杉田 荘治
はじめに
1983年4月26日、レーガン大統領の時、「教育の卓越に関する国家委員会」が『危機に立つ国家』:
A Nation at Risk を報告・発表してから今年で20年経った。 このレポートが発表された当時は、そ
れが3,500万部印刷されてベストセラーになったが、20年後の今は静かなもので、余りその成果につ
いて語られていないが、それでも幾つかの報告やコメントが見られる。 そこでThe
Christian Science
Monitor (4/22)号やEducation Week(4/22)号その他を参照して、その成果を簡潔にまとめておこう。
その後、『結果責任』を直接問われる校長や地教委に対して市長や州知事の教育的関与(介入)の
強化の例を見てみよう。
T 一般的な評価
○ 立場によって異なるが、多くの人々は20年後の今も余り向上していないというだろう。
○ “平凡”という風潮は今も残っている。
○ SAT(大学入試適性検査)は1983年以来、少しは向上したが、依然として1970年代のレベルである。
○ 今の高校生は自分達の学校を「ぞっとするような処ではないが、しかし生き生きと感じる処でもない」
と評価している。
○ 少数派生徒は、貧弱な予習しかせず、また自分達の未来についても夢や計画を描けないでいる。
彼らには有能な教員が必要なのに、学校も教職員も彼らに関心を払わない。
彼らは教員から「勉強するように求められるよりは、むしろ激励されること」を望んでいる」。例えば黒人
の場合は後者は前者の3倍であり、ヒスバニックの場合は2倍である。 しかし白人生徒は、両者は
半々である。
また少数派生徒や貧しい生徒は、最も挑戦しなければならないコースで取り残されている。
○ California大学が全米の282,000名の大学1年生について調査したところ、3分のTの者しか彼らが
高校三年生のとき一週で6時間以上勉強していなかった。
U 高く評価できる点
○ 1990年代にはアメリカの歴史でも珍しいような“英語を話せない”生徒を多く学校が受け入れたが、
彼らに対してよく学校は努力している。
○ 公立学校の力量は20年前と較べて向上している。ずっと多くのコースに挑戦しそれらの基礎的テスト
でも良好である。“肘で突つき合う”ような働きは長く時間がかかり、そんなに早く事はできるものでは
ないが、その動きは広がっている。
○ 教育の問題を連邦が州や地方に任せず、連邦が第一線に立ち中央の問題であるとし続けているが、
その役割を果たしたことは評価すべきである。教育は国家的話題となっている。
○ レーガン大統領は、学習券の問題、学校での祈り、教育の因習などを取り上げたが、今のブッシュ
大統領は結果責任を全米的なセットにした。 しかし、これらは『危機に立つ国家』が設計したもので
ある。
V これまでの経過
○ 前述のように報告書は「われわれ社会の教育的基盤は今や“平凡”に侵食されて、わが国と我が国民
の将来を脅かしている。テストのスコアは下がり、学校は生徒により少なくしか求めない。合衆国の学校
は諸外国のそれと較べて成績も落下し続けている」とし教育を緊急の課題であるとした。
○ 1989年、George Bush大統領は教育について州知事会議を召集して、直接このレポートを推進する
ように鼓舞した。
○ 「目標2000ー米国教育法」では数学、理科の学力を世界的水準にまで引き上げることなど8大目標の
設定。
○ 2000年まで全校インターネットの接続など情報教育の促進。
○ 今後は前述のように、少数派生徒の成績向上、州の向上、民間経営方式、結果責任、広く公開
などに受け継がれていこう。
なお、連邦教育省のレポートの分類は次ぎの7項目であった。
Indicators of the Risk, Hope and Frustration, Excellence in Education,
The Learning Society,
The Tools at Hand and The Public's Commitment
コメント
ご覧のとおり。 一般的な評価は、やや厳しいが、しかし現行の新教育改革法のをレイアウトし、教育を連邦
の問題にし続けさせていることは高く評価されてよかろう。
首長の教育に関する権限強化の例
T 州知事が成績不良の学校の校長に「10%の教員を解雇することができる」案を提示
