杉田 荘治:Shoji Sugita
はじめに
今年9月11日のテロ攻撃によるアメリカの『戦争状態』によって、経済の冷え込みが懸念されて
いるが、それによる財政支出の厳しい選別の余波を受けて、『新教育改革法』実施に伴い、成績
の挙がらない公立学校をチャーター・スクールに移管する動きが加速するのではないかと考えて
いる。
すなわち、『新教育改革法』には、次のような条文が盛り込まれている。
包括的教育改革法案 、No Child Left Behind Act
[成績不振]の公立学校、つまり3年そのような状態がつづいた学校へは連邦補助金を打ち切る。
そしてチャーター・スクールになるか、州が強制的にその学校を引き継ぐか、或いは教員を入れ替え
て再出発させる。
英文下記: After the fourth year, if not enough progress is made, the school would have to
reconstitue, either by becoming charter schools, forcing the state to take over or
hiring a new staff to manage the school.
そこで、まずCalifornia州にあるEdison Charter Academy (エジソン・チァーター・スクール)につ
いて、例としてみることにする。 資料は後述一覧のように『NPO 21世紀教育情報』やBay
Guardian
紙などであるが、これらを纏めた。
このEdisonチァーター・スクールは、New York市に本部のあるEdison スクール会社が経営するス
クールの一つであるが、このスクール会社は既に136校の公立学校でその私企業的経営方法を実施
するとともに、多くのチャーター・スクールをもっている。 在籍生徒数は75.000人とかいわれる。
なお、その一つでもあるPhiladelphia市にある学校の問題やNew York市における問題などについて
も後述する。
【資料】 NPO『21世紀教育改革情報』2001.9.5号、9.19号、9.24号、 10.3号
Bay Guardian、2001. 8. 15号 The Examiner.
2001. 2. 6号
The NOE VALLEY VOICE 2001. 5月号 Pacific Research Institute
2001. 6. 22号
Edisonaction Org. Home page 7.12 The Inquirer 2001.9.21号
Philadelphia DAILY NEWS 2001.9.20号 Christian Science,Monitor
2001.9.24号
T エジソン・チァーター・スクール: Edison Charter Academy
民営といわれているが、私立学校ではなく、地方政府や国から資金(税金)を受けて私企業的な経
営方法で運営される公立学校としてのスクールである。 従って運営の合理化とともに利益追求の
学校(for-profit school )との批判も出てくる。 このスクールについてもそうである。
なお、California州は、このような形態のチャーター・スクールを認めている。関係条文下記
California ( 1992, amended 1998, impacted 1999 )
Types of Charter Schools..... Converted public, new starts, home-based schools
Charter School May be Managed or Operated by a For-Profit Organization...... Yes
問題点
○ 非常に多い教員の入れ替え
このスクールでは1998年に開設されてから最初の年度で、26名の教員のうち21名が辞職し、
翌年度にもにも、25名のうち18名が辞職している。 最近でも5名の教員が解雇されたが、そ
のうちの一人である22年の教職経験のあるM.L.さんは「私は教委管内の教員としての地位が
ある限り、喜んでこの仕事に従事したかったが...」といっている。
すなわち、7月上旬、彼女と4名の同僚が、V.M.校長から「皆さんは翌年度の仕事を教委管内
の他の場所で見つける必要があります」との書面を手渡された。彼女は、それに署名したが
「もう少し早くそのことを告げてくれれば、新たな仕事を探しやすかったのに..」といっている。
またスクールは、これと同時に4名の非常勤講師も解雇している。
○ このように高い教員の辞職率のほか、テスト得点の疑惑、不適当な財政報告、また学習指導
の困難な生徒に対するガイダンスの拙劣さや認可要件にもある2国語についての準備不足な
ども報じられている。
○ 生徒より利益を優先させるとか、挑戦しようとする生徒に対して手を抜いているとの批判も
ある。
スクール側の反論
○ 劇的に学力は向上した。リーディングや数学など。これらは親たちにも支持されている。
○ 厳しく生徒指導をし、学習に重点を置き、生徒の1日の在校時間を長くし、多くのコンピュー
ターや設備を備え、公立時代と較べると飛躍的に向上した。例えばPacific リサーチ研究所の
レポートによれば、1999-2000年にかけて、San Francisoco市内の73の小学校のなかで、3番
目の成績である。また、2000春のAPI成績でも、アフリカ系アメリカ人生徒は、25%向上したが、
それはそれらの生徒が主流である学校のなかで平均点がトップである。 またラテン系生徒も
15%向上した。それは市内の28校のなかで6番目である。
従って、イデオロギーだとか、利益追求の教育などとはいっておれないはずである。
