杉田荘治
はじめに
アメリカ(U.SA)ではゼロ・トレランス策は根強い支持を受けているようであるが、しかし
依然として揺れ動いていることも確かであろう。 というのは、ちょっとした生徒の違反行
為にも学校側は過剰に反応して停学にするケースが後を絶たないからである。
このことについてWashington Postの記事などから二三、事例を紹介し、アメリカの公立
学校はいわれるほど安全ではないことにも触れる。 またわが国ではそのゼロ・トレランス
策をそのまま受け入れることは到底できないが、その趣旨を活かしたわが国独自の生徒
指導問題、“トレランス”策について考察したい。
アメリカのゼロ・トレランスの問題点
これについてよくいわれることであるが、生徒の違反行為を学校は寛容しないという明確
なメーセージを出すことは良いが、誰が見ても生徒や親がうっかりしていたと思われるよう
な行為についても停学や退学処分にする事例が多い。 前述したように、Washington Post
2011年6月2日号とTHE BALTIMORE SUN 2011年5月8B号から紹介する。
1. 16才の少女の事例
2011年5月、Baltimore市で16才の少女が少年事件担当機関にも送られ、また6日間の
停学になった。 それは母親の語るところによれば、娘が以前交際していた友達と不仲に
なり不安を感じ、また朝早く公園を通り抜けることもあったので、胡椒の入ったスプレイを持
たせていたが、それをその生徒が学校へ鞄に入れて持っていき、そのことを友達が告げ
口して発覚したのであった。 これは武器を持ち込んだもとされたが、母親は[娘はなにも
悪いことはしていない。この処分によって娘の将来が傷つけられた]と語っている。 もっと
もその後、停学は4日間に短縮された。
2. 二名の少年の事例
同じ頃、Maryland州でカナダの国技にもなっているラクローズという競技のスティックを修
理するために使用する小さなナイフを鞄のなかに入れて学校へ行った。 当局はブライバ
シィ保護のためとして詳細なコメントを差し控えているが、少年たちは手錠を掛けられて警
察に連行され長期の停学と犯罪行為として処分された。 不幸なことにはその一人の15才
の少年は停学の二日目にベッドで首を吊って自殺したが、今までそのような修理用の小型
ナイフを校内に持ち込んではいけないなどとは聞いていなかったと語っていた。
3. その他
同じくMaryland州である高校生がロッカーのマリファナを隠しもっていたとして逮捕され退
学になった。 母親は息子の間違った行為を認めながらも、[いきなり退学とはひどすぎる。
息子を街頭に追いやり将来もっと悪いことをするのではないか]と心配している。
ゼロ・トレランスを見直す動き
前述Washingto Post などから、その動きを見てみよう。 すなわち、
North Carolina, Denver, Los Angelesなどでは、生徒のちょっとした過ちや違反行為に
あまりにも厳しい処分をすることを改める動きがでてきている。 また一律に規則を適用
するのではなく、その生徒の学年や違反行為の内容を複数の要因から検討するように
なってきた。その結果、停学が1/3に減ったところもある。 Baltimoreでも39%も減少した。
また学校の安全、秩序の確保とたった一回の生徒の違反行為とのバランスを保つた
めに校長が検討委員会を招集して、その結果を処分として実施するようにしたため、
Montgomeryでは2007年度以降、停学は45%にまで減ってきた。
また今までもとられていたが、次の方法をさらに適用するようにもなった。 すなわち、
・口頭で厳重に注意すること ・親との面談 ・今後の行動を生徒に約束させること
・放課後の課題や作業を課すこと ・もっと生徒の善行に目をむけること
なお少年事件裁判所の判事も次のように語っている。 すなわち[少年たちのちょっとした
違反行為でも余りにも簡単に裁判所に持ち込まれるので、本来審議しなければならない重
大な少年犯罪に費やす時間が損なわれている。] 1994年制定のGun-Free
School Act適
用の過剰との批判である。 (同じような意見について第119編を参照してください。)
最後に前述Washington Postはコメントして、[わが国ではゼロ・トレランスを支持する動き
は強く、このような学校文化を変えるには時間がかかるであろう]と述べている。
