杉田荘治
はじめに
アメリカではNBPTS:全米教職指導基準委員会といわれる団体から交付される上級(優良)教
員認定証の価値が高まってきている。 わが国でも今後、教育再生会議や文部科学省でも、優
良教員の優遇策や教員免許の更新制を検討されるさいに十分、参考になると考えるので、それ
について述べることにする。
T Washingtopost.com, 2007年1月22日号から
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/01/21/AR2007012101092_2.htmlを
見てください。 Teachers Tackle Their Own Extra Creditとして次ぎのようなことを述べている。
全米教職指導基準委員会: The National Board for Proffesional Teaching Standards:
NBPTS
はその課程を終えた教員に対して、上級(優良)教員認定証を交付している。 その教員の数は
ここ5年間で3倍に増加し、今や5万5,000人がこれを取得している。その認定証はNational Board
Certification of Teachersといわれる。
○ 1995年から始められたのであるが、Virginia州が最も多くその数は1,137名で、次いでMaryland
州が822名である。 しかし後述のように、California州では急速に増えて、その数3,600名になっ
た。
○ NCLB法も各州が「資質の高い教員」を規定するように求めているが、その基準は州によって異なっ
ている。 しかしこの上級(優良)教員認定証の基準は全米的に統一されているので、高い評価を
受けているのである。 申し込んだ教員のうち半数以上は1年では取得できないレベルである。
○ 例えばこれを取得した教員は、Maryland州のPrince George郡教委では僅か1%であるが、その
教育長は10%までに増やしたいといっている。 彼らは、5,000ドル〜3,000ドルの昇給となるが、こ
れは同州のなかでは最高額である。 またNorth Carolina州では12%の昇給になるし、South
Carolina州では7,500ドルの昇給である。
○ しかしVirginia州では5,000ドルの一時金の支給であり、その後は毎年、2,500ドルの支給である。
なお、ある地方教委では申し込みの費用も負担しており、取得後は3,500ドルの昇給であったので
200名までに増えてきた。
○ これを取得した教員は、以前は生徒に質問されてもその理由を説明してやることができなかっ
たが、今では自信をもってそれを説明してやることができるようになったと言っている。
しかし批判はある。 すなわち、
○ この受検のためにエネルギーを取られる。 また果たして生徒の指導にどの程度、役だっている
か証明されていない。 またそのさい生徒の得点の増加も考慮される必要があるといわれる。
なお、次ぎのことも追加しておこう。
○ 全米教職指導基準委員会、NBPTSは非営利、どの政党にも属さない、政府機関ではない組織
であり、63名の委員で構成されているが、その大多数はクラス担任の教員である。
○ 各州の教員免許にとってかわるものではない。
○ 申し込み資格者は、学士であること、 また3年以上の教職経験があること。
○ 申しこむ際には、今までの実績を証明する明細書を提出しなければならない。 それには2個の
ビデオを付けて、実際に教えていることや生徒の家庭との連携、地域社会との協力ぶりも含まれ
ているものが必要である。
○ カリフォルニア州では、これを取得した教員は3,600名になった。
【この項、National Certification for Teachers-Teaching(CA Dept of
Education より引用】
また、アラスカ州でも高い評価を受けて、取得者には5,000ドルのボ‐ナスが与えられる。 また申し
込み費用として2,500ドルを支給するとのことである。 しかし3年経っても取得することができなかっ
たときは、その費用を返還することとされる。【この項、Araska Department of Education】
U 教員組合NEAも支持・協力
アメリカ最大の教員組合であるNEA(全米教育協会)も、この上級(優良)教員認定証の制度をそ
の設立時から、これに参画し協力している。 すなわち、その母体である全米教職指導基準委員会、
NBPTSは1987年に設立されたが、それ以来ずっと、その目的や生徒指導上の効果、教員に自分
の仕事を分析する動機を維持させることに役だっていると考えて支持、協力しているのである。
また、これを取得した教員による全米的なサミットも開いているが、それは既に6回を数えるまで
になった。 さらに今後は各地方教委が申し込み費用も負担すること、そのための特別休暇も与え
られることなどを求めていくとしている。
【資料: NEA: NEA Support National Board Certification より】
なお、NEA、すなわち全米教育協会については第51編を参照してください。その一部を下記する。
NEAとは
1857年公立学校関係者の自由意志に基づいて結成された団体であり、公立学校の諸問題を
