270 統計にみる最近のアメリカの体罰状況 2


杉田荘治


はじめに
    最近わが国の体罰問題が大きな問題になっていることもあり、またNHKがBS放送て゛昨夜、
   アメリカ(U,S,A,)の状況を報じたが、その統計については全く触れていなかったこともあって、
   筆者があるグループの研究会に今日、参加したところ、そのことについて質問された。 
   第181編で統計的なことは記してあると話したが、ここではその後の変化について要約してお
   こう。 資料は前回と同じである。

T 『全米体罰禁止連合』:NCACPS 2008年3月発表分から
    全米の2005年〜2006年度状況について述べているが、まず図表で示そう。

  1 体罰禁止の州・容認の州

   今回の図は体罰容認の州19州
 について赤色でしめされていた
 が、内容がやや不明なので、ここ
 では前回のものを引用する。
 

 ○ 体罰禁止の州
  Alaska, California,
  など28州である。

 ○ 体罰容認の州は、
  Alabama, Arkansas,
  Colorado, Idaho,
  Indiana, Kentucky,
  Louisiana,
  Mississippi, Missouri
  New Mexico,
  South Carolian,
  Tennessee, Texas,
  など白色の州である。
  ○ しかし州としては
 容認でも実際には、
 その2分の1以上の地方
 教委が禁止している
 州
は、Arizona, Utah,
 など斜線を引いた州
 がある。


       2 体罰を受けた生徒数とその割合  (公立小学校・中等学校)

 
体罰を受た
生徒数
全生徒数に対する%
Alabama
33,716
4.5
Arkansas
22,314
4.7
Arizona
16
<0.0
Colorado
8
<0.0
Florida
7,185
.3
Georgia
18,249
1.1
Idaho
111
.04
Indiana
577
.05
Kansas
50
.01
Kentucky
2,209
.3
Louisiana
11,080
1.7
Missouri
5,159
.6
Mississippi
38,131
7.5
North Carolina
2,705
.2
New Mexico
705
.2
Ohio
672
.04
Oklahoma
14,828
2.3
South Carolina
1,409
.2
Tennessee
14,868
1.5
Texas
49,197
1.1
Wyoming
0
0

 第181編にしめした前回の数・%と比較されるとよい。
 例えば Alabama州は前回は5.2%であったが、今回は
 左のように4..5%と減ってきているし、Arkansas州も
 前回の7,6%から4,7%と減少している。

 また今回もワースト10州の最高であったMississippi州
 も前回9.1%から7.5%となっている。


  そして全米での状況は22万3,190名の生徒が適法と
 される体罰を受けている。 今回はその全生徒に対する
 割合は示されていないが、しかし18%減少したとのこと
 である


          ワースト10州

 
Rank
%
1
Mississippi
7.5
2
Arkansas
4.7
3
Alabama
4.5
4
Oklahoma
2.3
5
Louisiana
1.7
6
Tennessee
1.5
7
Texas
1.1
8
Georgia
1.1
9
Missouri
.6
10
Florida
.3
 前回とほとんど変っていない。しかし
 例えばTennesseeは4位から今回は
 6位になっている。 また前回kentucky
 は10位であったが今回はなくなり、その
 かわりにFloridaが10位になった。

                適法とされる体罰の条件

    誤解してはいけないが、アメリカでも適法とされる体罰は、各州、教委規則で定められた
   条件を守ることが必須である。
    例
   ○ 州法や連邦の法に拠ること。
   ○ 教委の規則やガイドラインに合致していること。
   ○ 管理職によって実施されること。 立会人がいること。  親の同意があること。
       (ジョージイア・ティウッグ郡教委  第219を参照してください。 またミシシッピー
       カーヴ郡 第129編参照)

   ○ !/4インチノ厚さの木製のパドルで最大3回まで。 (上述 カーヴ郡)

   ○ 親の同意を得ていること。 例えば学年の初めに親に対して体罰についての規則が文
     書で送られる。 それに対して「私は、子供が体罰を必要とするような行為をした場合は、
     体罰を受けることを欲します」という文書が学校へ提出されるが、80%の親はそうすると
     校長は語っている。 なお親の同意がない場合は停学など他の懲戒を確実に実施する
     こと。 (第129編を参照してください)。 
   ○ 教員、補助教員、校長、副校長のいずれも行使できるところもある。
     また悪意、恣意、人権無視、安全無視でないこと。  そのために生徒が悩んだとしても、
     教員等は免責である。 ( Mississippi Secretary of State, Mississippi Code, 37-11-57)
   ○ 最後の手段として許される。 顔を打ってはならない。 デリケート、神経質な生徒に行っ
     てはならない。 3年生以下の生徒には許されない。(第24編など)

     なお
全米PTAの見解

 全米PTAは体罰に反対しているが、次のように体罰が許容される教委・学校にあっては次
のような条件を求めている。  参考になろう。
  @ 親の同意と告知されること。
  A 生徒と親に、体罰の理由を説明すること。
  B 学校管理職によって実施されること。
  C 体罰以前の懲戒措置の段階が示されること。
  D 体罰行使のルールが決められていること。
  E 体罰は、その教員とは異なった他の指定された職員によって実施されること。
  F 記録は必要。 それには人種、性別、身体不自由などは必須要件である。また公
    開できること。
  G 生徒と教員のファイルを残しておくこと。それが定期的に確認されること。


 参考 小学生・中学生に対しても停学処分がある    第26編原典参照。
   ○ Pennsylvania, Kane Area 教委規則

       このように小・中・高校を通して、叱責から退学まで可能である。
   ○ Detroit 市教委規則
       このように、教師を攻撃した生徒、喧嘩、ギャンブリング、タバコ所持、不服従、などは
      停学に。 そのさい年齢大きさを考慮して実施される。
   
○ Indiana 州 Mt. Comfort Elementary School Student Handbook
       まさしく小学校の規則に、このように停学が規定されている。
   ○ Arkansas州 Code 1999 Changes 、Code 6-18-507
       このように、いかなる生徒に対しても、10日間までの停学にすることができる

 
 参考  体罰は減ってきているが停学は増える傾向にある

停学統計について 2011年

    2010,年5月発表 2006年度 公立小学校・中等学校 停学状況は次のとおりである。

 停学になった生徒数
  3,328,750
 内 男子 2,272,290
    女子 1.056,470
 全米生徒での%
  6.9%  ( 男子 9.1% )
      ( 女子 4,5% )
 白人       4,8% 
 黒人      15.0%
 ヒスパニック   6,8%
 アジア系     7.7 %
 原住民      7..9%

おわりに
    確かにアメリカでも体罰は減ってきている。 しかし2005年〜2006年度状況についてみると
   22万人余の公立学校生徒が、その行使を校長や副校長に限るなどの条件のもとで実施され
   た適法とされる体罰を受けている。 また体罰は減るが停学は増える傾向にも注目すべき
   であろう。  アメリカでは小学生や中学校の生徒に対しても停学処分がある。 わが国では
   それはないが、それではそれに替わるべき懲戒についてさらに論じる必要があろう。 

 平成25年(2013)2月27日記         無断転載禁止