214. 土曜・半日出校日の復活を


杉田荘治


はじめに
    学校教育法規則を「土曜日については、地域や学校の事情によっては休業日としないことが
    できる」と但し書きをつけて改正したほうがよい。

    学習指導要領で授業時間が増えるのはよいことであるが、現行のままで授業時間を増やせ
   ば無理が生じる。
また一部で行なわれている変則的な土曜日の授業形態を改めることもできる

   このことについては、約 4年半前に第102編で次ぎのようなことを述べた。  すなわち、
       ○ 公立学校と学習塾や予備校との競争
     「塾のほうかが楽しい」が普通になるようでは、公立の負けである。一部の教員がよくい
     う「人間を育てる」公立教育だけでは信頼は得られない。第一、貧しい家庭の子供の教育
     を、どのように考えているのであろうか。 事実上、“出校日”が非常に多くなるような公立
     学校を容認するくらいの気概と工夫が望まれる。


    今でもそのように考えているが、今回は土曜日の半日出校日を取り上げ、併せてアメリカの
   最近の動きを参考までに述べることにする。

T 現行で授業時間を増やすことの無理な理由
   ○ 日によって7時間の授業日を設けたり増やしたりしなければならない。
   ○ 学年初め、学期初めにも授業を実施しなければならない。
   ○ 学校行事を精選するとはいいながら必要なものもカットしなければならなくなる。

   ○ 長期休業日の短縮など。

    なるほど授業時間の確保という“帳簿は合う”であろう。 しかし相当の無理が生じることは何
   よりも現職教員が知っている。
   ○ 
例えば7時間目の授業はどうか。 多くの生徒は疲れた状態で授業を受ける。
   ○ 長い休暇後の始業式当日の授業の効果も今ひとつであろう。 第一現行、土曜・日曜の2

      連休あとの月曜日には、すんなり授業に入っていけない。 時には3連休である。
   ○ その他、学校行事のカット。 暑い日が続いているのに新しい学期を始めるなど


   ○ また最近、“ダメ教師”などと揶揄する放送番組も多く、誠実に教育に取り組んでいる教員
     にまで、その被害は及んでいる。
 「長い休暇があってよい」、「土・日も休み」とくる。 それ
     ではいっそのこと土曜・半日出勤にしたらどうか。 「先生は御苦労さまです」と評価も変わろ

     う。 なお勤務時間については季節なども考慮して弾力的に措置できる部分もあるように思
     われる

   ○ 考えてみれば土曜日の「半日出校日」も案外よいものである。 「ああ、今日は半日、午後
     は楽しみ」と生徒も教員も考える。 子供を送り出す親にしても、そのような感慨があろう。

   ○ 第一、貧しい家庭やいろいろな事情のために家で2日間(時には3日)、ブラブラしている子供
     の多い実態を忘れてはならない。 なるほどOB教員による補習、児童館などの協力事業、ス
     ポーツ行事などは組まれている。 しかしそれでも無為に過ごす子供や有害なことに走りやす
     い生徒のいることは多くの関係者は承知している。

   ○ 学習塾にも通えない生徒、また行かない生徒についても、できるだけ良い教育を受けさせる
     責務を担う公立学校が一見“合理的”な理由で授業時間の確保などを推進しようとするところ
     に無理が生じている。

   ○ しかも最近、増えてきている私立学校の多くは、「土曜日も出校日」なのである。    
       【参考】 学校教育法施行規則(関係個所、中・高校等についても同じ)

        第六十一条
 公立小学校における休業日は、次のとおりとする。
             国民の祝日に関する法律         日曜日及び土曜日
             学校教育法施行令第二十九条 の規定により教育委員会が定める日

        第六十二条  私立小学校における学期及び休業日は、当該学校の学則で定める

   ○ また、全国学力テストの結果は、教委別や学校別などは公表されていないが、これが公表
     され、しかも学習塾に通う生徒とそうでない生徒の分まで詳細に発表されれば、さらに問題
     点は明かになろう。


U 今後
   ○ 当然に学校教育法規則を改正する必要がある。 今でも既に2連休・3連休の習性がついて
     いるので、これを改正するとなると大変であろう。
 しかし遅過ぎることはない。 前述のように
     学力テストの結果が詳細に公表され、また国際的なテストの結果が思わしくない場合は、この
     問題は再燃する。 しかしその時では遅過ぎるといえよう。

   ○ 教育関係者、とりわけ教員自身、また教員組合の率直な意見も期待したい。 
   ○ また「土曜・半日出校日」の授業も他の曜日の授業とは少し趣が異なる“楽しさ”があることも
     よいように思われる。 音楽や英語の授業など。
     
