222. オバマ次期大統領(U.S.A.)の教育政策


杉田荘治


はじめに
    この11月4日、アメリカ(U.S.A.)の次期大統領としてオバマ上院議員(Barack Obama)が
   選出された。来年1月20日に第44代大統領に就任することになるが、その教育政策、それ
   は、Barack Obama and Joe Biden's Planと呼ばれるものであるが、これについてEducation
   Weekが早速報じている。 これにBoston.comなど巻末に記す資料によって、その重点事項
   を要約しておこう。


                         重点事項

T 就学前教育(0才から5才)
    0才から5才までの教育を強化する。 そのために毎年、州に100万ドルを支出して州を
   助ける。 また同時にHead StartやEarly Head Startの計画を拡大する。
   早い時期の投資は後になって良い結果を生み出すなど大きなリターンがある。 統計的
   な資料は定かではないが、しかし1ドルの投資は7ドルから10ドルのお返しがあるとの説
   もある。 また犯罪を少なくすることにもなろう。 その財源は他の政策と同様に海外での
   軍事費の削減によって生み出せばよい。 またそれは勤労家族の負担を大幅に軽減する
   方法もあろう。

U 初等中等教育(K-12)

    これは現行の教育政策(NCLB法)に関連しているのであるが、それといかに調和させ手
   直すかという問題といえよう。 既に7年目になる現行のNCLB法はブッシュ政権の最も重
   要な政策の一つであるが、余りにも標準テストだけに力点を置きすぎ、その結果に基づいて
   学校や教委の責任を問いすぎた弊害
が起こってきている。
 
    いうまでもないが、NCLB法によって州は毎年3年生と8年生の全員、高校生は1回、リー
   ディングと数学について標準テストを実施し、2013-14年度までに、すべての生徒が良
:   Proficientの成績をとることを目指すものである。 次期大統領も「NCLB法の目指すものは
   良いし、白人生徒とマイノリティ生徒との学力差が縮まってきていることもよいことである。」と
   しているが、その成績や年次計画によってのみ前述のように学校や教委の責任を問う方法
   が問題なのである。 このことについてすでにブッシュ政権側との協議を開始したとも伝えら
   れている。   具体的には次ぎの事項があろう。

        学校評定
    前述のように現行NCLBの目指す目標は評価しつつも、手直しすることになる。 今後、具
   体策は詰められことになるが、私はネブラスカ方式が参考にされるものと考えている。これに
   ついては杉田の第191編を参照してほしいが、その一部を下記しておこう。
     ○ 連邦政府NCLB法が求める1回の標準テストの結果のような“一発勝負的テスト”に
       依存する評定方式ではない。 517地方教委が独自に評定方式を作り、それに拠る
       のである。
     ○ 教員による平素の観察と評価、地区ごとのテスト結果、次ぎに示す州の標準テストの
       結果、また全米的に行なわれているテストの結果などを総合して評定する。

       教員給与制度
    これについても大統領選挙のさいに終始、述べていたのであるが改善することになろう。
   もちろん、それは教員組合との交渉事項であるので全米教育協会(National Education
   Association)とアメリカ教員連盟(American Federation of Teachers)と交渉することに
   なる。 難しい問題であるが、両組合とも慎重であるが、次期大統領が取り仕切ってくれる
   ことを期待していると伝えられる。【註: NEAとAFTについては第51編、第50編を見てください。】

    なお、そのさい、デンバー方式を参考にするものと考えているが、それについては第192
   編を参照してください。 その一部を下記しておこう。
      デンバー市教委と教員組合との間でかなり前から共同して新しい給与制度をつくろ
     うとする動きがあったが、ProComp(Professional Compensation System for Teachers)
     
というプロジェクト・チームを創って試行を続けた。 その後、これに参加する教員は
     次第に増え、『教員奨励基金』:を創り、彼らの昇給分やボーナス増は、その『基金』か
     ら支給されることになっている。


      ところでこのProCompのメンバーになるためには、年度の初めに校長と相談して各
     自の年間計画を立て、年度末にはその評価を受けることを認めること、また授業観察
     や職能成長を含むProComp自身の評価基準(後述する)を認めることなどであるが、
     現実には多くのメンバーは昇給やボーナスで増収になっている。 しかし評価が悪け
     れば昇給ストップになることもある。

   その他の重要事項

   ○ アメリカ史、アメリカ文化、体育、芸術など、リーディングや数学のテスト以外に幅広く学
     ばせる。これらの効果は危機にひんした学校でも効果がある。
   ○ 新しい教員に指導教官をつけてペアを組み、彼らを激励し、教職に定着させる。 教員
     がチームを組んで働くことや小さいクラス、小さい学校は効果がある。
   ○ 指導困難校に4年以上勤めた教員に特別奨励金を支給する。その在住計画をつくり、こ
     れに3万人を充当する。

   ○ 高校のAPコースや大学レベルのコースを設けることを促進する。 その奨励金を与える学校
     を2016年までには全米で50%以上とする。【註: APコースについては第198編、第206編参照】
   ○ 数学、理科教育を国家的な優先事項とする。 このことについて優れた州はConnecticut,
     New Hampshire, Vermontであるが、それらを参考にして実験的な基準をつくる。

   ○ チャータースクールへの財政的支出を倍増する。 年間、20億ドルを40億ドルにする。
     しかし成績の上がらないところは閉校にするが、その過程をはっきりさせる。
   ○ これに関連して親の学校選択の幅を広げる。 バウチァ制度も拡大することになろう。
   ○ 英語に不自由な生徒の教育を推進する。
   ○ 「アメリカのために教える」グループの活動にも十分関心をもっている。 【註:第216編
      第218編などを見てください。】

V 高等教育
   ○ アメリカ機会払い戻しクレジットを創る。 最初、4,000ドルを保証し、その後個人教授を受け
     るさいには、その3分の2を保証する。 しかしその学生には100時間以上、地域社会に奉仕
     することを義務づける。
   ○ その他、Pell奨学金を最大5,100ドルまでに引き上げる。

参考資料  The Clutter Museum, 2008年8月17日号   Boston,com, 2008年9月10日号
        Barack Obama and Joe Biden's Plan

おわりに
    ご覧のとおり、オバマ次期大統領の教育政策を関係資料によって要約した。現行のNCLB法
   との調整が計られる学校評価や教員給料が最も大きな焦点になると考えるが、これについて
   はコメントも付記した。就任後は厳しい情勢に直面し、変更されていくものもあろうが、その骨
   格は大きく変わることはなかろう。 

 2008年11月17日記            無断転載禁止