236 日米の教育問題比較二つ三つ


杉田荘治


はじめに
    ある教員研究グループから[当面の教育問題について、日米を比較検討するに適切な
   資料がないか]と尋ねられた。 そこで今まで各編で述べてきたものもなかから、二つ三つ
   取り上げて要約するとともに最近の動きなどについても述べる。

   体罰と[合理的な理由のある力の行使]との違い
 
   アメリカの場合は明確で、わが国で参考にしたほうがよい


   すなわち、全米体罰・オールタナティブ教育研究センターの一覧表によれば、26州が体罰
  禁止であり、 24州が容認(もっとも地方教委で禁止している場合は禁止)である。 もっとも、
  全米小児科アカデミーの資料によれば、28州が体罰禁止、22州が容認(前述と同じ)である。  
  このように内容の取り方によって多少、その数は異なるが、しかし、
全ての州に共通してい
  ることは、[理由のある力の行使]については、すべての州法・地方教委規則で、これを正当
  化していることである。 このようにアメリカでははっきりしている。


   その共通したタイプ は次の例の通りである。
  1 Pennsylvania 州教委規則 12.5
     次の場合は、たとえ親やある教委が体罰に反対していても、力を行使することができる。
     @ 騒ぎを静める場合
     A 武器ゃ危険な物を持っている場合
     B 自己防衛の場合
     C 他人や器物を護る場合
   ちなみに、原文は次の通りである。
  22 Pa. Code § 12.5. Corporal punishment.
     (d) In situations where a parent or school board prohibits corporal punishment, reasonable
       force may still be used by teachers and school authorities under the following
       circumstances:
      (1) To quell a disturbance.
      (2) To obtain possession of weapons or other dangerous objects.
      (3) For the purpose of self-defense.
      (4) For the protection of persons or property.

  2  Virginia 州は体罰禁止であるが、[理由のある力の行使]については同様である。しかも
    その際、少しの肉体的痛みや怪我についても問題視していないのが特徴的である。
 
    Code 22.1 - 279.1 (略)

            わが国ではどうか

    文部科学省は今年(平成19年)2月5日、初等中等教育局長名で『問題行動を起こす児童
   生徒に対する指導について』として通知された(第201編参照)。 すなわち、

    [なお、児童生徒から教員等に対する暴力行為に対して、教員等が防衛のためにやむを
    得ずした有形力の行使は、もとより教育上の措置たる懲戒行為として行われたものでは
    なく、これにより身体への侵害又は肉体的苦痛を与えた場合は体罰には該当しない。ま
    た、他の児童生徒に被害を及ぼすような暴力行為に対して、これを制止したり、目前の危
    険を回避するためにやむを得ずした有形力の行使についても、同様に体罰に当たらない
    これらの行為については、正当防衛、正当行為等として刑事上又は民事上の責めを免れ
    うる。
     また、児童生徒が学習を怠り、喧騒その他の行為により他の児童生徒の学習を妨げる
    ような場合には、他の児童生徒の学習上の妨害を排除し教室内の秩序を維持するため、
    必要な間、やむを得ず教室外に退去させることは懲戒に当たらず、教育上必要な措置とし
    て差し支えない。]

    この通知は適切なものと考えるが、杉田が既に述べてきたことと同じような趣旨である。 
   
すなわち、第25編 体罰問題そのニ 「理由のある力の行使」は体罰ではない」として次ぎの
   ように述べた。

    ー 騒ぎをしずめたり、暴力行為を排除するなどのために、学校の教職員が、力を行使す
     ることは、体罰ではない ー
      わが国では、学校教育法で禁じられている体罰と生徒の暴力行為を排除したり、騒ぎを
    静めてクラスの秩序を回復・維持したりするなど、合理的な理由のある場合、教職員が
    [力を行使]する正当な行為とを混同して、その行為を違法視するきらいがあるが、そうで
    はない。ー

  【参考】 NHKは2000年1月 8日と9日、衛星放送BS-1で、『地球法廷 ・ 教育を問う』という
       番組を放送されたが、そのなかで杉田のこの意見も取り上げられている。

