53. アメリカの教員のストライキ その1
杉田 荘治:Shoji Sugita
はじめに
アメリカ(U.S.A.) では、殆どの州で教員のストライキを州法で禁止している。
そこでその例として、Mississippi州など数例を、まず見ることにする。 次ぎに、それにも拘わらず
幾つかの州や教委管内でストライキが起きている。 さすがに昨年の『同時多発テロ』の後は起き
ていないようであるが、しかしその動きは十分あるし、ましてやそれ以前ともなると現に起きているが、
それらを見てみよう。
その後、ごく僅かではあるが、教員のストライキを禁止していない州があるが、そのうちの一つであ
るOhio州の州法について述べる。 さらにストライキに対する処分についても触れ、わが国の場合と
比較したい。
T 教員のストライキ禁止の州
1 Mississippi州の場合
この州は州法で教員のストライキを禁止している。 すなわち、
正式採用教員(本務教員: certified teachers )は州内で職務を止めることを申し合わせたり、また
どのような方法であれ職務の遂行を拒否するようなストライキを宣言することは違法である。
またそのグループや組織がストライキを促し、勇気づけ、参加することも違法である。
そのストライキのなかには、職務について報告しないこと、意図的な欠勤、仕事をやらないこと、
意図的なスローダウン、忠実で適当な職務遂行を一部にせよ全部にせよやらないことも含まれる。
その他、管理者も、そのようなストライキを許可してはならず、たとえ許可したとしても、それは無
効である。 このことは各地方教委の場合も同様である。
また教委側は裁判所に『差止め命令』:injunction を求めることも規定している。
関係法令を下記しておこう。
Mississippi Code of 1972. SEC. 37-9-75. Strikes by teachers
(2) It is hereby declared that a strike, concerted work stoppage or concerted
refusal to
perform lawful duties in any manner by certified teachers against
public school districts
within the State of Mississippi shall be illegal, unprotected and
contrary to the public
policy of the State of Mississippi.
(3) No certified teacher, group of certified teachers or teacher organization
shall promote,
encourage or participate in any strike against a public school district,
the State of
Mississippi or any agency thereof.
2 New York州の場合
この州も教員のストライキは禁止である。 すなわち、New York State, Civil Service Law,
Article 14. section 210 には次ぎのような規定がある。
ストライキを禁止される公務員(public employees ) のなかに教員も含めて、職務の報告をしな
いこと、恣意的な欠勤、仕事を止めること、忠実に職務を遂行することを全部にせよい一部にせよ
放棄することなどはストライキである。 またストライキ1日について二日分の給料をカットする、
また一人でもストライキになりうる、など。 関係法令を下記する。
NYS Civil Service Law....... New York State
Strikes
Strikes by public employees against the State or any public authority
or local
governmental urisdiction, including a school district, are prohibited
by Article 14 of the
Civil Service Law, also known as the Taylor Law.
CSL Section 210....... Civil Service Law, section 210
The statute presumes that an employee who fails to report for duty, is willfully absent
from his/her position, stops work, or abstains in whole or in part from the full, faithful
and proper performance of employment duties, has engaged in a strike. Under this broad
definition, it would be possible to have a one-person strike, as --concerted action by
two or more employees is not necessary. The statute provides for the loss of two days'
pay for each day the public employee is on strike.
3 Michigan州の場合
この州でも同様の禁止規定がある。 「公立学校教員はストライキをしてはならない。 また学校
当局はロックアウトをしてはならない」。 原文下記
Public Employment Relations Act 336 of 1947.
423. 20 2.... Strike by public employees: lockout by public school employer.
Sec.2 ........... A public employee shall not strike and public school employer shall not
institut a lockout. .........
U しかし教員のストライキは起きている
1 今年(2002) 1.9日号 Michigan Center for Public Policy: Policy Reseach by Mr. Joseph P.
Overtoによれば、Michigan州は前述のように禁止の州であるが、しかし過去10年間に100件
以上の違法ストライキ( illegal walk-out ) が起きている。
2 New York 州でも同様である。 すなわち、禁止の州であるにも拘わらず、Education
Week,
2000. 9.13日号 By Julie Blair によれば、N.Y.州のBuffalo市では、教員はここ24年間で始め
て先週ストライキをしようとしている。 すなわち、N.Y.州はTalor法によって教員のストライキが禁
止されているにも拘わらず、NEA( 全米教育協会)と連携したBTAは自分たちの経済的損失を最
小限にするための方法である、いわるるローテンション方式によるストライキを計画した。
それは9月7日の学年開始の日は家に留まり、9月8日には忠誠を尽くす表れとして出勤した。 そ
して選ばれた学校が5日目にあたる1日だけストライキをするというパターンでストライキをやってい
くのである。
今、市の教員は新たな協約なしに働いていることになっているが、その発端は、教委はこれから4
年間に14%の昇給案や校長にもっと教員採用の裁量権を与えるという案、また授業日数を増やす
という案に反発し、もっと給料を大幅に引き上げること、一クラスの生徒数を少なくすることなどを
求めてのストライキである。
3 その他、前述1のMichigan Center の記事によっても、Boston市やLos Angeles市でも交渉が
行われ、Ohio州のCleveland市やDenver市でもストライキをやると驚かして協約が結ばれた。
また、New Jersey州のHamilton TownshipやPennsylvania州のPunxsutaway,
Ohio州の
Richmond, Height などの小さい教委管内でもストライキは起こっている。
【コメント】 このようにストライキがしばしば起こるような大きな都市の場合には、そのゴタゴタが
続けば、州の直轄に移すような動きも出てこようと、この著者は述べている(
plunged
into chaos by a strike,......allows the state to take over
the district, ....... )。
V 教員のストライキを州法で禁止していない例
教員のストライキを州法で禁止していない州は極めて少ないが、その一つにOhio州がある。
すなわち、Ohio Public Collentive Bargaining Act には、州の公務員のうちで、警察官、消防士、
ハイウェイパトロール、代理保安官、救助員、緊急チームの監護士、盲聾学校職員、矯正・精神施
設職員などはストライキ禁止であるが、そのなかに教員は含まれていない。 (D) (1)
従って教員のストライキは違法ではない。 但し次ぎのような条件が付けられている。 すなわち、
その職員団体は10日前に文書でストライキの意図をその雇用者と関係委員会に通告すること、そ
の日数、また同じ交渉事項で行った先回のストライキから10日以上たっていることなどである。
しかも関係委員会は、いつでも仲裁を依頼することを念頭におくこと、また調停者の調停に強く両
者は期待することなどが盛り込まれている。 関係原文・下記
the Ohio Public Collective Bargaining Act :ァ 4117.03 Public employees rights.
