16. 職員会議と校長

English version is here
杉田 荘治 1.職員会議はどのような機関か

2.職員会議 日米の比較


1.要点 :
    職員会議は[校務]のうち教育的事項については、第一次的審議決定機関であり、
   教育の管理的事項については校長の諮問機関である。  このような二面的性
   格をもっている教育的審議機関である。


2. 説明

@   [校務]とは、学校教育法 28条 3項 [校長は校務を処理し、所属職員を監督
  する] とされるところの校務であり、それは、学校の果たすべき仕事の全体
  である。
A   教育の内的的事項とは、別項で詳述するが、教育課程、生徒指導などに関
  するものである。

B   第一次的意思決定機関であるが、最終[第二次]決定権限は校長にある。
  また、職員会議の審議以前に、各部、各教科、学年等で審議されることが
  一般的であるが、全校的審議・意思決定ということでは、第一次である。
C   校長も構成員である。しかし、採決に加わったりして職員会議の意思決定に
  参加しないことが適当であろうし、また実態にも合っていよう。
D   校長が主宰し、教頭が司会する。
E   その意思決定は、校長によって尊重されるべきものである。その程度は[第一
  次意思決定]程度である。このことについては後述する。

F   設置について任意とされることはない。教育条理上、教育慣習上、必須の機
  関である。
G その他
  ・ 実態としては、職員会議で諸々の連絡調整や伝達などがなされることもあ
   ろう。しかし、これらは [朝の打合わせ会]で済ませることもできる事項
   なので、本来的な職員会議とは区別しておいたほうがよい。
  ・ また日々の学習指導や学級経営は、教育的事項であるが、学校教育法
    28条 6項[教諭は教育をつかさどる」とする法意からして、例外的な
    場合にのみ職員会議の審議事項になりえよう。
  ・ 構成員・・・校長、教頭、教諭、養護教諭、助教諭、事務長など一部の事務
   職員、実習助手、寮母その他、実状に応じて構成する。

3. 最近の情勢と期待

    最近の学校内外の困難な教育諸問題に対処するために協力しあって有効な方法を
   模索し実行していこうとする気運が高まってきていることは喜ばしいことである。

    日教組も、1995年 9月の大会で、職員会議の最高議決機関説を取り下げ、「校長の
   責任のもと学校教育の活性化を図る」としてしているし、また日教組ホームページ(教
   育政策調整室)は、1998年 9月文部省との交渉の模様を伝えているが、その中で文部
   省側も[職員会議については、日教組の要請趣旨と答申は変わらない視点に立ってい
   ると考えている ]としている。

    また、東京都教委は、1998年、学校管理規則のなかに職員会議についての規定を新
   たに設け、その 12条の3で「校長は校務運営上必要と認めるときは、校長がつかさどる
   校務を補助させるため、職員会議を置くことができる。」とした。補助機関にとどめたこと
   で問題は残されるが、両者の関係を改善し、学校の教育を効果的なものにしたいとの意
   図の表れであろう。

    しかしながら依然として、「職員会議の法的性格をどのように捉えるにせよ」と、その法
   的性格を曖昧にしたまま
、「各学校で職員会議で検討すべき具体的事項やその権限を、
   慣行として作り上げていくことが重要である」との趣旨の説が多いように思われる。  
   また、「校長は、職員会議の決定を修正する時は、その経緯と理由をとちんと教職員に説
   明し、理解を得ない限り、学校としての統一的な意思形成にもとづく活動を期待することは
   難かしい 」、「校長の手腕と経営責任が問われる」とするような論評も多い。 そうではない

 その理由
    職員会議としての限度、校長としての限度、すなわち[職員会議と校長]との法的性格を
   曖昧にしたままで、混乱が生じた場合校長の[責任]を問い、[教職員の理解を得ない]校
   長を非難するだけでは問題の解決にはならない。、ましてや国民的利益にはならない。
   校長は全能の人ではない。 巧拙はあるにせよ、それ以前の問題として、[校長としての
   限度]、[職員会議としての限度]を明確にすることが重要なのである。


  期待
    筆者は先に、明治図書刊『学校運営研究』 No.411, 1993. 8月号で『職員会議はどのような
   機関か』として発表したが、その後の状況の変化を考慮し、また論旨をより明確にするた
   めに、ここに記述している。

    今後、文部省は日教組、各都道府県教委などと協議され、職員会議、とくにその審議事
   項についてのガイドラインを作成されることを期待したい。 学校は、そのガイドラインに
   拠って具体的な審議事項を定めることが望ましい。 [学校の自治]の名のもとに、各学校
   の判断に委ねることは無責任であり、混乱のもととなろう。

