杉田荘治
はじめに
無能教員 (不適格教員)の解雇は難しい問題である。
それは、生徒に良い教育を受けさせるためには、無能教員を教壇に立たせないことが必要
であるが、しかし 他方では、教委が恣意的に教員を解雇しないように正式採用教員の権利
:
Tenure を尊重することも求められるからである。
その接点のような領域を模索しながら、法令やガイドラインが作られ、また運用もなされてい
くことが、実際には必要であろう。
その目的をもって今回、思い切って無作為でアメリカ( U.S.A.)の25州の州知事に E-mail で次の
ような質問を送った。 本年 (2000年) 10月 中旬
1 あなたの州で [無能教員についての基準]を設けておられますか ?
2 教員を他の職に転職させた例がありますか ?
3 その他、参考事項
その際、それは礼儀でもあると考えて、たんに質問事項を述べるだけではなく、杉田が現在
やっていること、すなわち Shoji Sugita のhome page のこと、わが国の[不適格教員]のこと、
その英文 :Incompetent teachers in Japan などを添付した。
勿論、教員の解雇は州の権限に属するものではなく、各地方教委によってなされるものであり、
事実そのような回答が多かった。 しかし、なかには [ より良い教育を州の生徒たちに施すことは
州知事の使命]であるとの観点から、州知事自身が努力している施策や、また参考条文・条項な
どを紹介していただいたりした。 回答は直接、州知事からきたもの、[ 知事の命を受けて
]とし
て寄せられたもの、またE-mailでの回答の他に自宅へ郵送されてきたものもあった。
大統領選
の渦中の人、George Bush Texas州知事の手紙も含まれる。
その数、15州。 感謝している。
わが国で、このような質問をした場合、果たして知事や教育長にまで届くであろうか。
ましてや
回答を得ることなどは極めて稀であろう。彼我の差を思い知らされるとともに、そのサービス精
神について学ぶべきものが多いように思われた。
以下、それぞれの回答の要点について述べる。
1 Louisiana州
まず M.J."Mike Foster",Jr 州知事から 「あなたのE-mail を州教育長に送り、返事を出すよ
うに頼んだ」と送られてきたが、その数日後、その Cecil J. Picard教育長から次のような回答
があった。
要旨
○ 試補教員について ...... どの教員も 3年間は試補採用教員で郡 または都市で勤務する。
その終了時に予告なしに、教育長の意見によって明確な理由を付して解雇:dismiss または
解職:discharge される。 このような通知がない教員は、自動的に正式採用教員とされる。
【 コメント 】 内容的には真新しいものはない。 わが国では、この試補期間に相当する期間は事
実上、1年であるが、実際に解雇されるケースは極めて稀である。
ところで、郡は一般的には countyといわれるが、このLouisiana
の文では Parishと
書かれていた。
2 Minnesota州
最初、総務部のElizabeth Kemlingさんから 「Minnesot州の教員の基準を定めるのは
Minnesota 子供・家庭・学習部の責任です」 との回答があり、続いて、その学校教育指導部長
から参考資料がE-mail で送られてきた。
しかし、その内容は倫理に違反した場合の条項が書かれていて、「無能力」関係のものはな
かった。
【 コメント 】 上述のとおり。
3 New Hampshire州
Smolen,Jeanさんから 「 次の条文を参照してください 。 Name: RSA Lam.doc 」と回答が
あった。そこで、それを見たが要旨は次のとおり。
○ 一般的には、不道徳、無能力または規律違反のあった教員を予告なしに解雇すること
ができる。しかし、3年以上、同じ教育区で勤務した教員については、解雇の予告と正式
の聴聞手続きが保証される。( 章 189: 14-6 )
○ 教職に関する基準委員会が常設される。 その内容は、
@ 任務 ... 州教育当局に 、教員の勤務評定と職務の内容、就学以前の教育、公教育、
教職の進歩・向上、教職員免許についての政策を勧告する。
毎年 少なくとも 5回 開催。 また 2回 勧告する。
A 委員 .. 推進委員会の長 または事務局長、 教員の代表 9名、 高等教育と教育行政
の代表 9名、教職に関係のない者 2名 合計 21名
任期は 3年 旅費や費用は支給されるが報酬はない。
B その他 ... 政策を勧告するさいには必ず不満をもつ人の意見を聞くこと。
各教委は各種の資料を、この委員会に提供すること。
【 コメント 】 教職に関する基準委員会は、わが国にとって参考になろう。
また、この州のどの条文にも school district ( 教育区または学区 )とともに必ず
charter school ( チャーター スクール )と併記されている点に注目したい。 いまや
これほど、チャーター スクールが一般的になってきているあらわれであろう。
