杉田 荘治
はじめに
アメリカの教員給料については先に、追記: NEA発表によるアメリカの教員給料で述べたように
州の間で大きな差がある。わが国では全国的に、ほぼ一律、同額であるが、このこととも十分、
関連しているが、最近(2003. 1月), Education Week 資質カウント2003年報告(1/9)
は、アメリカ
では『貧困校』ほど経験不足の教員を多くかかえており、その率は普通の学校の2倍以上である
と報じた。予想されることではあるが、一つの実証的資料として紹介しておこう。 それによれば、
T 成績のギャップ
各州で『人種少数派』生徒とそれ以外の生徒や富裕な家庭と貧しい家庭:『貧困校』の生徒との成
績のギャッフ「を埋めることを目標にすべきであるのに、その対策が遅れている。そのため有能な
教員を充足することが最も重要である。 しかし州の教員志望の学生への奨学資金も教員全般の
充足や特別な学科や地域への配置に向けられていて、『少数派』や『貧困層』の学校へ赴任する
ことを希望する者には向けられていない。
U 貧困層の学校 : high-poverty schools
Pennsylvania大学のRichard M. Ingesollによる1999-2000調査でSASSとしてデイター・ベースに保存
されているが、
a. “二流”にもならない教員は中等学校で全国平均は22% 以下であるが、『貧困層の学校』では32%
に達している。 成績の悪い学校のそれと較べても、それは2倍以上である。
b. 小学校では低所得層の学校では、教職経験3年未満の教員は9% であるが、『貧困層』の学校では
13% である。
c. 生徒が尊重されない学校は低所得層の学校では37%, しかし『貧困層』の学校では56%。
予習しない生徒の割合は、低所得層では45%、『貧困層』では80%。
親が学校に無関心な割合は、低所得層では36%、『貧困層』では75% である。
V 教員給料
『貧困層』の学校の教員は給料も低く、彼らはそれについて強い不満を懐いている。このことについて
親たちからの支持も少なく教材・教具も不足している。しかも彼ら同僚間の協力も少ないことも問題で
ある。
W 有能な教員の確保
新教育改革法は各州に2005-06 年度までに、総ての教科について有能な教員を確保するように求めて
いるが課題は多く残されている。 その際、連邦TitleT補助金を受けて新たに教員になる者にも“有能な
教員”レベルに達するよう求めている。
【註】この連邦TitleT補助金とは低所得者が多い教育区に与えられ、学力的に遅れている生徒に余分の
教育サービスを受けられるようにするための基金であるが次ぎの論文を参照してください。
45. アメリカの包括的教育改革法案ー提言とともにー追記: 教育改革法成立
X 時代おくれの教員免許状
今、22の州では各教委に教員免許の状況について詳細に報告するように要求しているが、そのうち、
California, Indiana, Kentucky, Louisiana, Tennessee州はインターネットでも、その状況を公表している。
またKentucky州では“時代おくれの免許状”out-of-field teachingや免許をもたないで生徒を教えること
を禁止しているし、他の10州では“時代えくれの免許状”の数を制限し、それに違反すればペナルティを
科している。
【コメント】わが国の教員免許所有の%の高いことは長所であるが、しかし一旦それを取得してからは、例
えばコンピューターの操作もできないなど“時代遅れ”のままにおかれている実状もあろう。実質的に免許を
更新していくことが必要となろう。なおout-of-fieldはこの場合の文意からして分野外、専門外ではなく、
“時代おくれ”の文意であろう。
Y 教員志望者への奨学資金等
24の州は将来、教員になろうとする者に大学奨学資金、貸し付け金、授業料の補助を行なっている。しか
しそのうち、7州だけが『貧困層』の学校、人種少数派の学校、低学力の学校へ赴任することを条件にして
いるだけである。やはり課題であろう。
Z 特別なボーナス
34州とColumbia地方だけが全米標準委員会から証明を受けたようなベテラン教員や有能教員に特別な
ボーナスを支給しているが、ここでも『貧困層』の学校の教員のことは余り考慮されていない。
[ 中途採用のルール
有能な者を中途採用する努力が足りない。 すなわち6州しか、そのルールを確立していなかったが、最近
24の州とColumbia地方が創りはじめた。それは新教育改革法の趣旨にも沿うことになろう。
コメント
アメリカと較べて、わが国では教員免許所有率の高いこと、教員給料の良いこと、教職経験年数の長いこと
は長所である。また“問題校”への配慮もなされている。しかし“時代おくれ”の教員免許にならないような研
修と更新の課題が残っている。中途採用教員の優遇策とルールづくりもあろう。
2003.1.12 記