60. テキサス大学『K-16 イニシアチブ』と日本の場合
       追記ーテキサス州の飛び級高校卒制度


         61. UT "K-16 Initiative" and Japan
 杉田 荘治

はじめに
 最近(2002. 5月), NPO『21世紀教育情報』5.15日号が、アメリカ・Texas大学の『K-16 イニシ
アチブ』についの地元紙Houston Chronicleの記事を紹介・説明している。 その新聞を入手す
ることが出来なかったが、しかしTexas州教育局『教員研修プロジェクト・チーム』のリーダーであ
るNolan Wood博士の協力によって、その原稿(By Sharon Tayson: American-Stateman Staff)
を手ににれることが出来たので、これらからその要旨を述べることにする。
T 全体的なこと
 K-16というからには、幼・小・中・高校の他に大学まで含めた教育について、Texas大学がイ
ニシアチブをとって教育改革を行なおうとするものである。" UT leads initiative to reform schools" 
Every Child, Every Advantage

事実、連邦教育省も感嘆し期待しており、アメリカ全体の教育改革の一つのモデルにもなるもの
とみなされ、また幾つかの州の枠を越え、幾つかの研究所と協力していくものとされる。 期間も
30年と息が長い。
U 具体的なこと
1 小・中・高校の理数教員の再教育を実施する。 しかもそれは、限られた人数ではなく大量
  の教員の再教育である。 またその教育的効果を国立教育評価センターとの合同チームに
  よって検証していく。

2 また、幼稚園児から8年生までの数学の学力の変化についても検証する。
  また、スペイン語を話す生徒についての英語教育で、最も効果的な方法をHoustonやUT-
  Austinの言語センターと共同して創りあげる。

3 キャンバス内にチァータ‐・スクールを創り、実習拠点とする。 2003年秋に小学校を開校。 
 ○ チァーター・スクールて゜あるから地方教委から生徒とそれに見合う銭を受け取ることに
   なるが、その他に州からの支出金、大学への政府補助金、さらには財団、事業主、有志
   からの寄付金もそれに充てられる。
 ○ 低所得層の生徒で学習に遅れをとっている者への授業を改善する。 そして富裕層の
   生徒とのギァップを埋める。
 ○ 教員の指導力の水準を上げる。
 ○ 「責任を果たす」ことを確実なものにする。

4 On-line を活用して上記の再教育や学習支援を行なう。
  すなわち、州の統一テストをOn-line を使って実施する。「教員のためのプログラム」につ
  いても同様である。
【コメント】
1 わが国でも一部『k-16』の考え方はあるし、現にごく一部ではあるが試みとして、指導要領
 の枠を越えて理数系で大学などと連携する高校も出てきた。 例えば岡崎高校は岡崎国立共
 同研究機構と連携し、その単位の認定も可能になろうし、普通科高校でもスーパーサイエン
 ス化として地元の大学と提携するなどの学校があるが、しかしTexas大学のような全学的で、
 しかもその主導によるレベルのものではない。 また教員の再教育についても、そのようなレ
 ベルのものはない。

2 わが国には地元の国立大学教育学部などの付属小・中・高校がある。
 しかしそれは教育系のもので、理数を含め全学的なものではなく、ましてや大量の教員の再
 教育を行なう力量はない。予算、施設、人材、時間などで、そのようには設けられていないか
 らである。また、これをテキサス大学のチャーター・スクールのようなスクールにするには、余
 程の覚悟が必要であろう。 というのは現行の付属学校は低学力や低所得層の生徒を事実
 上、受け入れておらず『エリート』校化しており、その評判や評価が落ちることを懸念するから
 である。

