85. アメリカの教育改革法:No Child Left Behind法 その後2

     地方教委を州の管理下におく例      閉校となる例     付記:州知事の積極策


杉田 荘治


T  Orkland市教委をCalifornia州の管理下にお

   California州にあるOrkland市は公立学校の生徒48,000名を擁する地方教委であるが、
  最近その財政的破綻と生徒の成績不振を理由に教委そのものが州の管理下におかれるこ
  とになった。これをSan Jose Mercury News(6/3/2003)号とSan Francisco Chronicle(6/
  3/2003)号その他から要約しよう。

  1 Gray Davis州知事が、この教委に1億ドルの緊急貸付を承認し、同時に州の教育局長
   O'ConnelがOrkland市の教育長Chaconasさんを呼んで辞職するように説得した。 そし
   てその後任として州の管理官Randolph Wardさんを充てた。彼は少し前、ロサンゼルス
   市の南部にあるCompton市教委の破綻した財政を立て直し生徒の学力を向上させた実
   績のある人物である。

  2 失敗の原因
    Orkland市教委は、ここ数年の管理の失敗で8,200万ドルの財政赤字をかかえるように
   なったが、それは入学する生徒数の減少、かさむ教育費、24%も増やした教員給料、何百
   人という新規採用教員のためである。

  3 州政府の管理下におくとは
    新任のWardさんに、この教委の決定について、リースすること、契約すること、交渉、
   カリキュラムや法の執行のすべてについて十分な権限が与えられ、またその責任を負う
   ことになる。このようにして州政府が財政的に健全になったと認めるまで州政府から直接
   監督を受けることになる。
    従って十名の教育委員は投票権を失うことになるが、Wardさんは「彼らの協力を得て改
   革を進めたい」といっているし、委員の一人もそのように望んでいる。 しかし他の委員は
   いきなり州が介入してきたことに批判的で学習指導や財政面で問題が起こることを懸念
   している。

    因みに彼の年俸は24万ドルで、これは前任のChaconasさんと同額である。またChaconas
   さんには約18月分の退職金が支払われる。彼は事務所を引き払うさいに「私は後悔して
   いない。テストのスコアも伸ばしたし、良い教員も採用し教委は良い方向に向かっている」と
   語った。
   【コメント】占領軍司令官のような役割に似ていると考えられる。

  4 新任のWardさんとは
    先にも述べたが彼は南カリフォルニア大學の博士号をもち、Compton市教委で生徒の
   学力を向上させ、2国語教育に力を注ぎ、教員給料を上げながら州からの借入金2,000万
   ドルを返済した実績がある。この
    教委は1993年から2001年まで州の管理下におかれていたが、それが解かれて本来の
   機能の戻った。なお別途【補足】で追記する。
  
  5 参考 Compton教委とOrkland教委との比較ー生徒の標準学力テスト(API):Academic
       Performance Index
    経済的に貧しい生徒、教職経験が同じなど同一条件で比較すると、
   ○ 成績の上位者(ランク6ーランク10)........ Compton 57%   Orkland 30%
   ○ 成績の最下位者(ランク1).........................Compton 6%    Orkland 35%

   ○ 生徒の人種別.......Compton 黒人36% ラテン系62%  アジア系1% その他1%
                Orkland  黒人49% ラテン系26%  白人9%  アジア系14% その他2%
    
  【補足】 Orkland連合教育区教委の公式ページによってWardさんの横顔を追記しておこう。
   ○州政府は今日(2003.6.2)、Randolph E. WardをOrkland連合教育区の州の管理者(state
    administrator)に指名した。昨日、州議会は48,000名を擁するOrklandへ1億ドルの緊急
   貸付を承認したが、Wardさんは最近まで働いていたCompton市から直接、赴任することに
   なろう。
   ○彼の成功暦はこのポストには最適の人である。生徒の成績向上と地方財政の両面につ
    いてバランスをとりながら手を打ってくれるであろう。彼には十分な権限と責任が与えられる。

   ○彼はロサンゼルスの南部にあるComptonで、そこが1993年から生徒の学力問題と財政の
    破綻との問題で州の管理下におかれていたが、1996年の州の管理者に指名され、学校施
    設を一新し、新しい学校も創り、教育環境を安全なものにし、テストのスコアも劇的に向上させ
    た。 負債も完納した。
   ○犯罪も66%減少した。生徒一人当たりのコンピューターの比率も95%増え、アフリカ系アメリカ人
    男性でCompton高校からUC/CSUへ進学した%も州の平均以上である。
   ○早期教育の教員、Harvard大学、Massachusetts大學での修士号、South California大學
    での政策・計画、教育行政の博士号を得ている。

