれてしまい、肝心の授業が
      まったく進みません。 加害者の生徒は [ 14歳以下は何をしても罰せられないから大丈夫 ]と
      嘯いている始末です。

     昨日、全学年のPTAが対策集会を持ちましたが学校教育法のため何をやっても [ 体罰 ]に該
     当してしまい決め手が見出せません。 ............ 現在も暴力は止まらず、いつ自分の子供が被
     害に遭うかと考えて不安が拭えません。
     中、長期的には、[ あいさつ運動] とか [ 花植え運動 ]を通じて歯止めをかけていきたいと思う
     のですが速効性がありません。 ..... アドバイスをお願いいたします。 〔 39歳、会社員 〕

   A. 難しい問題です。もしそれが事実とすれば、何故今まで有効な対策がとられなかったのか
    残念に思います。 また違法とされる体罰と懲戒とは違います。
    また参考までにアメリカの規則を下記します。  Pennsylvania州教委規則 など述べた。
    そして最後に「また二律相反する難しいことですが、また今となっては手後れなのかもしれませ
    んが、どんな生徒にも良い点がありますが、気力で接し彼らに愛情を注ぐ関係者はいないのでしょ
    うか。 ご健勝を祈り
ます」と回答した。

 また高校教員からのものであるが、これも再掲しておこう。
   9. 体罰した、といわれています。...... A県の高校教員から ...... 1998. 9月

   Q. いきなり不躾なメールをお許し下さい。 私は ○県の高校教員をしています。 私は先般教室
    へ行こうとしない生徒の腕を引っ張って、いすから引きずりおろしたところ、生徒が体罰を受け
    たと親に報告し、校長から親に謝罪をするように要求されました。 親は、教育委員会に報告し
    処分してもらうなどと言っています。 ....... 私は職務遂行上全く間違ったことをしていないと信じ
   ていますし、生徒は怪我したといっていますが、日常生活の上で何も支障はありません。 しかし、  
   その生徒は精神的にダメージを受けたと主張し、登校拒否となり、精神科にかかって診断書

   を親が持ってきて私の前に突きつけました。...... 私はいっさい謝罪する気持ちはありませんが、
   私が謝罪しないことで何らかの処分を下せるものなのでしょうか。 先生のアドレスはホーム
   ページ上で知りました。 わらをもつかむつもりで、先生にメールを送ります。 ....

  A. その時の状況や、とった行動を正確に校長、教頭、生徒指導の先生に話される事が
   大切です。
また他の生徒がどのように見ていたかも含めて。 引きずりおろしたことは、
   まずいことです。 非は非とし認めなければならないでしょう。 その生徒の日ごろの様
   子も含めて、よく関係者と相談してください。

 2003. 8. 20記         無断転載禁止