63. 提言ー都道府県による学力標準テストを創設
      されること【一部再掲】


 杉田荘治

T  将来、創られるであろうチャータースクールからみても、都道府県による学力
   標準テストは必要である
 『41-5 学力標準テストとチャータースクール』でも述べたように、わが国でチャータースクールが
出来そうで出来ない最大の理由は、国や県などによる学力標準テストがないことだと考えている。
チャータースクール制度はスクールにかなりの自由を与える、そのかわりにそれ相当の「責任」を
果たさせるという考え方が基本であり、しかもその「責任」を計る要因の最大のものは州や教委、
国、県などの学力標準テストである。
アメリカの場合と異なり、学習塾や予備校によって標準テストのようなものが実施されているわが
国では、やむを得ない面もあるが、いつまでもそのままでは済まされないであろう。
 アメリカでは、チャータースクールも学力標準テストを受けなければならず、しかもその成績は詳
細に公表される。詳細、前述『41-5』編。 ホームスクールの生徒でさえも受検しているが、まし
てや公費によるチャータースクールにおいては当然のこととされている。従って日本型チャーター
スクールといえどもこの点を抜きにして『公開の説明会』や認可者もしくは第三機関による評価だ
けでは不充分である。
提言  新設されるチャータースクールの生徒も都道府県による『学力標準テスト』を受け
     ること。

    ○ 小学生高学年、中学2年、3年生、高校3年生【後述卒業認定テストとして】
    ○ 国語、社会、数学、理科、英語の基礎教科またはその一部、高校は別途、後述
    ○ 年、一回以上
    ○ 問題は公表されること。
    ○ 問題は、小学校では主として小学校教員により、中学、高校につててもそれぞれの教
      員を主として、どの教科・科目についても二つ以上のグループによって作成される。
      そして実施される毎に、無作為によって問題が選定される方法による。 問題漏洩防
      止、また現職教員の具体的現職教育にもなろう。
【コメント】 これによって、無学年制をとるチャータースクールでも生徒一人ひとりやスクールの
      学力の変化を知ることができる。 但しチャータースクールの評価はもっと多面的であ
      るから、多少の変化は余り問題視しないこと。
      また、スクールの成績の公表については、アメリカとは国民感情も異なるので、慎重を
      期す必要がある。いずれにせよ、通常の学校の成績の公表方法より厳しくすることは
      許されない。

【参考1】  音楽、美術、ダンス、絵画、彫刻、コンピューターなど特色あるチャータースクール
      につていは、認可要件のとおり、展示会、発表会などを実施し、その専門家に評価を
      受けることは当然であろう。 また通常の学校への不適応生徒などのチャータースクー
      ルにつていも、親の満足度、生徒本人の満足度、旧担任教員の感想など、この学力
      標準テストの成績以外のものがより評価される方法があろう。

【参考2】  一例 アメリカのMarysville 芸術・技術チャータースクール【再掲】
     1 このスクールは、7年生から 12年生( 中・高校生)に対して、創造的な芸術・技術を
       発達させることを目的とする。  2000年4月18日に認可された新しいスクールである。
      特色
       音楽、ダンス、ドラマ、絵画、彫刻、文字表現、マルチィ・メディアの重視
      そのために、コンピューターの操作や利用、デジタルカメラの利用など、技術教育も重視
      している。
     2 評価の方法
      次の三領域の総合とする。
      ・ 国・社・数・理・外国語の標準テストの成績...... 生徒は標準テストを受けなければ
                                    ならない。
      ・ 発表、展示した作品や演技の評判と査定....... また、地方の劇場で音楽、ダンス、
                                ドラマの演技をおこなうことも期待それる。
      ・ “いつでも、どこでも学ぶ”という生涯を通じて学ぶ姿勢..... また、地域社会で、それ
                                らの仕事に協力することも必要である。
   標準テストとしてはCalifornia州標準テスト: SAT9 ( Standard and Testing-9 )をうけ、
  リーディングと数学では、90%以上の生徒が、これをクリアすることを目標とする。
  また、郡の書き取り統一テストでは、90%以上の生徒が、スコア4以上をとることを目標とする。     
U 中学生の学力標準テストは『高校入試の資料』としても活用できる。
 指導要録の改定に伴い、クラス内のテストの成績順などを較べる相対評価ではなく、生徒一
人一人の学習到達度を測る絶対評価に改められた。

 明年度(2003)の高校入試について、絶対評価そのものを適用していくのか、それとも今まで
の相対評価によるとし、その後のことについては絶対評価の定着度などをみてから決めると
するなど、都道府県教委の対応も分かれている。 絶対評価には、筆記試験のほかに教師に
よる観察、面接、生徒の作品、ノート、レポートなども評価に使うといわれても、絶対評価の客
観性の決め手にはならない。

 ましてや個性豊かなA教員が、クラスの総ての生徒に「5」をつけたとしても、校長といえども、
これを変更させることは可なり難しいのではないか。 ましてやA校、B校.... など学校間の差
異はいかんともし難いであろう。 中学校からの内申書(調査書)の評定基準の混乱は目に
見えている。 このためにある県の私学では、自分たち独自の学力標準テストを作るなどの対
策も講じているが当然のことといえよう。

