87. [大學入試で少数派学生への優遇策]についての    連邦最高裁判決

                English version, here
杉田 荘治


はじめに
   最近(2003. 6月末)、アメリカの連邦最高裁はMichigan大学の入試要綱の2件について、最終判断
   を下した(6月23日)。 これについてWashington Post(6/24), Detroit Free Press(6/24), Denver Rock
   Mountain(6/24), New York Times(6/24) などが一斉に報じているが、ここではそれをいち早く報じた
   Los Angeles Times/Associate Press(6/23) を主にして、その概要を述べる。その後、公式判例集の
   Syllabusや今まで杉田が述べてきた前編などから再度、この最終判決に至るまでの経過を纏めて記
   述する。

   わが国でも6月24日、25日に各紙、テレビがこれを報じたが、そのいずれも「差別是正措置:Affirmative
   actionそのものは合憲とするが、その運用などは極めて限定したもの」とのコメントを加えている。
   妥当なコメントと考える。 またアメリカの有識者の批評も「妥当な判決」と評価しているように思われる。

   さらにはまた、この判決が出る前に杉田が前編でコメントしたようなものとも同じようである。すなわち、
    【コメント】入試要項に「○名合格」とか「○%合格」と明示して少数派を優遇すると、白人から『逆差別』と
     され、修正憲法第14条の『平等保護条項』に反し違憲とされよう。 従って今まで社会的、経済的、地理
     的などで資質がありながら不利な条件下におかれてきたという少数派を
含みをもたせた要素の一つとし
     て取り扱うことによって、憲法問題をクリアすることができると考えるがどうであろうか。

   なおアファマティブ・アクション:Affirmative actionはマイノリティの人々に対する差別是正措置のことである
   が、ここではわかりやすくするために少数派に対する優遇策としておこう。

   問題になったMichigan大学の入試要綱の2件とは次ぎのとおりである。
   @ ロースクールの件...... Grutter v. Bollinger  人種を限定的に優遇して少数派に配慮するこ
                  をみとめた。 5 : 4 の多数決 合憲  less prominence, critical mass

   A 学部の件........ Gratz v. Bollinger  少数派に20点、加点された入試方式 6 : 3 の
                            多数決で違憲と判決

T 多様な構成体 : Diversity student body
   白人以外に多様な人種、少数民族を擁するアメリカでは、その多様性は当然のこととされ、学校も
  そのような環境のもとで教育を受けることは必要欠くべからざる原則となっている。
(Diversity
   student body)
  しかし大学入試で、この原則を適用するとなると、現実には白人学生とマイノリティ(少数派)
  学生との得点のギァップを無視して、マイノリティを優遇する方式をとらざるを得なくなる。その
  ためにマイノリティの定員を予め確保しておくような入試要項にすると、白人志願者から憲法の
  『平等保護条項』に違反する
逆差別との問題を引き起こすことになる。

U Michigan大學法学スクールの件
   Grutter v. Bollinger   連邦一審判決 2001年3月27日
   Grutter v. Bollinger  ( 288 F. 3d 732 ) 第6巡回裁判所 2002. 5. 14 判決

    @ このケースは、白人女子学生Grutter が、1997年にMichigan大学ロースクールを受験したが
     大学側が人種や少数派のために『プラス要素』として割り当数や加算点をを加味していたために、
     その余波を受けて不合格になった。
 そこで彼女ら二名が提訴した。
   A これに対して、一審は大学のその『入試要項』を違憲とした。 2001年3月27日判決

    B しかし、この第6巡回裁判所は、それを覆して5: 4 の多数決で、大学も多様な学生の共同体であり、
     その『入試要項』もそれに合うように厳格に仕立てられているので合憲である。

   C Michigan大学はその後、入試要項を改正して、少数派のための割り当て数や加算点をやめ
   て、その代わりに
" soft variables" として人種などを考慮すべき要素の一つとした。従って
    今回、最高裁で審議されたのは、この改正入試要綱が合憲か否かであった。

