77. 『アメリカ国旗への忠誠の誓い』の違憲問題

     ー“神のもとで”の文言は違憲か?
     追記: 親の不同意の文書があれば『誓い』に参加しなくてもよい

              違憲問題その後
杉田 荘治


はじめに
    最近(2003年2月28日)、アメリカ控訴裁判所(第9巡回裁)は、再審理の結果、再び公立学校で
    行なわれている『国旗への忠誠の誓い』のなかにある“神のもとで一つの国”という文言は、
    政教分離の原則を定めた修正憲法第1条に違反するとして違憲の判断を下した。
    このことについて、わが国でも共同通信など各紙が報道しているが、その一部に、愛国心を高
    揚するための『アメリカ国旗への忠誠』の朗読そのものを違憲とするようなコメントがあったが、
    そうではなく、そのなかに“神のもとで”: under God という文言が含まれている点を問題視して
    いるのである。 以下、その判決文やLos Angeles Times (3/5/2003)号などから(後述)、この
    問題について要約しよう。
    【資料】その他、New York Times (2002. 6. 27号), The Sacramento Bee(Calif. 3/4/2003号)

T 訴えの発端

    カリフォルニア州サクラメントに住む救急医療専門の博士で無神論者であるMichael Newdowさん
    が「自分の娘が通う公立小学校で毎朝、教員指導のもとでアメリカ国旗に向かって、“神のもとで”
    の文言が含まれている忠誠の誓いを朗読させられることは、政教分離を定めた憲法に違反する」
    として提訴したのである。 これに対して地裁は問題視しなかったので控訴した。
    【註】 忠誠の誓い
       私はアメリカ合衆国の国旗に忠誠を誓う。 そして神のもとで、分けることができず、正義と
       自由をもたらす一つの国、共和国への忠誠を誓う。
        THE PLEDGE OF ALLEGIANCE
       I pledge allegiance to the Flag of Uninted States of America, and to the Republic for
       which it stands, one Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all.

U 連邦控訴裁の判決
 
    昨年(2002) 6月26日、三名の裁判官よりなる第9巡回裁判所(控訴裁)は、2: 1 の多数決で、
    『忠誠の誓い』に“神のもとで”一つの国という文言が入っているのは、政教分離の原則に反して
    違憲であるとした。 
   多数説(2名)
     Goodwine判事.... 79歳 ニクソン大統領によって1971年に任命された。
     Stephen Reinhards判事...71歳 カーター大統領によって1980年に任命された。
    ○ 州が宗教的信仰を裏書保証するようなことを特に教室という限定された環境で、年齢や感受
      性の強い生徒に朗読させるようなことは許されない。
    ○ 無神論の人に、そのような信仰を押し付けることは承認できない。宗教的には中立であるべき
      である。

   少数説(1名)
     Ferdinand F. Fernandez判事...63歳 先のBush大統領によって任命された。
    ○ その理由は下記の批判と同じ。さらに「われわれは直ぐ、公立学校で愛国的な歌のアルバムさ
      えも禁止するようになるであろう」、「神よアメリカに祝福を」「美しき国アメリカ」も消え去ることに
      なろう。 また『星条旗』も第一節と第二節は続くであろうが、第3節については使うか使わない
      か迷うことになろう。 
  
   判決に対する批判
    ○ その朗読は伝統であり、主として儀式的なものである。
    ○ それは心のなかの“心”の問題であって宗教ではない。
    ○ この判決を支持するが、“誓い”そのものについて反対するのではない。連邦議会が1954年に
      その文言を追加したことが間違いであった。
    しかし、「狂気じみている」、「ぞっとする」、「歴史上、控訴審判決のなかで最も悪い判決」、「理由も
    なく憲法の危機をもたらす」などの批判も強かった。
    また原告のNewdowさん自身も「判決を評価する。 しかし私と家族は脅迫されている」と新聞協会の
    会見で語っている。  
   
