私立学校教員への志願 高い教員の離職率 生徒の停学・退学の増加
杉田 荘治
はじめに
先に最近のアメリカの教育の話題として、ニューヨーク市のこと、スナック菓子、教員の健康保険
制度のことなどを述べたが、今回は私立学校への教員の志願について、また都会の貧しい地区で
の高い教員離職率や生徒の停学・退学について述べよう。
T 私立学校は教員志望の有力な選択になっている
1 一般的な事項
公立学校は最近、厳しい予算のカットのために教員が働く場を失うことが全米的に起こって問題に
なっているが、これとは対照的に私立学校への増加が予想される。 すなわち、
『国立教育統計センター』:The National Center for Education Statistics
は「すくなくとも52,5000名
の私立学校教員が、ここ10年間に必要になるであろう」といっている。
今、全米で27,000校以上の私立学校があり、全国の幼稚園児から12年生(高3)までの生徒の10%の
教育を担っている。その大部分は宗教系の学校であるが、20%はどの宗教や宗派にも属していない。
また8割は生徒数が300名以下の小規模校であることが特徴的である。
【註】私立学校数は別のNCES資料によれば、29,939校(2002) なお、同じく(1999-2000)年度
では、27,223校、 生徒数 5162,684名、 教員 395,317名となっている。
なお、前述の10%は低すぎると考えたので再度NCES資料で確認したが、矢張りそうであった。
またその生徒の人種は、白人77%、 黒人9%、 メキシコ系8%、 アメリカン・インディアン4%、
アジア系5% で圧倒的に白人生徒が多い。
また確かに小規模校が多い。 すなわち、50人以下の学校は27.8%、 50-149人は28.4%、
150-299人は24.1%、 300-499人は11.8%、 500-749人は5.0%、 750人以上は2.9%
に
すぎない。
2 採用基準
公立と異なって私立学校は独自の教員採用基準を設けているが、制約が少ないので、最近、大学
を卒業した者のみならず、学位も持たないが色々な仕事を経験した者なども柔軟に受け入れている
が何よりも学習指導に熱心な者やリーダーシップをとれる人物に重点を置いている。
また採用の方法も多彩である。全米私立学校協会:The National Association
of Independent Schools
のサービス部長Sudan Boothさんは、「インターネットを利用して直接申し込む方法」、「就職説明会や
学校の広告による方法」などを挙げているが、後で申し込み機関の一覧を掲げておこう。
3 私学の利点
一般的に教員の満足度の高いことが挙げられが、
○教員の授業に自主性と弾力性が認められる。従って生徒の生活を変える力もある。
○生徒に学ぼうとする意欲がある。
○教員の住んでいるところから比較的近いところに勤務する学校がある。
結局、その私学の使命が性格を決め、開学の意義を鮮明にし存続させる。
4 給料
○1996年のNCESの資料によれば、私立学校教員の平均給料は公立のそれより25%
低かったが、
次第に増えてきて今や競争できるようになった。
○私立学校では、学校のタイプと教員の経験年数によって大きな差があることが公立と異なる。
○最近の私学の給料........ 初任給 28,000ドル 全教員の平均 40,000ドル
なお公立は.....................初任給 28,986ドル 全教員の平均 43,250ドル
付記 私立学校教員採用試験の申し込み機関一覧
○ National Association of Independent Schools
○ Independent Schools Association of the Central States
○ National Catholic Education Association
○ Association of Christian Schools International
○ Education Group
○ Educational Resources Group
○ Southern Teachers Agency
○ Teachers on Reserve
【資料】Education Week on the Web, Career Coach, March 2003
【参考】わが国の統計
学校 公立・私立の全体(校) 内、私立学校数 私立の%
小学校 23,124 194 0.8 %
中学校 11,035 721 6.5 %
高校 5,418 1,321 24.3 %
小学校...... 7万0950名 全国生徒数(719万7,460名)での割合.........0.99 %
中学校......24万2,506名 同上 (362万6,416名).................. ....6.7
%
高校........106万8,921名 同上 (360万5,243名).................. ...29.6 %
小学校........
62.6% 中学校...... 40.7% 高校...... 26.6%
U 都会の貧しい地区での高い教員離職率
都会の貧しい地区の学校は教員の給料も低く、教職への準備や支持にも欠けるので、高い教員
の離職率になっているとPhiladelphia Inquire(3/12/2003)紙が伝えている。すなわち、
最近の全米学習指導・未来委員会: the National Commission for Teaching
and America's Future
のレポートによれば、新任教員の33%が3年以内に職を去っているし、また46%が5年以内の離
職している。
Philadelphia州でも、そのような地区で1999-2000学年度採用の60名について調査したが、その43%
が4年以内に離職し、25%は他校へ転任していた。
理由
その理由は給料の低いこと、支持や尊敬が得られないこと、学習指導についても生徒の非行対策
についての事前の教育が不十分のままに教職に就いていることなど様々である。
また今もって、「それは女性の仕事である。就くのは容易だが去るのも簡単だ」、「本命の仕事に就く
前の前触れのような仕事である」、「結婚前や家庭を作る前の仕事」との意識が残っている。
教委も若い教員をサポートすることが不十分である。良い助言指導教員が大切であるが、その数も
機能も巧く働いていない。スタートさえ巧くいけば長続きするのであるが。
郊外の学校
これらとは対照的に郊外の学校は堅実で教員の欠員も少なく、その結果、ある郊外では長く代用教員
を勤めなければならず、滅多に正式採用にはなれない。従って少ない欠員補充を目指して700名も申し
込むという事態にもなる。また私学教員への志望も強くなる。
対策
上述の通りであるが教委はその解決策を具体的に講ずる必要がある。公式的な助言指導教員、クラス
サイズ、より良い給料、事前の指導・訓練などの構造改革である。
【コメント】わが国の県教委などによる広域人事、教員の比較的高い社会的地位や給料などの制度は
優れていると考える。従ってその制度に安住することなく良く機能するように努力する必要か゛
あろう。
V 生徒の退学、停学の増加
マサチュセッツ州教育局の調査によれば、州の公立学校で2000-2001年度で、非行のために退学に
なった、また10日間以上の停学になったりした生徒の数は前年度より15%も増えている。その数は、
1,621名である。またその理由は次ぎの通り。
○連邦の新教育改革法:No Child Left Behind Act によって学校が懲戒を厳しくしたこと。
○何回も非行を犯す生徒の増加。
○いろいろな非行に対処するための危機管理組織が不十分である。
○財政的な問題でソーシャルワーカーやカウンセラーなどの一次的解雇が増えたこと。
○表面的な懲戒で、本当に“生徒に基本的に必要なもの”に向けられていないこと。
○入学前から割れるような音を立てる子供、鍵っ子の増加、モラルの低下など。
教員組合の主張
2年前には「当局は非行生徒に対する特別な教育に欠ける」と教育当局を非難していたが、最近では
「非行生徒を早く退学・停学処分にして教員の危険を取り除き、学習環境が損なわれないよう
にすべきである」といっている。
今後、人種、性別、学校別の数字がインターネットなどで公表される予定であるし、オールタナスクール
や校内停学の方法もより効果的になされるであろう。 【資料】The Boston
Clobe (3/12/2003)号
【コメント】教員組合の主張の変化に注目したい。このような場合、わが国の教員組合はどのように主張
するのであろうか。
2003. 3. 17記