杉田荘治
はじめに
[アメリカのために教える]グループ: Teach for Ametica corpsの活躍については既に第
174編、第218編などで述べてきたが、最近その志願者が昨年度より32%も増え、その数は
4万6300人にもなっている。 このことについて、[グループ]のMatt Kramer会長が連邦議会
下院の委員会で証言しているので、まずそのことについて述べ、その後この[グループ]はな
ぜそんなに人気があるのかについて述べていくことにしよょう。
Matt Kramer 会長の証言
[アメリカのために教える]グループ:Teach for America corps のKatt Kramer会長は今
年(2010年)3月8日にアメリカ連邦議会下院の労働・健康・社会事業・教育委員会で次のよ
うに証言した。
○ 私はTeach for America corps : Americq Corps計画の会長です。 われわれのグルー
プの者は全米のトップレベルの大学の卒業生で、彼らは二年間、都市部や僻地の学校
で、すべての教科について教え、その経験を自分たちの生涯で活かそうとしています。
○ 連邦政府から補助される資金は、われわれにとって極めて有益なもので、2008年には高
等教育法による資金にも指定され、毎年連邦教育省から直接、交付されるようになりまし
た。
また2010年度からはこれに加えてNASA計画の一つにも指定され、さらに前述のようの
America Corps計画としてCNCS(全米コミュニティ・サービス)を通じてしの資金も受け取っ
ています。 前述の連邦からの補助金は5,000万ドルですが、来年度(2011年)には20%増と
も聞いていますし、また今後五年間で二倍になることも期待されます。 これらによって、
都市部や僻地で100万人以上の生徒の教育向上に貢献することになりましょう。
○ ご承知のように、わが国の教育制度は危機的な問題に直面しています。 すなわち、四
年生では低所得層の地域では平均して、所得の高い地域の生徒と較べて1年ないし2年
遅れています(2003年全米教育統計センター発表)。 大学進学率も低く、また卒業率につ
いて七分の一のところさえあります(2002年Education Trust)。
このように、低所得層と富裕な地域の生徒の学力差は大きく、このためわが国は毎年
4,000億ドルの損失を蒙っていることになります。(The Economic Impact of the
Achievement Gap in America's School,"Mckimsey & Campany,
Social Secial Sector
Office, 2009)
これらの問題に対処するためには質の高い教員に教えられることは最も重要なことです
が、われわれの[グループ]への志願者は今年度(2010年)には約4万6,000人もあり、これ
は昨年度より30%も増えています。
○ [卒業生]について
今まで述べましたように有能な学部を終えた学生たちが二年間の活動を終えた後、その
[卒業生]は1996年発足以来すでに2万4,000人に達しましたが、彼らは教育の分野やそれ
以外の分野で活躍しています。 すなわち、その三分の二の者は教育の分野に留まり、そ
の半分は今でも授業を担当しています。 また、400人以上は学校のリーダーであり、150
人以上の者はチャータースクールを創ったり運営したりしています。 また40人以上は各
地方の教育委員会の幹部です。
○ 教育の成果
多くの場合、われわれのメンバーは他の現職教員よりも学習成果を挙げています。ベテ
ラン教員よりも成果を挙げている例さえあります。 すなわち、[数学政策調査 2004年度]
によれば同じ学校の同じ学年でリーディングと数学では他の教員よりも優れています。
また、Urban Institute 研究 2008-2009年度によれば、すべての教科について、そうです
し、とくに数学と理科については顕著です。生徒の学習意欲についても同様です。
○ 今後の計画
2016年度までには全米へ毎年1万7,000人を派遣する計画です。これは最も貧困な地域
でその教員の10%に相当しますし、新任教員についてはその31%になります。そのなかに
は4,000人の数学と理科の教員や1,000人の早期幼児教育担当者も含まれます。
[卒業生]は5万2000人以上になり、そのうち約1,650人が学校教育のリーダーやチァー
タースクールの運営に携わる者となりましょう。 したがって今後とも連邦資金の支援をお
願いします。
なぜこの[グループ]はそんなに人気があるのか
この[グループ]への志願者は全米350校から急増しているが、それは何故か。
1. 数多くの大企業が寄付金を提供しているほか、なかには彼らの採用を内定した後、二年
間の活動をすることを認めて事前に契約金を支払ったりしている。
2. この[グループ]の財政事情が健全である。
年間約1億8,500万ドルの予算であるが、その2/3は私企業や個人有志からの寄付であり
1/3は連邦などからの公的資金である。 連邦分は前述のように5,000万ドルであるが、今
後4年間で倍増されるともいわれる。
例えば、1000万ドルなどの寄付については下記にように公表されている。
National Growth Fund Investors (2006-10) 資料:Teach For America - Our donors |
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$10 Million |
The Eli and Edythe Broad Foundation Michael & Susan Dell Foundation Doris & Donald Fisher Fund Rainwater Charitable Funds |
$5 Million |
Steve and Sue Mandel Marsha and James McCormick Arthur and Toni Rembe Rock Robertson Foundation |
また小口でも例えば、100万ドルの寄付は次のとおりである。資料:Teach For America - Our donors
National Corporate Partners, Supporters, and Sponsors |
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National Corporate Partners $1,000,000+ in national support |
Amgen Foundation Bain & Company Cisco Glenview Capital The Neuberger Berman Foundation Visa Inc. Wachovia. A Wells Fargo Company また、50万ドルの寄付については次のとおりである。 |
National Corporate Sponsors $500,000 - $999,999 in national support |
The Medtronic Foundation |
National Corporate Supporters 250,000 - $499,999 in national support
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3. [同窓会]がしっかりしている
前述した[グループ]会長の連邦議会における証言のとおりである。その他、大学院へ
進むさいの入学金免除など第216編を参照してください。
4. 派遣される前の五週間にわたる事前研修がしっかりしている。 軍隊の基礎訓練のよう
だといわれている。
5. 不況といわれるアメリカの経済事情もあろう。
批判
これについては第174編などで述べてきたが、ここでは下記のことを追加しておこう。
○ 中等学校では彼らが専門以外の仕事についたときには弱い。 そこで途中で辞める者
が出やすい。
○ 小学校では二個学年以上の受け持ちのときには弱い。 しかしその二年目のときに他
の小学校へ配置換えなどが講ぜられる。
○ 二年間の活動では不十分なので、これを五年間に延長すべきであるという意見もある。
○ 彼らの間の給料の違い
派遣された地方によって、3万ドル〜5万1500ドルの給料であるが、このように差がある。
もっともこれはその地方の新任教員の給料と同額であるから、本務教員の給料格差が
全米的にみて大きいということを意味する。 この点、わが国と大きく異なる。
参照資料 本文で記載の他、下記のとおりである。
New York Times,2010年7月11日号 Washington Post,2010年8月23日号
TEACHERFORAMERICA TEACHER AMERICA Compention and Benefits
参考 この[グループ]の沿革については第174編をみてください。
[1989年にWendy KoppというPrinceton大學の学生(3年生)が提唱した。 彼女はExxon
Mobilから草の根の基金を得て、僅かのスタッフとともに『アメリカのために教える』グループ
を設立し、1990年にはすでに6地域の学校へ500名のメンバーを派遣するようになった。
その後、急速に発展しパートナーや慈善家たちの協力を得るようになった]などである。
資料: Flickr / Tulane University おわりに ごらんのとおり今回はMatt Kramer会長の連邦議会における 証言を中心にして、この[グループ]の 人気が何故そんなに高いのかににつ いてみた。アメリカの都市部や僻地教 育について有為な若者の気概をみる 思いがする。 |
2010年10月31日記