ー 私立学校が増えている
杉田 荘治
はじめに
先にイギリスの教育問題のうち、ロンドンの教員のストライキ、ウェールズ地方の教育、そ
の追記としてスコットランドの『学級定員』などについて述べたが、今回はオーストラリアの教育
の話題の一つとして、私立学校が増えていることを紹介しておこう。
T 公立・私立の割合
すなわち、2002年までの過去10年間で、私立学校の生徒は20.8% 増えたが、公立学校の生
徒は1% しか増えていない。 学校は全国で3.3% 減って9,632校になったが、そのうち公立は6.4%
減って、6,969校であるが、私立は6.1% 増えて、2,663校を占めるようになった。
全国の生徒数は約330万人で、その3分の2は公立の生徒ではあるが。
【資料】The Australian, 2003.2. 27号 オーストラリア統計局 2/26/2003発表
U 私立学校の増えた理由
全国私立学校協会事務局長のBill Danielさんは次ぎのように語っている。
○今や富める者の通う私立学校という“きまり文句”は当てはまらない。子供たちに更に良い教
育を受けさせたい。子供たちの個性が尊重され、学力においても振る舞いにおいても伸ばして
くれて、これからの不確定要素の多い社会でやっていける人物にしてほしいという期待が強く
なっている。 そのためには喜んで投資する。
○公立学校は兎角、問題が多いが、私立はそれを赦さない点がよい。
V 今後の公立学校
しかし、教育スペシャリストのTony Vinsonさんは次ぎのように言っている。
○それでも公立学校は頑張っている。現にの卒業生は高い国際的な標準で、ずっと良い成果を
挙げている。
○しかし、確かに公立学校は十字路にさしかかっているといえよう。多くの人的、物的財産をもっと
有効に活用すること、また思いきった投資を公立学校にすることが緊急課題である。
別件T 女子教員の増加
オーストラリア統計局のデータ‐によれば、男子教員は1992年度には、小学校で1/4であったが、
2002年度には1/5 になっているし、中等学校でも1/2 あったものが、44.9%
にまで減ってきている。
別件U 高校生の中途退学: 男子と女子の割合
高校生の10年生から12年生にかけて、卒業まで学校の留まり卒業する生徒は、
2002年度は77% であった。 その内訳、男子 72.4%, 女子 82%
因みに、1992年度では全体で78.6% であった。
コメント
わが国でも“私立志向”は少しづつ強まっている。『学校5日制』以来、特に都市部でその傾向は
強いようである。しかし、オーストラリアと較べても、まだ私立学校の数は少なく(後述参照)、
ことに地方では依然として公立学校に委ねられる教育も多かろう。 しかし反面、塾や予備校に
よって補完されている現実があり、その点彼らと大きく異なる。
今後わが国でも、たとえ経済的に貧しい家庭の子供でも、等しく優れた教育を公費で受けることが
でき、国家・社会も有為な人材を育成することができるという公立学校の良さが、“受けたことが出
来た”ということにならないように、一層の工夫と努力が期待される。
なお、別件で記載のように、オーストラリアでは男子教員の比率が問題視されている。この点、わが
国では可なり高く、男子にとっても教職は魅力あるものであることは喜ばしい。
【参考資料】 文部科学省統計より 平成14年5月1日現在
学校 | 公立・私立の全体(校) | 内、私立学校数 | 私立の% |
小学校 | 23,808 | 175 | 0.01以下 |
中学校 | 11,159 | 591 | 6.2 |
高校 | 5,472 | 1,321 | 24.1 |
○ 私立学校の生徒数
小学校...... 3,276名 全国生徒数での割合.........0.9%
中学校......12,396名 同上 .................................6%
高校......... 61,044名 同上................................29.2%
○ 女子本務教員の割合(全国)
小学校........ 62.6% 中学校...... 40.7% 高校......
26.6%
いずれも前年比で0.1% ー 0.5% 増
○ なお、わが国の高校における中途退学については、57. 統計からみた、わが国の教育事情
を見てください。 またその他57-2 本務教員数、生徒数、教員組合などの統計などを参照さ
れるとよいでしょう。
2003. 3. 4 記