杉田荘治
はじめに
第229編で述べたように、アメリカ(U.S.A.)のオバマ政権は教育振興策として43億5,000万
ドルの特別助成金: Race to the Top Grant を準備して、その要件に合った州に交付してき
たが、その最終分として2億ドルが、昨年(2011年)12月末、7州に交付された。
このことについて、New York Times,2011年12月23日号などが報じているので、これらを要
約して以下述べることにする。
交付された7州とその額
Illinois 4,280万ドル Pennsylbania 4,130万ドル New
Jersey 3,780万ドル
Arizona 2,500万ドル Colorado 1,790万ドル Louisiana
1,740万ドル
Kentucky 1,700万ドル 合計 1億9,800万ドル
どのような基準で交付されたか
1 偉大な教員とリーダーについて (138ポイント)
業績に基づく教員・校長の成果を向上させるような具体策をつくること。
2 州の教育改革について (125ポイント)
明確な州の教育改革と大学入試に必要なLEAの申し込み状況の検証
3 州共通の評価基準について (70ポイント)
より高い基準を設定しようとする努力の査定
4 基準の幅を広げること (55ポイント)
チァータースクールや刺激的な学校への改善策の査定
5 低学力校の改善 (50ポイント)
最低学力校のLEAへの申し込み状況も査定する。
6 学習指導を支えるデーターの整備
州に共通する長期にわたるデーターシステムを創ることを査定する。
7 STEM (理科、数学。技術教育振興策) (15ポイト)
以上の合計得点は500ポイントであるが。交付を受けた州は450ポイントぐらいは
得ているようである。 しかしどうも査定が少し甘いように思われる。 というのは後
述するが例えば過去にHawaii州は462ポイントを取って助成金が交付されていたが、
その後約束違反として返還させられる惧れがあるからである。
成果を挙げたイリノイ州の場合
Illinois州はチァータースクールの数の制限を引き上げて二倍のチァータースクールをつくる
ことができるようにした。 実はこの州は前回交付された10州のなかには含まれていなかった
が、その後、869ヶの地方教委と半分以上の教員組合(234教員組合)が努力して、幼稚園に
ついてもテストを実施することを考えたり、また低学力校の改善、理科教育で一段と高いレベ
ルの教科書に切り替えたりしたことが評価された。 また教員評価についても生徒の学習成績
をその半分以上にしようとしていることも評価された。
すでに交付を受けている州とその額
州 | 金額 | 州 | 金額 |
Delaware | 1億ドル | New York | 7億ドル |
首都ワシントン | 7,500万ドル | North Carolina | 4億ドル |
Florida | 7億ドル | Ohio | 4億ドル |
Geogia | 4億ドル | Rode Island | 7,500万ドル |
Hawaii | 7,500万ドル | ||
Maryland | 2億5,000万ドル |
註 しかしHawaiiは上述のように7,500ドルの交付を受けていたが、その後の改善が不十分であ
るとして返還を求められる惧れがある。(New York Times, 2011年12月23日号 またEducation
Week's blogs,2012年1月18日号もダンカン教育長官は[ここ数日で少し進歩したが、しかし依然
として教員組合と意欲的なな試案を作ろうとする交渉が進んでいない。]とコメントしている。
またNew York州も約束した改善策を実施しないとして、7億ドルを返さなければならないといわ
れる。これは州の教育予算の4%に相当するので、州知事は州教員組合と協議している。(The
Wall Street Journal, 2012年1月8日号)
さらにFlorida州についても同じような惧れがあるとNew York Times, 2012年1月10日号が報じ
ている。
今後の方針
連邦政府は新たに5億5,000万ドルの助成金を準備しているが、今まで交付されなかった州を
中心にする。 しかしその額の半分は州を通さずに地方へ直接交付することを考えている。
(Education Week's blogs, 2012年1月18日号, It's Time to create Race
to Top for Districts)。
おわりに
ご覧のとおりであるが、Race to Top 連邦教育助成金の効果は余り挙がっていないように
思われる。 業績に基づく教員評価などがやはり難しいのであろう。提出された計画はよくても
実際には運営はそれほど巧くいかないのであろう。
2012年(平成24)2月3日記 無断転載禁止