140. 最近のアメリカの教員給料


杉田荘治


はじめに
   最近(2004年7月)、アメリカ教員連盟:AFTは2002-03年度の教員給料について発表した。
   それをBoston Globe/Associated Pressなどが報じているが、ここでは先ずAFTの新聞発表
   の州別ランキング表の関係部分を述べ、その後、若干の解説とわが国との比較について述べ
   ることにする。

T 州別ランキングと平均給料年額    2002-03 年度 表1

 ランク      州          平均給料額(年ドル )  前年度との比較 (up%)
   1  California      55,693      2.5 %
   2  Michigan      54,020      3.0
   3  Connecticut      53,962      3.0
   4  New Jersey      53,872      7.5
   5  District of Columbia      53,104      2.7
   6  New York      53,017      3.9
   7  Rhode Island      52,879      2.4
   8  Massachusetts      51,942      6.6
   9  Illinois      51,496      3.7
  10  Pennsylvania      51,425      1.6
  11  Maryland      50,410      4.5
  12  Delaware      49,821      1.7
  13  Alaska      49,694      1.4
  14  Oregon      47,463      3.1
  15  Ohio      45,515      2.8
  16  Geogia      45,414      3.4
  17  Indiana      44,966      0.8
  18  Washington      44,961      3.4
  19  Minnesota      44,745      6.1
  20  Virginia      42,778      2.5
  21  Hawaii      42,768         −3.5
  22  Colorado      42,679      5.0
  23  North Carolina      42,411      0.7
  24  Vermont      42,038      5.7
  25  New Hampshire      42,909      5.0
  26  Nevada      41,795         −6.3
  27  Wisconsin      41,617      1.4
  28  South Carolina      40,362      1.1
  29  Florida      40,281      2.6
  30  Texas      39,972      1.9
  31  Arizona      39,955      3.1
  32  Idaho      39,784      1.5
  33  Alabama      39,524      6.2
  34  Tennessee      39,186      1,7
  35  Maine      38,518      3.3
  36  West Virginia      38,497      4.7
  37  Kentucky      38,486      2.7
  38  Utah      38,268      0.3
  39  Kansas      38,030      2.6
  40  Iowa      38,000      2.0
  41  Nebraska      37,896      4.6
  42  Wyoming      37,789        −0.2
  43  Missouri      37.641      4.4
  44  Arkansas      37,536      4.2
  45  Louisiana      37,116      2.2
  46  New Mexico      37,054      0.9
  47  Montana      35,743      4.0
  48  Mississippi      35,135      5.5
  49  North Dakota      33,869      4.3
  50  Oklahama      33,277      1.2
  51  South Dakota      32,414      3.3
 U.S. 全体平均      45.771      3.3

U Tについてのコメント
  ○ 全米での平均給料(年額) 45,771ドル  これは前年比では3,3%のアップで゜ある。
    California州は最高で平均年額は55,693ドル、 またSouth Dakota州は最低で32,414ドル。

  ○ しかしCalifornia州でも地方教委によっては、もっと高額のところもあろうし、一方South
    Dakota州でも、もっと低額の地方教委もあろうから、全米的にみれば給料の差は大変大きい。

  ○ 上昇率も全米平均では3.3%であるが、中にはNew Jersey州は7.5%もアップしているが
    Nevada州のように6.3%もダウンしているところもある。

   
このように給料についての格差は大きい。従って貧しい教育区では低い指導力の教員をかか
   えて低い教育水準に苦しむことになる。
なお平成18年度文部科学省委託調査研究によれば、
  (3)給与制度・負担について2003-2004会計年度の初等中等教育における財政支出(4627億ドル)
  の内訳は、連邦政府の財源8.7%、州政府の財源47.1%、学区等の地方政府の財源43.9%となっ
  ている。


   わが国では既述の論考で述べてきたように、県立学校はいうまでもなく、公立小学校・中学校の
   教員も『県費負担教職員』といわれることからもわかるように、その給料はすべて県費(都道府県)
   であり、また1/2(1/3でも交付税でおぎなって実質1/2)は国が負担しているし、人事も広域に亘っ
   て行なわれる。従って、いかに財政的に貧しい地方や地方教委といえども教員給料について心配
   する必要はなく、優れた教員を確保することができる。


    なお第80編も参照してください。 そこには連邦教育省統計資料:NCES(U.S.Department
    of Education,National Center for Education Statistics(2001年度)から要約してある。
    連邦政府からの補助金6.5%、 州政府からの補助金47.7%、 地方からの交付金45.8%で
    ある。
     連邦政府からの補助金は、2カ国語教育、インデアン教育、身体不自由児教育、
     麻薬対策教育、職業教育、TitleT実施などの費用について交付される。
     また州政府からは、州の定めるスクールランチについて、 また地方からの支出金は、物
     品税の一部、親の教育参加費用補助、ランチ販売金から、生徒の輸送費その他の費用
     について交付される。
     また学校などの建物、施設設備の多くも国庫負担法によって国または都
     道府県から交付される点もアメリカとは大きく異なる

     AFT自身によるコメント
   ○ 医療費や処方箋代など健康保健関係費が二桁(13%)もアップしたし、またこまごました現金
     の出費が多くなったので健全な生活が侵されている。
   ○ しかしわれわれ公立学校教員や政府職員は団体交渉権を有効に行使しているので、他の
     労働者よりずっと有利である。
   ○ 教育長の給料は平均的教員の4倍であることが問題である。 (註 これに対して教育長
     協会は多くの田舎の教育長のれそれは50,000ドルぐらいであるし、責任も重いので当然で
     あると反論している)。