マサチューセッツ州知事のMitt Romneyは公立学校の成績が挙がらず、運営に苦闘している校長に
「自分の学校の教員の10%を解雇することができる」案を広く提示した。すなわち、州の画期的事件
第10回大会で「子供が第一である。その教員としての義務を果たせない者には、他の仕事を見出してや
るほうが、より幸せになる筈だ」、「親たちもそのように考えている」と述べた。 そのためにはMCASテスト
のスコアが要件となる。 【資料: Boston Globe (5/2/2003】
また、正当な校長の権限は教員をよく監督することであるとし、生徒の成績を挙げない貧弱な能力
の教員を「夏休み学校」に出席させるように要求した。
さらにはまた、成績の低い学校の親たちに進んで「学校の改善委員会に出席する」プランも提案した。
批判
州の最大の教員組合であるMFTとTAは「ナンセンス」、「校長は既に無能力教員を正当な理由のもとに
解雇することができる」、「教員は十分なプロセスを経て評定されるべきである」といっている。
また親の参画についても、「シングル親は三つの仕事を抱えて忙しい」、「自分たちの部屋や台所へ国家
が入り込むことは遠慮すべきだ」、「MCASテストだけで教員をターゲットにするのは不公平である」とし、
知事は教員を解雇することを提示するより、教育改革のすべての面の財源について話し合うべきである
といっている。
また、あるグループは「学校を量るには同じ分類のグループの生徒が、どれだけ向上したか、その成績の
跡をたどることが必要である」と提案している。
U 教員研修や教科書の選定・使用に市長・教育局長の意思が強く働く
ニューヨーク市の例については先に『74-2 最近のニューヨークの教育の話題(続き)』などで述べたが、さ
らにNew York Times (5/3)号によって教員研修なとについて補足しておこう。すなわち、
数学とリーディングについて2,000名のコーチを経験豊かな教員のなかから、この6月に選び、9日間、新し
いプログラムについての訓練を受けさせる。彼らは100名の指導主事に報告する義務を負うが、しかし校
長たちは、その程度の訓練で殊に数学について十分な指導教官になれるかどうか、訝っている。 第一、
数学教員そのものが不足している。
また、地域教育長は先月、約250名の教員を新しいリーディングのカリキュラムを学ばせるためにコロンビァ
大学へ派遣した。 また既に実施している学校への参観も活発になってきた。
個々の教員についても、この夏に自分で研修するためのテキストが与えられよう。 また年間を通じてコーチ
の授業を参観することが義務付けられる。ビデオテープも広く利用されよう。
また今年は一週間に100分、余分な仕事を強いられることになるが、これは市長の要求によるものである。
教員組合は交渉事項にすべきだといっている。
校長自身も、この夏、2週間の研修を受けなければならない。これに対して校長組合は休暇が確保され
るならばこれに従うことになろう。
教科書についても、Everyday Mathematics は幼稚園児から2年生までのものであるが、来年四月から採用
予定であったが最近、急にすべての学年で直ちに採用するとKlein教育局長が言い出した。
その他、毎日、リーディングと書き取りに2時間充て、数学に最大75分、充てるように求めているが、これは
他の教科に費やす時間を減らすことになるので曲芸のようなものだとの批判がある。
訴訟の動き
New York Times(5/8)号によればStephen Sanders議員と校長組合が昨日、ニューヨーク市長Bloombergが
違法にも地教委を廃止して10個の大きな地域ゾーンに再編成することを阻止するために州最高裁へ訴え
を起こすといっている。 これには他の16名の市、州、連邦の議員、また教育委員1名も加わることになろ
う。 これに対して市の副市長Walcottさんは「市長の案は地教委は残して再編成するだけであるから合法
的である」と語った。なお、その後の動きについては追記(2003. 6. 12) 市長は訴訟問題に決着をつけた
を見てください。
コメント
ご覧のとおり。市長や教育局長による改革案が成功するか否かは数年後の成果がこれを証明するであ
ろう。
2003. 5. 8 記