杉田荘治
はじめに
2011年の今、アメリカ(U.S.A.)ではチャータースクールは5,400校に達している。 2004年1月
現在では3,400校であったので急増していることになる。 このことについてまずその[教育改
革センター]資料の州別一覧を下記して、それは何故かについて述べ、また閉校になるチャー
タースクールも多いので、これについても記す。また11州では今もってチャータースクールが
ない。 それは教員組合ことにNEAとの関係が深いが、それについても述べることにする。
The Center for Education Reform - October 2010
State | Operating in 2009- 2010 |
Opening in 2010- 2011 |
Total Operating | Total Estimated Enrollment |
Alaska | 28 | 2 | 30 | 6,169 |
Arizona | 564 | 17 | 581 | 142,848 |
Arkansas | 28 | 4 | 32 | 10,099 |
California | 827 | 114 | 941 | 348,686 |
Colorado | 161 | 15 | 176 | 66,186 |
Connecticut | 21 | 1 | 22 | 4,992 |
Delaware | 19 | 1 | 20 | 9,581 |
DC | 96 | 5 | 101 | 29,557 |
Florida | 427 | 56 | 483 | 150,199 |
Georgia | 92 | 17 | 109 | 57,987 |
Hawaii | 32 | 0 | 32 | 7,668 |
Idaho | 34 | 5 | 39 | 14,951 |
Illinois | 83 | 16 | 99 | 37,860 |
Indiana | 54 | 8 | 62 | 19,669 |
Iowa | 9 | 0 | 9 | 1,413 |
Kansas | 37 | 0 | 37 | 5,003 |
Louisiana | 82 | 14 | 96 | 33,083 |
Maryland | 37 | 3 | 40 | 9,792 |
Massachusetts | 64 | 2 | 66 | 25,167 |
Michigan | 286 | 13 | 299 | 111,397 |
Minnesota | 161 | 0 | 161 | 30,184 |
Mississippi | 0 | 0 | 0 | 0 |
Missouri | 40 | 6 | 46 | 17,684 |
Nevada | 27 | 0 | 27 | 8,033 |
New Hampshire | 11 | 0 | 11 | 2,162 |
New Jersey | 71 | 7 | 78 | 20,626 |
New Mexico | 73 | 9 | 82 | 14,932 |
New York | 153 | 33 | 186 | 47,364 |
North Carolina | 101 | 3 | 104 | 36,577 |
Ohio | 334 | 34 | 368 | 114,554 |
Oklahoma | 17 | 0 | 17 | 5,970 |
Oregon | 98 | 11 | 109 | 17,261 |
Pennsylvania | 147 | 8 | 155 | 85,142 |
Rhode Island | 13 | 3 | 16 | 3,402 |
South Carolina | 37 | 8 | 45 | 12,627 |
Tennessee | 20 | 8 | 28 | 4,963 |
Texas | 402 | 20 | 422 | 139,665 |
Utah | 77 | 6 | 83 | 35,019 |
Virginia | 3 | 1 | 4 | 341 |
Wisconsin | 218 | 15 | 233 | 40,645 |
Wyoming | 4 | 0 | 4 | 505 |
TOTAL | 4,988 | 465 | 5,453 | 1,729,963 |
コメント
ご覧のとおり全米で2010年までのチャータースクールは4.988校である。 2011年には
465校増えて合計5,453校となる。 なお生徒数は右欄のとおり約173万人である。
これを2004年3月に登載した[第130. アメリカ・ワシントン州が新たにチャーター・スクール
を創る41番目の州となる]と比較されてるとよい。
○ Ohio州では2004年1月、142校であったが本年開校分を含めて368校と急増している。