4.  審議事項

 ○     教育的事項
  これらは必ず職員会議で審議し、採決の有無は別として意思決定しなければならない。
 ○     教育の管理的事項
  これらは、職員会議における審議には、なじまない。例外的には、次の混合的事項として
  審議されるものもあろう。
 ○     混合的事項
  本来は管理的事項のものであるが、教育的内容を含むものである。その限度において
  職員会議の審議の対象になりうるものであるが、次のガイドラインを参照してください。

       ガイドライン(例)    職員会議の審議事項

 1. 校長は、次に掲げる事項については、職員会議の審議を経て決定しなければならない。
   但し、職員会議の決定は第一次的決定であって、校長の最終決定を妨げないものとする


@  教育課程に関する件 A  生徒指導・懲戒に関す
   る件
B  生徒の入学・転学・退学
   休学に関する件

   (入学については入学者
   選抜委員会に委任する)


C  生徒の保健・衛生に関
   する件
D  学校行事に関する件 E  その他

2. 校長は、次に掲げる事項(管理的事項)については、職員会議の審議を経ないで決定す
  るものとする。


@  教員人事、勤務評定に
   関する件
A  学校予算
B  学校事務 C  その他

3.  校長は、次に掲げる次項については、職員会議の審議を経て決定することができる。

@  校務分掌に関する件 A  教科書の選定に関する件
B  学校予算の配分案に
   関する件
C  学校の備品に関する件
D  PTA ・ 校外活動に関
   する件
E  教職員研修に関する件
F  校内規則に関する件 G  その他

5. 私観の補足説明

  私観のように『職員会議と校長』を捉えることは、
@   実定法上からも適法であり、教育条理上からも無理がない。
  大学の教授会は法定されているが、そのような規定のない職員会議
  をこれと全く同一視することは教育条理上からも無理がある。
A   実態にも合致している。 すなわち、校長は職員会議の意思決定の採
  決に加わらないのが普通であるが、それはまさしく職員会議が意思
  決定した後は、『学校』としての校長に、最終意思決定を一任している
  ものと考えられる。

B   同趣旨の法令等も存在する。例えば、
a. 地方教育行政法 38条は、「都道府県教委は、市町村教委の内申を
  まって、県費負担教職員の任免その他の進退を行うものとする 」と定
  めているが、その趣旨は地教委の内申が要件であり、またそれが尊
  重されることが条理である。しかし最終的には、都道府県教委は、そ
  れに拘束されずに任免権・懲戒権を行使する。

b. 勤務評定のさい、第一次評定権者と第二次〔最終〕評定権者との関
  係もそうである。
  第一 次評定が尊重されることが条理であり、実態としても微調整程
  度のものが多いと考えられるが、第二次〔最終〕評定権者は、これに
  拘束されないで勤務評定を行う。

c. 高校入試の選抜と合格者決定との関係もそうである。すなわち某県で
  は、[入学者の選抜は、各高校の入試選抜委員会が行い、合格者の
  決定は校長が行う ]と規定し、さらにその入試選抜委員会のメンバー
  については、[校長、教頭を含め学校の実状を勘案して、10名以上の
  教職員で構成する ]と定めている。この場合、選抜委員会の校長
  と合格者決定権者としての校長とは異なる。

C   最高裁学力テスト判決(昭和 51.5.21 大法廷) も同趣旨である。すな
  わち、「一定の範囲における教授の自由が保障されるべき」としなが
  らも、「普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、
  とうてい許されない」と、その内在的制約を認めている。〔判例時報 818号〕

D   その他の判例もそうである。例えば、
a. 退学処分をするかどうかについて、職員会議に諮問することが条理
  上、当然である、とされたもの。[東京高裁、昭和 52. 3. 8, 判例時報
   856号]


b. 私立高校生の原級留置の決定が、職員会議の半数の教師しか出席
  しなかったことに対して、教育条理上から手続き的違法とされたもの。
  [新潟地裁  、昭和 42. 4. 2, 教育判例 100選・ 2版]


c. 職員会議の無記名投票の結果、賛成 3, 反対 38 にもかかわらず、
  校長が強行した[日の丸掲揚事件]で、法的評価はともかく、異例の
  措置とされたもの。[大阪地裁、昭和 47. 4. 28. 判例タイムズ 283号]

    1999年 7月記

    註 一部[4. 職員会議はどのような機関か]と重複

      [無断転載禁止]   元公立・私立高等学校長 教育評論家