杉田荘治
はじめに
奇妙な話しであるがアメリカで、ある州教委が裁判所に対して成績不振の地方教委を訴えること
ができるように州議会が新たに法を制定するように求めている。 すなわち、
最近(2004. 1月)、Washington Post紙がVirginia州教委が州議会に対して「地方教委が州や連邦
の定める学力標準テストで極めて成績不振」である場合は、その改善を求めて裁判所に提訴する
ことができるように、新たに立法するよう求めている、と報じた(1月8日号)。
実はVirginia州では地方教委が教員人事やカリキュラムその他、学習指導などについて完全
に独立した権限を持っているので、たとえ成績不振の学校や地方教委があっても介入すること
が出来ないことになっている。 そこで今回、州教委が介入を合法化するたの立法を議会に求めるこ
とになったのであるが、ここでは先ず、その記事の概要を述べ、その後、州教委自身の資料からその理
由を述べることにする。
T Washington Post (1/8/2004)号から
Virginia州教委は昨日、満場一致で「慢性的に州や連邦の学力標準テストで不振が続く地方教委に
ついて」裁判所に提訴する権限を与えられるように、新たに立法するよう求めた。
その法律に基づいて、この春には成績不振の地方教委リストを公表したい意向であるが、それは
州標準テストであるSOLテストの合格率が70%以下の学校が非常に多い地方教委であろう。
それらに対して新しい法に拠って、教員人事改善プランやカリキュラムその他必要な改善プラ
ンを出させ、それに失敗すれば法的措置を講ずることができるようになる。州教委のM.
Jackson
委員長は「いくつかの教委は教育的に破産状態である。そんな状態にしておくことは出来ないので、
我々は州議会に対して新たな権限が与えられるように求める。 今のところ、その教委名は公表しな
いが自ずから明かであろう。 北Virgina地区にはない」と語っている。
ところでVirginia州では1998年からSOLという州標準テストが実施され、その時は3年生、5年生、8年生
と高校のある学年の生徒について実施された。 また昨年度では1,823校のうち1,414校が到達レベル
に達したが、ある校は暫定的に承認を受けた程度であり、また51校が成績不振校として警告された。
特にRichmond市教委が悪く、その51校のうち9校を占めている。
しかし当のRichmond市教委委員長Larry Olanrewajuさんは「この指摘は良いことで、我々にとっ
て新しい日になろう。 教員も変化する必要がある。そうしなければ彼らは新たな仕事を探すことにな
ろう」、「新しい法律はわれわれ地方教委に対する脅しとは考えていない。 またわが教委は努力して問
題校を改善し裁判所へ訴えられるようにはしない」と語った。 一方、州教委協会の事務局長は「われわ
れは、この法に反対である。州教委は具体的に学力テストの改善プランや目標を示さずに、その結果だけ
を問題にして裁判所へ訴えるのは片手落ちである」と批判している。
過去4年間、州教委は学力テストを実施してきたが本格的に不振校や地方教委についての調査を行なっ
てこなかったが、最近、不振校についての関心が高まってきた。 すでに州標準テスト:SOLについての
関心とともに新教育改革法:No Child Left Behind law からのプレッシャも強くなってきた。 後者は2014
年までに総ての生徒が数学とリーディングで“良好”をとることを求めている。
他の州と異なる点
Virginia州は他の州と異なり、成績不振の学校や地方教委を直接、管理する(taking
over)すること
を禁止している。従って今回のような要請になったのであるが、州教委は「各教委が向上のために努力
すれば、裁判所へ訴えるようなことにはならないだろう」、「大部分はよくやっている。 今の苦しみは改善の
ためのものです」といい、しかし「どうしても改善が不可能の場合は不本意ながら、そのような法的措置をとら
ざるをえない」と説明している。
それでは州教委自身の説明を見てみよう。
U Virginia州教委の説明 2004年1月7日現在
わがVirginia州教委は慢性的に低学力の教委の子供たちを助けるために、2004年度州議会に対して、
州教委の権限を拡大するように求めています。 州教委は今日、Richmondで会議を開き全会一致で
学習指導を改善し生徒の学力を向上させるための州法を新たに制定されるよう要請したのです。
