杉田 荘治
はじめに
アメリカの全国統一テストともいえるNAEPテストは今年(2003)年の初めに数学とリーディングについ
て実施されたが、その結果が最近(11月13日)に発表された。 この報告を全米レポートカード:
The Nation Report Card というが、USA TODAY/Associated Pressなどが直ちに報じた。
ここでは先ず、そのレポートカードを概観して、その後二つの州の結果を例として、取り上げ、その
後、関連の記事なと゛について述べ最後にコメントする。
T 全般的な事項
数学は向上したが、リーディングは現状維持である。
このテストはNAEP:National Assessment of Education Progreeといい、前述のように今年の初めに4年
生と8年生について行なわれた。 50州の他にColumbia地方や海外居住者も含まれているので53州
ともいえる範囲に及んでいる。 このことは今までになかったことである。
U 数学について
1990年以降で最高である。
1. 平均点 いずれも500点満点で、
4年生 235点、 8年生 278点 いずれも1990年以降では最高である。
2. その内訳
4年生 [基礎以上]:above Basic 77% (1990年では50%)
[良好以上]:above Proficient 32% (1990年 13%)
8年生 [基礎以上] 68% (1990年では52%), [良好以上] 29% (1990年 15%)
なお、その比率は後述の州の例で述べる。
3. 男女の差
その差はほとんどない。 4年生では男子が平均で3点高い。 8年生では1点高い。
4. 人種の差
白人と黒人の差は縮まってきているが、白人とヒスパニックとの差には大きな変化はない。
また白人、黒人、ヒスパニックともに1990年と比較すると向上している。 すなわち、
黒人の4年生 28点の向上、 8年生 15点の向上
ヒスバニックの4年生 22点の向上、 8年生 13点の向上
5. 貧困家庭の生徒
後で述べる二つの州の例をみてほしい。
V リーディングについて
ほぼ現状維持である。
1. 平均点 いずれも500点満点で、
4年生 218点 8年生 263点 いずれも1992年や2002年と比較して大差はない。
またその内訳についても、[良好以上]は4年生では1992年より少し高いし、8年生については
[基礎以上]と[良好以上]ともに少し高い程度である。
2. 男女の差
4,年生の女子は男子より7点、高い。 8年生は11点、高い。 その男女の差は1992年や2002
年と比較しても変化はない。
3. 人種の差
4年生では白人、黒人、アジア系ともに少し向上した。 しかしヒスパニックについては1992年と
ほぼ同じである。 また4年生、8年生ともに白人は黒人より30点高いが、その差は1992年と較べて
変化はない。 また白人はヒスパニックより4年生、8年生で27点高いが、やはり前回との変化はない。
4. 貧困家庭の生徒
[給食費の減免]を受ける資格のある生徒については1998年と較べて大差はない。しかし8年生に
ついては22点から25点へと3点、その差が開いている。
W California州の例 数学 8年生について 500点満点
平均点 | 基礎以下 % below Basic |
基礎 % Basic |
良好 % Proficient |
上級 % Advanced |
California 州 267点 | 45 | 34 | 17 | 4 |
U. S. 全体 276点 | 33 | 39 | 22 | 5 |
○ 州の平均点は連邦全体の平均点より9点、低い。 これは53州のうちで41番目である。
なお、この全米レポートカードには州の順位表は示されていないが、この州より上位の州は
40と、説明文の中に書かれ、その順位はやや間接的な表現になっている。
○ 州の過去の点数は2000年には260点、1990年には256点であり、少し向上している。
また[良好以上]は合計で21%てせあるが、過去の2000年には17%であり、1990年には17%であった
ので増えている。
性別 % | 平均点 | 基礎以下% | 基礎% | 良好% | 上級% |
男子51 | 268 | 43 | 34 | 18 | 5 |
女子49 | 266 | 45 | 34 | 17 | 4 |
人種 | % | 平均点 | 基礎以下% | 基礎% | 良好% | 上級% |
白人 | 37 | 283 | 26 | 40 | 27 | 7 |
黒人 | 9 | 246 | 65 | 29 | 5 | 1 |
ヒスパニック | 39 | 250 | 63 | 29 | 7 | 1 |
アジヤ系・太平洋諸島 | 13 | 287 | 26 | 35 | 28 | 11 |
アメリカンインディアンなど | - | − | − | − | − | − |
○ 白人とその他の人種との平均点の差は1990年と比較してみて、大差はない。
家庭 | % | 平均点 | 基礎以下% | 基礎% | 良好% | 上級% |
給食費の減免家庭 | 41 | 251 | 62 | 30 | 8 | 1 |
そうでない家庭 | 46 | 280 | 30 | 38 | 25 | 7 |
○ 減免家庭とそうでない家庭との合計が100%にならないのは、減免を受ける資格があっても
諸事情から実際には受けない生徒があるためと考えられる。点差は1990年と比較して変化はない。
X Texas州の例 数学 8年生について 500点満点
平均点 | 基礎以下% | 基礎% | 良好% | 上級% |
Texas州 277 | 31 | 44 | 21 | 4 |
U. S, 全体 276 | 33 | 39 | 22 | 5 |
○ 州の平均は連邦全体とぼ同じである。 これは53州のうち26番目である。
