杉田 荘治
はじめに
アメリカでは新教育改革法によって、すべての州がリーディングと数学について州の学力標準テ
ストを実施し地方教委や学校ごとの成績を比較することになっているが、ネブラスカ州だけは、こ
れに従わず独自に、州の標準テストのほかに各地方教委ごとの評定方式に拠ることとしている。
最近(2004年4月)、連邦政府もこれを認めたので今、話題になっている。
そこでこの問題についてSeattle Times紙などから要約することにするが、その前にTracy放送
ニュースから始めよう。
T Tracy 放送(2004年4月9日)
連邦教育省はネブラスカ州のユニークな学校評価方式にOKを与えた。
ネブラスカ州のDoug Christensen教育委員長はこの金曜日に「連邦政府はわが州の方式は連邦法に
合致しているとみなす、といっています」と発表した。
この問題は大統領が2001年に連邦法に署名して以来、論議されてきたが、Bush大統領は公式的に
ネブラスカ方式をホワイトハウスの儀式で承認したのである。
新教育改革法では各州は3年生から8年生までリーディングと数学について連邦が承認したテストを実施
することを求めています。それは実際には2005年の秋から始まりますが、他の州とは異なりネブラスカ州
だけは生徒の成績を評定するのに、たった一回だけの州標準テストによるのではなく、そのほかに各地方
教委が独自の方法による方式を採用しています。
U Seattle Times/Chicago Tribune(4/12/2004)号などから
ネブラスカ州だけが連邦の求める州標準テストを実施しない。
ネブラスカ州は新教育改革法:No Chid Left Behind Actが要求していることに逆らって、生徒の成績を
評定するのに州標準テストの他に、517ある地方教委がそれぞれ平素の授業のさいの評価、地区の
テスト、州の一つの書き取りテスト、ま少なくとも一つ全米的に行なわれている大きな会社の標準テストの
成績を総合して評定するようにしているが、この方式は連邦政府によって承認された。
従って各50分の各科目のために教員も生徒も大変なプレッシャを感じるようなことはこの州ではない。
Douglas Christensen委員長は「わたくしは理想主義者だとか議会妨害主義者だとか批判さていいる
が、教育はたった一回の標準テストで評定されるものではなく、もっと複雑なものです。 また私たちは
新教育改革法を妨げるのではなく、むしろその趣旨を取りこんでいます」と語っている。
ネブラスカ州方式
School-based, Teacher-led, Assessment Reporting System:STARSといえよう。
○ “一発勝負的テスト”に依存するような評定方式ではない。 517地方教委が独自に評定方式
を作る。
○ 教員による平素の観察と評価、地区ごとのテスト結果、州の書き取りテストの結果、全米的に行
なわれているテストの結果などを総合して評定する。
○ そのあと、資料を州教育当局に提出して外部専門家によるチェックを受ける。そのさい生徒の
点数のみならず、問題の質や程度などもチェックされる。 すなわち、
・ 州の標準や地方の標準についても反映されているか。
・ 先入観のない評定であるかどうか。
・ 習熟しているとされるレベルなど、レベルは適当か。
・ 得点が年度によって大きな違いがないか。
○ また人口統計上の人種、民族、英語に不自由な生徒などの区分についてもチェックされる。
幸いなことに2000-01年度については65%が模範的(exemlary、very good)であり、容認でき
ない(unacceptable)は8%にすぎず、この方式でも妥当な結果が出ると考えられる。事実、調整
官や校長の調査官たちがネブラスカ方式を総合的に視察し3年間にわたって教員の意見なども
聞いたが、この州が実験的に試みていることを高く評価している。 この方式は銀の財布ではな
く、またどの州にでも当てはまるモデルではないかもしれないが、教育のもつ意味を示すものと
いえよう。
例
6年生担当のM.McCainさんは州の定めた標準テストだけに拠るのではなく、自分で評定するほうが張
り合いがあり、また容易であると考えているが、同僚たちも同じである。「テキサスではすべてが州のテ
ストのためにやっているようなものでしたが、ここでは私たちは生徒一人一人の求めに応じながら柔軟に
評定できる喜びがあります」と語っている。
批判
○ どの地方教委が優れているのか、また劣っているのか州内で比較することが難しい。
従ってある地方教委で「合格」とされても、他の教委では「不合格」とされることがある。
○ 教員のほうが標準テストより優れている、という概念によっており、時には彼らの手腕はいか
なる人でもコントロールすることはできないとする危険性もある。
○ ネブラスカ州のように小さい地方教委、小規模の学校の多い州では適するかもしれないが、
そうでない州では適当ではない。