  その後、大統領が次ぎの学部の件を含めて意見書を提出していた。 すなわち、
   2003. 1. 15)、Bush大統領は、大学入試で少数派学生に直接的な優遇策をとることを徹底的に認めないこ
   とを表明し、そのような政策をとるMichigan大学の方式についての意見書を連邦最高裁へ提出した。 
   「私は高等教育でも人種の多様性を含むことは強く支持するが、しかしMichigan大学か゛採っている方式は
   根本的にこの目的から逸脱していて欠陥がある。 その
割り当て方法は他の人種にとって不公平であり、
   あるいは見こみのある学生達に罰を与えるようなものである」と述べた


  ところがこれに対して次ぎのような反対の意見書も提出された。 すなわち、
   次ぎのような機関からMichigan大学の方式を支持する意見書か゛連邦最高裁に提出された。 すなわち、
   Massachusetts州司法長官Thomas F. ReillやNew York州、Maryland
州など11州の司法長官が連邦最高
   裁宛てに「Michigan大学が行なっている大学入試要項の
少数派学生への優遇策:affirmative action policies
   を支持する」との意見書を本日(2月18日)、
提出した。 それによれば、

    ○人種は入試でも積極的に考慮しなければならない要素である(positive factor)。
    ○憲法にも合致しているし、教育的にも有益である。 教育者が教育の使命をより追求するようになるし、
      生徒の教育的経験も強化される。

V Michigan大學法学部の件
   Gratz v. Bollinger

   連邦巡回裁判所 2002. 10. 3 判決

   大學側の主張は 「現在、大学学部の入試でも150点のテストで、少数派学生は社会的経済的に
  不利益を
受けてきた者として20点を余分に与えているにすぎない」、「しかし他の要素であるグ
  レードに重点を置いているので、この得点の比重はそんなに大きくない筈である」といい、

  た法学スクールの少数派学生の数は
10%-12% 減ってきていると説明した。しかし認められな
  かった。

   なお、Gratzと他の1名Patrickは入学できず、二人とも他の大学に入り卒業した。
   また20点の加算を受ける学生はアフリカ系アメリカ人、ヒスパニック、ネイティブ・アメリカ人である。

コメント
   はじめにも述べたように少数派学生に対する優遇策(是正措置)を合憲としながらも、極めて限
   定的なものに止めた判決である。最終判断であるから今後、公立大學の入試要綱のみならず
   私立大學の入試、他の政府機関、また民間企業への広がりをみせるであろう。

 2003. 6. 25記                   無断転載禁止

参考
   参考までに判決原文から関係の部分を付記しておこう。
      Grutter caseの場合
   ○ この最高裁判決に至るまでの経過は次ぎのとおり。
    United States District Court - Eastern District of Michigan, Filed March 27, 2001
    U.S. Court of Appeals - 6th Circuit, Filed: May 14, 2002
    United States Supreme Court, Cert. Granted: December 2, 2002
    United States Supreme Court, Decided: June 23, 2003

   ○ 判決の結論
   In summary, the Equal Protection Clause does not prohibit the Law School's narrowly tailored use of race in
   admissions decisions to further a compelling interest in obtaining the educational benefits that flow from a diverse
   student body.
on writ of certiorari to the united states court of appeals for the sixth circuit  
    http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=US&vol=000&invol=02-241

      Gratz caseの場合
   ○ この最高裁判決に至るまでの経過
    U.S. District Court - Eastern District of Michigan, Opinion, Filed: February 26, 2001
    U.S. District Court - Eastern District of Michigan, Order, Filed: February 26, 2001
    U.S. Court of Appeals - 6th Circuit, Order affirming stay of injunction, Filed: November 16, 2001
    United States Supreme Court, Cert. Before Judgment Granted: December 2, 2002
    United States Supreme Court, Decided: June 23, 2003

   ○ 判決の結論部分
   We conclude, therefore, that because the University's use of race in its current freshman admissions policy
   is not narrowly tailored to achieve respondents' asserted compelling interest
in diversity, the admissions policy
   violates the Equal Protection Clause of the Fourteenth Amendment.22 We further find that the admissions policy
   also violates  Title VI and 42 U. S. C. § 1981.23

  http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=US&vol=000&invol=02-516 No. 02-516. Argued April 1, 2003