    【註】 合衆国憲法修正第1条
       いわゆる政教分離の原則に関する条項で確定条項ともいわれている。宗教にかんして公立
       機関、公立学校などの関わりや財政的な援助を禁止する条項である。 原文下記
        Amendment 1
        Congress shall make no law respecting an establishment of religion, or prohibiting
        the free exercise thereof, or abridging the freedom of speech, or of the press, or the right
        of the people peacebly to assemble, and to petition the Government for a redress of
        grievances.
    【参考】 なお、キィポイントを明確にするために公式判決文にある公式要約を下記しておこう。
        Summary: The addition of the words "under God" in the pledge of Allegiance to the Flag
        (via 1954 federal statute), and a school district policy ot teacher-led daily recitation of
        the Pledge, with the added words included, violate the First Ammendment's Establishment
        Clause. このように問題は結局、"神のもと", under God だけである。

V 控訴審判決の後


    しかしBush大統領や連邦議会が再審理を求めたので再審理され、この2月29日に再び違憲とされた
    のである。Amended  従って今回は被告・被控訴人に連邦議会が代表して入っている。
      事件名....Newdow v. U S Congress
      事件........ 憲法 教育法 : Constitional Law, Education Law
      その他.... 313 F.3d 495 (9th Cir, 2002)   292 F.3d 597 (CA9 2002)

    このように今回、再び違憲とされたのであるが、しかし同時に90日間の猶予を与え、管轄内の9の
    州( Alaska, Arizona, California, Hawaii, Idaho, Montana, Nevada, Oregon, とWashington) の公立学校
    で朗読を続けることを許可し、また事件の発端となった小学校のあるELK Grove教委から90日以内に
    連邦最高裁へ請願が出されるならば、その最終判断が出るまで判決を確定しないでおくとされた。
    pending a decision
    ところで、1992年、Chicagoでは違った控訴審判決が出ているようであるが、いずれにせよ連邦最高裁
    の判断は必要となった。

    ELK Grove教委教育長Gordenさんは、「将来、そのような誓いが認められないようになれば、他の愛国
    心的な行事、すなわち歌、詩、歴史的な事実からの引用などで代用していく」、「誓いを朗読するこ
    とは愛国的なものであって、宗教的なものではない。生徒に市民としての価値とアメリカに対する尊敬を
    教えるためである」と重ねて強調している。

コメント
 ご覧のとおり。公立学校で愛国心を高揚することは奨励こそされ、非難されることはないか゛その“誓い”
     のなかに“神のもとで”を入れることが問題視されているのであるが、果たして今後、連邦最高裁はどのよ
     うに判断するであろうか。私はこの場合の“神のもとで”は、イギリス国歌の“神よ、われわれの女王を
     守り給え”のように宗派を超え無宗派の人を含めて象徴性、強調としての意味あいに理解するが、法律
     的な解釈としては無理なのであろうか。 わが国にはこの種の学校行事、儀式はないか゛、それでも
     “君が代”、地鎮祭、靖国など宗教的というより象徴性や全体として精神性・魂の問題として考えていくほ
     うが自然であるものも多いように思われるが、法律との整合性は難しい問題である。

2003. 3 11 記               無断転載禁止

       追記(2003. 5. 8)   親の「不同意」の文書があれば『誓い』に参加しなくてもよい

    テキサス州議会は、生徒の親から『国旗への忠誠の誓い』に参加させないという文書が提出されておれ
    ば、その生徒は参加しなくてもよく、また罰せられることもないという法案を検討している。
    すなわち、Houston Chronicle(5/6)号によれば、始業前に『国旗とテキサス州旗への忠誠の誓い』と1分
    間の黙祷が行なわれるが、もし親から不参加の文書が出されておればこれに参加しなくてもよいとするも
    のである。 上院は試験的に賛否を問うたが、もう一回、賛成が得られれば法案をRick Perry 州知事へ送
    ると決定した。
   【コメント】有力な案であろう。 またCaliforniaやNew York州でも同じような法案があると聞く。