California州では500校が941校に、Florida州では258校が483校に、またTexas州では
241校が422校と増えていることがわかろう。
○ しかしMississippi州は逆に2004年には1校あったが、0となっている。 これはチャーター
スクールの根拠となる州法そのものを廃止したためである。
○ このようにして州法が定められてチャータースクールをもっているのは首都ワシントン
を含めて40州である。 したがって依然として下記の州はチァータースクールをもってい
ないことになるが、それは教員組合の抵抗が強いからであろう。
Alabama; Kentucky; Maine; Montana; Nebraska; North Dakota;
South Dakota;
Vermont; Washington, West Virginia これに前述のMississippi州を加えて11州が
話題になり今後の動きが注目されている。
チャータースクールが急増した理由
歴代の大統領もチャータースクールを奨励してきたが、とくに現政権は連邦資金Race to
the Topを準備してこれを推奨していることが大きい。 以下いくつかの州についてその例
を見てみよう。
New Jersey州の場合 New York Times, 2011年1月18日号
○ 州法を改正して、今まで認めていなかった地方教委にも認可権限を与えるようにした。
○ チャータースクールの運営をもっと柔軟なものにした。
○ ヘブライ語に重点をおく学校や英才教育に力を注ぐ学校、科学センターと連携する学
校、技術・科学に重点をおくチャータースクールなどを強化した。
○ また男子、女子の単独校やインターネットによるチャータースクールもつくった。
このようにして2012年秋までに97校にまで増やす計画である。しかも都市部の成績不振
校では何千もの生徒が待機していると言われる。
Indiana州の場合
現在3,500名の生徒がチァータースクールに入るために待機している。 そこで下院は59
:
37の表決で、もっとチャータースクールを促進する法案を可決し上院へ送った。 しかし
教員組合はNEA, AFTともにこれに反対し[税金の無駄ずかい、固定資産税が増える、バス
などの通学費用がかさばる]などと反対している。 (INDYSTAR COM, 2011年2月8日号)
その他
Louisiana州やCaligornia州では州法でチァータースクールの数を制限していたが、これを
撤廃した。 Illinois州やTennessee州では規定の数を増やした。(ALABAMA
POLICY
INSTITUTE) Idaho州でも同じような動きで母親が12才の子どもをたたき起こしてチャーター
スクールへ行かせる話しを紹介している。(msmbc.com, 2010.5.11)
また前述のようにMississippi州では昨年今までの州法を廃止してしまったので、あらたに
州法をつくり、学力不振校をチャータースクールにするか、または新設の通常の学校にする
か議論している。そしていずれにせよ親の経営参加をより強めることにした。
アラバマ州の場合
Alabama州は前述したようにチャータースクールはない。
そこで州知事は州法を制定してチャータースクールを創りたいとして広く呼びかけている。
そのFACT SHEETの概要を下記しておこう。
[まずチャータースクールとはどんなものであるか]について説明している。内容は第37編
などに述べたことと同じである。 例えば既存の公立学校が、親たちの望むような教育をし
なかった場合、学校選択のひとつとして州法に基づくチャータースクールを創って、既存の
学校関係規則にはとらわれないで、可成り自由に運営できる学校である。
しかし、成果が
挙がらなければ、例えば 5年後に閉鎖されるなど結果責任が問われる。
そして連邦政府も奨励しているので、そのRace to the Top 資金を受けようと呼びかけて
いる。
また[すでにアメリカでは39州と首都ワシントンが州法をもち、その連邦資金を受けている。
われわれと同じ南部の州であるGeorgia, Florida, Tennessee, North Carolina,
South
Carolina, Louisiana, Arkansas なども州法をもって連邦資金を受けている。]、[チャータース
クールには希望する生徒はすべて受け入れる。しかし定員以上の申込者がある場合は抽選
による。 ただし特別な技術や能力を伸ばそうとする目的で設置されたマグネットスクールは
例外である。]と説明し、さらに[わが州では私立学校、教区学校、フリースクールからの転換
は認めないとしている。 またチャータースクールの学力についてはスタンフォード大学の
2010年調査を引用して[他の公立学校と比較して、リーディングでは二点、数学では五点優
れている。]と呼び掛けている。