アメリカの公立学校は安全か
見方はいろいろあるが、いわれるほど安全ではないことも事実であろう。ことに大都会の公
立高校ではそうであろう。 その両面からみてみよう。
明るくてのびのびしている公立学校
1. 現在のアメリカの学校は,明るく自由でのびのびとした雰囲気である。そして,生徒と教師の目
は,生き生きと輝いていて,すがすがしい。 各種の教育レポートでも同様な報告がなされている。
加藤十八 『アメリカの事例から学ぶ学校再生の決めて - ゼロトレランスが学校を建て直した』
学事出版、2000年、ISBN 4761907088。 加藤十八 『ゼロトレランス
- 規範意識
をどう育てるか』 学事出版、2006年、ISBN 参照
2. 伝統的な躾けで蘇ったアメリカの学校教育
ある中学校教師が長期自主研修制度を用いて、アメリカの多くの小中学校を訪問した。その感想
を次のように記している。
アメリカの公立学校の整然としている様子には、先々で大変感銘を受けました。小中学校を中心
に多くの学校訪問を行いましたが、先生方が声をはりあげて指導される場面がまったくありません。
また、生徒たちが廊下を走り回ったり、大声で騒いだりする様子も見受けられません。小学校一年
生でさえ、先生の引率無しで静かに廊下に並んでカフェテリアまで移動します。集団で安全に行動す
る方法がよく身に付いており、それがごく当たり前で普通のこととして馴染んでいる様子に驚きまし
た。 (国際派日本人養成講座 参照)
公立学校の他の一面
1. 夫が勤務する大都会の公立高校
2010年7月6日、新しい公立高校サウスロサンゼルスエリアがオープン。歴史の教師をしている
私の夫は、この学校へ転勤することになった。 うちのダンナはこんな学校で働いて大丈夫なのだ
ろうか。 9年生(日本の中学3年生)から11年生までの約1,800人の生徒たちは安全に勉強できる
のだろうか。 私は実際に学校を訪問して、自分の目で確かめてみることにした。
周囲を高い柵で取り囲まれた新高校No.1の唯一の出入り口は大通りに面した巨大な鉄製ゲート。
ここも登校時を過ぎるとロックされてしまう。 迎えに来てくれた夫と一緒に事務員さんに来校目的を
説明。やっとのことで許可証をもらうことができた。
ロサンゼルス・スクールポリス(LASPD)のオフィス。ここには安全確保の要となるキャンパス警察官
が駐在している。LASPDとは、警察官約340人が所属し、ロスの公立学校約千校を守っている警察組
織。 各高校には「キャンパス警察官」一人が派遣されているが、この学校には特別に二人が張りつ
いている。
昼休みになった。ケンカなどが起こるのは主に昼休み。LASPDにとっては正念場だ。本部から応援
の警察官二人が到着。合計4人が中庭のあちこちに仁王立ちになり周囲に目を配る。ベルが鳴り、ユ
ニフォームの灰色のTシャツを着た生徒が、続々と中庭に降りてくる。教師は教室に鍵をかけ、建物の
入り口もロック。生徒全員を警察の目が届く中庭に集めるためだ。教頭、校長などの管理職員も全員
外に出て、警察と一緒に生徒の動きをつぶさに見守る。 この日も、昼休みに生徒たち百人程度がざ
わつき始め、先生と警察官に緊張が走って……二名の生徒が手錠をかけられて連行されていった。
内田洋行 教育総合研究所 更新日: 2011年3月1日 学びの場. 参照
2. アメリカの公立学校の資金不足問題 - ニューイングランド通信 - Yahoo ... - 5月31日
2010年3月15日 ... アメリカの都市部の公立学校というのは、下手すると命がけの世界なのです。
それだから、みんな必死で郊外のお金のある地域に住みたがる。どうしてかというと、その市が集め
る税金に教育がかかっているから。だから、たとえ家賃が高くてもとなる。
ミズーリ州カンザスシティあたり、住むのにいいんじゃないかなんてちょっと考えていた我が家ですが、
市内61校のうち、なんと28校も閉鎖することになってしまったそうです。半分です。
blogs.yahoo.co.jp/giantchee2/49982001.html - 参照
[コメント] 確かに施設・設備だけではなく、教員の給料もわが国のそれと比較して悪い。
生活安定感もその分、低くなる。後で補足説明する。
3. アメリカの公立高校で女子生徒が妊娠
アメリカの公立高校で800人中115人の女子生徒が妊娠していることが判明
...2009年10月21日 ...
