杉田荘治
はじめに
このことについては既に第101編などで述べたが、最近またその質問を受けたので改めて
まとめてみることにする。 主として『全米体罰禁止連合』: the National
Coalition
to Abolish Corporal Punishmentの資料を利用するが、その出処は連邦教育省であり客
観的、適切なものあると考えている。
T 『全米体罰禁止連合』:NCACPS 2005年11月発表分から
そこでは全米の2002年〜2003年度状況について述べているが、まず図表で示す。
1 体罰禁止の州・容認の州
左図のように、 ○ 体罰禁止の州は Alaska, California, など28州である。 ○ 体罰容認の州は、 Alabama, Arkansas, Colorado, Idaho, Indiana, Kentucky, Louisiana, Mississippi, Missouri New Mexico, South Carolian, Tennessee, Texas, など白色の州である。 ○ しかし州としては 容認でも実際には、 その2分の1以上の地方 教委が禁止している 州は、Arizona, Utah, など斜線を引いた州 がある。 |
2 体罰を受けた生徒数とその割合 (公立小学校・中等学校)
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左表のとおり、 ワースト10州は、 Mississippi, Arkansas, Alabama, Tennessee, Oklahoma, Louisiana, Georgia, Texas, Missouri, Kentucky ................................. また全米の総数 は、30万1,016名、 その割合は0.6% である。 これは 前回(3年前)の それと較べると 少し減っている。 【註】 この数は 合法とされる体 罰である。 |
U 体罰は減少傾向にある
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ご覧のとおり減少 してきている。 【註】第101編の数 と比較されるとよ い。 しかし、停学は増 えてきていないか。 |
V 停学は増加傾向にある
停学の統計について最近の連邦教育省によるものは、2004年発表分である。 もっとも
それは2000年度実施のものであるが、全米で停学になった生徒数は約305万人である。
停学になった生徒数 3,053,449 |
内、男子 2,182,273 |
内、女子 871,176 |
全米生徒での割合 6.6% (男子 9.2%) (女子 3.9%) |
参考 白人 5.1% 黒人 13.3% ヒスバニック 6.1% アジア系 2.9% 原住民・太平洋 7.7% |
この数の変化については次の資料でも知ることができる。 もっとも、9.11テロ事件以降
アメリカ全体の緊張感などの要因も加わるので、単純に数だけを比較することはできないが、
しかし体罰は減ってきているが停学は増加しているといえよう。
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左の資料はRethinking Schools であるが、その出処は連邦教育 市民権局である。 U. S. Department of Education Office for Civil Rights |
停学統計について追記 2011年
2010,年5月発表 2006年度 公立小学校・中等学校 停学状況は次のとおりである。
停学になった生徒数 3,328,750 |
内 男子 2,272,290 女子 1.056,470 |
全米生徒での% 6.9% ( 男子 9.1% ) ( 女子 4,5% ) |
白人 4,8% 黒人 15.0% ヒスパニック 6,8% アジア系 7.7 % 原住民 7..9% |
なお退学は全米で102.080人である。
W その他
1. 体罰容認の州法(例)
○ North Carolina
公立学校人事管理規程 8章生徒との関係のなかに、"過度でない体罰は考慮され
てもよい"と書かれている。原文は;
The local board may consider expansion of requirements to ensure
that any
exercise of corporal punishment will not be excessive. 【註】第3編参照
○ Georgia
GSBA Legislatives Positions
この7の4に体罰に関する規定があり、Georgia 州教育委員会は地方教育区
で体罰実施を制限するような規程を設けることに反対する旨、述べている。
○ Ohio
Ohio Revised Code, Title 33 Education Section 3319.41に、
A board of education of a school district that permits the use
of corporal
punishment as a means of discipline pursuant to a resolution
adopted by the
board pursuant to division (A)(1) of this section shall permit
as part of its
discipline policy the parents, guardian......として容認している。【註】第26編参照
○ Texas
これについては第95編を見てください。 そこには、Texas Penal Code
Sec. 9.62
EDUCATOR - STUDENT 9.62節 教育者と生徒との関係において、に容認の規程
がある。 また最近(2005年9月1日実施)の回答が次のように出されている。
参考までに原文を下記しておこう。
SECTION 1. Chapter 37, Education Code, is amended by adding
Subchapter
Z to read as follows: SUBCHAPTER Z. MISCELLANEOUS PROVISIONS
RELATING TO DISCIPLINE
Sec. 37.901. CORPORAL PUNISHMENT. (a) In this section, "corporal punishment"
includes hitting, spanking, paddling, or deliberately inflicting
physical pain by any
means on the whole or any part of a student's body as a penalty
or punishment
for the student's behavior on or off campus.
2. 体罰することを拒んで辞職させられた例
これについては、第129編で述べたが、概要は次のとおりである。
ミシシッピィー州のCarver中等学校の副校長Mclaneyさんが規則によって、生徒をパドルで
叩くことを命ぜられたが、従わず結局、辞職させられた例である。 彼は辞職する前、州司法
長官事務所にも相談したが「パドルを拒む理由はない」と忠告され、さらに教員組合からも同
じようなアドバイスを受けていた。
【註】この項の原資料はWashington Post
2004年2月21日号であるから詳細は、それを
読んでください。 なお、このCarver中等学校は生徒が7年生と8年生のみの学校で
その総数は約283名である。
参考 世界各国の体罰禁止状況
これについては、第101編追記に記載した『全米体罰禁止連合』のレポートを参照されるとよい。
そこには、1783年に禁止したPolandから、2002年に禁止したFijiまで列記してある。
これに新たに、2004年、Canadaが加わった。 そのことについては第129編を見てください。
カナダの連邦最高裁は、この1月30日、刑法第43節は合憲であるとして、その廃止を求めて
訴えていた件を退けた。 しかし同時に親の体罰についてはガイドラインを示して条件をつけ、
教員のそれについては躾としての体罰は事実上、禁止したが「合理的な力の行使」について
は認めたのである。
コメント
ご覧のとおり最近のアメリカの体罰統計で、しかも停学との関係においても考察したので、関係者
には、それなりに役立とう。 また最近、カナダは体罰禁止国になったが、それでも「合理的な力
の行使」は当然のこととされている点を見逃してはならない。 わが国では、その点が極めて曖昧
なままに残されていることが問題であろう。
2006年2月20日記