 従って、公立高校入試について、都道府県が責任ある者として、中学2年生、3年生に対し
て、学力標準テストを実施されることを望みたい。
試案(例)
 ○ 中学2年、3年生の全員    ○ 科目... 高校入試科目と同じ  ○ 時期.は二学期ま
   たは三学期
 ○ レベル... 実施時期を考慮して判断する。
 ○ 問題作成委員....都道府県教委が選んだ、主として中学校教員、教科ごとに二つ以上
              のグループはそれぞれ問題を作成しておく。   

 ○ 問題の決定方法... 無作為によって上記の問題から、その都度、決定される。
 ○ 点数などの結果.... 都道府県教委が保管し、生徒本人と中学校へ知らせる。
 ○ 高校入試にさいし、高校からの問い合わせに対して、必要な生徒、中学校分について
   答えるものとする

  従って、アメリカでは完全に公表されているが、わが国の国民感情からして、A校、B校な
  どの公表は避ける。
 
【コメント】 学習塾などが、その点数などを把握することが考えられるが、やむをえない。 
      このテストを実施するほうが、より良いからである。 以前、『ザル法』といわれた食糧
      管理法も無いよりは、その効果が大であった。 今後、主として中学校側の具体的
      な意見などを期待したい。
V すべての高校3年生に卒業認定テスト(高3学力標準テスト)を実施されること。
 最近、私立大学や短大の“青田刈り”が増えていると聞く。
OA入試とか推薦入試説明会とか、大学紹介・案内などとの名目の違いこそあれ、なるべく早
く「学生を確保したい」とする“青田刈り”には変わりはない。 そのため早々と夏休み前後には、
自分の進む大学等が決まってしまい、高校によっては二学期以降、授業が成り立たなくなると
ころも現れよう。

大学側に、その生徒に対して課題を与えてもらうなどの“善処かたを要望”したり、高校独自で
特別に課題を与えたりするであろうが、絶対評価方式に変わった今後、現実は厳しいものにな
ると予想される。それらの対策を含めて、高校3年生全員について卒業認定テスト(高3学力標
準テスト)を実施されることを望みたい。 責任者、都道府県教委

○ 科目... 大学入試センター試験の科目とその他の科目、 その科目とは高校3年次に履修
      している科目をできるだけ多く採用する。
○ 受検科目.... 生徒に五科目以上、選択させる。
○ 問題のレベル.... まず普通に学習しておれば誰でも合格できる程度とする。【註】自動車
             運転免許試験の学科試験程度か。
○ 合否..... 判定は『合格』、『不合格』。 点数は必要なし。
○ 時期..... 12月または1月
○ 追試..... 『不合格』の科目は、追試を受けることができる。 1月下旬頃
       それでも『不合格』の場合は、その旨を成績原簿などに記載する。
○ 卒業証書との関係.... 『不合格』の科目があっても高校長は卒業証書を与えることがで
  きる。 しかし、大学などから照会があれば、その旨を答えるものとする。なお、追試は
  卒業後も受けることができる。
 【註】 このことは“青田刈り”大学などの評価にも通じるであろうし、またその生徒の大学
     入学後の補充授業の資料にもなろう。
○ 大学入試センター試験との関係.... 重複を避ける方法があれば、それによる。 しかし
                        点数表示ではなく『合格』、『不合格』判定なので無
                        理であろうか。
○ 問題作成について..... どの科目についても3種類以上、準備する。 作成委員は都道
                府県が選定した主として高校の教員とする。
○ 問題の決定....... その年度、無作為によって上記の問題のなかから決められる。
【コメント】 最高裁判所の裁判官の国民審査は、やはりそれなりの効果はあろう。この認定
       試験も、生徒本人、高校、大学などに適当な緊張感を与えるだろうと考える。
W その他  高校入試について
 全県または現行より可なり拡げて、生徒に自由に自分の受ける高校へ出願させる。 
また高校も独自の選抜を実施する。 但し、都道府県教委は次のようなガイドラインを設ける。
○ 日時 ... :現行どおり
○ 教科....... 国語、社会、数学、理科、英語の5教科は必ず点数化できるものによる。
○ 入試問題... その高校独自のものでもよいし、教育センターなどにその年度分として保管
          されているものを利用してもよい。 またその併用でも構わない。
          センターで保管されているものは、教科ごとにレベルなどを考慮して数個以
          上、準備されているものとする。
○ 選抜方法.... 面接重視、教科によるウェイト、その他、公表されている方法による。
不合格になった者の措置
 ○ 定員不足の高校の二次試験...... 一次入試前後、できるだけ早い時期に公表される。

 ○ チャータースクールとの関係... 学力の優れた生徒も偶々、不合格になることもあろう。
          それ相当への私学への道もあろうが、公立学校としてのチャータースクール
          が創られておれば、それに入学する道もあろう。 現行の通信制高校や定時
          制高校に併設する方法がないか。 神経質で普通の高校になじみ得ない生
          徒にも却って適する場合もあろう。
          できるだけ“15の春を泣かせない”学校選択の方法は、もう少しあるように思
          われる。
コメント
     わが国でも学力標準テストを創る機運は高まってきていると考える。すでに優れた『共通一
    次』、『大学入試センター試験』の実績を持っているが、今度は各都道府県の番である。“学
    力標準テストを創る”と決心し、前述のように現職教員を活用されれば、案外、生みは易いか
    もしれない。また、テストの弊害のみを強調するのではなく、わが国らしいその善用も検討され
    ながら逐次、実施されることを望み、教育関係者の具体的対策や提言を期待したい。
 2002年7月16日 記          無断転載禁止