4 New Jersey州
はじめに州広報担当部長 John W.Crosbieさんから 「 Christine Todd Whitman州知事から
返事をだすよう」といわれたとして次のような回答が郵便で自宅へ送られてきた。
要旨 @ New Jersey州には 611の公立教育区 [教委]があります。どの教委でも 教員組合の
代表と交渉事項の範囲内で教員の勤務評定事項が決められます。 その内容は、どの
教委でもほとんど同じです。
A 州の教育委員長は問題が起こり、地方教委からアピールがなされてきた場合にのみ、
教員の問題に関わります。
B 教員の権利 : Tenureについては New Jersey 州法 N.J.S.A. 18A: 28 の Chapter 138
をみてください。
【 コメント 】 Tenureについては他の州とほぼ同じ。州委員長がアピールを受けることや教員組
合が関わる点も同様である。
5 New York州
Pataki州知事から州教育局に指示され、それをうけて Bart Zabinさんから次のような回答があった。
要旨 @ 州教育局が、要件を充たした者に教員免許状を出します。
A 雇用や Tenureについては、州は直接的な管理権をもっておらず、それは地方教委と教
員との契約によります。 なお、そのTenureについては New York州教育法
3020節と
3020-a 節に規定されています。
【 コメント 】 上述のように一般的な内容であった。 またその 3020-a節も調べ、それは
Article 61,
Teachers and supervisory and administrative staff とDiscipline
of teachers,
Disciplinary procedures and penalties のことであったが無能力教員について、特
に参考になるものはなかった。
6 South Carolina州
「わが州知事 Hodgesは、あなたの研究を評価し、知事に代わって回答するように」と指示さ
れたのでとして、教育担当部長 Douglas E.McTeer.jrさんから次のような手紙が自宅へ郵送さ
れてきた。
要旨 @ 州の学校教育は知事の最大関心事です。 そのため州教育長とトップ会談をもってい
ます。その結論として知事は 『 教育資質に関する委員会 』を任命し予算についての勧
告を期待しました。
A それは短期的には、教員の資質向上、すなわち教授方法や評価の問題を含めて教員
の知識を強化すること、長期的には 2001年以降の制度的な勧告です。 あなたに、同
委員会が出した『 予備レポート 』を送ります。
そして、14頁に及ぶ『予備レポート』が同封されていた。関係部分の要旨について下記する。
Hodges知事と Inez Tenenbaum州教育長とのトップ会談の目的、その結果
18名の委員が知事
から任命されたこと、委員長 Nikki Setzlierなと゜が書かれていた。そして、
優秀教員の表彰
@ 例えば Ohio州では全米的表彰を受けるような教員は、州知事や教育長が主催する昼
食会に招かれ業績を称える表彰状が与えられる。 また、ブルーリボン章やパルミト優
秀章、オリンピック精神章を受けた学校や生徒に対しては、州からも追加して表彰する。
A [その年度の州の教員]には 25.000ドル、4名の[名誉ある役割を果たした教員]には
10.000ドル、[その年度の地方教育区の教員 ]には 1.000ドル、それぞれに与える。
B 各種メディアは教育振興について具体的なプログラムを作り、これを奨励すること。
・ 名誉ある教育関係者のコーナー ・ コラムに州の教員、学校、生徒の成功例を
載せる。
・ 教育資質向上委員会のメンバーが定期的に新聞社の編集局を訪問すること。
・ インターネットの[ 誇りのサイト ]に常設のコーナーを設けること。
教員の研究休暇
議会は全米の基準によった協同研究をしている教員に、5日間の研究休暇を与える。
その内容は、学習指導方法、成績評価、教科の基準、カリキュラム、親との連携、低学力の
生徒を標準に近づける方法、高い水準の教育などであるが、そのいずれも全米レベル、州の
レベルを念頭に置いたものでなければならない。
優秀教員の確保
州の枠を超えて優秀な教員を確保すること。 ことにコンピーター技術などの特技をもった者を
従来の州の資格要件に合わないからといって一律に排除しないようにすること。また、その給
料査定のさいも教職以外の前歴を考慮すること。 また人材確保のため インターネットを利用
すること。
その他
教員の研修が いわゆる[一日研修]で終わらないように、より深められた研修になるように制度
を変更するとともに、校内で[ お互いに教えあえる教員 ]になるように計画する。
【コメント】 無能教員の件とは少し異なる資料であるが、わが国にとっては参考になろう。またこ
のような杉田に対する丁寧な回答に感謝している。
2000年11月末 記 続く .... Tennessee州など 無断転載禁止