     すでに土曜日は休みというくせがついている、対外試合なども組まれている、学習塾からの抵
    抗、勤務時間の問題など大変であろうが、しかしなんとか前述のように勤務時間の弾力的運用、
    また一部、特別手当も配慮するような施策も含めて広く検討されることを望みたい。



          参考   アメリカでも授業日・授業時間増の動き
    
      アメリカ(U.S.A.)では、わが国のような学習塾はない。 また人種や地域間の学力格差は大き
     い。それだけに公立学校教育の課題も大きいように思われるが次のような動きが見られる。

      
      音楽や美術その他の科目を減らさずにリーデングや数学の時間を確保するために、授業日
     や授業時間を増やそうとする動き
が出てきている。 もっともそれは特別な予算措置を伴うこと
     なので今のところ一部の州での動きで、しかも主として低学力の生徒に対する補習授業である
     が、最近、Washington.comなどが報じているので巻末に記載した資料により要約しておこう。

   ○ わがアメリカの公立学校でリーディングと数学の成績を向上させるために、授業時間やその
     週そのものを増やそうとする動きが出てきている。 億万長者のビル・ゲイトやエリ・ブロード
     もこれを支援しているし、多分、次ぎの大統領はこの問題に本格的に取り組むであろう。

   ○ マサチューセッツ州では2006年度から始めているが、確かに貧しい家庭の生徒の成績は向
     上した。 そこで今年度、新たに18校を追加して今や州の25%の学校で授業日が増えている。
     予算措置は年に3億ドル、生徒ひとり当たり1,300ドルになる。  州の予算は13億ドルの赤字が
     予想されるなかでの措置なので反対も多いが、知事は強力に推進しようとしている。

   ○ 首都ワシントンでも放課後の授業、週末授業、夏休み中の授業が特に低学力の生徒を対象
     に実施されることになろう。 それは『14週計画』といわれるものであるが、150万ドルを投じて
     リーディングと数学の補習授業を行なうのである。 この春から91校の7,500名の生徒につい
     て州の標準テストで「良」の成績を取らせようとする計画である。

   ○ ニューヨーク州では28地方教委が毎日、数十分授業を延長することになったし、ニューメキシコ
     では710万ドルを投じて29校で実施される。

    このように各州で計画が実施されるようになってきた。 推進論者は「アメリカ以外の国は授業
   時間を増やしている」、「リーディングや数学の向上のみならず、他の教科、歴史、書き取り、また
   水泳など体育の成績も向上する」と説明している。 しかし本格的な効果については少なくとも4年
   は必要であろうともいい、また州の資金については厳重にチェックすることを強調している。

   【資料: Washingtonpost.com, 2008年2月4日号、同2月19日号、HighBeam-Encyclopedia,
        2008年2月17号】

おわりに
    ご覧のように現行のままで授業時間を増やせば無理が生じるので、公立学校で土曜日を半日
   出校日として復活させたほうがよい。 とくに学習塾にも通えない生徒、また行かない生徒対策
   として、また公立学校の“元気”としても必要であろう。


    ところで「先進国」を強調することも説得力が弱いように思われる。多くの私立学校は“先進国
   の学校ではない”ことになるからである。 むしろ学校教育法規則を「土曜日については、地域
   や学校の事情によっては休業日としないことができる」旨の但し書きをつけて改正したほうが、
   現実的であり、教育の効果もあがろう。 年間の授業日や授業時間の大枠は規定されているの
   であるから、その基準のもとに各教委や学校は地域や保護者などの意見も採り入れながら、こ
   の問題についても適切に対応するであろう。

 2008年3月8日記             無断転載禁止


追記 読売新聞2011年(平成23年)7月6日号、『学び再出発』は次のように報じている。
    ○ 都市部には塾があるが、ここでは 公立学校が学力の保証に重い責任わ負っている。
       (熊本県産山村)

    ○ 平日の授業を増やすより隔週の土曜授業実施が教育現場に最適である。(国立教育政策
       研究所 葉養正明氏)

     地元の社会人や学生による吹奏楽団のメンバーを講師として4、5年生の音楽の授業
       (埼玉県坂戸市)

    ○ 6時間の授業がある日はぐったりして帰ってくる。(母親)
    ○ 授業の公開を条件に土曜授業を事実上、解禁する。(東京都)

     全国公立小中学校での土曜正規授業実施状況
      全国的には7%にすぎないが、東京都 1889校、 埼玉県 247校、 栃木県 3校、 
      熊本県 2校


     教員組合の態度
       土曜授業は否定しないが、労働者の立場から言えば週2日制が崩れる。 5日制の趣旨
       からいえば基本的には反対だ、としつつ平日に授業を増やすのもどうか。