gigazine.net/news/20091021_student_pregnant/ 参照 筆者は確認していないが。
4. 次期大統領の娘たちの学校
次期大統領に選出されてから、オバマ夫妻(Barack Obama and Michelle)は、10才の
Maliaと7才のSashaの2人の娘のワシントン市における転校先を検討していた。 首都
のFenty市長は熱心に公立学校も考慮に入れるようにと勧めたいたが、オバマ家族が
事前に公立学校を訪れることはなかった。 そして私立学校については3校、検討され
たようであるが、結局、Sidwell Friends Schoolというクェ-カー教徒設立・運営の学校に
決められた。
選んだ理由
○ その学校が娘たちにとって安全であること。 ○ 子供のプライバシィが保たれ
ること。なと゛。 (第223編を参照してください。)
わが国の“ゼロ・トレランス”策
わが国の生徒指導のあり方: “ゼロ・トレランス”策は文部科学省の通知『問題行動を起こ
す児童生徒に対する指導について』(後述)を徹底することである。
わが国の公立学校の多くは安全であり秩序も保たれていると思うが問題校もあろう。
かなり以前の例であるが、筆者に寄せられた質問とその回答を下記して検討しよう。
1. 校内暴力の例 B県 中学一年学級委員とその父親から ........ 1999. 5月
Q. はじめまして、僕は中学一年生です。 現在、校内暴力でくるしめられています。
そのため、ホームページを開いたら、杉田様のホームページを見つけまのたので、
拝読させていただきました。良い案があれば教えていただきたいと思います。
杉田様へ、息子の不躾なメールで失礼します。..... 息子の訴える通り、以前より、
数名の集団による校内暴力 ( 器物破損、 対教師間暴力、 対生徒間暴力 ) によっ
て授業が中断することは日常的で教師 1名および生徒 10数名の怪我人が出てお
り、加害者の保護者に対して (学校から)再三の注意をしても一向に改善の兆しが
見えません。
ガラス代や治療費を請求しても全く応じません。 先生方も、[ やられ放題 ]の状
態です。さらに、これらの集団を管理するために先生方の労力がほとんど注ぎ込
まれてしまい、肝心の授業がまったく進みません。 加害者の生徒は [14歳以下は
何をしても罰せられないから大丈夫]と嘯いている始末です。
昨日、全学年のPTAが対策集会を持ちましたが学校教育法のため何をやっても
[体罰]に該当してしまい決め手が見出せません。 ........現在も暴力は止まらず、い
つ自分の子供が被害に遭うかと考えて不安が拭えません。 中、長期的には、[あ
いさつ運動] とか [花植え運動]を通じて歯止めをかけていきたいと思うのですが速
効性がありません。 ..... アドバイスをお願いいたします。 〔 39歳、会社員 〕
A. 難しい問題です。もしそれが事実とすれば、何故今まで有効な対策がとられな
かったのか残念に思います。 また今となっては手後れなのかもしれませんが、
どんな生徒にも良い点があります。 気力で接し彼らに愛情を注ぐ関係者はいない
のでしょうか。 ご健勝を祈ります。
また違法とされる体罰と懲戒とは違います。 参考までにアメリカの規則を下記
します。
○ Pennsylvania州教委規則
しかし次の場合は、たとえ親やある教委が反対していても、力を行使する
こができる。 すなわち、
・ 騒ぎを静める場合 ・武器や危険な物をもっている場合 ・自己防衛の場合
・他人や器物を守る場合
[註 当事者ではなく、また前述の文科省[通知]も出されていなかったので、この
程度の回答をした。]
2. 体罰した、といわれています。...... A県の高校教員から ...... 1998年9月
Q. いきなり不躾なメールをお許し下さい。 私は ○県の高校教員をしています。
私は先般、教室へ行こうとしない生徒の腕を引っ張って、いすから引きずりお
ろしたところ、生徒が体罰を受けたと親に報告し、校長から親に謝罪をするよ
うに要求されました。 親は、教育委員会に報告し処分してもらうなどと言って
います。 ......私は職務遂行上全く間違ったことをしていないと信じていますし、
生徒は怪我したといっていますが、日常生活の上で何も支障はありません。
しかし、その生徒は精神的にダメージを受けたと主張し、登校拒否となり、精
神科にかかって診断書を親が持ってきて私の前に突きつけました。
私はいっさい謝罪する気持ちはありませんが、私が謝罪しないことで何らか
の処分を下せるものなのでしょうか。先生のアドレスはホームページ上で知り
ました。 わらをもつかむつもりで、先生にメールを送ります。 ....
