杉田荘治
はじめに
アメリカの学校は9月始業といわれているが、必ずしもそうではない。 しかもこれを
8月上旬や7月に繰り上げる動きが出てきている。 それと同時に親などの抵抗も強
くなっているが、このことについて最近(2005年8月)New York Timesが報じている
ので、先ずこの要点を述べ、その後、現行の規定や変更分などを概観することにしよ
う。
T New York Times (2005. 8. 6)号から
Georgia州のEarly郡の公立学校は、新学年度をこの7月22日に開始した。 昨年よ
り2週間早い。 Arizona州のChandlerという教委も同じ時期に始業日を繰り上げて
いるし、Florida州のPutnamというところも8月16日に始まった。
このように全米的に繰り上げる動きになってきているが、例えば8月16日に始まった
Georgia州のある学校の二人の娘の母親であるV.Jacksonさんは「こんなことは馬鹿
げている。 90度以上も続くこの時期に娘はスクールバスに乗ることはできないので、
そのアレルギーの証明書を貰うために昨日、公立病院へ行ってきました」、「8月に
始まり、5月に終わるような制度はいりません。 私たちの夏を返してください」といって
いる。
Jacksonさんと同じようにNorth Carolina州やTexas州でも、今までの伝統的な制度
を続けていこうとする組織、すなわち『われわれの夏を確保』という組織を創って州議
会に陳情を始めている。 その方法は陳情の他にE-メールを駆使して「公立学校は8
月25日以前には開始しないように」というものである。
その成果かどうかわからないが、Wisconsin州では最近、9月1日を始業日とし、また
Minnesota州では「来年は勤労の日以前には開始しない」と決定した。
【註】 勤労の日(勤労感謝の日)は9月6日である。 なお休日・休暇については後述
する。
しかし、Georgia州では「従来どおり始業は8月下旬にする」という法案は否決された。そ
こで、これに反対する人たちは今後も戦い続けることを誓い合っているが、「われわれの
声は日増しに強くなってきているし、この運動を次ぎの選挙に結びつける」、「誰も反対
できない筈だ」といっている。
始業日を繰り上げる理由
その最大の理由は、クリスマス休暇以前に学期末テストを終えたいとするものである。
それと同時に州の統一テストの前に補習授業を行なって、そのテストに備えたいとする
のである。
新教育改革法によって州の統一テストの成績は極めて重要なものとなり、学校や教委
の学力を測る資料とされるからである。 全米教委委員会のスポークスマンも「教委は
結果責任を問われることにプレッシャを感じている。 そこでカレンダーを変えることが現
実的な対策になっているのである」と語っている。
もっとも州や教委によっては授業日数を増やす方法もとろうとしているが、教員組合との
交渉や予算の関係で難しく、多くのところは前述のように始業日の繰り上げを採用しよう
とするのである。
なお、この事項とは別に1学期を9週間から12週間にする方法も多くなってきている。
最近の全米的な状況
Market Date Retrieval教育調査
○ 2004年度に9月1日始業であったもののうち、11%、学校数では63,000校が繰り上げ
た。 例えばGeorgia州では今年すでに7月に開始した教委が23ある(州全体では184
教委)。
○ しかし、Iowa, Minnesota, North Carolina, Texas, Virginia, West
Virginia, Wisconsin
の各州は州の規程によって、8月第3週よりは早くしないと定めた。 これは例外といえよう。
○ 南部の州では繰り上げる動きが急速に広まっている。 従ってそこでは不満も強くなって
いる。
・ サマーキャンプやスポーツ行事、長期の休暇など家庭の計画が破壊される。
・ 教委は学校にエアコンディションを動かすために余分な費用を強いられる。
・ 旅行業者も反対している。 利益が少なくなり、その分、納税が減り、それは結局、公立
学校予算を少なくさせることになる。
・ 勤労の日、すなわち9月6日以降に開始するほうが、生徒の欠席が少なくなる。
ところで教員組合の態度であるが、この件については中立的か、または賛成である。 という
のは、この事項は教委との交渉事項になるが、例えば年間、授業日数が180日で、教員勤務
日が188日のところでは、それらは変らないからである。 また繰り上げられれば、それだけ
終業日も早くなり、退職する者にとって身の振り方を決めるのに好都合であるからである。
U 従来の公立学校の始業日
SATテストで上位10ヶの州の場合は次ぎのとおりである。 2001-02年度
【資料】September School Start Date. www.september.com
順位 | 州 | 始業日 | 備考 |
1 | North Dakota | ほとんど(97.6%)、8月23日以降 | |
2 | Iowa | 9月1日以降 | 州が決定する |
3 | Illinois | 半数は9月1日頃、他は8月第3週 | |
