杉田荘治
はじめに
第225編で少し述べたように今後、アメリカ(U.S.A.)ではパフォーマンス スクール(Performance
school)がチァータースクールとともに、その教育改革の一つとなっていくものと考える。
そこで今回はシカゴ市のシァーマン小学校とハッパァー高校の再編成を取り上げ、その過程を
見ていくことにする。 またその再編成にはAUSLという教育機関が深く関わっているので、これ
についても触れる。 資料はCHI・TOWN DAILYなど巻末に記したものを要約し、それぞれに若
干のコメントを付記した。
シャーマン小学校からシャーマン優れた小学校へ
Sherman Elementary School(シァーマン小学校)は2006年9月に新しくSherman School of
Excellence)と校名も変えて再出発するまでは、この黒人で低所得家庭の多い地域で学校を変
えることなどは殆ど不可能のことと考えられていた。 生徒は約600名、幼稚園児から8年生まで
の学校であるが、廊下や教室の天井のペンキは剥げてずり落ちて修理もされないままであり、
壁には小さな穴がいくつも開いていた。 テストの得点も市では最悪で州の標準テスト(2003年度)
のリーテイングでは80%以上の生徒が不合格であった。しかもそれは5年間も同じような状態で
あった。
そこで、市教委は校長を含むすべての教員を入れ替えることにし、AUSL(Academy for Urban
School Leadership):都市部学校リーダーシップ・アキァデミーという市教委と連携した教育機関
でトレーニングを受けた校長(Allenさん)と教職員によって校名も変えて再出発させたのである。
このAUSLについては 後述するが、Martin J. Koldyという社会事業家が組織して2001年の始
めに市の学校のために教員を養成、定着させるように創ったものである。 Billand
Malinda Gate
財団が1,030万ドルを寄付し、シカゴ地域財団その他からも資金を得ている。
生徒の成績は確かに向上している。1年間で6%上がり、ダンカン教育長も「市の再建計画の烽
火のようなものだ」と語っていた。緑化にも力を入れ、HSBCという金融グル‐プから7万5000ドル
の支援をうけて文化的施設や学校庭園、緑化など、シカゴ植物園によってデザインされたものに
なった。 またそれに約述べ810人のボランティアの協力もあった。 新しい運動場も出来上がり、
その隣にはランニングトラックと芸術的な芝生もある。 600名以上の生徒は野外活動をしたり、時
にはブロードウェイでショウを見たりフットボールの試合を観戦したりしている。この学校の保安担
当官は野球のコーチでもあるが、事務所にグラブを誇らしげに置いている。
再開前は通学するには怖く、また1人でクラスにいることも出来なかったし、宿題もサボることが
ごくごく当たり前のことであったが、そのようなことはなくなった。 このことは親たちや郵便局のト
ラック運転手も認めている。
いよいよ学校が再出発することになった時、新しい校長・Allenさんは新しい教員とともに生徒の
家を個別訪問しながら自己紹介し挨拶した。 Allenさんはこのことを大切にしている。地域で親や
地域の人に会って話しをすること、時には50人以上の人たちが芝生に集まって歓迎してくれるが、
これは教員にとって素晴らしい体験で、多分彼らは教員として立派にやっていこうとするであろう。
またAllenさんは親との会合を多くもっている。「そんなときには私はしっかり話しを聞くことにして
いる。 親たちは学校のビジョンについて助けてくれ、ボランティア、ケァし思慮深いパートナーに
なってくれる。力強く子供たちを学校へ通わせ、今までとは違った雰囲気を創ってくれる。」と語っ
ている。
しかしAllen校長は慎重であり、学校の改革には時間がかかると言っている。 すなわち、
「Sherman小学校は再建されて2年経ったが今、重大な時期である。正しい方向に向っているが、
しっかりした結果が出るには時間がかかる。 今の幼稚園児が小学校に進み州の標準テストを
受けたときの成績に責任が問われるであろう。 50年間も低学力校であったものが1年やそこらで
打ち勝つことはできない。」と語っている。
このように新しいSherman小学校はAUSLでトレーニングを受けた新しい教員を採用し、建物など
も更新され、校名も新しくなっている。そして新しい校長がその教員を指名しシカゴ市教委が採用
するのである。 この点がチャータースクールとは異なる。
ハッパァ高校の再建
ハッパァ高校(Happer High School)も低学力校であったので昨年、再建されることになった。
その経過を公式教育委員会議事録でみていくことにしよう。