○ 教員についても同様である。すなわち、新しい教員は、Edisonモデルとして芸術や技術の重
視、環境問題について創造的な力を養うことを評価し喜んでいる。 ある教員は「ハーレムや東
パローアルトの貧しい教育区でも教えてきたが、このスクールは良い面をもっており第一級の
管理方式や生徒を成功させるカリキュラムがある」といっている。
経過
○ 前述のように、1998年6月24日、San Francisco市教委は、5 : 2の評決でこのスクールの本部
であるEdison スクール会社に認可を与え、低学力や教育関係者による賄賂や腐敗があったと
される問題の多いスクールの経営を委託した。
○ 新しい多数派が主導権を握ってから、このスクールは常に新聞種になってきたが、2001年3月
26日に、市統合教委が125ページに及び報告書のなかで、親、教員、地域住民グループの不
満を述べたことを機会に論議が一気に高まった。
○ その28日にスクールの支持者たちが押し寄せたが、市教委は、6 : 1で認可を取り消す方針を
きめたが、しかし90 日間の猶予をEdison側に与え、問題事項をリストアップするように求めた。
○ その後、7月12日に、州教委は全会一致で、新たにこのスクールに5年間の認可を認めた。
従って認可母体は変わったが、500名の生徒のこのスクールは、存続される。
ついては、Edison側は公立学校としての交付金は当然に受け取るが、年額35万ドルを校舎使
用料として支払い、また教育区教委の反人種離反交付金(ファンド)は受け取らないこととし、一
方スクールバスは教委が運行し、教員はEdison側の雇用人となることで合意した。(教育改革リ
サーチ研究所、2001.7NEWS)
【コメント】 ご覧のとおり。認可の母体は市から州に変わっての再出発であるが、Edisonスクール
の手法は事実上、継続される。公立学校のチァーター・スクール化といえよう。
U Philadelphia市におけるEdison スクール会社
このEdisonスクール会社は、Pennsylvania州のPhiladelphia市でも期待されているとともに問題
にもなっている。 すなわち、市の公教育システムを教育企業に、教育財政のリストラ計画のため
に任せることの是非の問題である。
経過
○ 2001年9月20日、市議会は全会一致で、どの市内の公立学校でも、その経営を私的管理に
任せることを認める法案を通過させた。
その後で、ストーリ市長は、とかく問題の多い215.000人の生徒を擁するこの市の学校制度を改
善するための改革案がEdison側と知事からくることを待っている。
○ というのは、この8月に、州知事はEdison側に270万ドルで契約して、Philadelphia市の教育シ
ステムを見なおして勧告書を提出するように依頼していたからである。 期限は9月29
日、しかし
リッジ:Ridge知事が最近、国内安全担当長官に任命されたために少し遅れるかもしれない。
いずれにしても州知事側も「虱がかったひどい学力の学校を私的企業に運営してもらい、良い
成績をとるような学校にすることには賛成である」といっている。
従って、もし細部について市長と知事とが合意に至らなくても、その際には州が自動的に受け
継ぐことになる。
反対グループの意見
○ 市の教育を州や利益追求の会社に任せることはできない。市が認可するCity
Charterにすべ
きである。
○ 州は、われわれ学校の運営資金を増やすべきで、会社にそのような資金を与えてはならない。
○ 人種差別解消のための州の基金が市長に保管されているが、これを訴訟で解決する必要が
ある。
○ Edisonの学力進路コース(track) は他の都市でも行われているが、問題がある。
【コメント】 反対意見はあるが、結果は経過のとおり。 その流れは公立学校のチァーター・スクー
ル化といえよう。
V Edisonスクール本社の移転問題等
新しいEdisonスクールの提案はハーレムで難航している。
○ 今年の3月、New York市に本部をおくEdison スクール会社が、最も学力の低い5校の経営を
受託したいと申し出ると親たちが怒って抵抗した。
また、中央ハーレムに、1億2500万ドルかけて本部を建て、アフリカ美術館と定員550人の公
立学校を作る計画にもひじ鉄砲を食わせている。 それは用地の問題であるが。既に1000万
ドルで買収ずみの用地は住宅地域であるので、住宅を優先すべきであるというのである。
○ 理論的には市内の学校は、いかなる私的会社から“付け値”をつけられてもよいだろうが、と
にかく、その手法が住民の意志を無視したような方法で、また多くの校長や教員は、その提案
を新聞記事で始めて知る有様である。 確かに低所得者の多い地域で上手く成功に導く経営
方法を持っていることも認めなければならないだろうが、地域との関係をこじらせると喉もとに
突き当てたようになるであろう。
【コメント】 ご覧のとおり。木目細かい配慮が求められるということである。また、最近、州知事な
どによる『教育サミット』が持たれたようであるが、そこでのコンセンサスによって、3例の
問題も図られていくであろう。
2001年10月18日 記 無断転載禁止
【追記: 2002. 5. 23】 NPO『21世紀教育情報』2002. 5. 22号が、地元のボストン・グローブ紙の
記事を紹介しているが、それによれば、このEdison スクール会社に開校当時から運営を
委託してきたボストン・ルネッサンス・チャータースクールの昨年の州標準テストの成績は、
第八学年の生徒の20%が英語で不合格、また70%が数学で不合格となるなど、思うよいに
伸びないので、2005年までに、その契約を打ち切ってチャーター・スクール本来の姿に立ち
返るとのことである。 矢張り余りにも強引な手法では問題が多いように思われる。