○ 州の過去の点数は2000年には273点、1990年には258点であったので、少し高くなっている。
また[良好以上]は合計で25%であるが、これは1990年の13%より高いが、2000年の24%とほぼ同じ
である。
性別 % | 平均点 | 基礎以下% | 基礎% | 良好% | 上級% |
男子 51 | 278 | 31 | 42 | 22 | 5 |
女子 49 | 276 | 32 | 45 | 20 | 3 |
人種 | % | 平均点 | 基礎以下% | 基礎% | 良好% | 上級% |
白人 | 44 | 290 | 16 | 45 | 31 | 7 |
黒人 | 16 | 260 | 53 | 39 | 8 | 0 |
ヒスパニック | 38 | 267 | 42 | 44 | 12 | 1 |
アジア系・太平洋諸島 | 3 | 303 | 9 | 32 | 41 | 17 |
アメリカンインディアンなど | − | − | − | − | − | − |
○ 白人は黒人、ヒスパニックより高いが、その差は1990年と比較すると少し縮まっている。
|
○ 減免家庭とそうでない家庭との差は24点であるが、その差は1990年(30点)より少なくなっ
ている。
Y アメリカの全国統一テスト: NAEP とは
National Assessment of Education Progressであるから正確にはアメリカ教育向上評価テスト
とでもいうべきであろうが、連邦が継続して教科を評定する唯一の標準テストであるから全米統一
学力テストと呼ぶことにする。 その報告書は前に述べたように全米レポートカードと呼ばれ、前述
の学力テスト委員会が実施する。
メンバーは超党派で州知事、州議員、地方や州の行政官、事業主の代表者、一般議会のメンバー
26名が連邦教育相によって指名される。 しかし委員会としての独立性は保たれている。
なお、このテストでは個々の生徒や学校の得点は公表しない。 その代わりに教科の成績、学習
指導の経験、教育環境や男女別、ヒスパニックなどの小グループの状況などを公表する。
全米的NAEPと参加した州による州NAEPがあったが、2002年から合同したものとなり全米的な標
準テストとして認定されるようになった。 そして2002年度にはリーディングと書き取りについて50州
といくつかの管轄圏が4年生と8年生について行なわれ、2003年度には前述のように数学とリーディ
ングについて実施された。 次回は2005年である。
その他、アメリカ青少年の基礎についての評価テストとして、9才児、13才児、17才児についても調査して
いる。 【資料: 連邦教育省教育センターページ】
Z Paig教育長官の声明 (11月13日)
4年生と8年生の数学とリーディングについて実施したが、その結果は“教育革命”ともいうべき著しい進
歩を遂げた。 特に数学についてであるが、またアフリカ系、ヒスパニック、低所得層の生徒たちのギャップ
が極めて小さくなったことを悦んでいる。 またリーディングでも英語に不自由な生徒の成績が伸びたこと
についても同様である。
このテストは全米的な唯一の標準テストであるが、このような高い成績を成し遂げた教員を誇りにしている。
また教育行政官や生徒も誇りに思う。新教育改革法の幹は大きくなってきているが、今後さらに向上させ
よう。 その他数字や統計が語られているが今まで述べてきたものと同じである。【資料:
前述】
[ Washington Post (11/14/2003)号から
上記Paige教育長官の談話を載せ、白人とアフリカ系、ヒスパニックとのギャップが縮まってきたことを書いて
いる。 また数学について、Virginia州では4年生は83%, 8年生は72%が[基礎以上]であること、 また
Maryland州でも4年生は73%, 8年生は67%が[基礎以上]であることを紹介している。
その他、Texas州のことを取り上げて、州独自の標準テスト(数学)では8年生の91%が[良好]を取った。
しかしこの全国統一テストでは僅か25%しか[良好]を得ていない。このような大きな違いは問題である
と述べている。
なおASCD SmartBrief (11/14/2003)号では、この全米レポートカードは13,600校の686,000名の生徒の
テスト成績を集約したものであると説明されている。
コメント
ご覧のとおり最近のデーターであるから、それ自体意味があろう。また全米的なテストで数学が4年
生について[基礎以上]が77%もあり、8年生でも68%もあることは、彼らが社会生活を営む能力を得
たものと評価してよいであろう。 白人と他の人種のギァップも縮まってきていることにも注目すべき
ことであるが、果たしてこの傾向は低所得層のそれとともに今後どのように推移していくのであろうか。
また、ワシントンポスト紙が指摘しているように、テキサス州の数学8年生は[良好以上]が25%しか
ないのに、州独自の標準テストでは91%も[良好以上]と評定されていることである。 そのように“甘い”
州のテストは非難され、今後軽視されよう。 それとは逆に連邦のこの統一テストが益々重要視され、
これが連邦の助成金ともリンクしているので連邦の権限が強化されることになる。
教育は軍事、外交、貿易などのような『憲法』的事項ではないが、他の編でも指摘したように『準憲
法』的事項としての扱いを受けるようになり、そのことは益々、州の権限を減殺し『教育の自治』につ
いても首長の介入を強めるものと考えている。 否応なしにアメリカの教育はそのような道を進むで
あろう。
2003. 11. 25記
追記 なお第169編も参照してください。 そこではは9才児、13才児、17才児と年齢別になっている。
アメリカでは無学年制のチャータースクールやホームスクールもあれば、地方によっては入学
年齢の違いなどから学年は同じでも、歳は違う場合もあろうから、年齢別によるほうが、より実
態を正確に反映することになろう。