72. イギリスのウェルズ地方は“教育を第一”とする方針

      追記 : ウェルズ地方は3歳児から7歳児の教育方法を変える

      追記 : スコットランドの『学級定員』問題   教員研修について


杉田 荘治

はじめに
    BBC News 2002. 12. 24日号は標記のような見出しで、Wales(ウェルズ)地方の最近の教育
    事情について伝えている。 イギリスについては先に、『ロンドンの教員ストライキ』について述
    べたが、ここではWales地方の教育問題について、その要点を述べておこう。(原典: Collette Hume)

    Wales地方の教育は政府の最優先課題であるが、良いスタートを切ったといえよう。
T 議会学習助成金について(ALG.: Assembly Learning Grant)
    議会は今年の初めに学生に対する助成金を再び交付することにした。 特に貧しい学生に支給
    されるのであるが、その額は最高で、年間約1,500 ポンド、平均で約900ポンドである。

U ウェルズ語について
    ロンドンを中心とする政策から地方へ権限を委譲する方針はJane Davidson教育長官の特徴的な
    スタイルであるが、それがウェルズ語の取り扱いかたに象徴的に表れている。 すなわち、GCSE
    といわれる植民地振興策にもとづいて、この地方の14才から16才の生徒は、すべてウェルズ語
    を第一国語または第二国語として履修しなければならない。 もっともそれは公式の試験のさい
    の義務とはしないが、しかし早い時期から生徒が熱心に学び継続することが期待されている。

V 小規模校について
    Wales地方の北西部の片田舎に多いのであるが、なかには全校生徒が九人という学校がある。
    それらはヴクトリア風の校舎で教室が一つしかなく、便所は屋外にある。 そこで、これらを閉鎖
    して子供達をもっと大きくて設備の良い学校へ移す計画があるが、これらの学校は家庭的雰囲気
    で、心の形成には良いと支持者たちは、その計画に反対している。 しかもそこでは言語も大きな
    問題事項になっている。すなわち、そこでは主としてウェルズ語で教育されているので、転校する
    と英語を話す友達から、言葉による“いじめ”が心配されるからである。

C 男子生徒と女子生徒との得点差
    GCSEにもとづいてWlales教委が実施したテストでは、ほとんどの教科について男子生徒の得点が
    女子のそれより10%、劣る。そこでこの地方最大の中等学校の校長で、来年には全国校長協会の
    会長に予定されているGareth Matthewsonさんは「何故、男子生徒がそんなに劣るのかを政府と大
    学がしっかりと調査し、その対策を確立する必要がある」と語っている。

X 教室補助員について
    ロンドンでは、教員の事務的仕事を軽減するために五万人の教室補助員が設けられる計画がある。
    しかし、この地方では教委自身にその責任を負わせることになっているので、それでは精精、入試
    事務や会計事務ぐらいしか教員の負担が軽くならないであろう。課題である。
    【コメント】 わが国では大都会でも地方の学校でも、このような差はない。ロンドンの教員の地域手
           当ても大きく異なるように、やはり地域間格差が大きい。

Y 成績目標不達成
    GCSEによるテストの結果では、その目標に達していない。 すなわち議会は50% 以上の生徒がCレベル
    以上を取ることを期待していたが、37%の者しか取れず、また依然として11校が25%以下である。

Z 学位取得について
    来年から『ウェルズ関係の学位』については全国的に大学などで、言語、理科、社会の単位はAレベル
    を取ることが必要になる。イギリスにいるAレベルの学生のなかには大学基金にたいする政府の今後の
    政策に期待している者もいるし、Wales大学も学生たちからは余分の授業料を取らないといっている。
    またウェルズ人学生にも、もっと幅広く教育し彼らに魅力を感じさせる必要ながある。
  Jane Davison教育長官は“酒のお代わり”程度の教育政策ではなく、真のウェルズ振興政策について段階
  的に進める必要があるといっているが、まだまだ不十分とはいえそれは確実に着手されたといえよう。

コメント
    ご覧のとおり。少数民族尊重の教育については各国とも配慮しているが、イギリスでもウェルズ公国の
    ブライドを尊重し、ウェルズ語を英語と同じように扱っていこうとするなどの教育政策がとられ始まったこ
    とが理解されよう。

 2002. 12. 28記           無断転載禁止

追記(2003. 2. 16)   ウェルズ地方は3歳児から7歳児の教育方法を変える

    ウェルズ地方の議会と政府は、3歳児から7歳児までの教育について、今までとってきた公式的な“詰め
    込み”教育をやめて、もっと『遊びを基本とした教育』へと切り替えることにした。 これは画期的なことと
    いえよう。
    今までは、幼い子供たちに読み方と書き方について早い時期から実施してきたが、その結果、子供たち
    は自信を失い教育そのものを受け入れない例もかなりあったし、3歳児から7歳児についてもよくないと
    いう研究結果も出た。 椅子に座らせて余りにも多くのことを学ばせるよりは、もっと“明確な構造のある
    遊び”: well-structured play や“実際に体を動かすこと”:practical activity、“探求する教育”: investigation
    の教育が彼らにとってはよい。

