219. 懲戒としての体罰の復活(ジョージァ州の一例)


杉田荘治


はじめに
    アメリカ(U.S.A.)でも懲戒としての体罰は減少してきている。 しかし依然として体罰は
   懲戒として有効な手段であるとする考えや教育政策も根強く残っており
、なかには今まで
   廃止していたものを最近、復活させるところもある。  ジョージァ州のTwiggs郡という教委
   がその一例であるが、それを紹介し、その後、全米の体罰実施状況などを述べることにす
   る。

            教委は親の同意を得て体罰を復活させる

    Georgia州・Twiggs郡の校長たちは今年(2008年)秋から古い埃だらけのパドルを再び
   引っ張り出して懲戒としての体罰を実施することになろう。 
    ところでGeorgia州では今まで、体罰を実施するか否かについては各教委に任せており、
   この教委は実施してこなかったのであるが、生徒の非行が増えてきたため、そのように
   方針を変更するのである。 この郡教委管内の生徒は全部で約1,100名であるが、それ
   が昨年、300件以上の校則違反行為があり、また喧嘩(fights)も62件あった。 それらの
   大部分は中等学校で起こっており、これが高い教員の辞職率ともなっている。 
   当局はこの変更について親の会合で説明することになるが親たちも体罰は懲戒として必
   要であると考え始めているので受け入れることになろう。

    体罰実施の条件
    ・管理職によって実施されること。  ・その部屋に証人がいること。  
    ・親の同意があること。

   【註 Twiggs郡  人口 1万449名(2004年】 白人54.9%  黒人43.7%  その他1.3%
  【資料: Macon.com, SUBSRIB TODAY, 2008年7月21日号】

  参考

   左図はテキサス州のE中等学校の校長が、やはり体罰を
 復活させたときのものである。(The New York Times
 2006年9月30日号)

 追記
            アメリカの体罰実施状況(公立学校)

    ここでは2008年5月発表の2005年度ー2006年度について述べる。 資料は『全米
   体罰禁止連合』:the National Coalition to Abolish Corporal Punishmentのそれ
   であり、またその出処は連邦教育省統計センターである。


         赤色の19州が体罰容認
                                           の州法を持っている。


   ○ 全米の公立学校で22万3190名の生徒が懲戒として体罰を受けている。 その全生徒
     の割合は0.46%である。


   ○ これは、はじめに述べたように減少してきている。 すなわち、1980年度では90万1,032
     名であり、その割合は3.4%であったし、2003年度は第181編で記したように30万1000名
     その率も0.6%であったからである。

   ○ 体罰を州としては容認していても地方教委が禁止しているところなど第181編の地図の
     とおりである。 したがって全米的には少なくなってきている。


   ○ ワーストの10州もほとんど変っていないが、ただKentuckyにかわってFloridaが入った。
     ワーストの順でMississippi 7.5%    Arkansa 4,7%   Alabama 4.5%
     Oklahama 2.3%  Louisiana 1.7%  Tennessee 1.5%   Texas 1,1%   Georgia 1,1
%
     Missouri 0.6%  Florid 0.3% である。 しかしそれらも2003年度と比較しても減っ
     てきている。 例えばMississippiは(9.1%から7.5%)、Arkansasは(7.6%から4.7%)など
     である。 なお10位に入ったFloridaといえども、その率は0.3%である。
     

          体罰の是非・功罪

    専門家や親たちのなかでは意見が分かれているが、次ぎのようなことに集約されよう。
   ○ 繰り返し非行や校則違反をおかす生徒に対して、叱責や居残りなどの処分を繰り返して
     いても効果はない。そのような者には適当な体罰は必要である。 しかしそれを懲戒の
     最初の手段にしてはならない。

   ○ しかし、体罰を受けた生徒は、その後さらに攻撃的ななったり、また少年非行事件を起
     こすようになることも忘れてはならない。

   ○ その行使は校長などに限ること、親の同意を必要とすること、頭、耳など身体の部位、
     年少者、身体不自由な生徒を除くなど定められた規則を守ることが必要である。

   その他、第3編『インターネットによる体罰の研究 第2回』を参照してください。 そこには、
     体罰は怒りにまかせて実施してはならない。  生徒の非違行為の程度より厳しい懲
     戒はいけない。  服を脱がせることは許されない。 頭を打ってはならない、デリケ-ト
     な生徒に行ってはならない、3年生以下の子どもには許されない、立会人を置くなどと
     多くの例を述べている。

   またそこに、ある内科医のコメントが紹介されているが、下記しておこう。
    いろいろな文献やエッセイは体罰を非難しているだけなので、私は残念である。 体罰は
    子ども虐待、とのラベルを貼りたがる人たちもいるし、腕を折ったとか心理的、情緒的な
    障害をひき起こす危険性があるなどの批判があるが、案外、生徒は自分の違反行為に
    たいしてとられた懲戒を受け入れているという事実が知られていない。
     但し、親や教員は愛情、生徒理解をもって体罰を実施することが大切なのである。そ
    もそも愛情と懲戒とは相反するものではなく、不離一体のものなのであるということを忘
    れてはならない。私は、家庭でも学校でも体罰は必要であると考える。 75%の学校管
    理職もこのことを認めているが、今日アメリカの主なる困難さは、その理解と実施につい
    ての困難さといえよう。


おわりに
    ご覧のとおり懲戒としての体罰復活の例やアメリカの現況を統計的に示した。 生徒の
   人権尊重と片やクラス環境や学校環境の悪化という現状のなかで、最後のコメントで述
   べたように常に問題視されていく懲戒手段であろう。

 2008年8月16日記           無断転載禁止