(2) Public employees other than those listed in division (D)(1) of this section have
the right to strike under Chapter 4117. of the Revised Code provided
that the
employee organization representing the employees has given a ten-day
prior
written notice of an intent to strike to the public employer and to
the board, and
further provided that the strike is for full, consecutive work days
and the beginning
date of the strike is at least ten work days after the ending date
of the most
recent prior strike involving the same bargaining unit; however,
the board, at its
discretion, may attempt mediation at any time.......
付記
教員のストライキを州法で禁止していない州は、Martha M. McCarthy"
PUBLIC SCHOOL
LAW" 2d, ALLYN & BACONによれば、Alaska, Hawai, Minnesota, Ohio, Oregon,
Pennsylvania, Vermont, Wisconsinの各州がある。その後の変化については不明であるが、
しかしこれらの州といえども州裁判所は教員のストライキについては厳しい解釈をしているよ
うに思われる。
例えばAlaska州最高裁は、「州法は明らかにストライキを容認(grant) しているわれではない
ので」としてそのストライキを禁止した。Anchorage Educ. Ass'n v. Anchorage
School
District, 648 P.2d 933 ( 1982 ) また実際にストライキが不可避となった場合でも教委
側は裁判所に「ストライキを差し止めるように」との差止め命令(injunction )を求めることが多
く、その『差止め命令』が出れば、教員側もそれに従わなければならない。 一方、裁判所は
教委が団体交渉で誠意をもって応じたか、そのストライキは当面、明らかに危険であるかどう
か、また回復できない程度の害があるかどうかを判断するし、その面での教委側に挙証責任
を求めることも多いので、事実上、教委側・組合側ともに慎重な行動をとるようになるので、州
法で教員のストライキを禁止していないからといって、それが直ちにストライキに結びつくと考
えるのは早計である。
むしろ教員にストライキ権を認めながら、他の労働者とともにする『統一ストライキ』こそ問題
にすべき。 というのは、教員がそれに引き付けられるからである、との意見がある。従って、
そうさせないような新法を制定したほうが望ましいとする意見がある。参考になろう。
W ストライキに対する処分
1 New York州では、ストライキ1日につき2日分の給料カットである。 従って比較的軽い処分
といえよう。
2 前述MaCarthy『Education Law』 2d によれば、州によってまちまちで、また軽重がある。
Florida州ではストライキの後、1年間、給料カットを回復することを禁止している。 Fla.
Stat.
447 sec.507, (5) (6)
3 Minnesota州では、1年間、昇給させないし、ストライキ日数のカットの回復もしない。
Head v. Special School Dist. No.1, 182 N.W. 2d 887 ( Minn. 1970 )
4 New Jersey州では、裁判所の『差止め命令』を拒んで、罰金と投獄。
Board of Educ. of Newark v. Newark Teachers Union, 276 A. 2d 175 (N.J.
Surpr.
1971)
5 Wisconsin最高裁では、1日のストライキについて10ドルの罰金が科せられた。
Joint School Disrict. No.1 City of Wisconsin Rapid v. Wisconsin Rapid Edu. Ass'n,
234 N.W. 2d 289 (Wis 1975)
【コメント】
ご覧のとおりであるが、一般的にはストライキの処分は軽いといえよう。 わが国では近年、教
員のストライキは起きていないが、二十数年前には、早朝1時間とか2時間とかのストライキが行
われ、それに対する処分は、その分の給料カットのほかに3月分の昇給延伸やボーナスの減額な
どが全国一斉に実施された。 それらは退職手当や年金の減額にも跳ね返り大きな問題になった。
その後、かなり経ってから復元の措置がとられたが、それに比してアメリカの場合は軽い。
しかし、裁判所の『差止め命令』に反して授業をボイコットしたり、第3者による調停に従わない場
合は解雇も当然とされるなど、彼我の差がみられる。
アメリカでは、わが国と較べて、教員の社会的地位は低く給料も低いように思われる。 従って、
ストライキ禁止規定の有無に拘わらず、また合理性についての国民感情の違いも働いて今後も十
分、ストライキは起きるであろう。 特に大都会の公立学校では、そのわずらわさから、丸ごと民間
経営に委託し労使の労働問題として取り扱われる懸念も出てこよう。 変容した教員組合といわれ
る全米教育協会(NEA)などは、どう動くのであろうか。
また、わが国でも、いわゆる『学校五日制』の実施とともに、公立学校教育を学習塾や予備校が
補完する度合いも強くなることは必然であり、相対的に公立学校教員に対する批判も強くなろう。
ストライキは別として、この間、教委側・組合側はどう対処するのであろうか。
..2002. 2. 14記 無断転載禁止