そして[われわれが今チャータースクールをつくれば連邦資金として2億ドルもらえるであろ
う。]と述べている。 今後の動きに注目したい。
(参考1: 連邦政府は全米分として43億5,000万ドル、さらに13億5,000万ドルを準備している)
(参考2: マグネットスクールとはチャータースクールの一種であるが、第41編続きを参照して
ください。そこにはMagnet Schools とは磁石がものを引きつけるように生徒を都市や
地域全域から“引きつける”から、そう呼ばれている。特別な才能を持っている生徒の
ために特別な学習プランを提供しているなどと述べている。)
閉校になるチャータースクールも多い
Wikipedia the free encydlepedia によれば認可されたチャータースクールの12.5%のもの
が学力不振、財政的、管理的な理由で閉校になっているとのことである。
これを裏付ける資料として[教育改革センター]が公表しているCLOSED CHARTER
SCHOOLS BY STATE が有益であろう。 2009年のデーターであるが州別にそのチャー
タースクールがどのような認可機関から何時、認定されて開校したか、またいつどのような
理由で閉校になったか、などが一覧の形で記載されている。
Date Opened, Date Closed, Reason Explanation
Authorizer
ALASKA Horizon Charter School Palmer 2003 2004
District Alleged non-compliance with charter contract.
Matanuska-Susitna Borough School District などである。
認可権限のある機関としては州教委、地方教委、チャータースール委員会などがあり、その
他、州によっては州立大学、単科大学、教育サービスセンター、財団、教育資源コンサルタン
トにも認可権限を与えているところさえある。 非営利団体が多いが、例えばカリフォルニア、
ミシガン、アリゾナ州などは一定の営利団体にもその権限を与えている。
また閉校になった理由としては財政破綻、学力不振、生徒減などが多いがリーダシップの
欠如などもみられる。 しかもなかには開校してからわずか1年で閉校になったものもある
が、3年〜4年で結果責任を問われるものがが最も多い。なかには6年後の例もある。なお州
法をみると10年のものもある。
このようにして63ページにわたって一覧表が載せられているので、さらに細部について知る
必要があれば、これを基にして調査・研究されればよかろう。
教員組合の態度
第244編で述べたようにアメリカの二大教員組合のうちでAFTはチャータースクールについ
ては好意的であるが、NEAはかなり強く抵抗している。 現に今もってチャータースクールの
根拠となる州法を制定していない11州について、その傾向がみられる。
例えば前述のAlabama州では、NEAの地方教員組合132のうち、105は連邦政府のRace to
the Top 資金を受けることに賛成であるが、州教組そのものが反対しているので、連邦政府
が要件として求めているチャータースクールをつくることができないでいる。したがって連邦資
金を得るためになお189点足りないことになっている。(blog.al,com.2010年8月29日号)
Maine州でも同様である。この州もNEAの勢力が強いところであるが[州の方針に反対せよ]
との指令を地方単位組合に出している。(Education Week,2010年4月号)
West Virginia州も同様でチャータースクールをつくる動きが弱いと評価されて、連邦政府か
ら500点満点のところ292点しかもらえなかった。(Bloomberg Businessweek, 2010年3月30日
号)
なお教員組合の態度に関連していえば、確かにNEAよりはAFTのほうが好意的であるとい
えよう。それは[第237編ボストン教員組合運営の公立学校]で述べたようにボストン教員組
合はAFTの一つであることからも理解されよう。
[参照資料: 本文中で記したもののほか、ALABAMA INSTITUEE CHARTER SCHOOLS
in Alabama, Center for Education Reform 2010, NEA-Chater
Schools]
おわりに
ご覧のようにアメリカではチャータースクールが急増している。 ことに連邦政府が準備した
資金を得ようとして各州が規制を緩和したりしているためである。 しかし、11州は依然として
その根拠となる州法さえ創っていない。 それは教員組合の抵抗が強いためなどであるが、
そのことについても概観した。 また何事にも影の部分があるが、チャータースクールの閉校
についても述べた。
2011年3月20日記