    初任給
   ○ 全米平均 26,476ドル (これは前年比 3.4%アップ)
     最高 Alaska州 37,401ドル      最低 Montana州 23,052ドル

V わが国の場合
   前述のように教員給料は総て都道府県と国から支出され、その額も俸給表によって定められて
   いる。 例えば2001年度の現状について71. Average Salaries of Public School Teachers
   in Japanを見てほしいがその一部を下記しておこう。
    ○ 教職経験年数 小学校教員は19.7年  中学校は17.7年
    ○ 平均年齢(小・中) 42才
    ○ 期末手当、勤勉手当て(併せて4.7月分)を含めて年額合計 52,523ドル
   従ってこの額はアメリカの7位ぐらいに相当する。 これが全国一律である。

  制度としては、わが国の方式は優れていると考える。 しかし最近、地方自由度を大幅に拡大する
  三位一体論や教育といえども聖域ではなく、もっと自由競争の原理が働くような仕組みに改める必
  要があるとして、この国庫負担のあり方が大きな問題になってきている。 その際、当然に次ぎのこ
  とが論議されよう。すなわち、
  ○ 一般財源化すれば地域の財政力の強弱によって国民教育に必要な内容、水準が保てなくなる。
    これは国の責任の放棄である。
  ○ 保護者に新たな負担を強いたりして無償の義務教育を維持できなくなる。
  ○ 優れた教員の確保が困難になる。
  ○ 教育水準、学力水準に地域格差が生じる。
  ○ 使途を一定しない地方交付税のような一般財源にすれば、義務教育費を削減して地方債の償
    還など“借金の返済”に充てることが十分考えられる。(註 これにたいして一般財源化している
    高校についてそのような心配は起きていないとの反論もある)。
  ○ 優れた教員に対する優遇と劣った教員に対する給料格差を認めるべきである。
  
 参考 AFTとは
   
51. 全米教育協会(NEA)とアメリカ教員連盟(AFT)の違いをみてください。
    1916年、一握りの教員によって結成され、教員の権利や賃金、労働時間などの労働条件を団
    体交渉、労働協約によって勝ち取るという路線を歩んでいる。 アメリカ総同盟: AFL - CIO と
    同
盟して教員組合運動の先導的役割を果たしてきた。  会員数 約130万(2004年)

    会員数260万のNEA、これに対して100万余のAFT、この両者の関係は『NEAFT 基金』の名
    称
に象徴されるように、今やその力関係は逆転している。しかし、教員組合の先駆者としてプ
    ライド
や合併( MERGING ) すれば飲み込まれてしもうかもしれないという懸念などから当面、
    連携( partnership) して個々の問題について協議、決定していくものと想われる。

  なお最近のYahoo/Associated Press(7/17/2004)号によれば、今回Edward McElroyさんが新会
  長に選ばれた。 彼は12年間AFTの財務担当委員を務めた人であるが今後、給料と厚生福祉面に
  力を注いでいくと語っている。 ところでAFTによる給料調査は連邦教育省による調査と較べて、ほと
  んど差がないといわれるように、その信頼度は高いように思われる。

  なお2001-02年度分については追記( 2002. 11. 26 ) : NEA発表によるアメリカの教員給料
  を参照してください。

コメント

   アメリカの最近の基礎データ-とコメントであるから、日米の長短を知ることも含めて参考になろう。

 2004. 7. 21記             無断転載禁止


 追記 Boston.com(2005年5月6日)号によれば、2003-04)年度の全米教員平均年額は44,499ドル
     である。 この額は看護士、経理士などよりも低い。 またUSA TODAY(7/4/2005)には、大學
     学部卒の新任教員の平均年額は29,733ドルとある。
いずれも出処はNEA

 追記 2 アメリカ教育省統計センター: IESの資料Digest of Education Statistics 2005によれば、
      物価指数も考慮した全米の公立学校教員の平均給料は、48,159ドルである。 2003-04年度分

      そのうち、第1位はConnecticutの59,062ドル、首都ワシントンは58,725ドル、Californiaは
      58,143ドルである。  一方、South Dakotaは最下位で34,236ドル、以下 Oklahama, North
      Dakotaと続いている。

 追記(2007. 6. 28)    州のなかでも教員給料の格差が大きい

    最近(2007年6月、マサチュ‐セッツ州のQuincyという市の教員が4日間のストライキを行なった。
   これについては第203編でその経過を載せる予定であるが、それに関連してマサチュ‐セッツ州での
   地方教委ごとの教員給料について調べてみた。 同州教育省のAverage Teacher Salaries by
   District (2007年5月17日現在)に示されている。  2006年度分


    ○ 州全体の平均給料(年額) 56,352ドル
    ○ 最高の地方教委は、Lincoln教育区 77,541ドル
        参考: この教育区は州の東北部にある。 教員数は109名、セラピーなどを含めて約150名
            の富裕な地区である。 なおSchool Districtは「学区」と訳されているが、わが国の
            学区とは異なり、人事、財政、教員給料など独立した権限を持っているので、小さく
            ても地方教委の一つといえよう。 従って地方教委といってよかろう。 ここでは教育
            区とよんでおこう。 このようなSchool Districtsが200以上ある。

    ○ 最低はFlorida教育区の34,117ドルである。 従って最高の教育区と較べて、その2分の1にも
      ならない。 このSchool Districtは教員わずか12名。 その名のとおりフロリダ出身者の多い
      貧しい地区であろう。 このように同じ州のなかでも、その格差が大きいことがわかろう。