       ところで、わが国の最近の事例はどうか

    2009年4月28日、最高裁による逆転判決があった。 各紙報道から要約すると、
   2002年11月に先生が悪い児童の胸倉を掴んで叱った事で児童がPTSD(心的外傷後ストレス
   障害)になったとして親が訴訟を起こした。  この問題児は廊下で女生徒を蹴っていた。それ
   を目撃した教諭(講師)が注意すると、背後から教諭の尻を蹴ったので、教諭は「もうすんなよ」
   と胸元を掴み壁に押しつけて叱った事件である。 これに対して、 
    ●最高裁は「許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく体罰にはあたらない」
とし
     たのである。 妥当な判断であると考える。

   [註 もっとも一審・熊本地裁は、体罰とPTSDとの因果関係を認めて65万円の支払いを命じ、
     控訴審・福岡高裁は、体罰はあったが、PTSDとの因果関係は認めず21万円の支払いを
     命じていた。
   
    わが国では今後さらに体罰と[合理的な理由のある力の行使]について、具体的な事例で明
   確にするなどして、教育を萎縮させないことが必要である。


             教員給与体系の違い

   わが国のものが優れている。
    わが国では県立学校はいうまでもなく、公立小学校・中学校の教員も『県費負担教職員』といわ
    れることからもわかるように、その給料はすべて県費(都道府県)であり、また1/2(1/3)も交付税
    でおぎなわれて実質そのほとんどは国が負担している。
  第175編参照

    義務教育に対する国の責任をしっかりと果たしながら、文字通り、教育の機会均等を保障してて
    いるのである。
今後、わが国の教員給料についての改善の方向性については論議されることにな
    るが大筋においては変わることはなかろう。 なお文科省財務課の資料
 
    http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gimukyoiku/も参照してください

    ところで、その額はどうか。
    
 年額は約662万円である。 2005年度についてみると、
    わが国では一般に公表されたものはない。この点、アメリカの場合とは異なる・
    しかし朝日新聞 2005年(平成17)10月21日朝刊によれば、経済財政制度関係諮問会議が
   出処のようであるが、公立学校教員の平均月額は39万6712円である。
    毎月の給料の他に、休職者、懲戒処分を受けた教員など、ごく僅かの者を除いて、ほぼ全
   員に約4.7月分のボーナス(期末手当、勤勉手当)が支給されるので、これも年額給料に加
   える必要があろう。     39万6712円 × 16.7月分 = 約 662万円

    
従ってこれを後述のアメリカのそれと比較すると、第3位のNew York州ぐらいに相当する
   しかも、わが国では、それがほぼ全国一律に支給されるのである。

   何故ならば、国は小・中・幼稚園教諭等については俸給表(V)を定めているが、都道府県も
   これに準じて、その俸給表を制定している。 従って同一学歴、同一年齢、同一勤務年数の場
   合は同じような額になる。 

    教職調整額
   わが国教員には月額 4%の教職調整額が支給されている。 これはその勤務の特殊性から超
   過勤務手当が支給されないので、それに相当するが、しかし全員に支給され、また諸計算の
   上で「給料とみなす」とのことであるから、そのように考えられないこともない。 前述の朝日新
   聞記載の39万6,712円には、この4%分は含まれていないように思われる。

         別の資料から算出してみても同じような額になる

    小・中・幼稚園教員(校長、教頭等を含む)の俸給表や平均年齢などから算出する。
   2002年人事院勧告 http://www.tokyouso.jp/news/2002/020811.htmを利用する。

 教諭の分は2級 その初任給(勧告)は、16万3,700円である。
   ○ 公立学校教員の平均年齢は、44才である。

    【註】 文部科学省統計 平成16年度中間報告、小学校 44.1才、 中学校 43.0才、
                                  高校  44.6才
   
  ○ 教職経験年数は22年とすれば、22号俸のアップとなり、その額は39万100円(24号勧告)

