杉田荘治
はじめに
アメリカでは一般に高校の始業時刻は早く、多くは7時台である。 スクールバスで高校生を運ん
でから小学生を運ぶこと、ラッシュアワーを避ける、授業終了後の仕事、クラブ活動などによるものだが、
さすがに7:30分始業では早過ぎるとして、これを遅らせる高校がでてきた。 これをLos
Angeles Times
(11/25/2003)号などから見てみよう。
T Antelope Valley高校(California州)の実験
高校1年生の幾何の授業は朝7:30分に始まるが、[どれだけ努力してもT時限の授業には、うとうとし
てしまった]と3年生が回顧しているが、成績不良のこの学校について今は実験の段階ではあるが教委
は、これを朝8:30分に繰り下げようとしている。
この方式で昨年と比較して最初の6週間で“慢性的ななまけ”が50%も少なくなった。学習成績の効果
を計るには早過ぎるが改善の変化が見られると出席担当官が話しているし、英語のC先生も「生徒は
目覚め少し鋭くなった」と評価している。 教委はこの実験を注意深く観察し、その効果をみて他の高校
にも適応したいと考えている。
生徒の反応は余分の睡眠を取れることを喜んでいるが、しかし授業終了は遅くなる。 女子のなかには
チァバンドを辞めた者もいるし、コミューターバスは依然として早い時間に運行しているので、学校へ来て
から余分に1時間待っている者などの影響も出ている。
U Hale 高校(Seattle市)の例
この高校は6年かけて独自に調査してきたが、今の7:45分始業を、今年の秋から8:45分に繰り下げる。
16才のT. Giles君は朝6時にベッドから飛び起き、地下の寝室から、よろめくようにして階段を上がって
台所へ行き、朝食をつかむようにして食べる。 太陽は未だ眠っているが、とに角眠気ざましにモカコー
ヒーを一杯飲んで、いそいでシャワーを浴び真っ暗い道をバイクで飛んでいく。 かくして7:45分の始業
に間に合う。 ところが14才の弟の場合は違う。 彼が高校生になる時は家族と一緒に朝食をとり、朝
を楽しむことができょう。
問題点
○ バスケットやソフトボールチームは市の公園とリクリエーション・フィールドを利用しているが、市か
らの許可がまだない。 もし不許可ということになれば生徒は最終の授業を20分早く抜け出さ
なければならなくなる。 水泳チームも交渉中である。 他のスポーツは余り問題はない。
○ 朝の通学手段も変るが学校は二つの選択を用意している。 すなわち、スクールバス利用の資格
のある生徒360名に対して1年間の首都圏バス定期券を与えるか、隣接のSummit高校のスクール
バスを利用すること。
V 全米の現状
アメリカの高校は伝統的に農業リズムで動いていて、午前7:30分に始業のベルが鳴り、午後2:30
分に終業となるのが普通である。 ほとんどの教委はスクールバスを使って高校生を早朝に運び、
その後、小学生のために運行している。そこでこれを変更することは大変なことなのである。
そこで多くの学校は依然として“遅い始業”にすることに抵抗し、夜明けに近いような早い時刻にし
がみつくことになる。 また前述のように授業終了後の諸活動、交通事情、仕事などの他に親たち
が案外、その変更を喜ばないこともある。
「バスは今までどおり運行している。 これに乗せれば始業まで1時間、待たせることになるか゛親が毎日
送ることも大変」、「娘に余分の睡眠なんか必要はない」とか「高校生は大人に近づいている時期なので
就職した場合の心の準備も必要である。 それはトレーニィングなのである」などの理由による。
しかし、少しずつ変化は起きている。例えば、
○ Edina高校 後述するが先導的なMinnesota州のCampbell郡にあるが、1996年から始業を
7:25分から8:30分に変更している。 これは州医学協会の要請によったもので
嚆矢といえよう。(この項: The Inqiuire 11/23/2003号)
○ Florida州では教委によってばらつきがある。St. Petersburg Times
(5/29/2003)号によれば、
・ Pinellas教委は始業時刻を更に早くした。 現在の7:20分を7:05分に変更。 理由は現在で
は終業が4:00になるが、これでは生徒の仕事(アルバイト)、スポーツ、バンド演奏、劇のリ
ハーサル、宿題、夕食、家族とも時間に制約が強いとのことで、教委は5 : 2の評決で15分
早めた。
・ Hilsborough郡の高校 7:25 を 7:35に。 ・ Pasco郡の高校 7:40 を 8:40 に。
・ Citus郡の高校 7:41 を 7:50 に。 ・ Hernando郡の高校 7:38
を 8:00に。
W 先導的なMineapolis市教委(Minnesota州)の例
1997-98年度に市教委は市内7つの高校の始業時刻をくりさげた。 すなわち、
午前7:15 を 8:40に変更し、そのため終業時刻は午後1:45 が3:20 になった。
その効果についてMinnesota大學に調査・研究を依頼していたが、その報告書:Start
Time Study Report
of Findings の第1回のものは1998年11月に提出された。 それによれば学力の向上については明かて゜
はないが、出席率は明らかに向上した。 落第の率も3%下がった。
更に2001年8月、第弐回の報告書によれば生徒の問題行動は明かに少なくなり、朝の気分の優れ
ないとやT時限、U時限に寝ていることも非常に少なくなったとされる。 教員の評判も良い。
(この項: 前記Start Times Study Reportから)
コメント
ご覧のとおりであるが、それにしてもアメリカの高校の始業は非常に早い。 スクールバスを小学生な
どと共用するために時差を設ける必要性や放課後のアルバイト、クラブ活動、大人へのトレーニィング
の意味合いなどによるのであるが、わが国の場合と較べて大きく異なる。 また改正するにしても、
わが国では『校長が決定するものとする』とされるが、アメリカでは上記の理由などのために教委の
権限である点も異なる。 しかしさすがに、8時台へ繰り下げる高校が出てきたが、今後、成績不振校
で強化されよう。
逆にわが国では“夜更かし”は大人も子供も普通のことになり、『早寝早起き』の習慣は薄らいできて
いる。時代の流れとはいえ考えさせられる。
2003. 12. 2記
追記 なお学年度と祝日等については第171編を見てください。