55. わが国の教員のストライキ


                       54. Teachers strikes in Japan
 杉田 荘治

はじめに
     わが国は、諸外国ことにアメリカから、いろいろな情報を取り入れ、これを利用しているが、
    さてわが国からの情報となると極めて少ない。
    そこで近く、わが国の『教員のストライキ』について英文で、54. Teachers strikes in Japan
    として載せるが、その概要は次ぎのとおりである。

T 公立学校教員はストライキ禁止である
1  公立学校教員には地方公務員法が適用されるが、そこではストライキは禁止されている。
  すなわち、「職員は同盟罷業、怠業その他の争議行為をしてはならない。 また能率を低下
  させる怠業的行為をしてはならない。 また、そのような行為を企て、共謀し、そそのかし、
  あおってはならない」(地方公務員法 37条)。

2.  また職員団体とは、勤務条件の維持改善を図ることを目的とする団体や連合体であり、管
  理職とそれ以外の者とは同一の職員団体をつくることはできない。(55条@、B)
U 団体交渉と給料の決定
1  当局は教員組合などから、給与、勤務時間その他の勤務条件や社交的、厚生的活動につ
  いて、適法な申し入れがあった場合は応じなければならない。(55条@) しかし団体協約は
  締結することはできないが、書面による協定はできる。(55A、H)
  また管理運営事項は交渉事項ではない。(B)

2  このように争議行為、団体協約締結はできないが、その代償として公平な第3者機関であ
  る県人事委員会が年間を通じて調査し知事と議長に報告する。 また給与の増減を必要と
  するときは勧告する。
  またそれは、生計費、国や他の地方公務員や民間事業の賃金などを考慮して決められる。
  (24条 B) また、公立学校教員の給料は国立学校教員の額を基準にしている。(教育公
  務員特例法25条の2)  従って、人事院勧告と県人事委員会勧告の双方が関係してくる。
V 判例
1 多数説(多数の判決要旨)
 ○ 人事院勧告の完全実施を求めてのストライキを違法とし、戒告処分などは適法とされた。
   (熊本地裁、平成4. 11. 26判決なと多数)
 ○ しかしなかには、「一般論としては相当期間、完全に実施されないようてあれば、ある程
   度のストライキは認められる」としながら、この件については違法とした例もある。(同上熊
   本地裁)

 ○ 高裁判決は、すべて「違法」とし、処分も適法とした。 昭和57年、一時間ないしニ時間の
   スト、戒告処分に対して。(平成10.11. 20判決)、 東京高裁、平成5.3. 2判決なと゜。
   これらの事件は、いずれも昭和57年頃のものである。

 ○ 最高裁のものとしては、公務員そのものの争議行為についての懲戒処分を適法としたも
   のがある。 (平成1. 7.4 判決)労判555号
2 少数説(少数の判決要旨)
 ○ 国会・政府が人事院勧告の完全実施にむけてベストを尽くさず、その代償機能が喪失し
   ていた。(大分分地、平成5.1.19判決)
 ○ 政府・北海道庁が真摯な努力をしたかについては疑問が残る、とし懲戒処分のみを重く
   することは裁量権の濫用である。(札幌地裁、平成11.2. 26判決)
W 給与や年金の減額
 ストライキの教員に対する戒告や減給などの懲戒処分とは別に給与や年金の減額は県な
どの条例によって行われる。 ストライキの時間の給料カットのほかに、ボーナスのカット、また
昇給の3ヶ月延伸や退職手当、年金にまで跳ね返って大きな問題になった。 かなり経ってから、
いわゆる復元措置がとられたところも多いように聞いているが、それにしても一般的にはアメ
リカと較べて厳しい処分といえよう。
また一部判例にも見られるように、教員には団体協約締結権のないこと、ストライキ禁止のこ
との代償措置としての人事院や県人事委委員会の勧告制度、またその誠実な履行の程度など
についても説明すれば彼らの理解は深まろう。
【コメン】 ご覧のとおりであるが、わが国公立学校教員の社会的地位や給料の額について、
       アメリカなどとの比較もされながら説明することも必要であろう。
 2002年2月24日記                 無断転載禁止