    となる。 前歴のある者、校長、教頭分、また高校教員はこれより少し高いので、それらを
    加味、加算すると朝日新聞の報じる39万6,712円とほぼ同額となる。

         アメリカの場合はどうか
   

   州別平均をみると、その差は大きい。また州のなかでも教員給料の格差は大きい。
   全米分は第140編参照してください。
     2004年度分であるが、

 上位3州  年額万円
(当時1ドル120円として)
 年額 ドル   下位3州     年額万円  
(当時 1ドル
120円)
 年額ドル  
 Connecticut     678   56,516  South Dakota    398   33,236
 California     677   56,444  Oklahama    420   35,061
 New York     662   55,181  North Dakota    424   35,411

 【資料: AFT News Release 2004 Salary Survey State-by-State, Table 11-1
      Average Teacher Salary State Ranking】


 【註1】 このように州別の格差は大きい。、しかもConnecticutでも富裕な教育区はもっと
    多額であろうし、一方South Dakotaの貧しい教育区では、さらに低額であろうから、
    全米的にみれば、その差は非常に大きいことになる。
     

 [註2] また連邦教育省統計センター:NCESの発表によれば、2002-03年度全米平均 
     45,822ドル、すなわち約549万円
である。 [当時 1ドル=120円として]

   その上位3州は、California (56,283ドル)、 Connecticut (54,362ドル)、
   Michigan (54,071ドル)であり、また下位3州はSouth Dakota (32,416ドル)

   North Dakota (33,210ドル)、 Okalahama (34,854ドル)であった。
  【資料: The Nation Report Card, expenditure teacher-ratio で州別一覧】


  [註3] またNEA発表(2003年度)については第161編を参照してください。
 このように
    
 AFT、NCES、NEAのいずれを見ても年度の違いはあるものの大差はない。 アメリ
     
カの教員給料についての公開性については評価すべきであろう。
 

  
 次に同じ州の中でも格差は大きい。
    その例[第140編 追記]として、最近、ストライキがあったところで見てみよう。
   (2007年6月、マサチュ‐セッツ州のQuincyという市の教員が4日間のストライキを
   行なった。 それに関連してマサチュ‐セッツ州での地方教委ごとの教員給料について
   調べてみた。 同州教育省のAverage Teacher Salaries by District (2007年5月17
   日現在)に示されている。  2006年度分


    ○ 州全体の平均給料(年額) 56,352ドル
    ○ 
最高は、Lincoln教育区 77,541ドル
       参考: この教育区は州の東北部にある。 教員数は109名、セラピーなどを含
           めて約150名の富裕な地区である。教育区とよんでおこう。 このような
           School Districtsが200以上ある。

    ○ 
最低はFlorida教育区の34,117ドルである。 従って最高のそれと較べて、その
      2分の1にもならない。
 このSchool Districtは教員わずか12名。 その名のと
      おりフロリダ出身者の多い貧しい地区であろう。 
   
    このことは、わが国の資料からも判断できる  すなわち、
    なお平成18年度文部科学省委託調査研究によれば、
     [アメリカについて、(3)
給与制度・負担について2003-2004会計年度の初等中等
     教育における財政支出(4627億ドル、その内訳は、連邦政府の財源8.7%、州政府
     の財源47.1%、学区等の地方政府の財源43.9%となっている。]


 
[参考] アメリカ連邦自身の資料からも判断できる。すなわち、連邦政府からの支出割
    合は小さい。第80編参照。 そこには連邦教育省統計資料:NCES(U.S.Department
    of Education,National Center for Education Statistics(2001年度)から要約して
    あるが、教育費については次のとおりである。    
     連邦政府からの補助金6.5%、 州政府からの補助金47.7%、 地方からの交付金
     45.8%である。連邦政府からの補助金は、2カ国語教育、インデアン教育、身体不
     自由児教育、麻薬対策教育、職業教育、TitleT実施などの費用について交付さ
     れる。
     また州政府からは、州の定めるスクールランチについて、 また地方からの支出金
     は、物品税の一部、親の教育参加費用補助、ランチ販売金から、生徒の輸送費そ
     の他の費用について交付される。
     連邦政府からの補助金は、2カ国語教育、インデアン教育、身体不自由児教育、
     麻薬対策教育、職業教育、TitleT実施などの費用について交付される。
     また州政府からは、州の定めるスクールランチについて、 また地方からの支出金
     は、物品税の一部、親の教育参加費用補助、ランチ販売金から、生徒の輸送費そ
     の他の費用についてである。 また学校などの建物、施設設備の多くも国庫負担法
     によって国または都道府県から交付される点もアメリカとは大きく異なる