  コメント
    文中コメントで述べたように、地方教委に対して占領軍司令官のような役割を果たすように
   思われる。従って地方自治の教委制度を残しながら実質的に州が管理する方式である。また
   再建されれば本来の姿に戻すことも参考になろう。

U 3年続けてF(失敗校)の閉校となる例

   Florida州のMiami-Dade郡にあるFloral Heights小学校は教育改革法の基準によってF(失
  敗校)という評定を3年続けて受け、また生徒数も激減したために近く閉校となる。これをMiami
  Herald(6/11/2003)号その他によって要約しておこう。

  1 Floral Heights小学校はがらんとしていて、かっては30名いたクラスも10名か11名の生徒し
   かおらず、ほら穴のような空虚さである。 700名収容の能力を持ちながら、1998年には232名
   となり、その後も減り続けているが、2002年6月に二回目のF(失敗校)評定を受けたとき、親
   たちに三つの選択方法が示された。
    @ 子供をこの学校から去らせるか。  A もっと成績の良い他の公立学校へ転校させるか。
    B 公費の支援を受けた学習券をもらって私学へ転校するか。

    そして67名は転校や学習券を得て私学へ移ったし、多くの家庭は地域を離れて移住したが、
   残りは留まって改善しようとしたが出来なかった。 ある家庭は三代にわたってこの学校の生
   徒であった。

  2 ある生徒の通知票はほとんどAとBであったが、しかし州の学力標準テストのリーディングの評
   定は最低で4年生へ進むことができなかった。学校が彼女を不合格にしたようなものである。
   彼女は来年は学習券プログラムを利用する積りである。

  3 この他にも、この郡にはFの評定の学校が数校あるが、いずれも生徒数は減少している。しか
    しFloral Heigts校が閉校となる最初の学校である。教委には定員過剰の問題や学級定員改
    善などの問題があるので、廃校のままにしておくことはできず、いずれ再活用し親の最善の
    学校を選ぶ要求に応えることになろう。

  【補足】 Washington Mutual のgreat school netによれば、
   ○ Miami-Dade郡には25の公立小学校があるが、そのうち4校が最低のFである。今後Fが
     続けば同じ扱いになるであろう。
   ○ 因みにFloral Heights校の欠席率は6.8% で他校と較べて中位である。 また低所得層の
     家庭、すなわち学校給食代が免除されるか減額されるかの生徒は88%で、これも再下位
     グループではない。
     また教員の上級免許状所有者の率も30.3%で可也高いようであるる。 しかし確かに入学
     率は下がってきている。

  コメント
    今まではその学校でAまたはBの評定を得ていた生徒が、新教育改革法によって州レベル
   や連邦レベルで評価され、また学校もその結果によってFと評定されたもので厳しい例である。 
   在籍数は今もってかなり有るものと思われるが、このような場合、我が国では果たしてどうな
   るのであろうか。

     付記: Virgina州知事の積極策

   ○ Mark Warner州知事はこの6月3日、来年度の卒業の条件とされる高校生の学力標準テ
     ストに備えるための積極的な手段を講ずることにした。 というのは、このように積極的に
     教育に介入しなければ、例えばFairfax郡では10%以上が不合格になる恐れが出てきた
     からである。 「2004年度のことについても早過ぎることはない。最終試験が既に始まっ
     ているようなものだ」と知事は言っている。

   ○ その方法は「夏休み中の補習授業」、「インターネットによる学習指導」、「オンラインに
     よる遠隔地学習」、「個別指導」などであるが、そのための費用として約40万ドルを支出
     し、成功すれば全州に拡大される。

   ○ ところでVirginia州の高校卒業の条件は必修科目で22単位、その他州の標準学力テスト
     で6単位、必要である。そのうち2単位は英語、他は選択である。 移民について特例は
    あるものの既に多くの移民の生徒が登録した。

    このような新教育改革法について「余りにも不合格になる生徒が多い。全部の生徒が合格
   するなんて不可能に近いので、そのような州の学力標準テストを敵視する反動が起こるかも
   しれない」と教育関係者はいっている。【資料: Washington Post (6/4/2003)号】

 2003. 6 16記                無断転載禁止