3 県や国の統一標準テストについて
 わが国では、小・中・高校生の教科・科目の学力を測る県や国の統一された標準テスト
 はない。
 国レベルで、ごくまれに一部の学年や科目につてい実施されることはあるが。
 しかし、実際には、ほぼすべての中学生について、その学力を知ることが出来る。 それ
 は大手の学習塾が、国語、社会、数学、理科、英語の共通テストを年間、数回実施し、ほぼ
 全員がこれを受けるからである。 それは生徒が高校の入試に備えるためではあるが。 ま
 たその結果を中学のホームルーム担任も承知し、生徒の入試指導に利用している。

 しかもその県の公立高校の入試は、同じ日、同じ問題で行なわれる。 その個々の生徒の
 得点やその中学校全体の得点は公表されないが、前記学習塾が聞き取り調査などの方法で、
 ほぼ正確にこれを把握している。
 高校生についても同様。大手予備校が全国的規模で、年間、数回、主なる大学入試科目の共
 通テストを実施し、高校生は入試に備えてこれを受けるからである。しかもその得点は個々の
 生徒に知らされるし在籍の学校にも通知される。さらにこれとは別に、数校の高校が共同して、
 共通の実力テストを行なっているところもある。

  このように、県や国の共通標準テストがなくても特に不便を感じないが、しかしそれらのテス
 トは強制的なものではないので、受けない生徒もいるし、卒業後すぐに就職するような者にとっ
 ては特に必要ではない。 チァーター・スクールが、わが国で出来そうて゛、なかなか出来ない
 のは、特に県の公式標準テストがないため、将来チァータ‐・スクールの生徒や学校全体の学
 力の変化を計ることができないという不安が残るためだろうと私は考えている。その代案を含
 めて、適切な施策が望まれる。

4 学習指導要領
  わが国では、総則や教科・科目のすべてについて、標準単位、その単位認定のための授業時
 間、内容、配列などの基準が細かく定めららている。なかにはガイドラインとしての参考事項的な
 ものもあるが、しかし全体としては法的拘束力のある『法規』としての性格のもので、従って公立、
 私立を問わず大綱的基準として、これに拠らなければならない。
 前記1でも述べたように今後、この学習指導要領をより弾力的に解釈・適用することを認めると
 ともに、その結果責任を問うなどの方法で、『エリート』教育、飛び級、飛び入学について、また
 他方、不登校生徒、チァーター・スクールなどについて、アメリカの例も参考にして進められるこ
 とを期待したい。
 2002年5月20日 記                    無断転載禁止
【追記:2002. 9. 2】 テキサス州の飛び級高校卒制度について
 テキサス州では、地方教委が夏休みに開くサマー・スクールで高校生が一定の単位を取れば、
1年早く高校を卒業することができる。 このことについて、Texas高等教育調整委員会のRay
Grasshoff さん(政府と連携担当副部長)からの回答を中心
にして述べることにする。
   アメリカの、またテキサス州の公立学校制度は、小学校は5年制(6才児から)で、中等学校
  (middle school) は3年、高校は4年制(18才まで) が普通です。
   また飛び級卒業プログラム( The Early High School Graduation Program) は、通常、4年
  かかる高校コースを3年で成し遂げるもので、その生徒に一時金として、1,000ドルの奨学金
  を与える制度です。

  この制度は、1993年に開設されましたが毎年、増えつづけ、2001年度(2000 - 01)には、4,174名
  がこれを受けました。
【コメント】
   このように夏休み中に、どれくらいの単位を取るか、また各地方教委による認定テストの難
  易度についてはわからないが、兎に角これだけの高校生が1年早く飛び級し、しかも一時金
  としての奨学金を得ていることに驚いている。 再度、問い合わせたが、その数に間違いは
  なかった。

  Ray Grasshoff さんの高等教育調整委員会が特別な基金を持って、これをサポートされている
  ことも参考になろう。
  なお、このニュースはNPO21世紀教育情報、2002. 8. 7も報じているが、その出典はDallas
  Morning News,8. 1日号である。同紙もこの制度を高く評価し多くの高校生に大学への進学意
  欲を高めるだけではなく、彼ら全体の勉学意識も高めるものになっているとしている。