English version is here.
|
杉田 荘治 |
はじめに
最近、たまたま、二人のカナダ人に会った。 一人はケベック州から来た人で、その論旨は必ずしも明確
ではなかったが、ケベック独立派の一人であり、他の一人はケベック州以外の出身で、ケベックの独立に
は反対の意見を持っていた。彼らの意見を、それぞれ聞いていても、その問題点がよくわからなかったの
で、インタ-ネットから資料を得て研究することにした。
流れている資料は、いくつかあったが、そのなかで最も基本的でしかも重要なものは、ケベック自治州に
関する草案、"The draft bill on Quebec sovereignty"であるように思われた。
そこでまず、その概要を紹
介するが、実は、これを見た時、かなり驚いた。これはケベック自治州を目指すというより、殆どケベック独
立国の憲法草案ではないか、と。 いわゆる一国二制度の極端な例であろう。
とにかく、その概要を述べる。 その後、若干の関係資料や統計を紹介し、最後に私の感想を記す。
1994年12月6日、ケベック州首相から、ケベック州議会に提出された。ケベック議会は次ぎのように制定する。
- ケベックは主権を有する自治領である。
- ケベック政府はカナダ政府と経済連合を維持する協定を結ぶ権限がある。
新しい憲法
- カナダ連邦政府は、ケベック自治領議会で決定されるケベック自治領憲法を理解(see)するものとする。
この憲法は、人権と自由に関する章を含むものとする。
この憲法は、英語を言語とする共同体の同一性と制度を保証するものとする。
アボリジニの国家に自治政治を認める。 それらは、ケベックの領土保全の原則に沿って行使される。
この憲法は、地方分権の方針のもと、地方や地域の歳入・財政を準備するものとする。
領土
- ケベックはカナダ連邦との境界を堅持する。
ケベックは領海・海岸線に沿った領域については国際法の原則に従う。
市民権
- カナダ国籍があり、ケベックに原籍を有する者はケベック市民である。
ケベックに生まれ、あるいは父または母がケベック市民である者もケベック市民である。
ケベック市民権は、ケベック自治領議会の定めるところによる。
ケベック市民権は同時にカナダ国籍その他の国籍と共有することができる。
通貨
- 今後もケベック通貨は、カナダ・ドルとして通用する。
領土
- カナダ連邦政府が署名した国際関係条約について、ケベックは国際法に従って義務と権利を有する 。
国際同盟
- ケベック政府は国際連合その他の国際団体に加盟の申込みをする権限がある。
- ケベックはイギリス連邦、フランス語共同体、NATO,北アメリカ宇宙防衛管轄区、NAFTA,GATTOのメンバ-として留まる必要性を認めるものとする。
法律の継続性
- カナダ連邦議会で制定されたケベック関係の法は有効である。 その規則もケベック自治領議会で修正されないかぎり有効である。
- 高齢者に支払われる年金も、今までと同じ条件で同じ期間、支給される。
認許可権、免許なども期限切れまで有効である。
- 民事・刑事裁判の司法権も継続される。
指名されている裁判官も継続される。
審議されている事件も判決がなされるまで継続される。
ケベック控訴裁判所は、新しい憲法のもとでケベック最高裁判所がつくられるまで最上級の司法管轄権がある。
現在、カナダ連邦裁判所やケベックから選出されているカナダ最高裁の裁判官は、彼らが望むなら、その地位に留まることができる。
- カナダ政府は、法の手続きに従って、ケベックに適用されるカナダの法律を促進するための必要な措置をとるであろう。
そのための必要な財源確保を行うものとする。
カナダ政府は、公務員の選任やカナダ政府関係職員の選任について、ケベック在住の者に優先権を与えるものとする。
- 新しい憲法が制定され、そのもとで新しい法律や規則が作られるまで、現行のものが継続され、また英語を言語とする学校も続けられる。
財産や負債
- カナダ政府と財産や負債について協定を結ぶであろう。
効力発生
- ケベック自治領議会が特別に定めないかぎり、この法律はケベック住民投票によって承認された後、一年たって効力が発生する。
- この法律は、ケベック住民投票にかけられる。
「ケベック自治領議会を通過したこの法律について、あなたは,Yes ですか、 それとも、No ですか 」 によって過半数の賛成があれば法律となる。
以上
- 投票の結果 1995年
否決されたが、No ----- 50.6 % Yes ---- 49.4 % このように極めて、僅少さであった。
出典: Key dates in the history of Quebec
-
- その後 独立派は," Dreams of a new country " をめざして、次回こそ多数にしたいと意気込んでおり、ケベック首相も、「その夢は終わらせない 」 ことを再確認し、「再び、住民投票を、できるだけ早い時期に実施したい 」と宣言した。
出典:Mood at separatist headquarters: Joy turns to despair
-
- 参考 ミ-チ-協定 Meech Lake Accord
カナダ首相と10人の州首相との会議である、首相会議で合意された協定であるが、1990年6月まで、カナダ全州の 批准が得られず不成立に終わった。
その原因はケベックをdistrict society として認めるなど特別扱いされることへの不満からである。
- ケベック州独立についての世論調査 JUST TODAY
Q. あなたは、ケベックはカナダから独立すべきだと思いますか?
A. ケベックの人 ・・・・・はい 39 %
いいえ 43 %
意見なし 18 %
B ケベック以外のカナダ全体の人 ・・・・・はい 10 %
いいえ 80
%
意見なし 10
%
Q. あなたは、ケベック独立問題は、ケベックだけで決めるべきだと思いますか?
それともカナダ全体で、決めるべきだと思いますか ?
A. ケベックの人 ・・・・・ケベックだけで決める 45 %
カナダ全体で決める 40 %
意見なし 15 %
B ケベック以外のカナダ全体の人・・・・・ ケベックだけで決める 24
%
カナダ全体で決める 65
%
意見なし 11
%
- 感想
- 前述したように、ケベック州議会に提出された憲法草案は、ケベック自治州を目指すというよりは、
- ほとんど独立国に近い内容のものであり、しかも否決されたとはいえ賛否が、ほぼ50:50 であった
- ことに驚いている。 また、「 15年後といわず、近い将来、再び住民投票にかけたい」とケベック首相
- が宣言しているなど、この独立問題は根が深く、今後もカナダにとって頭の痛い課題であろう。
一国二制度の極端な例とも考えられるが、このままでは、流血ではなく話し会いで事を解決しよう
- とするカナダの流儀からいっても、受入れられることは難しいように思われる。
- ケベックの自治は、先住民の自治問題にも関連し、ケベック自身にとっても辛い問題である。
憲法草案でも、それに触れた条項があったが、これからの大きな彼らの課題であろう。
1990年のケベック警察とインディアンとの衝突もその一例である、といわれる。
-
- 現在でも、ケベック政府内や法廷ではフランス語だけが公用語であることを嫌っている。 商社な
- どはモントリオ-ルからトロントへ、ケベックからオンタリオへと移っているといわれるが、もしケベッ
- クが独立すれば、さらに加速されよう。
-
- この独立問題で、わが国の農地改革も参考になろう。 すなわち、わが国では第二次世界大戦後、
- 農地改革で多くの小作人が自作農になったが、彼らは、その後、益々、自助努力を重ねて、その改
- 革を成功させた。 ケベック市民・国民も英知と努力を重ね、巨大なカナダ連邦や U.S.A.という英語
- 圏社会に囲まれているフランス語国家という障害を乗り越えて前進しつづけることができるか否かは、
- 彼ら自身の英知とその自助努力に掛かっていると考える。
- 。
- 1997年6月記 無断転載禁止