    このような新しい教育方法を第一段階として7歳児まで実施し、その後、第二段階として11歳までには、
    読み書き能力や計算能力を補い、更にその後、17歳までは学校・教室での授業時間を増やしていくこと
    が適しているのである。 従って今回、改善した3歳児から7歳児までの時期には“刺激”を与え、彼らが
    生涯を通じて自分たちの能力と可能性を発揮していくことに中心をすえることにしたのである。
    
    Jane Davison教育相も「長い間、論議してきたが、われわれは確実にこれを行なわなければならない」と
    語っているし、議会も2004年9月から実施できるように予算の措置を講じ始めている。 また教育相は新し
    い委員も任命し、11の研究所も共同して次ぎの4分野について計画を練ることになった。 すなわち、
    ○プランそのものを作ること  ○このプランの周辺の問題   ○公開されるプランに接続する方法
    ○担当者の訓練 である。       【資料: BBC (2/12/2003記事】

コメント 幼稚園児や小学校低学年児のことは、よくわからず、また一般的には学力不足だからもっと“詰め込
     め”とか「幼児の早い時期からの読み書きを!」との評論が聞かれるが、これはその逆で、遊びや体の動
     かし、探す心に重点を置こうとするものである。また議会も予算化することも面白い。

追記(2003.1.4)      スコットランドの『学級定員』問題と教員研修

    イギリス・スコットランドの最近のニュースを付記しておこう。 それはBBC NEWS 2003. 1. 3日号が伝え
    たものであるが、クラス・サイズ(class size)、『学級定員』について、スコットランド最大の教員組合であ
    るEIS ( Education Institute of Scotland )が「現在、クラス・サイズは33名であるが、それは1970年代に
    制定されたもので、20名にすべきである」と要求している。
    これは、PolandやPortugal、Belgium, Spainと比較しても悪いといい、しかもRonnie Smith書記長は21世紀
    に入り、ここ30年間据え置かれた定員を是非とも議会は改正する必要がある。 そのことは国際的データ‐
    によっても明らかであり、たとえクラス・ルール助手を増やしても、代替にはならない、といっている。

    これに対してスコットランド主席行政官は、「小学校の3年間のクラスは既に30名まで減らした」といい、また
    Ctthy Jamission教育長官は、「クラス・サイズの問題は長い期間をかけて行なわれるべきである」と警告し、
    またその問題だけではなく、適当な校舎のこと、設備、クラス・ルーム助手、補助員のことなどを含めて検討
    される必要があると語っている。 しかし中等学校の一年・ニ年生については優先課題にするとのことである。

    親と教員との共通意識は高まってきており、政府や議会では過去25年間、攻防が行なわれているが巧く
    いっていない。

コメント     教員研修について

    ご覧のとおりであるが、どの国でも『学級定員』を巡る攻防は同じようである。しかし、ここでは現在33名を減らす
    件である。 わが国でも『40人学級』の問題があり、地方自治体によっては独自の予算や主任教諭の持ち時
    間を遣り繰りしながら、『学級定員』を減らしたりしているところもあるし、文科省の方針も最近少し変化してきて
    いるように思われる。
    しかし教育効果を挙げるとなると、すぐ学級定員の問題になり、また例えばガイコク人の英語実習助手の増員、
 、  コンピューターの増設などのいわゆる「ハコ」の問題になり勝ちであるが、それらと表裏一体の教員研修についても
    再検討される必要があると考える。
    というのは、現在の研修は校内研修、地区のもの、精精、県教育研究所での研修など「内輪」でのものが大部
    分であるから、特に校長、教頭などの肩書きや“プライド”が邪魔をしたり、時には“馴れ合い”、遠慮なとがあっ
    たりして身につかないものも多いように思われる。むしろ「外部での研修」を増やす必要がある。
    そのさい、コンピーターにせよ英会話にせよ一市民として、AさんBさんとして勉強し、身につけることが重要であ
    る。 そのために教委は、彼らがそれを受けることができるようにするための時間の確保、費用の大幅な援助な
    どを保証すること。そのために「ハコ」に対する予算の半分ぐらいは、学校に配分するくらいの施策が望まれ
    る。

    教員に対する研修についての校長、教頭の配慮も同じである。個々の教員が自己の欠点を補い、また長
    所を一層伸ばすような研修計画を承認し、時間、費用について実質的に援助することである。
    最近、特別区で現行制度よりは、より自由な発想な方法で公立学校を運営することができる方策が浮かびあ
    がってきているが、これを各学校でもできるように思われる。前述英語実習教員についても、管理職や主任の
    教諭などが彼らを“お客様”扱いし、彼らを“使っていく”工夫と気概に欠けることも多いようである。 コンピュー
    ターの活用についても然り。管理職が殆どその「ハコ」に触れず、一部教員の「ハコ」になっている実状もあろう。
    従って、「外部での研修」によって相当、身につけて相談に乗ったり、指示することができる管理職であり、また
    一般教員も自信をもって指導することができる力量を身につけた人であってほしい。
    
    クラス・サイズ、『学級定員』の問題は、このような教員研修と一体となって推進されることを期待したい。