杉田荘治
はじめに
アメリカの公立学校は依然として高い停学率に苦しんでいる。 しかも少しづつ増える傾向
にある。 このことについて先ず連邦教育省統計センター:NCESの統計を示し、その後とくに高
い停学率に苦しむ一例としてミルウォーキー市の最近のレポートについて述べることにする。
アメリカ公立学校の停学状況
NCES 2007-039 September 2007
|
||
ご覧のとおり連邦教育省が2007年9月に発表した停学の20034年度の状況である。 そのうち、停学(Suspended)についてみると公立幼稚園児〜12年生全体の全米平均 6.8%である。 これは非常に高いといえよう。 ちなみに退学の生徒数は全米で 10万6222人である。 (男 7万9193人、 女 2万7029人) |
停学率は増えてきている
同じく統計センター:NCESの別の資料であるが、それによると2000年度では全米平均は6.6%で
あった。 (男子 9.2% 女子 3.9%) その一部を下記する。
Table 144. |
Number of students suspended and expelled from public elementary and secondary
schools, by sex, percent of enrollment, and state: 2000 |
suspended students as a percent of enrolllment Total 6.6% Male 9.2% Female 3.9%
なお第181編でも2000年度の状況については参照してほしいが、その一部を再掲しておこう。
2000年度分であるが、全米で停学になった生徒数は約305万人である。
|
年度 | 停学の生徒数 | その% |
1997 - 98 | 319万人 | 6.92% |
1991 - 92 | 239万人 | 5.63% |
1983 - 84 | 187万人 | 4.74% |
1973 - 74 | 170万人 | 3.73% |
なお州別で見ると、South Carolina (14.6%), Delaware (11.4%), Lousiana (10.8%),
Mississippi (10.3%)と高く、他方、North Dakota (2.4%), Utah (2.8)
と低いことがわかる。
これは前述の2000年度の状況であるが、今も大差はなかろう。
一例 ウイスコンスィン州・ミルウォーキー市の停学状況
アメリカWisconsin州のMilwarkee市の停学率は全米でも相当高い地区であるが、さすがに
市教育長は最近、その報告書を公表して改善策を求めた。 すなわち、2008年1月10日発表
のDistrict Report Card では「リーディングと数学の州標準テストの成績は向上したが、停学
率は依然として高い。 とくに中等学校では38%, 高校では36%である。 しかも9年生では約
半数の者が1年間で停学になっている。 しかも何回も停学になる生徒も多い。 そこで私は
その停学理由を分析して改善策を出すように求めた」と述べている。
ところで、その停学理由は次のようである。
○校則違反 80% ○暴行・危険な行為 18% ○武器関係 1%
○アルコール・麻薬 1%
そこで教育長は、校則違反とされるクラス内でのちょっとした違反行為や駐車違反などでも、すぐ
停学にすることを問題視したのであろう。
【参考】市教委管内の217校すべてについて、このReport Cardは詳しく公表している。
各紙の反応
1. JSOnline JOURNA SENTINEL, 2008年1月6日号 Suspension rate deemed
too high
ミルウォーキー市の教育長は非常に高い停学率を懸念して、その現状を分析し実質的に効果
のある方法に切り替えるように求めた。 「われわれは生徒を校外に送り出すような嫌なことを
やり続けている。 例えば9年生の約半数が1年間に1回以上、停学になっており、しかも多くの
者が2回以上である。 その日数は1日から3日が多いが、それらはちょっとした違反行為による
ものである」、「しかも彼等は停学期間中、教育を受けない。 一方、教員は余りにも多くの時間や
仕事をこの停学問題の処理に使わされている実情である。 従って少なくとも校外停学に替わるべ
き方法や彼等を校内に留めておく方策を模索すべきである。」と述べている。
【参考】 駐車違反の97.1%は9年生によるものといわれる。 またその落第が30%、出席率も76%
のようであるから授業が面白くないことも大いに影響しているように思われる。
2. YelowBrix IndustryWatch 2008年1月7日号
約2分の1の9年生が1年間に少なくとも1回、停学になっている、その代替措置を考えるべき
だとする論評は前述のものと同じであるが、ここでは人種の融合問題にも触れ、再び学校は、
とくに大規模校では圧倒的に一つの人種に戻ってきていると指摘している。 例えば、1970年代
には白人が60%もあった学校が今や12%までに減ってきている。
参考 Milwaukee市教委の概観
○ 学校数 217校 小学校(幼稚園の併設を含む) 123校 中等学校 26校
高校 54校 中等教育学校 11校
その他・Schoolfeaturing (小〜高校)
3校
○ 生徒数 93,516名 白人(13.3%) アフリカ系(58.4%) ヒスパニック(20%)
アジア系(4.5%) 原住民(0.8%) その他(3.0%)
○ 停学率 25.5% ○ 出席率 88.3% ○ 卒業率 64%
○ 州標準テスト 教育長のいうとおり少し向上してきているようである。
4年生リーディング 良好(Proficient)と優(Advanced)わ併せて、61%
4年生数学 44%, 8年生リーディング 59%, 8年生数学 39%
10年生リーディング 45%, 10年生数学 31%
おわりに
ご覧のとおりアメリカは高い停学率に苦しんでいる。 幼稚園児から高校生までの1年間の
停学が6.8%(男 9.1%, 女 4.3%)とは驚きである。 しかも年ごとに増えてきていることも問題
であろう。 これにはゼロ・トレランス策も大きく影響していよう。その策はよいとしても、学校が
ちょっとした生徒の違反行為に対しても機械的に停学にすることが多いのではないか。従って、
ミルウォーキー市教育長の改善意見も出てくるわけである。
また、学力補充の面からも考慮する必要がある。 このことについて最近、首都ワシントン
は「150万ドルをかけて土曜日と放課後に特別授業を実施する」と発表したが参考になろう。
わが国ではアメリカとは異なり、小・中学生に対して「出席停止」は極く僅かあるが停学処分
はない。 従って統計的には高校生についての数になるが、それとても「家庭謹慎」などの措
置にして停学に含めない場合もあろう。今後アメリカの例を(反面)教師として、きめこまかい
学力補充策を具体化させていくことを期待している。
2008年2月11日記