199. アメリカの公立高校ランキング


杉田荘治


はじめに
    わが国では毎年3月、4月頃になると有名大學≠ヨの合格者数によるランキング表が
   週刊誌を賑わしている。 アメリカでも、これとは少し異なるが公立高校のランキング表が
   ある。
  すなわち、Newsweek が毎年、公立高校ベスト100 (ベスト1250校)を選定して
   載せている。 残念ながら、そのアジア版には載せられていないが、Washington Postが
   The Challenge Indexとして載せているので、それを原典資料として、これにその発案者
   であり推進者でもあるJay Mathew氏の問答集から「どのような基準で選定したのか」など
   の回答も加えて要約することにする。

    その後、ベスト1位のテキサス州ダラスにあるTalented & Gifted 高校のカリキュラム
   例示し、またその高校はマグネット・スクールであるから、それについても触れることにする。

T Washingtonpost, 2006年10月25日号から
   はじめに述べたようにNewsweek(アメリカ版)は2006年5月8日号で、2006 America's
  High Schools The top 100を特集して掲載したが、その内容とほぼ同じと思われるベスト
  100校を見出しのWashingtonpostが載せている。 そのうち、ベスト10校を下記する。

ランク     高校名          市     州      
 指数   
 Equity and 
 Ecellence
 Subsidized 
 Lunches
  1  Talented & Gifted  Dallas  Texas     
14.128
  100.0   33.0
  2  Jefferson County
 IBS
 Irondale  Alabama
 9.914
   50.0    4.0
  3  BASIS Charter  Tucson  Arizona  9.909
  100.0   不明
  4  City Honors  Buffalo  New York     
 8.14
  25.0
  5  Stanton College
  Prep.
 Jacksonville  Florida  7.973   90.4    7.0
  6  Eastiside  Gainesville  Florida  7.532   48.0   48.0
  7  Suncoast Community  Rivera
 Beach
 Florida  7.632      37.0
  8  Science/Engineering
 Magnet.
 Dallas  Texas  6.275   78.3   47.0
  9  Iternational Academy  Bloomfield
 Hills
 Michigan  6.127    0.0
 10  Academic Magnet  North
 Charieston
 South
 Carolina
 5.833  100.0    8.4
  
説明  ○ 指数とはIndexのことであるが、APテストで評価3以上、またはIBテストで評価4以上
       を得た卒業生の割合である。 詳細は後述する。
     ○ Equity and Ecellenceとは、上述のようにAPテスト、IBテストで1科目でも、その評価 
       を得た卒業生の割合である。
     ○ Subsidized Lunchesとは、その学区が学校給食で連邦政府からの補助金で減免を
       受けている生徒の%である。 したがって高いほど貧しい学区である。


   なお、ベスト100校も表示されている。 また1250校についても校名などは把握することが
  できるようになっている。 その選定された1250校を州別にみると、California州が最多
  177校、New York州は152校、Texas 125, で最小はIdaho, Louisiana, Mississippi,
  New Hampshire, Vermont, West Virginia がそれぞれ僅か1校である。

          ベスト高校選定基準 : Challenge Index

    これはWashington Postの教育問題担当論説委員であるJay Mathew氏の発案によるもので、
   前述表のなかでは「指数」として示されている。 Index, また正確にはChallenge Indexという。
   果敢に挑戦している指数
ともいうべきもので、連邦政府から補助金を受けて学校給食費
   の減免を受けている家庭の多い地区であろうとも、また大規模校、小規模校などには関係なく
   積極的にAPテスト、すなわち『上級コース』を取り入れたり、IBテスト、すなわち国際バカロレア
   資格テストについても同様に積極的に推進し、その合格率が高い高校の指数である。

    このようにして選定された高校を1999年から毎年、そのNewsweekアメリカ版に掲載している。 
   その結果、2006年度は表のようにテキサス州ダラスにあるTalented & Gifted高校が1位とラン
   クされたのである。 同校については後述する。

    また前述表のなかのEquity and Ecellenceとは備考欄でも述べたようにAPテストでは1科目
   でも評定3以上の評定を得た生徒、またIBテストでは評定4以上の成績を得た数を卒業生数で
   割った%である。  従って例えばAPテストで最高評価5や4を取った生徒が多くても、3をとる生
   徒が少ない学校は必ずしも指数が高くなるわけではない。 このように評定3以上が一括して
   計算される仕組みが、この基準の特徴である。