A. その時の状況や、とった行動を正確に校長、教頭、生徒指導の先生に話され
る事が大切です。 その生徒の日ごろの様子も含めて、よく関係者と相談して
ください。 また2000年7月に載せた第25編を参照してください。 そこにはー
騒ぎをしずめたり、暴力行為を排除するなどのために、学校の教職員が、力
を行使することは、体罰ではない ーなどについて述べてあります。
[註 前述[通知]が出されていない時期であることは同様である。 その後、
このような質問も多くなり、また迷惑メールも多くなったのでe-メールは閉じ
ている。]
文部科学省[通知]を確実に実施すること
前述のように文部科学省は平成19年2月5日、初等中等教育局長名で『問題行動を
起こす児童生徒に対する指導について』として通知された。やや遅かったと思うが、し
かしこれを確実に実施することが、わが国の“ゼロ・トレランス”策である。
内容
なお、児童生徒から教員等に対する暴力行為に対して、教員等が防衛のために
やむを得ずした有形力の行使は、もとより教育上の措置たる懲戒行為として行わ
れたものではなく、これにより身体への侵害又は肉体的苦痛を与えた場合は体罰
には該当しない。また、他の児童生徒に被害を及ぼすような暴力行為に対して、
これを制止したり、目前の危険を回避するためにやむを得ずした有形力の行使に
ついても、同様に体罰に当たらない。これらの行為については、正当防衛、正当行
為等として刑事上又は民事上の責めを免れうる。
また、児童生徒が学習を怠り、喧騒その他の行為により他の児童生徒の学習を
妨げるような場合には、他の児童生徒の学習上の妨害を排除し教室内の秩序を
維持するため、必要な間、やむを得ず教室外に退去させることは懲戒に当たらず、
教育上必要な措置として差し支えない
参考1
上記e-メールによる回答でも書いたように筆者は第25編で次のように述べている。
「理由のある力の行使」は体罰ではない」
ー 騒ぎをしずめたり、暴力行為を排除するなどのために、学校の教職員が、力
を行使することは、体罰ではない ー
わが国では、学校教育法で禁じられている体罰と生徒の暴力行為を排除したり、
騒ぎを静めてクラスの秩序を回復・維持したりするなど、合理的な理由のある場
合、教職員が[力を行使]する正当な行為とを混同して、その行為を違法視する
きらいがあるが、そうではない。
またアメリカの規定を付記した。 すなわち、
その共通したタイプ は次の場合は、たとえ親やある教委が体罰に反対していて
も、力を行使することができる。 @ 騒ぎを静める場合など、である。
またその「理由のある力を行使]するときは、往々にして生徒をひきづり出し、少し
怪我をさせることもあるが問題視されていない。 例えば。Virginia 州は体罰禁止
であるが、[力の行使]について少しの肉体的痛みや怪我を与えたとしても問題視
しないことを明記している。 原文(英文)は省略する。
文部科学省[通知]もそのガイドラインなどで、この点をはっきりさせる必要はあろう。
参考2 東京高裁 昭和56年4月1日判決について (第201編を見てください。)
この判例は前掲文部科学省[通知]と同じような趣旨のものであった。
参考3 NHKは2000年1月 8日と9日、衛星放送BS-1で、『地球法廷 ・ 教育を問う』
という番組を放送されたが、そのなかで杉田のこの意見も取り上げられた。
また至文堂『現代のエスプリ 302号』 現代の教育に欠けるもの、1992年/
9月号杉田の論考。明治図書『学校マネジメント』平成19年4月号 61ベージ、
また7月号を参照してください。同じような論旨である。
その他、留意すべきこと
1. 教員の給料、社会的地位、生活安定感の相違
わが国では県立学校はいうまでもなく、公立小学校・中学校の教員も『県費負担教