M.Jackson委員長は「この提案の精神は一握りの地方教委が非協力的、非能率的で改革を成し遂げる
能力もなく実行力もないために生徒の未来が、それに囚われてしまっています。これを放置しておく
ことは出来ません。 州教委がその原因を十分に調査し、改善ブランを提出させ、州教委がこれに承認を
与え正しい改善プランを創ります。 もし地方教委が失敗したり、適時適切に満足な改善プランを出
さないときは裁判所に対して、州教委の指示に完全に従うように求める訴えを提起します」と説
明した。
管内に1校か2校、成績不振の学校があるような教委を対象にしてるのではありません。 またいろいろな
援助や介入が失敗してしまった場合にのみ適用されるプランです。
Virginia州憲法は公立学校全般については州教委の監督を認めていますが、日常的な管理、すな
わち教員や校長の任命、昇進、停職などの人事権を含めての管理権は認めておらず、それらは地
方教委の権限のままに残されています。また成績不振の教委やその制度についても州が接収、直
接管理:take overすることを禁じています。
そこで今日、決議した提案は州教委の権限を拡大して効果的な教育政策や学習指導について、地方
教委と協議し合意して改善を計ろうとするものです。生徒たちの可能性を信じ最善の方法をとるために
州教委が少し必要な場合に介入するものです。(資料: Virginia Department
of Education, News Release)
参考1 SOL 州学力標準テスト: Virginia Department of Education of Learning
Test Standards
○ 1998年に採用されたテストで、その時は4年生、6年生、7年生についてリーディングと数学で実施された。
2003年度は3年生、5年生、8年生と高校最終学年について、英語、理科、数学、歴史/社会について
実施。 今後2005-2006年度に実施予定。
○ 州全体の合格率は90% また州の3分の2の公立学校は十分に公証されるレベルて゜ある。 特に
Hanover市教委の21校は総て十分とされ、どの教科についても良好であった。
○ 不合格になれば「試験的」な位置におかれ場合によっては最終的に公証されない。(資料: Herald
Progress. Com)
参考2 州の直接管理を禁止する例
本文で記載したように教員などの人事やカリキュラムについて州が直接管理したり接収することを禁止
している。その例としてPrince William郡教委規則を見てみると、教委は“いかなる制約も受けずに
総ての次ぎの事項についての権限を有する”と規定されている。 すなわち、
○ 教委教職員の採用、解雇、停職、昇進、転任などの人事 ○ 学年、学習コース
○ テキスト、学習指導法 ○ 諸規定の制定 その他
従って教委の所管する事項は他の州と同じとしても“いかなる制約も受けずに”とされている点が異なる。
without limitation, all power, rights, authority.....
参考3 州の直接管理下におく例
これについてはCalifornia州について「85. アメリカの教育改革法その後2」で述べたので参照してく
ださい。なおその関係個所を下記しておこう。
Gray Davis州知事が、この教委に1億ドルの緊急貸付を承認し、同時に州の教育局長O'Connelが
Orkland市の教育長Chaconasさんを呼んで辞職するように説得した。 そしてその後任として州の
管理官Randolph Wardさんを充てた。新任のWardさんに、この教委の決定について、リースすること、
契約すること、交渉、カリキュラムや法の執行のすべてについて十分な権限が与えられ、またその
責任を負うことになる。このようにして州政府が財政的、教育的に健全になったと認めるまで州政府
から直接監督を受けることになる。従って十名の教育委員は投票権を失うことになる。
このように地方教委の形を残しながら実質的に州の管理下におく方法である。
コメント
ご覧のとおりVirginia州では成績不振の地方教委でも、州教委が直接管理することは出来な
いことになっているので今回、新たに介入を正当化する立法を求める動きになったのである。
事実として参考になろう。 わが国では学力レベルが極端に低い地方教委があるのかどうか、
その公表できる資料そのものがないので、このようなことは話題になりようもない。
2004. 1. 19記