    すなわち、平均的な生徒が悪い条件にもめげず、果敢に挑戦≠オて得た3以上の評価を重
   視しているわけで、ここに発案者であるJay Mathew氏の教育的信条が示されている。 まさしく
   Challenge Indexとされるところであり、この点が、わが国の場合と異なる。


    備考欄のSubsidized Lunchesについても同様で、それは学校給食について連邦政府からの
   補助金を受けている生徒の率であるから、1位のTalented & Gifted高校の場合33%であり、9
   位のInternational Academy校では0%であるから富裕な地区の学校といえよう。

         Jay Mathew氏の回答から

   質問 なぜ、APテストやIBテストだけを基準に取り入れているのか。
       またなぜ、APテストでは5点満点のうち評定3, 4, 5 を得た数を採用しているのか。
       同じくIBテストでは7点満点のうち、評定4, 5, 6, 7を得た数であるのか。

   回答1 その学校の課外活動とか教員の質、独自のテストなどは全米的にみて統計として適当
        ではない。 APテストやIBテストは適当な共通テストといえる。

   回答2 普通の生徒が伸びることはアメリカのためになる。 従って例えばAPテストで評定5や4な
        どの優秀な生徒だけに注目するような基準ではなく、評定3以上とするなど、普通の生徒
        を激励する意味で基準を定めている。 しかし評定3以上であってもアメリカ全体でその
        1科目でも評定3を取れる高校生は13%にすぎないことも考慮した。
 またアメリカの大学
        が単位を認めるのも、評定3以上のところが多いことやAPテストを作っている大学委員会
        が習熟している≠ニみなしているのは評定3以上である。

   回答3 カウントは前述のようにその学校で評定3以上を取った数の合計を卒業生の数で割った
       数を基準としている。 従って学校の規模には関係なく公平に扱った。
  
   回答4 マグネット・スクールも公立学校であるから含めた。 しかし優秀な生徒だけを集め、入試
       を実施しているエリート″Zは前述の趣旨に合わないので除いている。
 また私立高校
       についてもそれを含めたいと考えたが、協力は得られず、統計的には不完全になるので除
       いている。

  【参考】 Jay Mathew氏とは
       はじめにも述べたようににWashington Postの教育問題担当論説委員で、1945年生まれ、
      ハーバード大學卒、ベトナム従軍の経験もある。 彼が発案したThe Challenge Indexは他
      のいくつかの組織で使われているが、それらの業績に対して1999年度『顕著な教育問題レ
      ポート』ベンジャミン教育賞が贈られた。 【資料 Newsweek. com】
   
            1位のTalented & Gifted 高校
    テキサス州ダラス市にある公立高校で、大學進学への目標を掲げているマグネット・スクール
   である。マグネット・スクールについては更に後述するが、学区や人種統合策の制約を余り受け
   ずに全市内から生徒を集めることができる。 生徒は9年生から12年生、全校で200名足らず
   小規模校である。   全市内から生徒を集めることはできるが、しかし優秀な生徒だけを入試に
   よって選抜するのではなく、志願者全員について人種なども考慮し、抽選など公平な選抜方法
   を採用しているので、エリート″Zとは異なる。

    カリキュラムを下記するが、そのように積極的にAPテスト『上級コース』テストを取り入れ、その
   予備テストも必修とするなど、意欲的である。
   

 
  教科と単位         単位取得のための要件        
  英語
  4単位 必修
  英語T予備APテスト、英語U予備APテスト、
  英語T英作文、AP英文学
  数学
  4単位 必修
  代数U予備APテスト、 幾何予備APテスト
  予備微積分、 微積分APテスト
  社会
  3,5単位 必修
  世界史APテスト、 人類地理学APテスト
  アメリカ史APテスト、アメリカ政治学APテスト
  経済
  0.5単位 必修
  経済学APテスト
  外国語
  3単位 必修
  同じ外国語でAP予備テストを含めて
  芸術
  1単位 必修
  1単位
  体育
  1.5単位 必修
  1.5単位
  保険
  0.5単位 必修
  0.5単位
  スピーチ
  0.5単位 
  コミュニケーション
  技術
  1単位 必修
  コンピューター技術TAP予備テスト
  選択科目
  2,5単位 必修
  州が定める言語、理科、数学、社会、外国語、
  芸術、技術から選択すること。
 このようにAPテストをその
 予備テストも含めて必修
 にするなど、積極的にカ
 リキュラムに取りこんで
 いる。
 
