杉田荘治
はじめに
わが国でも最近、高校卒業認定のための標準学力テストが必要であるという意見が
かなり出てきている。 このことについては既に第206編の「おわり」でも触れたが、今
回はアメリカ(U.S.A.)の州の標準学力テストの実施状況を概観して参考に供すること
にする。 そのさい実施科目等のほかに、とくにそのテストで不合格になった生徒にも
卒業証書を与えるかどうかが大きな問題となると予想されるので、その点にも注目して
論ずることにしたい。
オレゴン州の場合
オレゴン州は最近、来年高校に入学する生徒に対して、州が実施する標準学力テスト
に合格していなければ卒業証書を与えないと発表した。
○ 科目はリーディング、ライティング(エッセイを書かせる)と数学。
○ 従来どおり教委・学校が定める総ての科目や要件を充たしていること。
○ そのねらいは大学、専門学校その他の授業などに入っていける実力を問うことにある。
○ 生徒は前記のように、2012年卒業予定者からである。
問題点
○ 今のところ、リーディングでは3分の1の生徒が失敗するであろうと予想され、数学では
2分の1の者がそうなるであろうといわれている。 そこで各地方教委は補習授業や個人
指導を強化しているが問題は多く残っている。 現に実施することは1年半前に可決
されていたのであるが、「どのようにして生徒の能力を計るか」などを含めて今なお、公聴
会を開いたりして具体策を練っている。
○ このことについて、OregonLive.com, 2008年5月16日号は「不合格になった生徒」に
対しても、地方教委の抵抗に会って、地方教委が「良好;proficient」と認めた場合は卒業
できる余地を残しておこうとしていると伝えている。 そのさい事前に各教委の方法が州
レベルのものであるかどうかをチェックしておく方法が取られよう。 これに対して、その
ような方法は裏口ドアのようなもで、合格基準を引き下げることになるとの批判も出ている。
○ また現行のSAT, ACT, APテストの結果も代替できる方法が取られそうである。
【註】 なおSATについては第152編を参照してください。そこには次ぎのようなことが述べてある。
アメリカでは大學入試のさいにはSAT T・Uを事前に受けてくることが必須要件
である。そのうちSATTはSAT Reasoning Testのことで 英語と数学である。
わが国の大学入試センター試験に相当しよう。
またAPテストについては第206編を参照してください。 次ぎのようなことが記してある。
AP, Advanced Placement Program、上級コーステストのことであるが、世界41ヶ国
で利用されている。 これにパスすれば大學における単位などの特典がえられる。
37科目、もっとも多少変動する。 今や全米で1万2000校以上の公立中等学校で、こ
のコースの幾つかが設けられ、これを履修する生徒は270万人に達している
教員組合の態度
州の教員組合であるオレゴン教育協会:Oregon Education Associationは反対していない。
ただし、放課後の補習授業を強化すること、夏休みその他の補充授業を充実するこを条件に
している。
カリフォルニア州の場合
○ カリフォルニア高校卒試験 ; California High School Exit Exam
(CAHSEE)と呼ばれる。
○ 公立高校のみに適用される。
○ 科目はリーディング、ライティングと数学。
○ 他の卒業要件も充たしていなければならない。
○ テストの程度は、リーディングとライティングは10年生レベル、 数学は8年生レベル。
○ 卒業年次の学年で受ける。 どの科目も3回、受験できる。
ところが2007年卒業生についてみると、約9%の生徒がその州テストで1科目以上、パス
しなかった。 そこでその取り扱いが問題になったが、9ヶの地方教委は他の卒業要件を
充たしていた生徒については終了証書(Certificate of Completion)を与え卒業式にも出
席させた。 因みに正規の卒業証書はHigh School Diplomaである。
ワシントン州の場合
○ Washington Assessment of Student Learning (WASL)と呼ばれ、これはまた高校