                全国統一学力テスト
        わが国の場合 

   
 一部抽出で足りる。 最近[40%の抽出]と報ぜられているが、その結果について都道
   府県別のみならず、市町村別、学校別の成績公表をどうするかが問題になると考えら
   れるが、これを拒むことはできなくなるであろう。

   このことにいて杉田は2006年4月記載の第183編などで次のように述べた。
  、
     
[わが国でも2007年4月24日に小学6年生と中学3年生のほぼ全員に対して、国語と
     数学の「全国一斉学力テスト」が実施され、その結果が一部発表された。  学力の
     向上と生徒・学校の実態把握が主たる目的であるが、その利用いかんによっては67
     億円とかいわれる巨額の費用を投じ、それが“民間への丸投げ”
との批判も出てこ
     よう。

     
無作為によって10%程度の生徒分の統計で目的は殆ど達成できるし、また「科目も
     国語と数学以外についても実施したほうが良いし、他の学年も頻度は異なってもあっ
     たほうが良い
と考える。 前述のように一部の抽出方法であれば、それはやり易くな
     るであろう。
 市町村別、学校別分は公表されないなら、一部抽出で足りる。]

        アメリカの場合

    全米統一学力テストは一部抽出(5-6%)である。 私立も参加、また科目も後述
   するがリーディング、数学以外についても実施される。 しかし、州の標準テスト
   は全員である。このことについても
杉田は第183編、第209編で次のように記した
   [ NAEPといわれる全国統一学力テストがあり、それは4年生なり8年生なりを対象
    にしているが、全員ではなく精々、5〜6%の参加率である。、“全員参加”と一部誤
    解してむきがあるが、そうではない。  なるほど、この全米統一テストとは別に州
    が実施するNCLB法による統一テストがあり、それは対象学年の生徒にとっては全
    員参加のものである。
(第209編)

    このことについて少し詳しく述べておこう。
  全米学力統一テスト : NAEP (National Assessment of Education Progress)

説明
 ○ 科目はご覧のとおり、リーディング、数学、理科、ライティング、アメリカ史、公民、地理、
   芸術、世界史、経済、外国語などである。
 ○ 対象は4年生、8年生ではリーディングと数学は2年ごとに総ての州によって実施される。
 
  科目、学年ごとに各州で約2,500名の生徒が無作為によって選定される。 州の生徒数
   によって多少増減はあるが、2,800名〜2,900名の州が圧倒的に多い。一つの学校では
   60名〜120名。  男女別、ヒスパニックなど小グループも考慮されるし、身体不自由児と
   いえども例外ではない。 選定された学校では、それは義務である
 ○ 12年生については年度によって多少異なるが上記のとおりである。 その人数も前者
   の約1/10である。

 ○ 公立学校、私立学校ともに受けなければならない。 また各州にとっても義務である。
   それは、Title Tなどの連邦資金を受け取るときは、リーディングと数学については4年
   生と8年生を受けさせることになる。 地方教委も選定されれば、これは義務である。
 ○ 個々の生徒や学校単位の成績は発表しない
  【註】 しかし、地方教委単位では詳細に公表されることになる。 例えば最近の例とし
      ても第182編巻末の参考を見てください。このようにバーモント州のColchesterと
      いう小さい教委でも、全米統一テストの結果をグラフも使い、州全体の成績と比較
      しながらな詳細に公表している。
 その他
  LONGTERM TRENDとは長期的な傾向をみる統一テストで、9才児、13才児、17才児と
   いう年齢区分による調査がある。 従ってその結果は学校教育のカリキュラムには反映
   されないことになっている。 第169編参照。

