杉田 荘治 Shoji Sugita
はじめに
アメリカで学校に“麻薬を嗅ぐ犬”を導入する問題については、先に
『13. 学校における服装検査』のなかで主として判例を中心にして述べ
たが、今回は最近 Los Angeles Times (4/21/2003)号が、この問題を
報じているので、これを次ぎのように要約しておこう。
ロサンゼルス教委は学校へ“麻薬を嗅ぐ犬”を導入した
T 導入の背景
公式の統計報告によれば、最近数年間で、Los Angeles教委管内で
麻薬による生徒の違反事件が倍増している。それらには麻薬を所有す
ること、売買すること、また吸うことも含まれているが、マリファナに関係
したものなどで恍惚となったり、スピードといわれる“麻薬”のようなものも
ある。
2000-01 学年度には1,098名の生徒が違反しているが、次ぎの年度に
は2,515名に増えている。
U 捜索の様子
実は実際に教室に“麻薬を嗅ぐ犬”を入れたのは、Los Angeles教委
管内では初めてのことなのである。過去には民間会社と契約して、幾
つかの学校の校内を探すことはあったが、最近、キンバーという名前の
犬をロス教委が5,000ドルで購入したが、その他にアメリカ・ガイド犬協
会から借りたバディという犬も加わっている。
典型的な捜索の例は、例えば先週、中央ロス市にあるBethune中等学
校では、生徒には不意に8年生クラスの教室て゛、すべての生徒は立っ
て座席から離れ廊下に出るようにいわれ、それからバディが部屋へ入
れられた。彼は敏捷に座席の間の通路を走り回った。 この時は不審
な物はなかった。
キンバーについても同じようなことで、この犬は今までに、たいした苦労
もせずに何回も麻薬を発見した実績をもっているがこの度、初めてロス
市で仕事を始め連合教育区の中等学校と高校で使われている。
このように2匹の犬を使って教委専属の警察官が学校管理職の求めに
応じて出動し予告なしに捜索する。年に二回程度。 しかし生徒の身体
には触れず、持ち物についてだけ行なわれる。 それでも麻薬を校内に
持ち込もうとする十代の若者たちをしょんぼりさせる効果がある。約1ヶ
月半前から約45回、実施され校内あるいは学校の近くで発見している
が例えば、マリファナが教室の床に落とされていて、その所有者がわか
らなかったとき、車の中で麻薬を持ち、ずる休みしていた二名の生徒
を発見た例などが゛ある。
実際に発見されるのはごく稀だが(今までに4回)、生徒のナップサック、
ロッカー、車も今や安全な隠し場所ではないというメッセージを発してい
ることになる。
V 今後
ロス市の財政は危機的であるから警察は銭や警察犬を寄付してくれる
ことを望んでいる。犬は10頭ほしい。California州もこの戦略を採用す
るが、全米で最も多くの“麻薬を嗅ぐ犬”をもって会社は23州にわたって
41のフランチァイズを持っているが、そこと契約して同州の800以上の学
校を対象にしている。
W 反応
ほとんどの生徒はこのような捜索には無関心である。しかしごく僅かの
生徒はこの方法を好まず「自分たちのすべての素材の中へ入り込んで
くるようなものだ」とある8年生がいっている。勿論、麻薬防止のために
賛成意見もある。
ある市民権論者はこの戦略に反対し、生徒のプライバシィを侵害し、こ
の動きが全米に広まることを恐れているが、「それは丁度、学校を第2
次世界大戦時の強制収容所のような処にするものだ」と批判している。
X その他
ところでよく訓練された犬の鼻は人間の嗅ぐ力の1000倍以上の能力
があるといわれている。数分でフットホール球場に落ちた一滴の赤ん
坊の涙でさえも嗅ぎ分けることができる。従って生徒の鞄にマリファナ、
コカイン、メタンフェタミンの形跡があればバディは確実にそれを発見
すると捜査官が話している。
コメント ご覧のとおり、“麻薬を嗅ぐ犬”の導入は確かに麻薬持ちこみな
どの抑止効果は大であろう。しかし「強制収容所」とまではいかない
にせよ教育環境として嘆かわしいことはいうまでもない。
2003. 4. 23 記 無断転載禁止