  またAPテストでは評定
 4 または5を取ることを要件
 としているので、卒業生に
 とってはAPテストで評定3を
 とるくらいは容易なことで
 あろう。 したがって前述
 ランキング表にあるように、
 Equity and Ecellenceでは
 100%となっていることも理
 解できる。 


  なお、この学校はご覧のよ
 うに、IBテストについては
 カリキュラムに取り入れてい
 ない。
 参考までに第5位
 のSanton College Preparatory
 School はAPテストとIBテスト
 の両方を取り入れている


 【資料】 同校のWeb上の資料の
  ほかWikipedia the free
  encyclopediaも参考にした。

参考1  APテストとは
     APテストについては第198編を参照されるとよいが、その一部を下記しておこう。
      『上級コース』: AP, Advanced Placement Program
       大學委員会が定める『上級コース』であるが、これを設ける高校が増え、これを履修すれば、
      高校生の段階で大學における履修証明が得られ高い評価であれば、単位が認められるも
      のである。 科目も37になった。 ある大学では評定4と5の生徒には、大學の講義に入る
      前の予備コースを免除している。 しかし、5に限るところや3以上とするところもある。
      また、高校によっては卒業試験の代わりに実施している。

参考2  IBテストとは
      国際バカロレア資格テスト、International Baccalaureate   スイスの財団、国際バカロレア
     機構が定めている教育課程を修了すると得られる資格であるが、いくつかの大學が入試資格
     として認めている。 もっとも、わが国では、この資格の他に日本語能力試験を科すところが多
     いが私立大學では、この資格だけでよいところも多い。  2年間の教育課程には6個の選択
     科目、卒業論文、「知識の理論」、教科外活動が含まれる。 【資料: Wikipedia】

               もう一つのベスト高校100選

    U.S.News & World Report が別の方法でアメリカの公立高校ベスト100校を選定している。
   それはAndrew J. Rotherham氏によって基準がきめられているが、主としてリーディングと数学
   の州のテストとAPコースの成績によるものである。 そのトップは首都ワシントンの郊外にある
   Thomas Jefferson High Schoolである。 その詳細は下記のWeb site を見てください。
     http://www.usnews.com/directories/high-schools/
    【この項: Washingtonpost.com, 2007年11月30日号とU.S.News 2007年11月29日号から】


おわりに
    ご覧のとおりアメリカの公立高校のランキングについて述べたが、わが国の有名大學≠ヨ
   の合格者数によるランキングとは少し違って、APテストやIBテストを積極的にカリキュラムに取り
   入れ、その合格率も高い高校の指数である。 しかも平均的な生徒が果敢に挑戦する≠アと
   を基準にしていることが特徴的である。 また1位の高校のカリキュラムも表示したので参考に
   なろう。
 またもう一つの選定によるThomas Jeferson 高校も検索して比較されるとよい。

 2007年4月12日記         無断転載禁止


別件  教育奨励基金
     最近、教育再生会議は学校評価とともに教員の給与について差を設ける案を提言する
    と伝えられる。  それと同時に『教育奨励基金』のようなものも認めるとのことである。
    結構な提言であると考えるが、その『基金』については既に2006年12月に登載した第193
    編や2004年11月の第150編に、その必要性を述べているので、それらも参照してほいが、
    その一部を下記しておこう。
      『教員奨励基金』
     基金は政府、地方自治体からの助成金の他、有志、同窓生、保護者、事業主などからの寄
    付による。 それは学区または学区のグループ、市町村単位などが考えられよう。
    従って比較的、潤沢な『基金』もあろうし、そうでないところもあろう。 しかし政府などから支出
    される給与総額には変りはないのであるから、学校運営に支障をきたすことはない。 丁度、
    健康を維持するために必要な食事や栄養は確保されていて、『基金』から受けるおやつ
    やゲーム≠ネどが異なるようこなことである。

     私立学校は施設・設備はすばらしく、時には財政的にも優位に立とうとしているが、公立学校
    は限られた予算や授業日などで苦労している。 その条件下でたんに学校を競わせ、メリット・
    ペイを実施するだけでは良い策とはいえないであろう。 また時には予備校や学習塾との競争
    も起ころうが、それこそ親、生徒の選択に任せればよい。