○ この方式には時間と費用が多くかかる。
教育ジャーナルPhi Delta Kappan論説からの補足
全米的には連邦政府からのトップ・ダウンによる評定方式に拠っているが、ただ一つ、これに抵抗して
自分たちの子供を教育するにあたり、健全であり責任のもてる方式を採用した。 それはネブラスカ州
であるが、彼らは注意深く連邦政府の命令と州の要求、教育の目的とをバランスよく考えながら自分
たちの評定方式を進めてきた。 彼らは教員自身が不本意ながら従うという態度を取らず、大統領か
らトップ・ダウン式に下ろされ、公立学校を罰するようなテストを受け入れることを潔しとはしなかった。
これはDouglas Christensen教育委員長が勇気をもってリーダーシップをとって実現させたものである。
V NCLB News (2003年4月)からの補足
実は昨年(2003年)4月、連邦はすでに条件付きで承認を与えていたように思われる。というの
は当時のNCLB Newsによれば、次ぎのとおりであった。 すなわち、
Paige教育長官は、この月曜日にわが州を訪問しました。これはネブラスカ州にとっては大変、勇
気づけられるニュースです。長官は「新教育改革法には弾力性があります。ネブラスカ州の学校報告
カード方式は2005-2006年度から実施される連邦のテストに関する法に合致できもと考えています。
連邦のその法は、どの州でも3年生から8年生までの全員についてリーディングと数学について州は
毎年、テストを実施しなければなりませんが、勿論そのテストの目的は生徒の成績を向上されるための
ものでなければなりません」、「この観点に立って考えると、ネブラスカ州は連邦が求めるテストに合致
するように、現在の方法に何かつけ加えることが必要でしょう」、「ある人たちが批判しているほど両者
の違いがあるわけではありません。 連邦と州と協力して成功させましょう」と語った。
このようにネブラスカ州方式とは、リーディングと数学の4年生、8年生、11年生の評定ついて、たった一
回の州の標準テストによるのではなく、それを各地方教委に委ねているのですが、これは教育についての
地方自治の精神に合致し、教室におけるエネルギーと革新的に学習指導に源を発しているわけです。
ここ2年間、検証もされてきましたが、学校レポートカードの結果も模範的(上級、優良の意味)の割合
も受け入れることができない(不合格の意味)の割合も妥当であった、された。
ただこの方式の問題点は地方教委間の比較が保証されないということである。それは数学につい
て特に見られる。従って今後、少し加味することが必要であろう。
【コメント】このように昨年すでに何らかの条件を付けて事実上の承認を与えていたわけで、従っ
て州は少なくとも一回、全米的に実施されている大きな団体の標準テストの結果も加味し
て総合的に生徒の成績を評定する方式に改善したわけで、それが今回の承認になった
と考えてよかろう。
参考 全米的な標準テスト(大きな会社、団体によるもの)
○ Iowa Tests of Basic Skills
○ Florida Commprehensive Assessment Test
○ California Achievement Tests(CTB/McGraw-Hill) California Diagnostic
Tests
○ Stanford Early School Achievement Test(Psychological Corporation)
○ National Achievement Test(American College Testing)
○ NAEP (National Assessment of Education Progress)
○ SAT (Standard Assessment Test)
○ ACT (American College Testing Assessment)
コメント
たった一回の“一発勝負”的な州の標準テストで生徒の成績を点数化し、地方教委や学校を評定
するよりは、ネブラスカ州方式のように教員による平素の授業の評価、地区ごとのテスト、それに
全米的なテストの結果などを加味し、しかも外部の者によるチェックも受けながら評定が行なわれ
る方式は優れていよう。
しかし何といっても客観的な他との比較が困難な点が最大の弱点である。 このことは「相対評
価か絶対評価か」という永遠の課題でもあるが、ネブラスカ州は参考で述べたように一部、全米
的なテストも加味しながら推進していくであろう。 注目したい。 また全米的にも教育における地
方自治の精神と何としてでも州間の成績を比較しながら全国的に学力を向上させようとする連邦
の意図との葛藤は続くように思われる。
なお次ぎも参考にしてください。
45. アメリカの包括的教育改革法案ー提言とともにー追記: 教育改革法成立
70. アメリカの教育改革法の最終規則
70-2. アメリカの教育改革法のその後ー各州は悪戦苦闘している
2004. 4. 30記