杉田荘治
はじめに
アメリカ・イリノイ州では、標準テストのさいに人種・民族を記入しなければならないが、今までは
「その他」欄があったが、今年からは、それを除いて連邦教育省の定める五つの人種区分、
すなわち白人、黒人、アメリカンインディアン、ヒスパニック、アジア・太平洋諸島系以外は認められ
ないことになった。 そこでその記入方法が問題になっている。 このことについてChicago
Tribune
紙が報じているので先ず、それについて述べ、その後、連邦教育省の定める分類区分について
述べることにする。
T Chicago Tribune (1/11/2004)号から
今年の初めからイリノイ州教委は、人種区分について、テスト問題に印刷されていた「その他」欄
を削除して、連邦教育省が定めている五つのカテゴリーのなかから一つ選択させるようにした。
それは新教育改革法によって人種の分類区分を単純にして、人種間の成績のギァップをはっきり
させ、次第にそれを小さくするようにしようとする趣旨である。 しかし、このために混乱が起きている。
すなわち、Brandon Lehmanという7才の少年は聡明で、アフロヘアをした、睫毛が長く、緑色の目、
キァラメル色の肌をした生徒であるが、彼の父親は白人で母親は黒人である。 しかし彼が在学
するChampaign地区第4統合学校では、テスト問題の用紙には「他民族的」とか「両方」などの欄が
印刷されていない。 学校当局は昨年、彼の親宛てにその旨の手紙も送っているが、しかし母親
は今もって「適さない一つを選ばせること自体、無理である」と不平をいって、記入することを拒ん
だので、学校の教員が連邦教育省市民権部局のガイドラインに拠って、きめた。
このようなことはイリノイ州全体でも起こっており、ことに多様な人種・民族の多い大學街では当然
に人種の混合の子供も多いので、彼らは一様に憤慨している。 6年生の生徒も、母親は白人、父
親は黒人であるが、テストのさい無効とは知りつつも「その他」と記入した。
しかし、新教育改革法からの圧力もあり、州教育長のRober Shillerも「その他」欄の必要性はない、
その意味は曖昧であるといい、今後「多人種的・多民族的」という欄については考慮できると語った。
“自分は何者なのか”: Identityの問題
この記入方法の変更は生徒に“自分は果たして何者なのか?”と考えさせることにもなろう。 それは
感受性の問題ともからんで、今後ますます多様化するアメリカ社会にあって益々、大きな問題とな
ろう。 従って「五つの分類は適当でない」、「教育の後退である」との意見もある。
誰がいつ人種について記入するか
地区によってまちまちである。 すなわち、生徒の入学時のところ、テストの時のところなどである。
また記入する者も親、生徒本人、学校の教員など、まちまちである。
今後の検討事項
○ 五つの分類にとらわれず、思いきって11- 12ぐらいに増やすことかはどうか。
現に2000年の国勢調査では多く分類し、「多人種的」または「多民族的」は認められていた。
○ 連邦の標準学力テストの場合は五つの分類であるが、州独自のテストの場合は「その他」を認める。
○ 地域の住民の現状を考慮に入れる。 例えば30%以上の住民がヒスパニックであれば、その
中に住んでいる「多人種的」な生徒はヒスパニックに含める方法である。
その他の影響
余り分類を小さくすると、住居を移す家庭も現れる。 例えばLinda BalleyさんはシカゴからこのOrd
Park
地区へ引っ越してきたが「ここでは国際的な結婚を素直に受け入れてくれる雰囲気がある」、「私たちは
ここでは変り者ではありません」といって喜んでいる。
U 連邦教育省の五つの人種分類とは
次ぎのとおりである。 資料: School Nutrition Program, May 2003であるが標準テストの場合も同じ。
人種のカテゴリー
1. アメリカン・インディアン またはアラスカ原住民
先祖が北アメリカ、南アメリカ、中央アメリカ出身で種族系やコミュニティへの愛着を維持している者
2. アジア系
先祖が極東、東南アジア、インドからの者。 例えばカンボジャ、中国、インド、日本、韓国、
マレーシァ、バキスタン、フィリプン、タイ、ベトナムなど。
3. 黒人・アフリカ系
先祖がアフリカ黒人グループからの者 ハイチまたはネグロイドも含まれる。
4. ハワイ原住民または太平洋諸島の人
ハワイ、グアム、サマアまたは太平洋諸島
5. 白人
先祖がヨーロッパ、中東または北アフリカ出身の者
民族のカテコ゜リー
ヒスパニックまたはラテン系
キューバ、メキシコ、プエルトリコ、南・中央アメリカまはた人種に関係無くスペイン文化をもつ者
なお、英文は次ぎのおり、但し説明は省略する。
DESCRIPTION of RACIAL and ETHINIC CATEGORIES
RACIAL CATEGORIES: American Indian or Alaska Native, Asian, Black
or African American,
Native Hawaiian or Other Pacific Islander,
White
ETHNIC CATEGORY : Hispanic or Latino
参考T West Virginia州教委の分類表 2003-2004年度
○ すべての生徒、 白人、 黒人、 その他 【註 このように、ここでは「その他」欄がある。
しかし人種の分類が簡潔すぎる】
○ 経済的に不都合な者、 経済的に不都合でない者、 身体不自由な生徒、
身体不自由でない者、 英語に不自由な者
○ 女、 男、 移住者
参考U Florida州 Lake郡連合教育区 2002- 2003年度 分類表
○ 白人、 黒人、 ヒスパニック、 アジア系、 インディアン、 多人種的(Multiracial)
○ 身体不自由な者(Students with Disabilities)、 経済的に不都合な者(Econmically
Disadvantaged)、 英語に不自由な者(Limited English Proficiency)、 移住者
(Migrant)
○ 男 女
参考V 大學の学生登録分類も連邦教育省の分類方法に拠っている。 例えば、
コロラド大學では、
American Indian or Alaska Native, Asian, Black or African
American,
Native Hawaiian or Other Pacific Islander, White, Hispanic or Latino
また連邦教育省統計局: NCES の資料によっても、1995年度分でも既に全米の73%
が、このような分類区分に拠っていることがわかる。
参考W なお人種問題については下記の論述も参考にしてください。
106. ボストン市は『通学バス』を廃止しようとしている
理論的には人種を混在させる『通学バス』方式は優れているのであろうが、現実は却っ
てその緊張感を高め失敗する厳しい例である。しかし人種の多様性尊重と良い学校選択
の親の願いを充たすために折衷案が模索されていくものと思われる。
コメント
ご覧のとおり連邦教育省の定める人種・民族の区分を確認することができよう。 またそれには「その
他」や「多人種的」の欄がないために多少の混乱が生じていること、また統計区分として「経済的に不
都合な者」とか「英語に不自由な者」、「移住者」などを設けなければならない点は、わが国の場合と
大きく異なる。
2004. 2. 14記