杉田荘治
はじめに
アメリカにおける最近の教育的話題を2つ紹介しておこう。 その一つはテキサス州で公立
学校のすべての教員等から指紋を取り、とくに過去の性的犯罪歴をチェックすることになったこ
とである。 他の一つは首都ワシントンで初めて教育オンブズマンが任命され、主として親から
の苦情受けつけ処理するとともに、その結果を議会に報告することになったことである。
テキサス州で公立学校教員等から指紋を取り過去歴をチェック
テキサス州で生徒に接する機会のある公立学校の教員、教育行政官、カウンセラー、その他
の教育関係者から指紋を取ることを義務づける新しい州法が作られた。
○ Texas-Fingerprinting Law, Senate Bill 9 といわれる。
○ 対象者は教員、教育行政官、カウンセラー、司書、守衛、通学バス運転手、用務員など生徒
に接する機会のある関係者のすべてである。 代用教員も例外ではなく、ボランティア関係者
にも及ぶ。 チァータースクールの関係者についても同様である。 したがってその数は今後4
年間で100万人になるものと考えられる。
○ その目的はその人たちの過去の子供に対する犯罪歴、とくに性的な犯罪歴をチェックすること
であるが、その影響は他のことにも及ぶことにもなろう。
○ 2008年1月1日から実施される。 まずAustin 教委管内から初め、2011年までにはすべての
管内でのチェックを終える。 1年間に約25万人について実施することになる。
○ その方法はe-mailで本人宛てに「80日以内に指紋摂取を受けなければならない」と通知される。
そして州内にある指紋登記所(78ヶ)へ本人が出向いて受けなければならない。 しかも費用は
地方教委が負担しなければ本人負担となる。 1人あたり10ドルから40ドル。 しかしなかには50
ドルのところもある。 このことも問題点のひとつであるが、もし拒否すれば現職を続けることはで
きない。
懸念
過去の例えば大学生のときに、ちょっとしていたずらをしたり、馬鹿騒ぎで酔態したことで犯罪歴
があるが、今は良い教員である者を排除することになりはしないかと懸念されている。ゼロ・トレラ
ンス策の教員版ともいえよう。 今のところ、それに対する措置は明らかになっていない。
参考
今までの規則によって過去2003年からの調査によれば、テキサス州で66名の教員について
性的犯罪歴がみつかっているが、そのいずれもクラス担任にはなっていない。 また教員志願者
には229名の者が該当していた。 今回、この調査を徹底しようとするのである。
【資料: Texas Education Agency. Corpus Christ, TX, KRIS.Com, 2007年11月27日号、
Chron.com, 2007年12月20号、 The Dallas Morning News, 2007年12月20号】
首都ワシントンに初めて教育オンブズマン
首都ワシントンのFenty市長はTonya Kinlow女史を教育改革のひとつとして、初めて教育オンブ
ズマンに任命し、議会もこれを承認した。
○ 彼女は独立した事務所を構えて親からの苦情などを受けつけ、処理し定期的に議会に対して
問題事項を報告することになる。 スタッフは4名、50万ドルの予算も承認された。 また彼女
に対する報酬は1年間に13万5,000ドルとなろう。
○ 公立学校の他にチャータースクールも対象になるが、彼女は「チャータースクール委員会のメ
ンバーにも会って、その信頼をえるつもりです」と語っている。
○ Kinlowさんは46才、アフリカ系アメリカ人である。 現在、首都病院の副理事長や教育委員で
もあるが、この機会にそれらは辞すと言っている。
このように市長は初めて教育オンブズマンを任命したが、それは教育委員会の権限を事実上、
削減して市長自身が直接、学校を管理する権限を増やそうとする意図の表れである。
【資料: Washingtonpost.com, 2007年10月26日号】
おわりに
ご覧のとおりテキサス州で公立学校のすべての教員等から指紋を取り、過去の性的犯罪歴を
チェックすることになったことと、首都ワシントンで初めて教育オンブズマンが任命され教育改革
の一翼を担うことになったことについて述べた。 わが国と事情は異なるが参考になろう。
2008年1月13日記