    なお次ぎのような全米統一学力テスト委員会も参考になろう。

 全米統一学力テスト委員会( The National Assessment Governing Board )

   このNAGBは1988年に連邦議会によって設立され、全国統一テストを実施する権限を持って
   いる。
  ○ 委員は26名  超党派的   州知事、州議員、州・地方教委、教育関係者、事業主、
     一般人から連邦教育相が指名する。 しかし委員会としての独立性は尊重される。
     またその氏名は役職などとともに公表されている
  ○ この委員会が大綱を決め、そのもとに5つつの実行委員会が分担して調査、計画立案、
     執行などを行なっていく。
  ○ 前述表のように2017年までのスケジュールが決められている。 科目は表のように数学、
    リーディング読解力だけではなく多様である。昨年(2005)5月に決定し詳細が決まり次第、
    公表されている。(第169編参照)

   
 どのようにして学校や生徒がえらばれるか

    全米統一学力テスト:NAEPを受ける生徒数や率

    ○ 2007年実施で最近(2007年9月)に発表された資料によれば、
       4年生      数学とリーディングで、約39万人
       8年生(中2)  数学とりィーディングで、約31万人
      【註】参考までに1996年度分の『質疑応答集』をみると「この2教科では35万人ぐら
         いは統計上必要であり、またそれで十分である」と書かれているので、その後
         も大体、そのように続けられているのであろう。


    どのようにして学校や生徒が選ばれるのか
                           NAEP Information for Selected Schools

    ○ 平均的な州では学年、教科等こどに公立学校、約100校、  生徒数約2,500名が
      無作為によって選ばれる。
    ○ それには地域、男女別、人種、学校の都会性の程度・タイプ、親の教育、学校給食費の
      減免状況、連邦資金の状況、TitleT資金受給状況などが考慮されている。
    ○ 特別な地方や首都圏、少数民族の多い地区など特殊なところは追加されて「標準数」
      が決められる。(その州別数を後述する)

    ○ 選ばれた学校では、学年、教科ごとに原則として30名を無作為によって選ぶ。 そのな
      かで身体不自由児、英語に不自由な生徒は区別される。 なお選ばれた学校や生徒は
      このテストょを受けることは拒否できない。 法制化されている。NAEP Authorization
      Act 参照。 またTitleT、Vなどの連邦資金の受給資格要件ともされている。
    ○ 私立学校もテストの対象になっている。 私立学校ユニバース調査(PSS)といわれる基
      準によって選定されるが、その人数は学年、教科ごとに30名である。 これも義務である。

      その他、第209編を見てください。
      また生徒、学校ごとの成績(得点)は発表されない
    これについてはNAEP:質疑応答集でも次ぎのように示されている。 
     NAEP data are kept strictly confidential. Students do not receive individual
    scores, and reports for individual schools are not prepared.

     このように“消去法”で生徒、学校ごとの成績(得点)は発表されないことになっている。
    したがって、それ以外のもの、州や教委、人種など本文に述べた区分などについては詳
    細に公表されることになる。 やはり厳しいものといえよう。 また統計的にも本文で記し
    たように5〜6%程度の受験率で十分であるとみなしているのであろう。

        州別の標準学力テスト

    
前述したように全米統一学力テストとは別に州こどの標準学力テストがあるが、これは
   指定された学年にあっては
全員参加である。 公立学校のみ。(第149編、第162編参照)

    めざす目標
   ○ 全ての公立学校の3年生から8年生(中2)の生徒が、毎年、英語(Reading) と
     数学のテストを実施
すること。各州が実施するさいは事前に連邦教育省と協議
     すること

   ○ 州の標準テストで向上したことを% で示すこと。 そして12年後、すなわち2013-
     14年には、総て
の学校で総ての生徒が数学とリーディングで『良』レベル: proficient
     に達すること。
 