4 | Wisconsin | ほとんど9月1日 | |
5 | Minnesota | 9月1日またはその後 | 州が決定する |
6 | South Dakota | 半数以上9月1日頃 | |
7 | Kansas | ほとんど(79%)、8月の最終2週のうち | |
8 | Missouri | 9月1日またはその後 | 州が決定する |
9 | Nebraska | ほとんど(72%)、8月の最終2週のうち | |
10 | Michigan | ほとんど(85%)、9月1日頃 | |
New Jersey | ほとんど勤労の日以降 | 卒業率上位の州 | |
Montana | ほとんど(95,5%)、9月1日頃 | 卒業率上位の州 |
V 学年度と休日・休暇
California州 Pleasanton統合教委の例 2004-05年度
行事 | 日時 | 説明 | 備考 | |
始業日 | 8月30日(月) | |||
勤労の日・休日 | 9月6日 | Labor Day HOLIDAY | 労働感謝の日 | |
一部、短縮授業 | 10月29日(金) | 1〜5年生のみ | ||
教員研修日 | 11月1日(月) | Staff Development Day | 生徒は休日 | |
ベテランズデー | 11月11日(木) | Veteran's Day HOLIDAY | 退役軍人の日 | |
保護者懇談会 | 11月16日〜19日 | Parent-Teacher Conferences |
幼〜5年 短縮授業 | |
感謝祭・休日 | 11月22日〜26日 | Thanksgiving Break | ||
短縮授業 | 12月17日(金) | 1〜8年生 | ||
冬休み | 12月20日〜31日 | Winter Break | ||
キング牧師の日 | 1月17日 | Martin Luther King Jr. HOLIDAY |
誕生日 | |
教員勤務日 | 1月28日 | Teacher workday | 6〜12年生 休日 | |
リンカーンの日 | 2月14日(月) | Lincoln's Day HOLIDAY | 誕生日 | |
大統領の日 | 2月21日(月) | President's Day HOLIDAY | ワシントン誕生日 | |
短縮授業 | 3月10日〜11日 | 1〜5年生 | ||
春休み | 3月25日〜4月1日 | Spring Break | ||
戦没者記念日 | 5月30日(月) | Memorial Day HOLIDAY | ||
最終日 | 6月16日(木) | 1〜8年生 短縮授業 |
次ぎはアメリカの基地の学校の学年度と学校行事等であるが、標準的なものとみなして
よかろう。
DoDDS Pacific 2005-2006 School Year Calendar
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左のように二学期制 また4クォーターに わけられている。 8月29日に始まり 6月15日に終わる。 しかし教員はその前 に準備レポートの提 出、また最終日は6 月16日である。 授業日数は182日 教員出勤日は190日 国民の祝日は前述 の表のとおり。 また 州独自のものはない。 |
その他、次ぎのような祝日がある。
1月1日 新年(New Year's Day)、 4月9日 グッドフライデー(Good Friday)キリスト受難日、 7月5日 独立記念日(Independence Day)、 10月11日(Columbus Day)大陸発見の日、 12月24日 クリスマスイブ(Christmas Eve)、 12月25日(Christmas) |
また州によっては次ぎのような祝日もある。 例えばアトランタでは4月26日は南部戦没者記念日( Confederate Memorial Day)、 シカゴでは11月2日は選挙の日(Election Day)、 ヒューストンで は3月2日はテキサス独立記念日(Texas Independence Day) |
その他
始業日を繰り上げることとは別に、一日の授業時間そのものを増やすことが必要であるとの
意見がある。 現行の6時間授業より、これを大幅に増やして、午前9時から午後5時までと
9時間とするのである。 "Let's Have 9-Hour School Day" 教員には余分の手当てが
必要となるが、給料が実質的に増えることによって意欲のある有能な教員を確保できるし、
一方チューターなどを雇うことのでない低所得層の家庭の子の学力も向上するからである。
【この項 Washingto Post, Jay Mathew 8/16/2005号】
コメント
ご覧のように9月始業といわれるアメリカの実態と、しかもそれが早まる動きを概観した。
休日・休暇や短縮授業を含む年間の流れについても述べたので参考になろう。
わが国でも、小学6年生、中学3年生について全国統一テストを定期的に実施するプランが
現実味を帯びてきているが、そうなれば授業時間の確保と行事の精選が一段と進むであろ
う。
2005. 8. 25記