Happer高校の再建と校長、教職員の交替について シカゴ市教委最終議案(2007-2008年度) 2008年2月27日掲出 要旨 Happer高校の再編成を承認してください。 また校長を含む教職員を排除し 交替させてください。 説明 ずっと失敗校であったこと。1年間は試み期間とすること。 全教職員の交替。 理由 2006-2007年度 生徒は平均45日、欠席しています。 過去2年間でも47日です。 また落第は15%です。過去2年間では14%です。 州標準テストでは僅か5%の生徒しか合格していません。過去2年間でも同様です。 その他のテストについても35%しか合格していません。 Copernicus小学校とFulton小学校の生徒たちは将来、この高校へ進学することに なります。 したがって今再建することがベストの方法です。 1年間は試みの期間と します。 署名 Barbara教育長官 Duncan教育長 Martines財務長官 Rock法務長官 |
参考 Happer高校は生徒数 1,300名 9年生〜12年生
Bulter校長は昨年採用されて以来、夏季補習授業や年間36週の授業などを計画
するなどを呼びかけていたが解雇されることになった。高校長としては始めてである。
なおこれまでに公聴会も開かれ関係者の意見も聞かれた。 再建後しばらくAUSL
によって運営されることになろう。
その他シカゴ市の学校再建計画について
Chicagotribune.com, 2008年1月24日号の記事からその概要を下記しておこう。
○ シカゴ市の8校を再建する。 このため低学力校の教員200名、校長7名を解雇する。
そして良いトレーニングを受けた教員たちと交替させる。 これには前述した学校やOrr
高校なども含まれている。 また小学校も同時に再建することが特徴的である。
○ ダンカン教育長はこの水曜日に「今までの教育改革とは異なる。それはその学校のすべ
ての教員を含むからである。 1997年以来、何回も再建しようとしたが、ほとんどの教員
が再雇用されてしまって成功しなかった。 しかも高校と小学校を同時に実施するのであ
る。 小学校段階から早く学校再編成することは教員や教育行政者に刺激を与える。
Sherman小学校では1年間で7ポイトも上がった。 良い教員はトレーニングを受けた後
復職させるが大部分は解雇されよう。」と語っている。
このように地域の学校をすべて同時に改革しようとすることはアメリカでは初めてのことで
あるが、それに対する批判もある。 例えばAustin高校でそのようなことがなされたことがあっ
が数年後、効果はあがらなかったという報告もある。
都市部学校リーダーシップ・アキァデミー(Academy for Urban School Leadership)とは
前述したようにMartin J. Koldyという社会事業家が2001年の初めに教員を養成、定着させ
ために創ったものであるが、Billand Malinda Gate財団、シカゴ地域財団、市民その他からも
資金を得ている。 非営利組織で失敗した学校の再建の管理、教員の供給、トレーニングを
行っている。 今までも約250名のトレーニングを受けた教員を低学力校へ送りこんでいる。
これらについてアキァデミー自身の質疑応答集から要約しておこう。
Q 再建されることになった教員はどうなりますか。再契約されますか。
A 職能成長をはかる機会が与えられますが、原則として再雇用されません。シカゴ市教
委とシカゴ教員組合(CTU)との集団交渉事項に委ねられます。
Q 新しい教員は誰がきめますか。
A 新しい校長がきめます。
Q 新しい学校へのガイダンスやオリエンテーションがありますか。
A あい、あります。 開校に向けていろいろ手伝いします。
また、このAUSLは全米からの申し込み者のなかから選抜して、彼らが学位を取ることができ
るように年間3万2,000ドルを支給する。その代わりにシカゴ市都市部の学校で5年間、教える
ことを義務づける計画ももっている。
その他の改革について
Chicagotribune.com, 2008年1月24日号によれば、「シカゴの8校を再編成する。そのため
低学力校の教員200名と校長7名が首切りに直面している。 来年秋までにそれらは劇的に変
えられることになろう。良いトレーニングを受けた教員と交替させることになる。」と伝えている。
【資料】 CHI TOWN DAIL,,2008年10月27日号、Teach Chicago Turnaroud, CATALYST
CHICAGO、2008年6月号、chicagotribune.com,2008年1月24日号、AUSL
おわりに
ご覧のように荒療法の教育改革である。何としてでも低学力校を引き上げたいとする強い意志
が現れている。 AUSLという教育機関を設け、それと一体となって遂行しようとしていることも参
考になる。 しかし今後、教員組合の動きはどうか、またダンカン教育長が連邦の教育長官に就
任したが、連邦レベルの教育改革として通用するかなど課題も多いように思われる。 またこの
パフォーマンス スクールには数学や理科の能力を伸ばそうとするスクールや芸術、外国語その
他についても同様な目的のスクールなどチァータースクールと同じようなものが多い。マグネット
スクールと呼んでもよいものもあろう。
しかし、前述のように総ての教員に教員免許状が必要であること、シカゴ市教育委員会が採
用すること、教員はシカゴ教員組合(CTU)に加入しなければならないことなど、チァータースクー
ルとは異なる。 従って今後、わが国で考えられるとしたら、チァータースクールよりは現実的な
選択であろう。
2009年2月12日記