卒業認定試験としても利用されている。
○ 科目はリーディング、ライティング、数学、理科の4科目。
○ 3年生から10年生までに課せられる。 しかし9年生にはない。 内訳は、
3年生と6年生にはリーディングと数学、 4年生と7年生には数学、リーディングと
ライティング、 5年生と8年生にはリーディングと理科
10年生にはリーディングとライティングであるが、前記8年生までの科目で不合格な生
徒を含めてなお15%の者がパスしていない。
○ 他の州と同様に高校卒業に必要な要件を充たしていなければならない。 しかもその
数学については単位数を増加した。 2009-2012クラスから適用される。
ジョージア州の場合
○ Georgia Testing Programと呼ばれる。
○ 科目はリーディング、数学、理科と社会の4科目。
○ 11年生と12年生が受ける。 11年生の時に第1回目のテストがあり、その後、再試験
が4回ある。
○ 他の卒業要件を充たしているが、このテストの科目で一つでも不合格のある生徒に対し
て終了証書を与えるものとする。 彼らがその後、高校卒業証書を得るために、いつでも
不合格科目について再試験を受けることができる。 そのさい教委は必要な配慮をしなけ
ればならないとされている。
参考資料
en.wikipeda.org, www.ci.corvallis.or.us. www.orgonlive.com/edition/
www.doe.k12.ga.us/ www.edweek.org/ public.doek12.ga.us/
わが国の場合はどうするか
今までアメリカの場合について見てきたが、今後わが国で高校卒業認定の標準テストを
実施するとなると、次ぎのようなことが検討される必要があろう。
○ 実施科目は
国語、数学だけでよいか。 理科、社会なども加えるか。 また学習指導要領に定める
科目とは異なり、この標準テスト独自の内容の科目とすることが必要だと思うがどうか。
○ 受験の学年は
高校3年生に限るか。 それとも2年生にまで広げるておくか。
不合格者に対する再試験の回数はどうか。 またアメリカ・カリフォルニア州のように
毎年次、学習させる意味で早い学年から積み重ねていき、高校最終時期に国語のテスト
のみを課す方法もあるがどうか。
○ 不合格科目のある生徒に対して
今までどおり、卒業に必要な要件を充たしていながら、この標準テストのある科目で不合
格になった生徒に対して卒業証書を与えるかどうか。 アメリカのように「終了証書」などを
新たに設けるか。
しかし、そのような方法は、わが国では採らないようがよいと考える。 というのは2通りの
証書が出来ることは混乱を引き起こす。 現行どおり卒業証書を与え、そのような生徒の自
戒とさせ、またそれらの生徒の高校の反省資料や改善策のためのものとする方法が妥当な
ように思われる。 教育効果はそれなりにあろう。
○ 全国共通テストとするかどうか
アメリカではご覧のように州の標準テストであり、内容もかなり異なる。 わが国でも思い
きって都道府県教委に任せることができないか。
○ 公立高校にのみ適用されるか
アメリカでは公立高校のみの問題である。 しかし、わが国では公立のみならず私立高校
で安易に卒業させるところもあろう。 教員の資格要件のように公私ともに適用されることが
よいと考える。 せめて私立の参加も奨励され、保護者や教育関係者には、その参加状況
などが知らされていることがよいように思われる。
○ 大學入試センター試験の代替について
予想される標準テストの問題の難易度から考えれば、代替は可能であろう。 しかしセン
ター試験の実施時期や合格得点の区分の難しさなどから問題が多いので無理であろう。
おわりに
ご覧のとおり日米を比較しながら、高校卒業認定の標準テストについて述べた。 アメリカでは
教員組合は事実上、これに反対していないが、わが国ではどうか。生徒はダラダラと高校生活を
送り、学校も安易に卒業証書を与えているところもあるとの批判があるが、無視することはでき
ないであろう。この認定標準テストについて広く論議され、教育効果の挙がることをを期待したい。
2008年6月22日記