自分たちの職能成長を計りながら向上させていくことを目指すグループ活動であった。 従って
静かな教育協会”であった。 しかし静かな職能団体”だけではメンバを繋ぎ止めるめることが
できないためか次第に教員組合化し、今やその数ではAFTより遥かに多い会員数 260万の教
員組合になっている。またその研究大会にメンバーでなくても、意欲のある教育関係者の参加を
認めるなど懐の深さもある組合である。
次に、このような『認定証』を交付する全米教職指導基準委員会それ自体の発表分から補足
説明しておこう。
V 全米教職指導基準委員会 The National Board for Proffesional Teaching Standards:
NBPTS
1. 前述のように、この委員会は非営利、どの政党にも属さない、政府機関ではない組織である。
1987年に設立されバージニア州のArlingtonに本部があり、連邦からの助成金および多くの財
団から財政的に支援されている。 今まで1億4,910万ドルの財源のうち1億3,670万ドル支出し
たが、その34%は連邦からの助成金であり、66%は財団からの助成であった。 このように連邦
からの助成は受けているが、その運営や方針は独立していることが特徴的である。
2. 政治家、議員、地方教委、教員組合、教育者、生徒指導問題組織、事業家、地域指導者など
から支持されているが、最も重要なことはクラスルーム担当教員やスクールカウンセリングの
それである。 彼らが委員会の多数を占めるとともに彼らが評価し基準を高めることに貢献して
いる。
3. 「教師は何を知るべきか、また何ができるか」: "What Teacher Should
Know and Be Able
to Do"を使命にして次ぎの五つの目標を定めている。 Five Core Preposition
○生徒から委託されている自覚 ○教科をよく知り、それをいかに教えるか ○生徒の学習
を管理し調査すること ○経験を活かして系統的に考え、学ぶこと ○学習について地域社
会の一員であること
4. ボランティアとして優良教員としての全米的な認定を行なうが、それは各州が実施する免許
制度にとってかわるものではない。
申し込みの要件
○ 学士号をもっていること ○ 3年以上の教職経験があること ○ 州のスクールカウ
ンセリングの免許状をもっていること、あるいはその経験があること
○ また前述したように今までの実績を証明する明細書を提出しなければならない。 それには
2個のビデオを付けて、実際に教えていることや生徒の家庭との連携、地域社会との協力ぶ
りも含まれているものが必要である。 そのさい注意すべきことは、その事実は証拠に基づ
いているかということである。
○ まず申し込みはセンターへ送らせ、そこで候補者を決定するようである。
教科など認定の種類
○ 芸術、 教育・学習指導方法、 新しい言語としての英語、 図書館メデいア、 数学、 体育、
スクールカウセリング、 理科、 社会ー歴史、 外国語など24ヶである。
認定証の決定まで
○ 実際に教えているビデオや指定するセンターのOnlineを利用して研修すること。また評価す
るセンターへ出席すること。 資料センターも支援体制を組んでいるし、駐在するコーディネー
ターも利用してください。
○ 提出されたビデオを含む資料は、その証拠に基づいてトレーニングを受けた評価員によって
点数化される。 その評価員は2名である。
○ またその他、少なくとも12名の授業担当教員によっても点数化される。 そのことについては
Handbookで示している。
支援している財団
○ State Farm Companies Foundation、 The UPS Foundation、 The Claude Worthington
Benedum Foundation、 The Coca-Cola Foundation、 William Randolph Hearst
Foundation などが全米的に支援している。 その他、この『認定証』を受けた教員たちが
National Board Scholarship Fundを創って後輩たちを支援していることにも注目してよかろう。
その他、Beoingなどは地域指定の教員についてであるが、支援している。 そのような財団
は約10ある。
おわりに
はじめに述べたよう、にアメリカでは上級(優良)教員認定証の評価が高まってきている。 今
までに全米で5万5,000人の教員が取得し、それぞれ昇給やボーナスを得ている。 これにアメリ
カ最大の教員組合であるNEAも積極的に参画し協力していることが特徴的であるが、今後も推進
されていくものと思われる。
わが国でも教育再生会議や文科省では学校評価について、第3者機関として全英的な教育水
準保証機関 :Ofstedをモデルにされているようであるが、当然そこには学校評価することができる
評価委員が全国的に求められることになる。
教員優遇策についても、その給料が全国一率的的に定められているわが国にあっては、これを
各都度府県や市町村教委に任せるだけではなく、なんらかの全国的な基準が求められるが、その
さい十分、参考になるものと考える。
2007年2月11日記