職員』といわれることからもわかるように、その給料はすべて県費(都道府県)であり、
また1/2(交付税でおぎなって実質1/2)は国が負担しているし、人事も広域に亘って
行なわれる。従って、いかに財政的に貧しい地方や地方教委といえども教員給料に
ついて心配する必要はなく、優れた教員を確保することができる。 社会的地位や
生活安定感が強い。 余裕をもって生徒指導に当たれるその長所を活かす必要
があろう。 もちろんそれに安住してはならない。 よくいわれることであるが。フィ
ンランドの教員の自己研修を参考にしたほうがよい。
アメリカの公立学校教員の給料については第89編、第140編を参照してくださ
い。また203編 公立学校教員のストライキで記したように同じ州のなかでも富
める地区と貧しい地区との給料格差も大きい。低いところは最高のところの半分
以下である。 アメリカのゼロ・トレランスを論じるとき、この視点が欠けているよ
うに思われる。
2. 授業参観や運動会など学校行事のさい
参観授業で親が騒がしい、運動会でわが子の写真を取るのに審判の先生が邪
魔になるといわれてどくなどの“サービス”をする。 これでは生徒に対して“ゼロ・
トレランス”と主張しても空しいものとなろう。 一流のコンサートや芝居のさい、劇
場はそのようなサービスはしない。開演後に来た客には別の対応をする。
3. 校長の態度
例えば指導の方法が少しいびつだからといって一生懸命に生徒指導に取り組
んでいる教員は往々にして保護者や生徒、ときには同僚からも批判の対象とさ
れる。 その際、校長はその教員をかばうべきである。しっぺ返しもあろう。しかし
学校(校長)の“芯”が問われる。
学級崩壊についても、主として児童・生徒に問題がある場合、教員に問題があ
る、いや保護者に問題がある、繁華街、歓楽街などが問題であるなどといわれ
る。またまれであるが教委やマスコミの姿勢を問題にすることもあろう。 そのと
おりであるし、また実は原因が複合していることがほとんどであろう。しかしもっ
とも問われべきは校長の態度であると考えている。
なお高校生の退学についていえば。その生徒に[この学校で勉強を続けたい]と
いう意志がある限り、できるだけ退学にはしないことである。 時には校長か全教
職員に頼んででもそうすべきである。 勿論、万策尽きるときがあろう。そのときは
やむをえない。 これもわが国の“ゼロ・トレランス”策である。
4. オールタナティブ スクールについて
わが国ではオールタナティブ スクールは、まず不可能であろう。
[あの家の子は毎朝、私立学校でもない、特別支援学校でもない。 なにか変わっ
た学校へ行っている]との評判には、生徒のみならず親も耐えられないであろう。
アメリカとは異なる。第一、かりにそのようなスクールができたとして、そこで数ヶ
月過ごした生徒が元の学校へ戻ったとき、“○○学校がえり”として恐れられたり、
居所を求めて周囲の生徒を悪化させたりしよう。 教員も手を焼くにきまっている。
おわりに
ご覧のとおり今でもアメリカでは、そのゼロ・トレランスは過剰に反応する例が後を
絶たないこと、その見直しの動き、またアメリカの公立学校は果たして安全かなどを
考察し、わが国にあっては問題校の事例や文部科学省[通知]を徹底すること、その
他留意すべき事項について述べた。それはわが国の“ゼロ・トレランス”策と考える。
最後に一言付言すると、文中で記したアメリカのゼロ・トレランス推進者論である加
藤十八氏と筆者とは偶々同じ歳で、また同じような軍歴があり、しかも同じ時期、公立
高校長であった。 たまに会合で会い談笑しながら語り合うこともあるが、案外、筆者
のほうが厳しい“ゼロ・トレランス”論者であるように思うことがある。
平成23年(2011年)6月11日記 無断転載禁止