杉田荘治
はじめに
アメリカ〔U.S.A.〕新政権の教育予算がこの四月初め、流れはじめた。 その法は[2009年
アメリカ回復・再投資法]に拠るものであるが、2009年2月17日、オバマ大統領が署名して発
効していたが、それによっていよいよ実行に移されることになったのである。 このことについ
て連邦教育省の公式ページなど巻末に記した資料が報じているので、これらを要約し、それ
に若干のコメントを付しながら述べることにする。
2009年アメリカ回復・再投資法
2月24日、大統領はSAVING AND CREATING JOB AND RERORMING EDUCATIONを発
したがその要点は次のとおりである。
1 学校の授業日・授業時間、カレンダーを改善すること
今の授業日や授業時間、カレンダーでは世界的な競争には勝てない。 多くの生徒が高
校を卒業し大学に入れるような力をつけさせることが必要である。 そのためには授業時間
を少なくとも30%多くすること。 とくに低所得層の生徒やマイノリティの生徒、英語に不自由
な生徒について、そうすべきである。 アメリカ向上センターの調査によれば、極めて貧し
い地区の学校やマイノリティの非常に多い学校はアメリカ全土で約300校あるが、そのうち
チァータースクールになったところは、授業時間を増やしている。 このように連邦の教育予
算はこれらを実行に移すために使われるべきである。
2 教員給与体系を再考すること
現在、多くの教員はたった一つの給与体系によって、給料が支給されています。 それは
教職年数と免許状の種類によるだけのものです。そのたため、手腕や能力のある人材は
教職に就くことを望まず、また指導の困難な学校へ赴任することも避けるようになっている。
今回の財政刺激策は、これを改めて良い人材が労働マーケットの原理によって困難校へ
も赴き、また競争できるような体系にする必要がある。 そのため各州や地方はその先導的
役割を果たすことを期待する。 なおこれについての先導的模範例はデンバー州のProComp
計画である。
[注: ProComp計画については既に第136編で述べてあるので参照してください。その一
部を下記しておこう。
アメリカ・コロラド州のデンバー市教員組合が市教委と合同して、生徒の成績向上を主に
したメリット・ペイ方式の新しい給与体系を創った。 ProCompという新教員給与体系であ
るが、年一回、実施される州の標準テストだけではなく、教員自身による中間テスト、平素の
評価などを加味して客観性は保てると試行結果からも自信をもっている。 従って例えば、
音楽教員も楽観視している。 しかし、市民にとっては教育税の増税を覚悟させることに
なるのでその賛否が問われることにもなろう。]
3 終身雇用保障権(Tenure)をもっと意味のあるものにすること
多くの教員は一定の期間が過ぎると終身雇用保障権を手に入れる。それ以後、特別な理由
がなければ解雇されず、ずっと雇用され続ける。しかも解雇される場合でも適法手続:due
process procedureによって手続きが進められることになる。 またその雇用保障権は必ずし
もその教員の特に資質のあることを示していない場合がある。 従ってこの保障権を教員の
給与体系とリンクさせて、もっと意味のあるものにする必要がある。
4 大学と高校が連携して接続した計画を採用すること
21世紀の職場では高校卒の資格を持つ者が必要ですが、不幸なことに多くのラテン系、ア
フリカ系の高校生は卒業前に落第してしまっている。 また早い段階で大学と接続したコース
を高校がもつことや、彼らを厳しい大学のコースに触れさせ単位を取らせることも必要である。
このため州や地方は高等教育機関や非営利団体などとも連携して、そのような機会をつくる
ために連邦の資金を役立ててください。
5 世界に通用する普遍的な厳しい基準をつくること
オバマ大統領はヒスパニック商工会議所でスピーチしましたように、世界のクラスで通用し、
“前を見据える思考”を採用することです。 マサチューセッツ州はこのためのベンチマークを
つくっていますが、それは全米で二州しかありません。 世界的に高い学力を保っている諸国
の状況を検証して厳しい基準をつくるために、この連邦資金を活用してください。
Race to the Top Grants
以上のように第一回分として44億ドルの教育予算を支出するようにダンカン教育長官に4月
1日に指示され、4月7日から流れ始めた。 今後、州や地方の改革についての実績をみて第
二回分として5億ドルが用意されている。 これは“トップをめざして競争する”教育助成金と
いわれているが、その時期は今年の秋と来年の夏になろう。
なお次ぎのことを補足しておこう。
○ 以上のような連邦資金を一旦受け取れば、相当な弾力的運用を認める。
○ チァータースクールの数、どのような制限条項があるか、ここ三年間で学力の問題で閉校
になった数なども報告すること。
○ 卒業後の生徒の足取りを検証するデーターをつくること。 しかしカリフォルニァなど二州
を除いて、それは私的な資料として批判もでよう。
○ なおダンカン教育長官は悪い例として、South Carolina州を挙げている。すなわち、
[高校の卒業率がアメリカで最悪である。 黒人生徒の15%の者しか標準テストで合格し
ていない]などの理由である。これに対して州知事側は[こんな連邦資金など欲しくない。
いずれ州知事に増税を強いてくるであろう。]と反論している。
○ なおビル・ゲイツ財団とアメリカ商工会議所はダンカン教育長官に手紙を送り、この政策
を支持し、とくに第二回目の連邦資金の供与については州、地方の改革計画や実績を重
視するように求めている。
<資料> Yahoo! News,2009年4月1日号、 Education Week,2009年4月10日号、20日号、
The New York Times,2009年4月1日号、emPOWER MAGAZINE,2009年4月8日号
U.S.Department of Education Information
おわりに
ご覧のようにオバマ新政権の教育予算がその第一回目として44億ドルが流れ始めた。
授業時間の増加、教員給与体系の改善、終身雇用保障制度の見直し、大学と高校との連携
などで州や地方を競争させようとしている。まさに“トップを目指して競争”である。 そしてその
計画や実績に応じてさらに5億ドルが用意されている。またデーターでは[生徒の高校卒業
後の足取り]についても検証することも求めているので、かなり思い切った教育改革になろう。
2009年4月29日