杉田荘治
わが国の「高大接続テスト」
中教審が大學推薦入試やAO入試に調査書にかわるべきもとして、高校生の学力を担保する
ために、いわゆる「高大接続テスト」を提案し、その案が創られているといわれる。 結構なことで
ある。
しかし推薦入学やOAテストだけではなく、大學を志望するすべての高校生に適用するレベル
の「高大接続テスト」を創られことを望みたい。 そのさい現行の『大學入試センター試験』も続け
られればよい。 その『試験』は高校卒業年次の最終時期に実施されているが、“一発勝負”的な
欠点を補完するものともなろう。
また、高校3年生のみならず、例えば2年生にまで受検の機会を広げられれば、高校在校時に
緊張感を持たせることにも役立とう。 また、科目も在校する高校のカリキュラムや志望する大学
の入試科目にもないが、その生徒が将来を展望して必要と考える科目、例えば、環境学、マクロ
経済学、中国語、ドイツ語などを受検することもできるので、その生徒のみならず、わが国にとっ
ても有益であろう。 そのため同「接続テスト」は国際的な視野も念頭にいれて設けられことが期
待される。 発足時に完璧を期す必要はなく、そのことを意図して進められれば次第にその科目
や内容も固まってこよう。
高校1年生にまで受検の機会を広げるかどうかについては、アメリカのAPテストは、そのように
なっているが、高校生活を乱すおそれや年齢的なことも考えて、わが国では2年生にまでに止め
るほうがよいように思われる。
なお、わが国でそのような『接続テスト』を創らなくても、現行のアメリカのAPテストを利用する
方法もあろうし、現に私立高校の一部でこれを利用しているところもあるようであるが、しかし積極
的にわが国独自のテストであることが望ましい。
したがって大學推薦入試やAOテストのレベルより高いレベルのものとなり、その受験生の多く
が、例えば5段階評定で2とか1の評価しか得られないことも起こるであろう。 それはやむをえ
ない。 大學側がその実態を理解し、独自のテストを加味したり、また入学後の指導に役立たせる
ほうが有益である。 アメリカのAPテストの合格率、すなわち5段階評定で3以上の生徒、は15.2%
である。 わが国ではわが国なりのレベルのテストにされればよい。
アメリカのAPテスト
第206編のなかで述べたが、ここではそれを要約し、その後の変化分を追加し、コメントも付記
することにする。 そして最後に州別成績一覧を記述する。
1 APテストとは
AP, Advanced Placement
Program、上級コーステストのことであるが、アメリカとカナダなどで
実施され世界41ヶ国で利用されている。 これにパスすれば大學における単位などの特典がえ
られる。 科目は後述するが37科目、もっとも多少変動する。
1951年に著名大學の教育者グループによって発案され、1955年から非営利団体の大學委員
会:College Boadによって実施されている。 今や全米で1万7000校以上の公立中等学校で、こ
のコースの幾つかが設けられ、これを履修する生徒は述べ270万人に達している。 もちろんこの
コースを設けていない学校や私立学校の生徒やホームスクーラーも受験することができるように
なっている。
2 科目
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美術史、生物、微積分AB、微積分BC、化学、中国語と文化、コンピューターA、 コンピューターAB、マクロ経済、ミクロ経済、英語、英文学、環境学、フランス語、 ドイツ語、一般政治・政策、アメリカ政治・政策、人文地理、イタリア語と文化、 日本語と文化、ラテン文学、ラテン詩人、音楽理論、物理B、物理C、心理学、 スペイン語、スペイン文学、統計学、スタジオ芸術、アメリカ史、世界史 【註: 2009年度以降、フランス文学、ラテン文学、イタリア語と文化はなくなる。】 |
3 日程
○ 試験日は、5月第1週と第2週である。 特別な理由のある者に対しては、5月第3週
が組まれている。
○ APコースを設けている高校で試験が実施される。 しかし、それ以外の高校生やホー
ムスクールの者に対しても受験できるようになっている。
○ その後、解答用紙などは本部関係の場へ送られ、多岐選択解答はコンピューターで
処理される。
○ 記述式解答は2週間かけて、基準によって区分され、その後、経験豊かなAP教員や
大學教授によって採点される。
○ それらの合計点(Composite Score)によって評定される。
○ 評定は7月上旬に受験者本人と解答用紙に記入した受験希望の大學、高校宛て送付
される。 それには受験した科目のすべての評定区分も添付されている。
○ しかし本人が「大學へ送らないように」と要請した場合は送られない。 また「取り消し」を
求めた場合は削除される。
4 評定 5, 4, 3, 2, 1
5 複数受験も可能
最上級生で受験する者が多いが、11年生、10年生、9年生なども同じ科目を受けることが
できる。 現に約2分の1の生徒はそうであるといわれる。 このため、高校教育を空洞化す
るし、また受検年齢が余りにも若過ぎるとの批判がある。
この場合は2つの評定がありうるが、その場合は両方とも大學へ送られる。 しかし本人が
一つを取り消したり、また「送らないように」と求めることもできる。
6 特典
90%以上の大學で単位を得ることができる。また新入生クラス分けその他の特典を得るこ
とができる。 一般的には評定3以上であるが、例えば、マサチューセッツ州のBoston
Collegeは評定4と5を要件としている。
また優れた者にはAP Scholar Awardが与えられる。賞金は与えられないが、それなりの
特典がある。 なおこれにもランクがあって、優れた者、State AP
Scholar, National AP
Scholarなどがある。 とくにNational AP Scholarは8科目以上受検し、その平均が評定4
以上の者である。
7 その他
受験料は1科目 86ドル。 貧困家庭の生徒には減額や州などから補助がある。
受験料のなかには高校への保留金やリベートも含まれている。 わが国でこのような仕組み
を問題視するのであろうか。 また大学はAPテスト以外のテスト、すなわちSAT.
ACT,など
も利用している。
州別合格率一覧(評定3以上取った生徒) 2008年度
資料 College Board, Table 1:
AP Equity and Excellence
【参考資料: CollegeBoard inspiring minds, Washington Post,2009年2月5日号、New
York Times,
2009年5日号、パスナビ for teachers 今月の視点/2008年2月】
おわりに
折角、「高大接続テスト」を創るのであれば、推薦入学やOAテストだけではなく、大學を志望する
すべての高校生に適用するテストでありたい。 またその科目や内容も国際的な視野も念頭に入
れたものであることが望ましい。 そのさいアメリカのAPテストは十分に参考になろう。
2009年3月2日記