  ○ 学校全体、教委内全体でもそうでなければならないが、その内訳としての小グ
     ループでもそうであること。すなわち、人種、貧しいなどの経済的背景、英語が不
     自由なグループ、身体的不自
由な生徒など人口統計上の小グ‐プの結果も公表す
     るものとする。
 年次向上プログラム(Adequate Yearly Program: AYPをつくること。
   ○ その年次毎の内容は、基礎である(basic)、良好である(proficient)、上級である
     (advanced)として
卒業(進級)の%、教員の資質・資格、テストを受けなかった生徒の%、
     『改善を要する学校』: School in need of improvement の確認
である。


         
教員免許の更新

    最近。政権が替わって[教員免許状の更新は必要ない]とか、またこれに替わるべき
   方法として取得要件を六年間の履修にし、またその間、一年間の教育実習期間などの
   案が検討されているようである。
 しかし折角二年半前から実施されている現行制度は
   自動車運転免許や高齢者講習のように、それなりの効果は期待できる。

    そのさい、受身的な認定講習は少なくして、教員個々の研究発表や英検など全国的
   に公認されている検定試験の各級認定や部活動、課外活動の認定、その他事前に承
   認を得た自己研修なども併せてその単位に算定するなどの方法を期待したい。


   このことについて杉田は2007年7月に記載した第204編で次のようなことを述べた
    [この6月に改正された新教育職員免許法では有効期間を10年とし、規則で更新の
    ために講習を30時間以上履修することとされている。 勿論、今後その講座や講師、
    会場、時間などについて配慮がなされるであろうが、しかしすでに「受けても余り効
    果は期待できない」、「本人も学校もやりくりが大変だろう」などの声が聞かれる。 
    折角の更新制度のためにも標記のような教育諸活動を重視し、単位または相当時
    間の認定をするような規則が創られることを期待したい。]
   後へ続く


        教育諸活動の評価と単位(時間)の認定例

  1. 校内や地区などでの研究発表
  2. 自己研究
    例えば英語検定、カウセリング認定、IT関係講習、健康・福祉関係講習、体験、理科実験、商業
   実践・各種講習、教育論文発表などであるが
事前に計画の申告・承認があればよい。 なお認
   定権者は法的には都道府県教委であろうが、アメリカの例にもあるように委任された者(校長、地
   方教委その他)も相当数いることなど。
  3. 課外授業・部活動等
    課外授業、部活動で対外試合への引率、指導についても一括して、例えば20%まで認めるな
   どの方法もあろう、など。


    参考例1  アメリカ・テキサス州の場合(第204編参照)
    参考例2 アメリカ・イリノイ州の場合
       イリノイ州でも更新は5年であるが、その規則はContinuing Education Unit と呼ばれ、
       8学期(毎週1時間)相当の講習、または20単位の継続教育講習(20CEUs)が必要とされる。

           しかし 同等と認められる諸活動
     ・実験や各種連携   ・同僚をコーチしたこと、又は同僚教員の結果を検証した実績
     ・教育実習生を指導したこと、又は採用合格者を指導したこと。
     ・公認された教育相談やカウンセリングの実績
  全米的な教育講座.など(第204編参照)


4 その他
   教員組合 
 アメリカは現実路線といわれるが
  
    
NEA と AFT との違い      51編を参照してくたさい。

    
州別教員組合のストライキ容認・禁止一覧     第155編、第53編を参照してください
      資料 : State Collective Bargaining Policies for Teachers  State Notes June 2002

    
 また最近のデンバー市の新しい教員給与体系 ProComp の例など参照してください。
    明治図書[学校マネジメント] 2009年10月号 杉田著[広がるオバマ政権下での“公
    立校の能率給”]
についても同様です。

    
組織率 前記[文科省報告書]によれば80%。しかし事実上は100%sといえよう。

おわりに
    依頼された教育研究グループの研究に役立つ資料となろう。また最近、わが国で再燃
   している全国学力統一テストや教員免許の更新問題などについても有力な資料のひとつ
   となるものと考えている。

 2009年12月2日記           無断転載禁止